【第二十一章】 冥王龍ボルガ
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~another point of view~
小さな爆発音と共に、宝玉が砕け散る音が静かな大地に響いた。
ある程度の距離を置いて次なる瞬間に備える六人の戦士達の武器を持つ手に自然と力が増していく。
その異様な雰囲気が証明している通り、一見すると黒いガラス玉にしか見えない小さな宝玉は破片と化して地面に散らばってなおただならぬ予感をさせるだけの禍々しさを維持していた。
僅かの静寂を挟み、状況は瞬時に様変わりする。
突如として宝玉の置かれていた位置を中心に真っ黒な煙の様な何かが爆発的に拡散し始めた。
まるで地面から噴射しているが如く、勢いよく噴き出し続けるその気体は瞬く間に六人の視界を覆っていく。
六人がその向こうに現れた強大な気配に気付くまでに要した時間は一秒にも満たない。
唯一レイヴァースだけが不意打ちで攻撃を仕掛ける準備をしていたが、クリストフにその様子が無いことを受けてそれを自重していた。
ある者は興味本位で、ある者はその怨恨の深さゆえに、異なる理由であるにせよ半数が一目その化け物の姿を拝んでやろうと考えた結果だ。
すぐに漆黒の気体は風に流され、六人の目の前を覆い隠していたものが徐々に薄れていく。
そこに残ったのはただ一つ、高さにして人間の三倍はあろうかというドラゴンの姿だった。
全身が黒く、鋭く尖った長い尾を持つドラゴンが一匹。二本の足で立ち、六人を見下ろしている。
思っていた程は大きくない。
地上最強の生物と表現されることもあるそのドラゴンに対し、過半数の団員がそんな感想を抱いていた。
しかしそれでも。
一瞬でも気を抜けば殺られる。
そう感じさせるだけの強さ、強暴さを秘めていることをほぼ全員が直感的に理解していた。
皮膚と同じく黒い目、鋭い牙や爪、そして長い尾。
その風貌全てから滲み出る他の魔物やドラゴンとは違った性質を持つ異様なまでの凶悪性こそが冥王龍ボルガたる所以であった。
六人はすぐに攻撃態勢を取る。
その恐ろしい風貌と形相にただ一人『勝てる気しね~』と、心の中で半ば諦めモードで笑うしかない状態のアリフレートを除けば恐れや躊躇いの気持ちを抱いている者は居ない。
口から蒸気を漏らしながらギロリと物騒な目で見下ろす冥王龍に対し、最初に動いたのはクリストフだった。
左から右へ、横一線にノコギリ刀を振り抜く。
拳ほどの大きさの爆砲が次々と冥王龍へと襲い掛かった。
二十を数える黒い球体が胴体を中心に動く気配の無い冥王龍の上半身に触れた瞬間、次々と爆発を引き起こしていく。
そして、その半身を爆炎と煙が覆うと同時に他の面々も攻撃を仕掛けた。
ゲルトラウトは愛用の武器クラック・ハンマーを地面に叩き付ける。
その能力は狙い通り冥王龍の足下を威力十分に弾き飛ばし、その太く重量感のある右前足が僅かにぐらついた。
それを好機と見るや、二人の女戦士も間髪入れずに攻撃を仕掛ける。
アリフレートは両手に持つ鎖に繋がれた鎌の一本を。
レイヴァースは鞭状に変形させたフラムベルグという名の黒き大剣を。
それぞれを敵の胴体目掛けて放ち、それと同時に、ブラックも右手に装着した砲筒、【豪炎破動】から自身の繰り出せる最大級の攻撃である魔法弾を炸裂させた。
爆音が響く。
小さな小屋一つ程度ならば一撃で吹き飛ばすだけの威力を持つブラックの爆撃は冥王龍の左肩付近に直撃し、クリストフの攻撃によって発生した爆煙ごと飲み込む程の大きな爆発を巻き起こしていた。
そこでようやく斬撃を飛ばす以外に中距離攻撃の手段を持たないユリウスを除いた五人の一斉攻撃が止む。
六人は反撃に対する警戒を維持しつつ、揃って冥王龍の姿を伺った。
徐々にその身体を覆っている煙が流れていく。
そこに立っていたのは、攻撃前と何ら変わらず自分達を見下ろしている冥王龍だ。
その姿にそれぞれが少なからず驚きが、若い副隊長二人に至ってはそれどころか動揺が生じていたが、それを言葉にする暇を与えてはもらえない。
冥王龍が咆哮と同時に背を向ける様に身体の向きを反転させると、次の瞬間には黒く長い丸太の様な尾が凄まじい速度で六人に襲い掛かっていた。
鞭さながらにしなり、まとめて薙ぎ払おうとするかの様なその反撃に騎士団の面々はほとんどギリギリのところでそれを回避する。
クリストフとブラック、ユリウスの三人は真上に飛び上がることで。
レイヴァースとアリフレートはしゃがみ込むことで躱し、唯一ゲルトラウトだけが腕力で止める選択肢が一瞬過ぎったものの、その動きの早さが有効性や方法を判断する間を与えなかったこともあって後方に飛び退くことでどうにか事なきを得ていた。
全員が攻撃を回避した結果、六人と一頭は再び向かい合い、互いが相手の次なる動きを待っている。
武器を手に打開策を思案せざるを得ない状況の騎士団にあって、沈黙を破り誰にともなくボソリと呟いたのはアリフレートだった。
「あんだけ食らって無傷って……滅茶苦茶じゃないッスか」
「いくらドラゴンとはいえ、ただ皮膚が硬い、防御力が高いという話ではなさそうだな。明らかに攻撃を受ける瞬間に妙なオーラが身体を覆っていた」
「そうじゃったんか。どうりでピンピンしとるはずじゃ、地上最強の生物の名に恥じんだけの能力持っちょるっちゅうわけかい」
そんなクリストフとゲルトラウトの言葉にアレイフレートはあからさまに落胆する。
「今のをノーダメージでやり過ごすだけの防御能力持ってるとか、ほとんど無敵ってことじゃないッスか……」
「必ずしもそうではない」
と、不意に横から口を挟んだのはユリウスだった。
アリフレートのみならず全員がその言葉の意味を理解出来てはいない。
「どういうことッスか? フレッド先輩」
「尾の先を見ろ。少なくとも俺の攻撃は通じている」
五人の視線が冥王龍の長い尾へと向けられる。
その先端には確かに小さな切り傷のような跡が残されていた。
尾による攻撃を回避する際、ユリウス一人が同時に攻撃を試みており、それはまさにその剣が斬りつけた箇所であった。
攻防が始まった瞬間からユリウスの全身は青白い闘気に包まれている。
オーラや結界、或いは先のエレナール・キアラとの戦いでも斬ってみせた雷。
そういった実体の無いものや本来攻撃を通さないはず物をも斬ることが出来る。
それが自身で【煉蒼闘気】と名付けたユリウスの特異能力である。
その闘気を纏った剣が冥王龍の硬化オーラを通過し、僅かながらダメージを与えていたのだ。
「つまり……先輩の能力なら攻撃が効くってことッスね」
「それだけではないぞルイーザ」
ユリウスの能力の全容を把握していないレイヴァースやゲルトラウト、ブラックが口を挟めずにいると、アリフレートから見てユリウスとは反対側に立つクリストフが反応する。
その余裕すら感じさせる表情に、この人には恐れるという感情が存在しないのだろうかと人知れずアリフレートは感じていた。
「どういうことです団長」
先に問い返したのはレイヴァースだ。
「ブラックの攻撃が当たった箇所にも僅かだが焼け跡が残っている。少なくとも奴の能力は全ての攻撃に対して自動的に発動するわけではない。或いは発動していてもダメージを与えられないわけではない。そのどちらかは証明されているということだ。前者の場合は発動させずに攻撃を食らわせる方法が、後者の場合は純粋に威力の問題であるとして有効なレベルの攻撃手段が、それぞれ必要であると分かっていれば勝機は十分にある」
「じゃが、ブラックのあの一撃を上回る攻撃となるとそう簡単にはいかんぞ」
「残念ながら、おいらには一発の威力であれを上回る技は無いでやんす……」
「加えて、武器による攻撃ではフレデリック以外にダメージを与えるのは難しいとくれば尚更に、か? 案ずるな、俺の大爆殺ならば高確率で仕留められる」
「何を仰っているのです! ここ数日のことをお忘れになったわけではないでしょう」
「レイヴァースの言う通りじゃ、ありゃ乱発してええ技じゃあない。そんなことをして体がどうなるか、分からんわけじゃなかろう」
「俺の技、俺の能力は敵を沈めるためだけにある。一発程度で死に至るわけでもない、ここにきてそんな理由で日和ってなどいられるものか。この戦い、この先の戦いのために全てを賭してきたのだ! 団長として命ずる、我が渾身の一撃を敵に見舞うことを最優先の方針としろ!」
「し、しかし……」
レイヴァースは複雑な表情を浮かべている。
本音を言えば何を差し置いても反対意見を唱えたい。
しかしそれでも、団長命令とまで口にされてしまっては簡単にそうするわけにもいかない。
その何にも代え難い覚悟を自分が台無しにしてしまうことは死んでも我慢が出来ない。
そんな二つの気持ちで揺れていた。
「盛り上がっているところに水を差したくはないが、向こうも黙ってやられるつもりはないらしい」
ただ一人、クリストフを中心としたそれらの遣り取りに目もくれず冥王龍を直視したままでいたユリウスがほとんど独り言の様に横から会話を遮った。
どういう相手と戦っているのか、すぐ側でどれだけの覚悟と想いが交差しているのか。
そういった背景が感情に一切の影響を与えていないことが分かる、淡々とした口調だった。
その言葉を受け、視線だけをクリストフに向けていたレイヴァースやゲルトラウトも、視線は冥王龍に向けたまま言葉を交わしていたクリストフ、アリフレート、ブラックの三人も、再び全神経を冥王龍に集中させる。
両の前足を広げ、いかにも戦闘態勢と取れる動きを見せていた冥王龍は突如として天を見上げ咆哮した。
耳を覆いたくなる様なその大きな鳴き声は六人に警戒心のみならず緊張感を抱かせた。
ここにきて露わになった剥き出しの殺気や狂暴性がビリビリと伝わってきている。
それは一瞬の隙が即死を招く状況。
どんな手を打ってくるかと、同じく戦闘態勢を取る騎士団に対し冥王龍は再び大きく尾を振った。
先程とは違い、真上から叩き付ける格好で長い尾が振り下ろされる。
先頭に立つクリストフとレイヴァースを狙ったその攻撃を二人は反射的に躱し、逆にブラックがすかさず反撃の手を打った。
魔法力の補充が十分ではない状態の威力の低い魔法弾であったが、同じ効かない攻撃であったとしてもダメージを与えること以外の効果を得られる可能性を追った顔面への一撃だった。
十分な速度を持った魔法弾が冥王龍へ向かって飛ぶ。
直撃の瞬間に隙が出来る可能性があるならば、それを狙わない手はない。
言葉無くして意志を繋げたブラックを覗く五人は両手足に力を込め、即座に反応する準備をしつつ光り輝く砲弾の行方を見つめていた。
しかし、その一撃が冥王龍に炸裂することはなかった。
砲弾が顔面に迫り今にも着弾しようとする瞬間、その姿は視界から消えブラックの砲弾はそのまま遙か前方へと消えていく。
「なっ!?」
「はいいいいい!?」
レイヴァース、アリフレートの声が重なる。
同時に全員の視線が真上に向いていた。
その巨体にはあまりにも似つかわしくない俊敏な動きで攻撃を回避した冥王龍は高々と飛び上がり、六人を飛び越える様に宙に浮いていた。
誰にとっても想定外と言えるまさかの光景に声を上げなかった他の四人も驚きを隠せない。
それは飛翔ではなく、ただの跳躍。
瞬時に把握していたのはクリストフとユリウスの二人だけであったが、事実どうあれ厄介な攻撃手段と強固な防御能力に加えてこのレベルの動きの早さを兼ね備えているとなれば劣勢の度合いも大幅に増してしまう。それだけは誰しもが理解していた。
「アリフレートっ!」
ブラックの声が響く。
六人の頭上を通り過ぎようとする冥王龍はそれに留まらず、同時に攻撃を仕掛けた。
鋭く尖った尾の先端が真上から垂直にアリフレートに向かって伸びる。
驚きのあまり武器を構えることを忘れていたアリフレートだったが、例えそうでなかったとしても鎖鎌という武器で防ぐことが不可能だったことが幸いし避ける以外の選択を持つことはなかった。
ほとんど飛び込むように真横に転がり、攻撃を回避する。
極めて僅かな時間差で冥王龍の尾が地面に突き刺さっていた。
「あ、あっぶね~……ッス」
アリフレートは膝を突いた状態で、冷や汗混じりに呟く。
その間で既に冥王龍は六人の背後へと着地し、再び物騒な目を向けていた。
「なんなんスか、あの動き……あり得ないっしょ」
「ブラックの攻撃も十分スピードはあった。じゃが、それを普通に躱すとは……噂に違わぬ化け物っぷりじゃの」
「ただでさえダメージ与える方法が限定されてるってのに、その効果の無い攻撃すら当たらないとくりゃ状況は厳しくなる一報でやんす……」
「それだけじゃないッスよブラック……見てくださいッス、あの尻尾を避けた跡を」
アリフレートは立ち上がりながら二度の攻撃を躱した結果生まれていた更なる好ましくない状況の証明を指差した。
それは共に冥王龍の主な攻撃手段である強靱な尾による攻撃の産物。
一度目の叩き付ける攻撃によって尾が触れた箇所がそのまま長く大きなへこみとなっている地面と、直前の真上からの攻撃によって深く穴の空いた地面の跡だった。
「刺されりゃ即アウトなのは言うまでもないッスけど、ブン殴られただけでも普通にヤバいッスよ……特にあたしは」
身長が低く、細身で小柄な体格をしているアリフレートにとって物理的な攻撃は弱点の一つであった。
ただでさえ戦闘時であっても滅多に騎士団の鎧を装着しないぐらいに非力なのだ。
武器による攻撃に限らず、ただの殴る蹴るといった攻撃ですらまともに受ければ大きなダメージを負ってしまうことは大いに自覚している。
地面をへこませるレベルの尾を食らえばその後戦闘を継続出来るとは到底思えなかった。
そんなアリフレートの言葉に同じく鎧を付けていないブラックも、鎧を身に纏ってはいるものの他の三人の隊長程には肉体の強さに特出していないレイヴァースも内心同じ感想を抱いていた。
体格や鎧の有無など無関係に一撃食らえばただでは済まない。
それは火を見るよりも明らかであり、そこに攻撃が効かないことや今目の前で見せつけられた機動力が加われば防戦一方になりかねないからだ。
「さて、どうしたものかな団長殿」
レイヴァース、アリフレート、ブラックの三人が言葉を失い、特に戦況の有利不利など考えていないものの、ただどうすれば一撃叩き込んでやれるかと一人無言で悩んでいるゲルトラウトが黙ってしまっていることでやや重い空気が流れる中、いつもと変わらない飄々とした口調でユリウスが沈黙を破った。
それに答えるクリストフにもまた、何ら危機感らしきものは見受けられずただ二人だけが平然としている。
「あの動き、あの攻撃に注意しつつ俺達二人で仕留めに掛かる。それ以外にはないといったところか。だが、俺の技でとどめを刺すにしても今のを見る限り無策のままでは無駄打ちになる可能性が高い。かといって悠長に隙が出来るのを待つわけにもいかない。奴はバルカザールを消し去った技を持っている、長引けば不利だ。情けない話だが、二発目が無い以上は確実に食らわせる状況をお前達に作り出してもらいたい」
「また寝たきりになるつもりか? あれを始末すればその後はこの国を血染めの奈落に変えるだけだと言ったはずだ。そうなれば俺は数日を無駄に過ごすつもりはない」
「どこまでも連れない奴だ。だが、ならばどうする」
「俺の攻撃が通用することは証明したはずだ。奴の頭蓋骨を串刺しにしてやれば流石に生きてはいられまい」
「口にする以外はそう簡単な話ではなさそうだが、まあいい。お前がそう言うならば俺が一旦は補佐に回ってやるか」
そう言って、クリストフは突きの構えを取る。
その姿を見て他の四人もすぐに動ける様に同じく武器を構えた。
クリストフが右手のノコギリ刀に闘気を集中させているその目の前で、同じく反撃の一手を打とうとしている冥王龍に最初に気付いたのは他ならぬクリストフ自身だった。
ゴゴゴゴゴ。
そんな音と共に、半分開いた状態の冥王龍の口には小さな赤く輝く球体が現れている。
徐々に大きさを増すその球体に、クリストフは即座に構えを解いた。
「チッ、あれを食うと不味い。全員回避することだけを考えろっ」
バルカザール帝国、サントゥアリオ帝国という二つの国で皇帝の座に着いた家系の血を引くクリストフは誰よりも両国の歴史を知っている。
それがバルカザール帝国の血族の末裔に黒龍の鉄槌と言い伝えられる、たった数発で島国一つを消し去った冥王龍の必殺技だと気付かぬはずもなかった。
六人は距離を置くべくすぐさま後方にステップを重ねる。
古き伝承ではあるが、それは冥王龍が窮地に陥った時に始めてみせた起死回生の一撃であるという話だ。
それゆえに、一撃で仕留める方法を最優先としていたクリストフにとってこの段階で放ってくること自体が想定外だと言えた。
それぞれが可能な限り距離を置く中、既に冥王龍の口内には当初の三倍近い大きさになった球状の赤き魔力の塊が出来上がっている。
その間ほとんど動く気配が無かったことを考えるならば、それは確かな隙と言えなくもない。
しかし、その威力を伝え聞いてなお接近戦を挑むという無謀な選択は勝算の薄い賭けでしかなかった。
「来よるぞ!」
不意にゲルトラウトが足を止めた。
それに倣い、全員がその攻撃に備える。
ほぼ同時に冥王龍の口から黒龍の鉄槌が放たれていた。
唸り声と共に吐き出されたその一撃はバチバチと音を立てながら六人の中心付近へと高速で襲い掛かる。
そのあまりの濃度を感じ取り瞬時に武器による防御が有効な手段ではないと判断した六人は咄嗟に右に左にと飛び退くことで回避した。
地面を転がる六人の間を通過した攻撃は後方に着弾し、大きな爆発音を生むと同時に地面を吹き飛ばした。
空高く舞った地面の残骸や砕け散った岩の破片がパラパラと辺りに降り注ぐ。
騎士団の面々は冥王龍が追撃を仕掛けてくる様子が無いことを視認し、続けて後方に目を向けた。
そこには巨大な穴が空いている。
底が見えない程に深く、距離によっては直撃していなくとも致命傷になりかねない程の一撃であったことを嫌でも理解させられた。
「こりゃ洒落になってねえよい……なんつー一撃でやんす」
「地面が無くなってんじゃないッスか……あんなの近距離で食らったら一貫の終わりッスよ」
ブラック、アリフレートは揃って唾を飲み込んだ。
翼をばたつかせ、長い尾をうねらせて今にも襲い掛かってきそうな冥王龍に目をやってはいたが、当初の闘争心は見る影もない。
翻って。
楽観視など出来るものではないと認識してはいても、クリストフの奥義を目の当たりにした経験のある他の者達は大きく動揺してはいなかった。
「確かに厄介ではあるが、言い伝えではあの攻撃が僅か数発で我等が祖国を消し去ったという話だった。しかしこれでは到底国一つをそうさせるレベルには無い。かつてカルマが俺に言ったことがある。長きに渡って封印していることで冥王龍の潜在魔力は著しく低下しているだろう、とな。そういう封印方法だと言っていたが、その影響がまさにこれというわけだ。奴が加減をしていなければ、という話だがな」
「そりゃつまり、弱っとるっちゅうことかい。そうじゃなけりゃこの辺一体消えて無くなってたかと思うと、運が良かったのやら悪かったのやらっちゅう感じじゃの」
「弱っててコレって、正直ドン引きッスけどね……」
「しかし、少なくとも私達がこの国ごと消される心配は無くなったということに違いはない。我々の目的は正々堂々と戦うことではないのだ、敵の事情など忖度していられるか」
「ラミアスの言う通りだ。俺達の目的は勝利という結果以外にはない。だが、そう何度も食らっては分が悪いことも確かだろう。結局のところ行き着く結論は長引けば不利、となれば俺の一撃で確実に仕留めるのが最善の策だと思うが、どうだユリウス」
「そうしたければそうすればいい。いずれであれ俺にはそれを補佐する武器も能力もない、ならば俺は俺で奴を仕留めるために動く。どちらかでも成功すれば勝ち、それでいいだろう」
ユリウスは鉄仮面越しに冥王龍を見据えると、クリストフの返事を待たずしてそのまま駆け出した。
その全身は再び青白いオーラに包まれている。
「ちょっ、フレッド先輩!?」
遠ざかる背中に向かって、アリフレートが慌てて声を掛けた。
反射的に追い掛けようとしたが、一歩目を踏み出すその瞬間にそれを制したのはクリストフだった。
「待て!」
「で、でも……ッス」
「慌てるな、取り乱すな。冷静に、フレデリックと冥王龍に合わせて動くことだけを考えろ。あいつの言った通り俺達のどちらか奴を仕留める。そのために何をすべきかを見誤るな」
「りょ、了解ッス」
「よし、総員俺に続けっ」
クリストフが口火を切って地面を蹴ると、残る四人もそれに続く。
破滅か、はたまた生き残りか。
二つに一つの未来を賭けた戦いは紛れもなく終局へと向かっていた。




