第4話
「王妃様、王様がお越しです。」
「そう。お通しして。」
「はい。」
あれから3日。まだ日が沈み始めたばかりだというのに私の悩みの種である男が再びやって来た。が、別段驚く事は無い。なぜならきちんと事前に連絡があったからだ。疑問を感じるとしたら時間だ。こんなに早い時間に来るとは思わなかった。
「じゃまするぞ。王妃。」
「どうぞ陛下。本日はお早いのですね。」
「これから予定があってな。」
「そうでしたか。」
この時間からの会議は無い。式典やパーティーなら把握してるし、私も呼ばれるからそれもない。装いからして外出もなさそうだし…女ね。レイアかしら?
「今日は伝えておいた通り今度の会談とその後の園遊会の内装を頼みに来た。」
「はい。エスターニャ公国との会談ですね?」
「そうだ。」
エスターニャ公国は私の母国であるユリアス帝国から公爵の爵位を授かった一族が君主となり統治している国で、大陸で唯一武力行為を放棄している変った国だ。今回の会談には次期公爵が訪れる。急激に国土を広げつつあるこの国と友好関係を持ちたいという向こうの狙いが透けて見えるものだ。
「内装の基調としてはどちらの国の色でもない薄い暖色系または白を考えてあります。それからちりばめる程度に少し両国の色を。あ、それから侯爵家の方々は鳥がお好きですから鳥をモチーフに小物をと考えております。」
「なるほど」
「こちらが下図です。」
「・・・相変わらず仕事が速いな。」
「お褒め頂き光栄です。」
普通ですけどね、このくらい。というかついでにいうなら実は次の舞踏会の下図もありますけどね。
「うん。お前に任せれば心配ないな。すべて決まったら届けてくれ。いちいち俺の許可はいらん。」
「わかりました。」
こうなると思ってました。戦争、政治にはめっぽう強いこの王様、どうやら内装とか見かけには全く興味のないご様子。いつも『王妃に任せる』の一言で丸投げ。一応毎回こうやって部屋まで来てくれる所は賞賛に値しますがね。根はいい人なんです根は。
「では私は帰ろう。」
「ご足労いただき、ありがとうございました。何か補足がありましたらお呼びください。今度は私が伺いにあがります。」
来てもらうばかりじゃ申し訳ないものね。そう言うと彼は珍しくなんともいえない顔になって
「わかった。」
と言った。なんかまずいこといったかな?
「・・で、王妃、私がこれからどこに行くのか聞かないのか?」
「え?レイアの所ではないのですか?」
あっ、しまった。条件反射で言ってしまった。あー、さっきよりもっと何とも言えない顔になってる。
「ったく予想の斜め上を行くな…」
「はい?」
あれ?なんか落ち込んでます?陛下。ため息をつかれるなんて。
「いい。なんでもない。よくわかったな。」
「王様。優しく、優しすぎず。ですよ。健闘を祈っております。」
そして後継者を!と頭の中で叫ぶ。まあ、心配ないか。
「・・正妻に言われるとなんとも言えんな。」
でしょうね。私もそう思います。でも私は『優秀な王妃』、あなたがどこに行くとしても笑顔で送り出して見せますよ。
「いってらっしゃいませ。王様。」
「ああ」
『優秀な王妃』の暖かい笑みで王を見送った私はあまりにも完璧な『王妃』でありすぎて、否、『王妃』になろうとしすぎて小さな変化に気づく事が出来ていなかった。
季節はいよいよ冬を迎えようとしていた。




