第14話
政治は男だけのものではない。後宮では女にも政治が存在する。そんな中で武器になるのは「情報」だ。
「それから、マルテル家には他に弟はおりません。」
「なるほど。分かったわ。」
侍女に特命を出してから数日後、私室で開かれたミニ発表会の場で、私は侍女職の恐ろしさを改めて知ることになった。
「さすがね、こんな短期間でこの情報量。期待以上だわ。」
「ありがとうございます…あの、王妃様。これは、掴みきれなかったのですが、気になる噂がもうひとつ…」
「なにかしら?」
「アリア・カルペンティエリ様に関する噂です。」
でた。東西のボス猿…じゃなかった、リーダーシップを持つ方ね。
「アリア・カルペンティエリね。私も気になっていたわ。」
「もともとは、煌びやか暮らしを良しとしていらしたのに、今ではおかしなくらいにシンプルな生活だそうです。サロンを開かれることも少なくなり、側近も随分減ったとか。」
「んー、でも、予算は前とわからずギリギリまで使ってるのよね。どういうことかしら?」
「わかりませんが、もう一つ。最近彼女の元を去る侍女が多いとか。」
…派手好きが、地味に。大人しくなったわけだけど、改心したとか言うわけじゃなさそうよね。
「何か、あるわね。ミランダは引き続き他の側室とアリア・カルペンティエリについての情報をお願い。ユーリは私と一緒に今後の側室解雇の計画を練りましょう。」
「かしこまりました。」
今回getした噂で解任候補は10人。素行が悪いもの、家庭に事情があるもの、そして、その中に1人、絶対に会って意思を確かめなくてはならない側室がいる。
エルザ・ローレンスだ。彼女はローレンス伯爵家の次女で女の身ながら学問に秀でていたと記憶している。女性では一握りの高等教育修了者で、どうやらそれは元婚約者候補の影響だったらしい。
エルザの婚約者候補だったダニエル・ラドフォードは3年前の官吏試験を主席で合格、その後教育庁に入庁。
官吏試験で主席で合格した者はだいたい外交庁や経済庁に入庁するものだとされていたから、その慣習に逆らい、教育庁に入った彼は当時渦中の人となっていた。結局彼が教育庁に入った理由は教育についての改革をするためだった。彼の提言は受け入れられ、国王の信頼も厚いので現在は王族の教育を監督する帝王学部と国策を管轄する執行庁での監察官を兼任している。
いわゆる「本当にデキるエリート」である。
彼の婚約者であった彼女は学術に秀でた夫に嫁ぐのに、自分が無知では釣り合わないと思ったらしく、勉学に励んだそうだ。
本人同士の顔合わせもすみ、後は正式に婚約を交わすだけだったが、そのに横槍が入った。それが私、王妃の側室の宣旨だ。
婚約を理由に断りを入れても、文句は言わらないが、彼女の実家は厳格で国に忠実な家柄、国母である王妃の宣旨を断るという発想はなかった。婚約は白紙に戻り、彼女は後宮へ嫁いだ。
侍女達の持ち寄った噂によれば、静かに本を読んでいるかと思えば、雪が降ると庭へ駆け出すような活発な一面も見せる、嫌味のない女性らしい。
一方、ラドフォードは婚約破棄後、他の女性と結婚したかと思えば、今だに独身である。
私は一つの可能性を胸に、彼女の部屋を訪ねることを決めた。




