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王妃な王妃とツンドラ王と  作者: 神田 明理
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第19話


「…エルザ様」


2人の侍女の心配そうな声が聞こえる。


「大丈夫、大丈夫よ。決してあなた

達を巻き込んだりしないわ。」


守らなきゃ、守らなきゃ。


「そんな…今は私達の心配なんかしている場合じゃ!」


「私達はエルザ様の侍女です。エルザ様のお側を離れるなんて考えられません。」


「そんなのダメよ。私のせいであなた達の人生を壊したりできないわ。」


「エルザ様っ!」


考えなきゃ、考えなきゃ。王妃様はもう私を「悪」と判断していらっしゃる。そして、それを罪に問わない理由はない。


どのような罰を受けるのかしら、私の極刑…それほどの事を犯してしまったんだわ。それだけならまだ良いけど…お父様やお母様、いつも私のそばにいてくれた2人、そして、ダニエルには…


でも、最後通告ではないわ。その一歩手前のはず。私を待っているとおっしゃっていたもの。


だとしたら、この状況で私が出来ることは…ひとつしかない。


「2人とも、落ち着いて。お茶を、入れ直して来てくれる?」


「…はい。」


何を言うべきかしっかり考えなければ。王妃様は賢い方だ。感情論ではすぐに矛盾を見つけられてしまう。


その後、王妃様に面会を申し込んだ。「いつでも」とは言われたものの、流石にお忙しく、お目通りがかなったのは、お願いした日から2日後の夜となった。


「王妃様。エルザ様がおいでてございます。」


「入りなさい。」


「この度は貴重なお時間を割いて頂き、恐悦至極に存じます。」


「夜も遅いのに、よくぞ私の私室まで足を運んでくださいました。それで、今日はどのようなお話かしら。」


「王妃様に私の犯した大罪を、お話しするために、参りました。」


「では、ご自分が大罪を犯したと認める。という事かしら。」


「はい。その通りです。私、エルザ・ローレンスは王様以外の方を心に留めておりました。」


「心に留めていた。というのは、どういった意味なのかしら。」


「好意を寄せていた。その方を愛しておりました。…ですが、恐れながら、私の心の内をその方にお伝えしたことはありません。むしろその方は私を嫌っておいでだと思います。ですから、私の勝手でその方まで罰することはどうかおやめください。お願いいたします。」


「その方というのは、ダニエル・ラドフォードであるととって良いのかしら。」


「はい。」


「どうして、彼が貴方を嫌っていると言えるの?」


「もともと、政略的な婚約でしたし、折角まとまった縁談でしたが、私が高等教育を受けることで事実上破綻いたしました。私を良く思ってなどいないはずです。」


王妃様、ごめんなさい。私は嘘をついております。ダニエルはそのような冷たい方ではないのに。


ダニエル、ごめんなさい。王妃様にあなたが冷たい人のような事を言っています。


どうか、こんな私を許さないでください。私にはこんなことしか思いつかないの…


「それから、2人の侍女は何も知りません。彼の存在自体すら教えたことはありません。どうか、2人には罪を問わないようにお願いいたします。私はどうなっても構いません。どうか、どうか、お願いいたします。」


本当は実家にも免責をお願いしたかったけど、私がどう頑張っても、実家への影響は絶対に防げない。


お父様、お母様、本当に、本当にごめんなさい。なんて親不孝な娘なんでしょう。




「エルザ、あなたは本当に私の思ったとおりの人ね」


え?王妃様の思いがけない突然の発言に困惑し、思わず顔をあげた。


「ごめんなさいね、あなたを騙すようなことをして。」


「…いったい」


「もういいわ、出ていらして。」


王妃様は私の目を強く見つめながら、誰かを呼んだ。その視線に耐えきれずに、思わず、視線を外すと、王妃様の後ろから思いがけない人物が出てきた。


「っ!どうして…」


その人物は、私が長年、忘れることなど決して出来なかった、夢にまでみた、あの人だった。


「驚いているようね。でも、ここにいるのは間違えなくダニエル・ラドフォード本人よ。」


そうだ。別れたとより少し疲れた顔をなさってる。けれどもその瞳は、微笑みを浮かべたその口元は、彼に違いなかった。


「話は聞いていらしたわね?これが、彼女の気持ちよ。彼女は今でもあなた1人を愛してるいるようね。」


「王妃様…本当にここまでなさるとは。このような時間に後宮に極秘で出勤命令など、どういう風の吹きまわしかと思いましたが、感謝いたします。」


これは、今、いったい何が起きているのだろう。なぜ罪人である私を前に彼と王妃様が談笑しているのかしら。


「あらあら、あなたのお姫様はまだ事情が飲み込めていないようよ。」


「エルザ…少し痩せてしまったのではありませんか。離れていた間、病気をしたりしませんでしたか?」


「…ダニエル」


「安心してください。私達が罪に問われるようなことはありません。全ては私のために王妃様がなさったことです。あなたが辛い思いをしたとしたら、それは私のせいです。許してくださいね。」


「何が、何が起きているのでしょう、私には…」


「王妃様、私から彼女に説明してもよろしいでしょうか?」


「許しましょう。」


「少し長くなりますよ、でも、きいていてくださいね。…私のもとに初めて王妃様がいらしてくださったのは、数週間前の事です。」


その日は、新しい福祉政策の決定会議であった。ありきたりなものばかりで、福祉に力を入れていらっしゃる王妃様の前での形式的な物だと言っても良かった。


「これらの理由から、今回の決定といたしましては、貧困地域などに無償で簡易便所を設置する。といたしたい所存であります。どうかご判断を、王妃様。」


「どうか、ご判断を。」


これで王妃様が頷けば終了。私としてはこの形式に納得いかない事もあるが、福祉政策は私の担当ではなく、この会議へは政策を受け取る側としての参加なので、口出しは出来ない。


王妃様が隣に控える者に何かささやくのが分かった。この会議は文官には公開されているものだが、王妃様との物理的距離が近い場だ。


王妃様は顔をお隠しになられ、声も聞くことは出来ない。


「王妃様のお言葉です。貧困層や、民族層に対する衛生指導という考えは素晴らしいものだが、無償で管理トイレを設置するのは、好ましくない。と仰せでございます。」


会場内が一瞬揺れた。意外な展開だ。皆、てっきり許可がでるものだと思っていただろう。


結局その日の会議で、簡易トイレ政策はご破算になったが、政策発案者と議長である司法庁の長官、そして私が会議後王妃様に呼ばれた。


「まず、それぞれのお仕事でお忙しい中、私のために時間を取らせてしまったことをお詫びします。どうしても、付け足したいことがありましたの。ごめんなさいね。」


「王妃様…もったいなきお言葉。私達は王妃様にお呼びいただき、とても光栄に思っております。」


この謁見は名指しで呼ばれた3人だけが来ていたので、王妃様は素顔を見せらせ、自分の声で我々と対峙していた。


王妃様の話をまとめれば、仮説便所の設営に関して発想は素晴らしいが、「便所で用を足す」という概念のない人々に便所を与えただけでは、全く意味をなさない。


そもそも、自分たちの常識の範囲外である便所が故障したりしたら、彼らは自分たちの手でそれを修理することもできない。


自分たちの民族だけでくらしている人々などは物作りの技術には長けている者も多い、「便所で用を足す」事の大切さと、「便所の構造」を与える、それだけで十分だ。


ようするに、人を派遣し、その2つを教えることが出来ればそれで解決。それなら、末永い支援になるし、予算も大してかからない。


立案者には、私の思いを伝えられないばかりに、大勢の会議出席者の前であなたを否定するようなことを言ってしまった。あなたがこの政策を最後までまとめてくれるというなら、私の印章を掲げることを許す。


というものだった。立案者は最初こそ複雑な気分のようであったが、最後には興奮のあまり上気していた。


王妃の印章をかかげた政策を立案できる。それは、人生で1度あるか、ないかの名誉だ。


彼は立案書をまとめたら必ず、逐一王妃様に報告することを約束した上で、文字通り飛ぶように帰って行った。それに合わせ、長官も退出を許されたが、何故か私だけが残されることになった。

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