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王妃な王妃とツンドラ王と  作者: 神田 明理
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第27話

「御渡りですって?」


「はい、王妃様。」


御渡りというのはつまり私の寝室に王様が来るという意味だ。仕事といえば仕事だが、仕事でないといえば仕事でないのだ。


「体調不良だといってお断りして。」


仕事が溜まってるし、倒れた直後の今なら体調不良は効くはず。


「分かりました。」


いったい急にどうしたのかしら?

王様が前回御渡りになったのは3ヶ月前。仕事の関係で話すことはあっても、寝室に来られることはきっぱり無くなっていたっていうのに。


「王妃様。ご返答が。」


「もう?断られるのがわかってたみたいなスピードね。」


「王様は構わない、気を使うな。とおっしゃっているそうです。」


違う!私が構うのよ!


「仕方ないわ…これ以上抵抗できない。その場でなんとかしましょう。」


「王妃様、もう一つご伝言が。」


「何?」


「遅くなるかもしれないので、先に寝ていて構わないとの事です。」


ご存知でしょうか、『御渡り』の意味。ご自分の寝室はどうなさいましたか王様。


最近の彼は掴めない。掴もうとするとするっと抜けていく。虚像を追いかけているようだ。一体何が本心で、何を偽っておられるのか。そして最終的に何がしたいのか。さっぱり分からない。


施政者ならば、政策から性格が垣間見える。私が王様の政策から感じたことといえば、合理主義で倫理観や感情論にとらわれず、どこまでも冷酷な判断ができるが、それは全て自国の利益に還元されている。という事だ。


エルグランデ王の通った道は夏でも凍りつき、永遠に溶けることはない。彼を畏怖してか、よくこのように言われるけれど、まさかそんな事があるわけがない。彼は戦いの後内政干渉と言われても敵国の復興支援や経済再建に積極的に取り組む。彼にとって2度目の戦争は不利益なものだから。


優しいわけではない。自国の利益のために平和を作り出そうとしているだけ。その証拠に彼から宣戦布告をすることはほとんどない。彼にしてみれば戦いが勝手にやって来るのだ。それこそが合理主義でツンドラ王と呼ばれる彼の宿命なのかもしれないけれど。


だけれども、後宮で一年以上を過ごしてみるとどうだろう。彼は大迷走だ。

相変わらずというか、以前よりも政治手腕は発揮されているようだけれど、私との関係は合理的とは言い難いものになっている。


「どうしたものかしらね。」


「王妃様?」


「何でもないわ。王様がいらっしゃるというならやるべき事は早く片付けないと。」


「かしこまりました。」


つまるところ、私の1番の心労は王様なのだ。こんなによく分からない相手は初めてで、一度考え始めるとぐるぐるしてしまう。夫婦って難しいわね…

赤の他人では無いし、心を許せる友人でも無い。政略的に結ばれた夫婦なのだから、恋愛を謳歌する恋人というわけでも無い。まぁ謳歌したことなんてございませんけど。


やめましょう、考えたって仕方ないわ!夫婦の問題は夫婦で解決するしか無いんだもの。私1人が悩んだって無駄よね。


こんな風にいつも帰着点は同じ。


それからひたすら仕事をした。遅くなるなんて不幸中の幸いだわ。直前までやりましょう。不幸中の、はまずいかしら?


どれほど時間がたっただろうか


「王妃」


突然声をかけられた。

生憎私は人の気配を感じられるほど武術に長けてはいないので、不覚にも驚いてしまった。


「王様?…失礼いたしました。お知らせがありませんでしたので。」


本来ならこちらに向かわれた時点で知らせが来るはずだから、その間に『仕事しないであなただけをお待ち申し上げておりましたスタイル』を創り上げようと思っていたのに。


「侍女を責めるなよ。俺が知らせるなと言ったんだ。」


「そうでしたか、お座りください。今お茶を運ばせます。」


「構わん。王妃も座れ。」


気になる、気になる。どうしていらしたのかしら。


「かしこまりました。」


自分から話してくれることを期待して、じっとみつめてみる。


「なんだ。俺の顔に何かついてるか。」


「いえ。なんでもありません。」


やっぱりダメか。

はい、ただイケメンを見ていただけです。


「言いたいことがあるなら言え。」


まってました!


「…では、本日はどうして御渡りに?」


「その横に置いた資料は何の資料だ。」


話題転換が華麗すぎてもはや感動ものです。


「舞踏会での服装に関してです。各側室の皆様の希望されたものが会にふさわしいかどうかの精査や、王様と私の装いの候補を見ていたりしました。」


「そうか、やはり仕事か。」


「はい。…王様、よろしければお選びになりますか?」


「いつも通り、王妃に任せる。」


「かしこまりました。」


あなた大分任せてなかったですけどね。


「この間はすまなかった。」


「え?」


今謝罪の言葉が聞こえたような…


「すまなかったと言っている。俺が何度も呼び寄せたせいで王妃の仕事を増やしただろう。体調を崩したのは俺の責任だ。」


衝撃の展開です。なんと、あの王様が私に謝っておいでです。これ、夢かしら。


「…とんでもございません、王様。私こそ王様の前でお見苦しい所をお見せしました。それに寝室に運んでいただいた事も、見舞いに来てくださったことも、ご配慮感謝いたします。」


「…ロバートには口止めしたんだがな。」


「そうなのですか?」


「言うなと言ったら無理だと即答された。あいつは一体王をなんだと思ってるんだ…」


そう言えば、ロバートは以前は王様の主治医だったのだ。それなのに私が輿入れした時にご自分の主治医を私にお譲りになった。


主治医と王族の関係は密接だ。多くの秘密を共有することになる。王族1人に対して必ず主治医と主治医率いるチームがつき、毎日の健康管理を行なっている。担当の王族が亡くなった際には厳罰に処される。まさに一蓮托生の関係だ。信頼関係を築けなければ対立する者に操られ、毒殺される危険もある。そんな大切な主治医を変える事がどれだけ勇気のいる事か、王族として生まれた私にはよく分かる。


「ありがとうございます。王様。」


「なんだ急に。」


「いえ、なんでも」


私は恵まれている。王妃として尊重され、大切にされている。そんな風に思う事ができた。


「おかしな奴め。」


「それから王様、お手紙を送らせていただきましたが、先日は侍女が大変失礼をいたしました。王様に対しての無礼な発言、どうかお許しください。」


「もう良い。あれは事実だ。構わん。」


「王様…」


「なんだ、臣下の忠言に耳を傾けただけだ。侍女は王妃の臣下だが私の臣下であるとも言えるだろう。」


「もちろんです、王様。ありがとうございます。」


「今日の王妃は礼を言ってばかりだな。」


謝罪をしたり、寛大であったり、いつもと違うと思いきや、からかうように私を見る目や、上がった口角は今日も健在だ。


「俺は先に寝るから、王妃も支度して寝ろ。やっと床上げしたというのに、あまり夜遅くまで根を詰めるな。」


「…まさか王様、そのために?」


「そうだ。私が王妃の寝室に渡れば、いくらお前でも無視して仕事はできんだろ。横になるしかない。」


「王様…」


「これが王の力だ。諦めろ。」


「王様のお力をこんな事で顕示しないでください…」


誇らしげに王の力を語る王様のすがたはどんな戦いに勝った時よりも堂々としたものだった。


使い所が違う!






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