第13話
さて、コニーも帰ったし、今やるべき事はやった。とりあえずは待つしか無い。しかーし!ただ待つなんてそんなのつまらない・・
ということで・・そうだ、お散歩に行こう!・・いや、お散歩と言っても遊びにいく訳じゃないんだからね!
私はこの国の王妃になってから個々の側室達と会う事はしてこなかった。側室間のコミュニティは平和ではないけれど、酷く荒れているわけでもない。そこで王妃という新たな起爆剤を無理に放り込んで派閥やらなんやらで炎上させる必要性は全くといっていいほど感じなかったのだ。
でも、こんなことになったからにはちょっと見ておきたいわよね。一回も彼女達がどう過ごしているか見た事ないんだもの。というわけでお散歩しましょ。
後宮の側室が暮らす辺りはその中でさらに東西南北にわけられている。構造的には1つのゾーンに約20人が暮らせるようになってはいるが現在は1ゾーンに対して大体10人ちょっとの側室が住んでいる。(ゾーンごとにちょっとずつ人数がちがうのよね、好みとかうるさくて調整が大変だったんだから!)
今日は庭を通して行ける東側に行ってみようかしら。たしかこの茂みをぬければ・・
「えっ!?」
「え?」
・・今私のじゃない声がしたわよ?
「えっと・・」
・・なるほど、理解。目立たないように茂みを通って『東』に抜けようとしたらおそらく側室の一人と思われる子とはちあわせました。ってことね、うん。ここはとりあえず・・
「ごきげんよう。」
社交モードで対応!(さすがにドレスで顔見られたらバレますから顔隠してますけど、笑顔です。)
「ごっ、ごきげんよう・・」
「驚かせてごめんなさい。悪気は無かったの。」
「あっ、いえ、こちらこそ。」
「それは・・ハクトウソウの冠ね、とってもすてきだわ。器用なのね。」
「ありがとうございます!ハクトウソウが分かる人になんて久しぶりにあいました!私はルリカって言います。・・あなたは?」
「私はティナリアよ。訳があって顔は見せられないの。ごめんなさい。・それと、敬語はやめてちょうだい。ここで出会ってのも何かの縁だもの。良いお友達になれそうな気がしないかしら?」
ちなみに『ティナリア』というのは母国で本名を使えないいろいろな事をやっていたときの名前だ。
「お友達・・すてき!!」
ここは後宮。その中でドレス姿の女性と言えばたいていが側室だから、彼女は私が側室に一人だと思っているに違いない。そしてその思い込みは今の私にはありがたいものだった。
『ルリカ』といえば実家はトリトス男爵家。側室になる前の彼女は社交界などには余り顔を出さず、広さはそれほどでもないが豊かな自然があふれるトリトス領で大切に育てられた。しかし、トリトス領には後継者がいないのでトリトス家は現領主の代で取り潰される事が決まったいいた(5代目未満で2代続いての後継者不足が生じた場合お取り潰しが決定。っていう決まりがあるのよね。)が、一人娘のルリカが後宮に側室としてくる事が出来れば免除。という取引をしたのよね。
誰がって?勿論私です。
酷かもしれないけど、領民に人気の高いリトリス家を潰すことを避けたい、というのが本音。反対運動をおこされても困るしね。それに、この取引を持ちかければ娘が食いつくのは分かってた。側室候補の子達を調べているときにこの少女は心が美しいと分かっていたから。
今話しているだけでもそのことは充分伝わって来る。
「ごめんなさいね。」
「えっ?」
「あっ、いいえ。何でも無いわ。」
いけない、いけない。私とした事が。
「私、ティナリアみたいな方と出会えて良かった!ここに来てからお友達なんて一人も出来なかったから。」
「私もよ。」
「お友達が欲しくてもアリア様達は少し苦手だし・・あっ、いけない。内緒ね!」
以外とぶっちゃけるわねこの子。
「ふふ、もちろん。」
側室の一人アリア・カルペンティエリはカルペンティエリ公爵家の長女。身分の高さからなのか気高く気性が荒い。・・要するに無駄にプライドが高くてめんどくさい。そんな彼女は後宮の東西の最大派閥のドンなのだが、彼女に直接もの申す物はいないものの喜んで取り巻きになっているものばかりではないし、後宮に入る以前の身分を重要視する派閥であるが故にお呼びがかからない側室もいる。ルリカはその一人なのだろう。トリトス男爵家はこの国の歴史観で見ると新参者にあたるからだ。
「でも私もアリア様と関わった事はほとんどないわね。噂はよく聞くけど。」
「そうなの?珍しいわね。私がここに来たときに『挨拶にきなさい』って言われたのよ。何も知らなかったからとりあえず行ったのだけれど、今思えば行く必要なんてなかったのよね。」
「そんなことがあるのね。」
「でも一番問題なのはあれよね。ほかの側室の予算まで取り込んで児童福祉施設に寄付してるっていいながらいつ見ても違う宝石を身に着けているのよ。」
「着服ってこと?周りの方は何も言わないの?」
「そう。だって何されるかわからないじゃない?でも最近はなんだか違う事にお金をかけているみたいね。サロンとかも減っているようだし、体調でも崩されたのかしら?」
「・・そこを心配するのね」
「だって最近外出も余り無いそうだし、服も、前に比べたら地味というか好みが変ったって感じだし・・」
「ルリカ、アリア様のことが苦手だと言っていた割にはよくしってるのね。」
「まぁね、ここで私のやる事と言ったらこうして庭に出る事と侍女達と話す事位だもの。こういうのは全部侍女経由なの。」
「そうよね。・・退屈よね、ここは。」
王妃の私でさえときたまそう思うのだ。側室であり、しかも大自然の中で育って来た彼女には息苦しい事この上ないのだろう。
「まぁ・・そうかもね。」
そう答えた彼女の顔はやはり少し寂しそうだった。
「・・帰るわ。また会いましょう。」
「もう帰ってしまうの?」
「侍女達が心配するから。」
「・・私、いつでもここで待ってるわ。せっかくお友達になれたんだもの。絶対にまた来てね。」
「ええ。もちろん・・」
元来、王族の口約束というものは王族として生を受けた私が自分で言うのもなんだが、信用に値しない。それもその日会ったばかりの年の近い女の子との再会の約束なんて私が強く望んでも簡単にかなう事じゃなかった。
「また会いましょう、近いうちに。」
でも、今私の口から出た言葉は限りなく本心に近くて、この約束が実現されることをほぼ確信しているものだった。




