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王妃な王妃とツンドラ王と  作者: 神田 明理
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第3話

「リクー、・・リクハルド!何かあったの?」


「執務中は陛下と呼べ、宰相。」


宰相。と呼ばれた男、すなわち宰相であり、この目の前にいる王と幼馴染みにあたるビクトルは大きくため息をついた。


「やっぱリク一回頭冷やしておいでよ。まだ執務開始時間まで15分ある。それから僕はリクの友人として何があったか聞いているんだ。宰相としてじゃないよ。・・どうせ王妃様とでしょ?」


やはり図星であったようで、リクは肩をすくめて『参った』というような仕草をしてから、子どもがいたずらを白状するように言った。


「・・ある作戦を実行に移したんだ。」


「なんだよ?」


「苦労して手に入れた王妃だ。最初は手に入ればそれだけでいいとも考えていたが、欲が出た。」


「心も手に入れたい。ってこと?」


遅かれ早かれこうなるだろうとは思っていたので別に驚かない。この男はそういう奴だ。


「そういうことだ。そのための作戦を実行に移した。」


うっわ、えげつないなあ、作戦って言い方…


「リクって王妃様の事になると・・」


「なんだ?」


「ほんっと気持ち悪いね・・」






__3年前__


「ここが大陸で最も大きく、最も栄えているユリアス帝国か・・」


僕とリクは境界線視察の帰りに最盛国であるユリアス帝国に足を伸ばしていた。


「この地域は2週間程前に大きな地震に見舞われた地域だときいていたが、もう復興作業が進んでいるようだな・・」


「すさまじいね…」


人々の心が2週間で持ち直すというのは異常な早さだ。


「あそこは妙に人だかりができてるね。」


「がれきの撤去作業のようだな。」


「作業してるのは・・ほとんど若い奴らだな。」


どうやら大量に出たがれきの分別をしているらしい。しかし作業している人間のほとんどは成人していないような若者だ。こういうのは普通国がやるんじゃないの?誰もやりたがらないし、子どもにやらせることじゃないし、あんな楽しそうにやる作業じゃないよね?


少し見ているとすぐにこの雰囲気を作り出しているのが誰なのか分かった。


「あの女だな。」


「そうみたいだね。」


真ん中で作業しながら子供達と一緒に歌を歌っている女の子がいた。女の子って言っても僕らとそんなに変らないと思うけど。仕立ての良さそうな白い服に土やゴミが付いても、顔に泥がついていても休む事無く作業を続け、笑顔を絶やさない。でもまばゆい程の品位を感じさせる。周りに護衛が付いている事からそれなりの家柄ではあるはずだが、それだけじゃない、なにかがある。


「美しいな。」


「ええぇっ!!」


「・・なんだ?」


「いや、僕もそう思うけど、まさかリクが女の子を『美しい』とか言うなんて思わなかったから・・」


「俺は認めるべき者は認める。」


たしかにそうだけど、これまで女の子に関してそんな事言った事無かったじゃないか。『めんどくさい』とか『騒々しい』とかばっかりで。


あの女の子は分けるとしたら『かなり美人』の枠に入ると思うけど、っていうか絶対入るけど、リクのお母さんだって、僕の母や妹だって、他の貴族だって、『かなりの美人』に入るだけなら身近にもそれなりにいる。けどそんな事言った事無かったんだからきっと相当心に響いたんだ。


「すみません。」


そこまでの子ならどういう子なのか知りたい。そう思って近くで作業をしていた人に声をかけた。


「なんだい?」


「あの、中央の女性はどういう方なんでしょうか?」


「・・なんだぁ、あんた他国の旅人か?」


「えぇ、まぁ。」


あれ?すごい常識だったみたいだ。


「しゃーねーなー。なら教えてやっよ。あのお方はな・・我らがユリアス帝国が誇る第2皇女であらせられる、ティーナ様だっ!!」


「皇女だと?」


「おっ、皇女!?」


あれ?質問した僕より先にリクの声が聞こえた。よっぽどびっくりしたのか。


「今日にはもういったんお帰りになるっていうのに、ぎりぎりまで作業をなさるんだそうだ。まったく、こっちも頑張らないわけにはいかないよ。」


「待て。まだ震災から2週間だろう?皇女様はいついらっしゃった?」


「俺がきいた話では震災の次の次の日の夜にはいらっしゃってたらしい。なんでもまだ情報が混乱しているときに皇帝陛下に啖呵をきって出て来たとか、噂だからほんとかどうかはわからねぇが、あの皇女様のことだからやりそうだろう。」


「そうか…」


早すぎる。翌々日の夜なんて前代未聞のスピードだ。


きっとこの以上な復興の早さは彼女の功績なのだろう。


話をしてくれたおじさんにお礼を言い、またしばらく作業を見てから、町を見て回って宿に入った。その間もリクはずっと何かを考えているようだった。


そして次の朝、朝食の席で彼は言った。


「ビクトル。」


「何?」


「奪うぞ、あれ。どうしても欲しくなった。」


「…あれ?」


寝起き、低体温の僕にリクはただニヤリと口角をあげるだけだった。





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