鬼と少年の塔
おや、今日も来たのかね。
今日もお話を?…もちろんだ。
さぁて、今日はなんの話がいいかねぇ。
…そうだ、お祖母ちゃんが昔住んでいた国のお話をしてあげよう。
こっちにおいで。毛布に包まりなさい。
それじゃあ始めようか。鬼と少年のお話を。
その国は永遠と雪が降りつづいた。
多少の夏はあるものの、その日照時間はほかの国と比べ物にならない程度。
そしてこの国にはある話があるそうだ。
「あの塔には鬼がいる」
人が賑わう町を出て、深い、深い、森の中。
たくさんの木に囲まれたこの森に、高い、高い、1つの塔が。
遡るは100年前。
この森の中に一人の少女が住んでいた。
家族はいない。齢は9つ。
華奢な体を隠す厚手でのコートを身に纏い、片手には銃を。
フードを深く被り、ひっそりと暮らしていた。
ぼさぼさの赤い髪、獣の様な瞳。
…そして頭から生えた二つの角。その容姿から少女は「鬼」と呼ばれ、この森に追放されてしまったんだ。
1000年に一度、その様な赤子が生まれるらしい。
人の身を喰い、永遠に生き続ける。そんな赤子が。
怖い?怖くなどないよ。
そんなものはただの迷信で、永遠の命などありはしない。
だからこそ鬼は自分に魔法をかけたんだ。「永遠に生き続けられる」魔法を。
不死鳥を自分の体に宿し、自分の中での時を止めたんだ。
鬼は生き続けたんだよ。
*
鬼に名前は無かった。
必要も無かったんだ。その名を呼んでくれる人はいないのだから。
一人で生きていく上で寂しいなど感じた事は無かった。
いつも一人だから感覚が麻痺してしまっているのかもしれないね。
…私には考えられないよ。
でもある日、その鬼がいつもの様に狩りに出かけるとなにか不思議なものがいた。
兎よりも大きいが、鹿や熊よりは小さい。良く分からなかったがその鬼は銃で撃ってしまったんだ。
それが人の少年だとも知らずに。
その少年がどうなったかって?大丈夫。鬼が必死に手当して一命を取り留めた。
その少年は優しくてね、鬼と呼ばれている彼女に普通に接してくれたんだ。
鬼は嬉しくてね、一緒に住む事になったんだ。
そして鬼は名前を貰った。
「アマ」
花の名前で花言葉は「貴方の親切に感謝します」確かに手当をしたのは彼女だけれども撃ったのも彼女だから、なんだか可笑しな話だねぇ。
けれども鬼はその名前が嬉しくて、嬉しくて、何度も何度も彼に呼ばせてた。
そうして幾つもの月日が流れて行った。
少年はすっかり老いてしまった。けれども、アマはいつまで経っても子供のままだった。
そして、その日はやってきてしまった。
その少年が死んでしまったんだよ。
最後まで優しい声で「アマ、アマ」と繰り返し呼びながら。
その時、初めてアマは涙を流したんだ。寂しい、悲しいと思える事が出来たんだよ。
森が海となって沈んでしまうんじゃないかって位、アマは泣き続けた。
そしてアマは考えたんだ。少年の為に何かできる事はないか…って。
そうして出来たのがあの塔だ。
どうして塔かって?塔っていうのは、死んでしまった人が此処にいるよっていう意味で建てる物なんだ。
その国の人はあの塔を恐れているけれど、私はそうは思わないね。
アマは心優しい鬼だったのさ。そう思わないかい?
…ふふふ、そうだねぇ。
さぁて、今日のお話はこれでおしまい。
もうお家に帰りなさい。お父さんとお母さんが待っているよ。
おや、雪が降ってきた。
ほうら、お前の事を大事に思ってくれている人がいるんだ、早く帰りなさい。
またおいで、待っているよ。
読んでくださりありがとうございました。