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王妃な王妃とツンドラ王と  作者: 神田 明理
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第24話

24


「おい、ラドフォード」


「王様?」


ついにエリザを迎える事になった今日、後宮の出口へ向かう途中、陛下に呼び止められた。


「どうなさったのです、お一人で。護衛兵は…」


「そんな事はどうでも良い。お前と話すために来たんだ。今日だろう、エリザ・ローレンスの降嫁は。」


どうでもよくはない。一国の王が宮中といえども多くの人間がいる中で一人で歩き回るとは…


「えぇ、そうです。陛下にはご挨拶遅れまして…」


「かまわん。宰相にも言われたが、考えてみれば元夫と新しい夫というだけの話だ。挨拶というのもおかしいな。」


「はぁ」


それ以前にあなたは国王陛下で私はその臣下なのですがね、こういう所は本当に抜けていらっしゃる…


「だが、よく考えたら夫とは言えんな。」


「…とおっしゃいますと?」


「真面目なお前とこんな話をする事になるとは思わなかったが。お前は俺の大事な腹心だ。偽りは言うまい。」


「一体なんでしょうか王様。」


なんだろう、この嫌な予感は。この人がこういう雰囲気を出すときは、必ず天と地がひっくり返るほど驚くことを言い出すときだ。


「そんなに身構えるな。お前は既に割り切っているらしいが、やはり気になるだろう。初夜の事だ。」


「はい。分かっております。」


王様の妻であったのだ、そのような機会があって当然だ。分かった上で、事実を受け止めた上で、そんな事は構わないと思っている。


「いや、分かってない。」


「え?」


「俺はあの日、というか入宮以来、一度もエルザになにもしていない。だから実際にはお前が初めての夫だ。」


ちょ、ちょっと待ってください王様。それはどういう事ですか。というかそんな事可能なのでしょうか。事実だとしたら王室の規範を脅かす…


「お前でも驚いて言葉が出ないことがあるのか。」


そう言って愉快そうに笑う。


「王様…」


僕がやっと口にできたのはこの一言だけだった。


「お前だから言うがな、実は王妃の輿入れ以降に入宮した側室とは何も無い。」


「王様、それはいけません。伝統ある王室の規範が…」


「お前、そこまで伝統を重んじるやつだったか?どちらかといえば革新的な方だと思っていたが」


「王様…」


確かにそうですが、それとこれとは話が…

形式を重んじるこの国において、初夜がなかったというならばまず婚姻関係が成立していない。つまり側室ではないということだ。


「と言ってもな、本人達も知らん。俺と主治医以外は誰も知らん。」


「主治医、ですか?」


「あぁ、新しい側室が来るたびに睡眠薬を出させている。初夜に飲み物に混ぜて眠らせてるんだよ。ギリギリまで演技してるがな。それで本人達も知らないってわけだ。少し疑問に思ったとしても、言い出せる事じゃないだろ。」


なんてことだ。なさる事が大胆すぎてもはやついていける気がしない。しかも今まで露見していないなんて、確かになかなか言い出せる事ではないとしても、一体どういう技術なんだ、演技力の無駄遣いにも程がある。


「…それは、王妃様のためですか?」


「ふん、笑わせるな。自分のためだ。王妃は俺が誰と寝ようが気にしないさ。ただ、その気になれないだけだ。」


少し自嘲気味におっしゃる王様の言葉の中に少し引っかかるものを感じた。


「王様、恐れながらそれは間違っていらっしゃると思います。」


「何?」


「王妃様は繊細なお心の持ち主です。気になさらないふりをしているだけでは無いでしょうか?」


「お前が王妃の何をしっていると言うのだ。」


確かに自分が王妃様についてよく知っていると言うつもりは無い。王様の主張も、王妃様は生まれた時から王宮の独特な環境で育ってきているのだから、そう思われていて当然だろう。


だけれども、本当にそうだろうか?


今回の件で王妃様は典型的な王族の思考に縛られていないことは明らかだ。もしそうなら、逆に好きなように側室を追い出せば良い。その後の生活の心配をするなど誰か他のものにやらせるか、金を出すなりすれば良いのだから。でも、王妃様はご自分でお考えになる。より良い道を。


そんな所に私は王妃様の心の豊かさを感じずにはいられなかった。そして心が豊かで、人を思いやる力がある方ならば、政略的な結婚であろうと、夫の行動に傷つかないはずなんてないと思う。


「王様、もう一つご報告させていただきたい事が。」


「なんだ?」


「私ダニエル・ラドフォードは王妃様に一生涯の忠誠を誓わせていただきました。」


「なんだと?」


今度は私が驚かし返す番だ。


「王妃様のためにこの身と心をお捧げいたします。」


「…またお前らしくも無い、古風な道を選んだな。」


「そうですね。ですから、私は王様の腹心であると同時に王妃様の腹心でもあります。」


「おい、お前今の話し王妃には言うなよ。」


「努力いたします。」


「何、努力だと?」


「はい、そうです。ご安心ください。王様の努力を無駄にしたりはいたしません。王妃様には幸せになっていただきたい。」


「ったく相変わらず分かったような口聞きやがって…行け。エルザが待ってるだろう。」


「はい。失礼いたします。」


いろいろ驚いたが、まずはエルザだ。1日も欠かさずまた笑い合うことを夢見ていた。ついに実現するこの日を、どれだけ待ちわびたことか。


「ダニエル!」


硬く重い扉が開いて弾けるような声がした。


「エルザ。」


名前を呼んだ瞬間にはもうその女性は腕の中だった。


「お帰りなさい。」


長かったそれぞれの道のりもようやく明るく照らされ、一本道となった。

これからは何があっても1人では無い。そんな安心感に包まれていた。


ダニエル・ラドフォードと元側室であり、退宮し降嫁するに当たって『貴人』の称号を与えられたエルザ・ローレンスはすぐに結婚。その幸せそうな様子は全土に広まり、大きな反響をよんだ。またエルザの知的な言動、行動、そしてあふれる品位は貴人の称号をより尊いものとし、その他の貴人にとって明るい道しるべとなった。


『エルザ効果』に助けられ、貴人が後宮を追い出された者であると考える者は少なく、その後も社交界などに暖かく迎えられた。


第一回側室削減計画は成功と言えるものであった。

尚、この計画により退宮した側室は12名。その内5名は王室典範違反のため、2人は病気療養のため、そして残り5名は降嫁、または新たな道を見つけ、再出発した。










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