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王妃な王妃とツンドラ王と  作者: 神田 明理
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第16話

「エルザ、ここへ来なさい。」


「はい、お父様。」


夏なのに、昨日よりいくぶんか涼しくて。珍しく家庭教師の先生が早く帰って行って。いつもより少しだけ楽しいことが多かった気がしたその日、私は彼に出会った。青空がとても綺麗だったのをよく覚えている。


「この方がお前の婚約者になるダニエル・ラドフォード殿だ。ご挨拶なさい。」


婚約の話があるのは知っていた。だから、驚いてなんてない。


「…エルザと申します。不束者ですが、どうかよろしくお願いいたします。」


「ダニエル・ラドフォードです。私の方こそ、よろしくお願いします。」


「私は仕事があるから、お菓子をお出しして帰りはきちんとお見送りするように。」


「はい。お父様。」


「では、ダニエル殿。エルザを頼みます。」


「はい。閣下。」


この人が、ラドフォード様…。話には聞いていた。昔から『神童』と呼ばれるほどの秀才で、今も高等教育過程学校では主席をキープしている。後継者であっても、中央官庁で文官もしくは武官を勤めてから領地に戻り、爵位を継ぐ慣習がある少し変わった家柄だか、そのため中央からの信頼も厚く何かと優遇されていて、しかも同じ伯爵家。


お家柄も良くて、本人の能力も高い。きっとこれ以上の縁談はないだろう、そう思った。


ただ、『うまくやらなきゃ』そうは思っても未来の旦那様と何を話したら良いか全くわからない。私とラドフォード様の間には沈黙がおりていた。


…どうしたら良いのかしら、こういう時って。早く帰りたい、とか思われてたら、どうしよう…


少し彼の方を見てみると、素知らぬ顔でカップを手にとっていた。そして、一口口にすると。やっと私の目を見て言葉を発した。


「すみません。私、周りに女性がいませんからこういう時にいったい何をお話ししたら良いものか…」


意外だった。そんなに優しげな口調で彼の方から話しかけてくれるなんて。


私の周りにはいつだってそんな優しい話し方をする男性はいなかった。

肩書きとプライド故に優しさを持てない。そんな余裕のない大人ばかりだった。


「あの、私も…家族以外の男性と会ってお話しするのは初めてで。ごめんなさい。」


謝罪の言葉が自然と口に出た。だって、こんなに優しい人なのに、生涯をともにする人なのに、気の利いた質問ひとつ思いつかない。


「あ、謝らないでください。お互いに初心者なら、学び合えばよい。…私はそう思います。」


真剣な顔で、私との関わり方を見つけようとする彼に自然と顔が綻んだ。


「先生みたい…。」


「え?」


「いえ、なんでもないです。…よろしくお願いします。ラドフォード様」


「私のことはダニエルと。エルザ様」


「まぁ。ダニエル様、女の身である私に様なんて。エルザ。とお呼びください。」


「それはいけません。『女の身』と言われましたが、私は夫婦は男女が対等にあるべきだと思っています。私があなたをエルザ、と呼ぶならば私のこともダニエル、と呼んでください。」


「そんなこと、両親に怒られてしまいますわ。それに、そのようなお話は聞いたことがありません。」


そうよ、女は夫や兄をよく敬うこと。先生はいつもこれを女の大原則だと仰るわ。


「エルザ。その『聞いたことがない』から出来ない。というのは間違いです。」


「え?」


「このエルグランデの周辺国では男尊女卑、つまり男の方が社会的に立場が上である。という考えが強い傾向にありますが、もう少しはなれた国では男女平等、それから男性よりも女性の方が高い社会的地位を得る国もあるんです。だから、エルザは『女の身』だと言うことをを卑下してはいけませ……すみません。ついお話しすぎましたね、私の悪い癖です。」


「いえ、もっと聞かせてください!とっても面白いわ。私この国の外のことなんて考えたこともなかった…。いったいどんな世界が広がっているのかしら、なんだかドキドキします。」


「エルザ…でしたら、私のことはダニエル。と。」


そうよね。さっきの話は私を説得させるためだものね…でも、絶対にお父様やお母様に怒られるわ…


「…わ、わかりました、ダッ、ダニエル…」


でも、ほんの少しの不安だったけど、彼には随分と大きく写ってしまったらしい。


「エルザ、心配しないでください。私が無茶を言っているのはわかっているんです。ですから2人だけの時だけ、そう呼び合いませんか?」


そう言って彼は微笑んで


「私達だけの秘密にしましょう。」


と言った。


2人だけの秘密。その言葉に不安を忘れて、少しわくわくしている自分に気がついた。












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