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勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている  作者: まる
【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている⑤ ~破滅の三大魔獣神~】

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【第十四章】 集いし戦士達

※2/8 誤字修正

 11/16 台詞部分以外の「」を『』に統一


 三日と半日程の山籠もり生活が終わり、僕達は五日目の起床と共に諸々の後始末を済ませてそのまま山を下りた。

 その後、一旦エルシーナ町に帰って宿屋で部屋を借りると久々の湯船付きの入浴と昼食を取ったものの、ゆっくりする暇も無くシルクレアの一団が到着する港へと向かうことに。

 山の近くの町の方が港までは近いという話だったのだが、サミュエルさんとジャックが港に同行せずノスルクさんの小屋で待機していると言い出したため一度戻った次第である。

 言わずもがなサミュエルさんがそう言い出した理由は『なんで私が迎えに行かないといけないのよ、何様のつもりだっての』という主張の下だったがジャックはそういうわけではなく、本来存在しているはずのない身であることを理由に本題の前に話が拗れることを避けるためだと言っていた。

 そんなわけでセミリアさんと二人で海を眺めながらシルクレアの船団を待つこととなったというわけだ。

 といっても二人きりというわけではなく、クロンヴァールさん達が今日来ることは当然王様にも伝わっているし、そうでなくても警戒態勢が強化されていることもあって周りにはそこそこの数の兵士達が居る。

「セミリアさんは……不安を感じたりはしていないんですか?」

 肩を並べて眺める海に船の姿は未だ無い。

 少しばかり他愛もない話をして、会話の途切れ目が沈黙を生んだタイミングでふとそんな質問をぶつけたくなった。

 特に何か思うところがあったわけではない。

 ただ戦いに、或いは困難に立ち向かうにあたってセミリアさんがそういう様子でいるところを見たことがないのではないかと思った。

 例えばサントゥアリオに行くと決めた夜、例えばかつて暮らしていたという場所で過去を語った時、辛そうな顔をしていたり涙を流してはいたけれど、それは心を痛めていたり苦しんでいる誰かを思ってのことであり、命を懸けて戦うことに対してではない。

 相応の強さを持つがゆえのことであったとしても、不安や恐怖を感じたりはしないのだろうかとその陰りのない横顔を見て聞いてみたくなった。いや、思わず口にしていたというべきか。

 セミリアさんは質問の意図が理解出来なかったのか、顔をこちらに向け首を傾げる。

「不安? それは天鳳と相対するに当たって、という意味だろうか」

「天鳳とやらもそうですけど、帝国騎士団の誰かだったり過去で言えば魔王の時でも、戦わないといけないことを悲しんだり嘆いたりしていても戦いに臨むこと自体に不安や恐怖を感じているようなところを見たことがないなと思いまして」

「それを言うならばコウヘイとて同じではないか。魔王の時も、サミットの時も、敗れれば命を失う戦いであることに違いはなかったはずだ」

「僕は多分人並み程度には怖がっていたと思いますよ? そういうのが表情や態度に出にくいってだけで」

 あとは相当開き直ったり仕方がないかと半ば諦めたりしてただけだ。

 確かに自分の命に対してそうあること自体、我ながら冷静なのを通り越して執着がなさ過ぎだろうという感じではあるけども。

「どんな時でも冷静に。というのはコウヘイらしさであり、同時に強さでもあるのだな。そうやって格上であるはずの敵を倒し、仲間を導き、守り、危機を乗り越えきたのだ」

「その割には守ってもらってばかりな気もしますけどね」

「そんなことはないさ。今やコウヘイを頼りにしている者は随分と多くなった。今も昔も変わらず私もその一人だ。これは先ほどの質問に対する答えだが、かつて魔王に挑んでは敗れてばかりいた頃はそういう感情もあったと思う。次も負けて命があるとは限らないのだ、と。そうなった時に多くの人間が不幸になるのではないかと、そんなことばかり考えて気持ちが逸るばかりだった。今そうでないこともまた、コウヘイのおかげだ」

「僕のおかげ、ですか? 僕は戦いに関しては大して役に立ってないと思いますけど」

「コウヘイに出会うまでの私はいつも一人だった。だが、あの日コウヘイが力を貸してくれた。そのおかげで私に仲間が出来た。今で言えばサミュエルやアネット様が共に戦ってくれる。コウヘイが居なければ間違いなく今そういう状況になかっただろう。『誰かのために』ということに『仲間のためにも』という理由が加わるだけで私の不安や恐怖など消えてなくなるのだ。勇気と信念を変わらず持ち続けることが出来ることもコウヘイがいてくれたからなのだろう」

「またそうやって持ち上げて……僕に謙遜ばかりさせているのはセミリアさんが原因ですよきっと」

「ははは、そう思われても仕方がないな。だが、最近気付いたのだ。正しくは気付かされたと言うべきかもしれないがな」

「何に気付いたんですか?」

「私がどれだけコウヘイに感謝していて、コウヘイを必要としているかが今ひとつ伝わっていないらしいということにだ」

「なんだか、面と向かってそう言われると照れますね」

「ふむ。私の言葉などでも照れてくれるのならば言った甲斐もあったというものだな」

「どういう意味です?」

「こちらの話さ。だが、私にとってコウヘイに必要とされることは誇りに思うべきことだ、それを覚えていて欲しいと思うぞ。さて、どうやらクロンヴァール王がご到着だ」

 セミリアさんは前方を指さした。

 その方向には遠くにうっすらと姿を現わし始めている何隻もの巨大な木造帆船の姿があった。

 後半はいまいち言わんとしていることが分からなかったが、セミリアさんが話を変えようとしたことは何となく分かる。

 気にならないわけではないけど、敢えて追求する空気でもないかと僕も頭を切り替え、風に靡く綺麗な銀色の髪を横目に大国シルクレアの一団の到着を待つのだった。

 

          ○       


 それから少しして、僕達はノスルクさんの小屋を目指して森の中を歩いていた。

 数は六人。

 僕とセミリアさんに加え、シルクレアからはクロンヴァールさんとハイクさん、ユメールさんにロスキー・セラムという名の魔法使いの男だ。

 港で待つ僕達の前に現れた巨大帆船は六隻に増えており、クロンヴァールさんは前回から二千人を追加した合計三千人の兵士を連れてきているという話だった。

 徐々に規模を増していく争いに歯止めが効かなくなりつつある不安を抱かざるを得ないが、今目の前にあるのは世界が破滅するかどうかの危機なのだ。

 クロンヴァールさんがそれを理解しているのならば、出し惜しみなどしている場合ではないということなのかもしれない。

 頭では分かっていても、より大きな力で叩き潰すという主義であろうことを考えるとその後のことを考えた時にやっぱり賛同出来ない部分も少なからずあるわけだけど。


「この様な森の中に住んでいるとは、随分と変わり者らしいなその老人とやらは」


 エルシーナ町まではワープによる移動で来たため十分、十五分も歩けば到着するその道すがら、右に左に視線を送りながら声を掛けてきたのはクロンヴァールさんだった。

 ラブロック・クロンヴァール。

 二十六歳にしてこの世界で一番の大国の王であり、強さと美貌も世界一と言われているらしい完璧超人である。

 燃えるような真っ赤な髪が首の下まで伸び、高貴さの溢れる白い服に髪と同じ真っ赤なミニスカート、腰に携えたキラキラした宝剣、その全てが異様なまでに似合う、凛々しい雰囲気を醸しだしながらもセミリアさんと同じレベルでこれほど綺麗な女性が存在するのかと言いたくなる美しい顔立ちをしている。それがクロンヴァールさんという人物だった。

 そんな、美しさとかはさておいても特徴的過ぎる風貌をしていらっしゃるクロンヴァールさんだったが、他の面々がそうではないかと言えばそんなことは全くなく、揃いも揃って個性的な外見をしている。

 挨拶をしたきり特に言葉を発することなく黙って後ろを歩くハイクさんことダニエル・ハイクという青年は格好こそ白と黒の混ざった普通の戦装束(と呼ばれる戦闘用の衣装らしい)を着ているが、その背中には身長と同じぐらいの大きさの、どうやって扱うんだろうかという大きなブーメランが背負われている。

 ブーメラン使いでありクロンヴァールさんの側近であることぐらいしか知らないが、意外と常識人だというのが僕の中での認識である。あとはよく煙草を吸う人だというぐらいか。

 そしてもう一人の側近であるクリスティア・ユメールという女性だが、こちらもまた随分と派手な格好をしている。

 クロンヴァールさんを真似ているらしい服装は上は袖のない白の、下は膝ぐらいまでの長さの赤い戦装束で、長い髪を白いバンダナで持ち上げており、側頭部に左右二本ずつある細く三つ編みにされた部分だけが赤色をしているという個性的な外見だ。

 ハイクさんと同じく歳は二十歳前後だと思うのだけど、口も悪く言動が子供っぽいという個性の塊みたいな人である。

 残る一人についてだが、その男を僕はほとんどと知らない。

 四十を超えているであろう中年の男は名をロスキー・セラムといって、名前以外に僕が持つ情報は世界一の魔法使いと呼ばれているということと、シルクレア王国では総帥という地位にいて全軍を統括する立場にいるということぐらいだ。

 格好良いローブを着ているし、腰にガラス製なのか半透明の杖を差しているあたりは確かに外見は魔法使いと言えるのだろうけど、えらくガタイもよく、顔も威厳や風格を感じさせるものがあるだけに肉弾戦タイプに見えてしまって仕方がない。

 過去に会話をした経験は無く、港で挨拶と自己紹介をした時も、


「お前がコウヘイか」


 と、低い声で言われただけだった。

 別に威嚇するつもりはないのだろうけど、めっちゃ怖かった。

 そんな四人組のシルクレア一行はアルバートさんやAJという比較的普通の人達が船番として居残っており、それが余計に個性的な人間だらけに感じさせているのかもしれない。

 しかし、見事なまでにAJとの再会の機会が無いな……本当に避けられているのか? 別にいいけど。

「変わり者かどうかは分かりませんが、それも事情あってのことなのです。私自身それを知ったのはつい最近のことでしたが……」

 脳内回想をしている間にセミリアさんが代わりに言葉を返してくれていた。

 事前に訪ねていった際には事細かな説明まではしていないという話だ。

 実際問題としてそれを直接聞くためにこの人達は今ここにいる。

「例の魔獣神とやらから目を離さぬため、だろう。その説明は既に聞いた。しかし、奴等がそんなことを企んでいるとはな。散々議論を重ねた連中の時間稼ぎの目的が明らかとなったのは喜ばしいことだが、あちらもこちらも状況は悪化の一途だな」

「そうはさせません。必ずや魔王軍の野望は打ち砕いてみせます」

「当然だ。みすみす世界をくれてやるつもりなど誰にもない。一つ一つ、確実にこの手で潰していってくれる」

「しかしクロンヴァール王、あれだけの人数に加えセラム殿まで加わっている状況ですが、お国の方は大丈夫なのですか」

「近衛隊長と副兵士長に任せてある。近頃はとりわけ目立った侵略行為も見られないし、長期に渡らなければ問題はないだろう。そのぐらいの基盤作りはしてきたつもりだ。我々の不在を狙われぬ保証もない以上はのんびりしている暇が無いことに違いはないがな。それよりも、個人的にはあの盗人共に鉄槌を下したいものだ」

「盗人共?」

「少し前の話になるが、立て続けに二件盗賊による被害が出ていてな。私の国で粗相を働くとは舐められたものだ。コソ泥らしく上手く雲隠れしては次の獲物を狙っているらしいが、駆けつけた兵士達をあっさり返り討ちにするあたり頭領の戦闘能力は噂通りということらしい。いずれにしても、私に喧嘩を売った以上簡単に出て行けると思うなということだ」

「霧蝙蝠、ですか。数年前に我が国でも大きな騒動になりましたが、まさかシルクレアにまで触手を伸ばすとは」

「世界中が己の庭だと宣う阿呆だ。思考回路もそれなりなのだろう」

 小馬鹿にした様に鼻で笑うと、クロンヴァールさんはあっさりと話題を変えた。

 二人の話は僕にとっては聞いていても事情が分からない話だったけど、他に口を開く人間が居ないこともあってすぐ後ろを歩いていれば嫌でも耳に入ってくる。

 あとで質問すればいいだけなので聞いて損するわけでもないのだろうけど。

 なんて思いつつそのまま二人の話を聞いていると、なぜか不意に隣に寄ってきたユメールさんに腕を引っ張られた。

「やいわんこ。ちょっと来やがれ、です」

「どうしたんですか急に。というか……まだその呼び方覚えてたんですね」

 悲しい限りだ。

「お前の名前なんてどうだっていいですっ。黙って言われた通りにしやがれです」

 何を興奮しているのかは全く分からないが、ユメールさんは後ろの方へ無理矢理僕を引っ張っていく。

 どうやらクロンヴァールさん達から離れようとしているみたいだ。

 相変わらず声や表情は子供っぽいし、身勝手な言い分ばかりな人である。

「それで、一体何のご用でしょう?」

 少し後方に移動し、何事かと一瞬振り返ったセミリアさんとクロンヴァールさんが再び前を向いたところでようやく腕を離してもらえた。

 ユメールさんは腕を組み、不機嫌なのか拗ねているのかの判断が難しい顔でよく分からないことを言い始める。

「聖剣はどういう理由でお姉様を呼び出したですか。答えろです」

「どういう理由でって……聞いていないんですか?」

「聖剣が訪ねてきた日、クリスは遠征していて城に居なかったです。お姉様は行けば分かると言うだけで化け物退治としか教えてくれなかったですし、アホアホのダンは蹴り入れたらヘソを曲げて死んでも喋らねえとか言い出すアホアホっぷりで役に立たんです。だからお前にクリスへの説明役をさせてやるです。感謝しながら洗いざらい教えろ、ですっ」

「……なんでハイクさんに蹴りを入れるんですか」

 言ってることもやってることも理不尽極まりない。

「どちらにしてもクロンヴァールさんがそう言っているならそれ以上言い様がないんじゃないんですか? 勿論僕は先に話を聞いているので詳細を知っていますけど、クロンヴァールさんが僕達に話をしてくれた人に直接話を聞いて判断すると決めた以上は僕から話しても仕方がないと思いますけど」

「うぬぬ……知った風な口を利きやがりますですね。クリスのお姉様への愛を試しているつもりでいやがりますか」

「いや、微塵もそういうつもりはないですから」

 と、ユメールさんが勝手に悩み始め、僕が付き合いきれないぞという気持ちを抱き始めたと同時だった。

「ユメール、いい加減にせんか。余所様の国の者になんたる言い草だ」

 背後からしたそんな声の主はすぐ後ろを歩くセラムさんだ。

 声が低いせいか、怒っているように聞こえておっかなく感じてしまうせいで自分に対する言葉ではないのに萎縮してしまいそうになる。

 しかし、ユメールさんの反応を見るにどうやら怒っているわけではないらしかった。

「オッサンはどっちの味方ですか。クリスだけのけ者扱いなんて許さんぞ、ですっ」

「どっちもこっちもなかろう。姫様が決めたことに異論を唱える者が我々の中に居るのかという話だ。この男はグランフェルトの全権を与えられているのだ。無礼を働くことが姫様の顔に泥を塗ることになると分からんわけではあるまい」

「何を与えられていようがわんこはわんこです。犬っころの分際でクリスより上の立場になることなんてあり得んです」

 ユメールさんは色々と謎理論を口にしながらそっぽを向いてしまった。

 いつまで経っても聞き分けのない奴だ、と呆れる様に言うとセラムさんはユメールさんとは反対側の僕の横に並んだ。

 身長差からして仕方がないが、見下ろす様に僕を見る。

「コウヘイと言ったな」

「はい、康平です。樋口康平」

 さっき自己紹介したんだけどね……あんまり僕に興味がないんだろうな。

「一つ、聞きたいことがある」

「なんでしょう」

「我々に話を聞かせようとしているのがノスルクという名の男であることは事実か」

「そうですけど、それが何か?」

「お前はその男と近しい間柄なのか?」

「多少なりはというか、こういう身分になってからは常に助けていただいてきましたし、色々と教えてもらったり方法を与えてもらったり……なんだかしてもらってばかりですけど、今こうしていられるのもノスルクさんのおかげだと思っているぐらい多大な恩もありますし、信頼関係もそれなりには築けてきたんじゃないかなぁとは思っていますけど」

「そう萎縮せんでくれ。なにも責めているわけではない、勘繰らんでくれると助かる」

「はぁ……」

 そう言われると、むしろこっちが助かる。

 どうしても厳格そうな顔付きがそう感じさせるだけに。

「どういう人物なのか、会う前に少し話を聞いておきたいと思ってな」

「僕が知っていることと言えばフルネームがエルワーズ・ノスルクといって、元々が魔法使いで、色んなことを知っていて、小柄で物腰が柔らかくて、正確な数字は聞いていませんけど現役だったのは百年以上前だったらしいというぐらいでしょうか」

「ふむ……やはり俺の知る人物で間違いないようだ」

「ノスルクさんをご存じなんですか?」

「会った経験があるわけではない。いや、それどころか姿を見たこともない。だが魔術を扱う者でその名を知らん輩は潜りだと言える。それ程の名だ」

「…………」

 それはつまり、魔法使い業界では有名人だということか。

 長らくは隠居生活をしていたという話なのに、それでもそう言われるだけの知名度があるのだからジャックも含め僕が無知なだけで実は凄い人物達と何気なく一緒に居るのかもしれない。

 そんなことを考えている間にセラムさん的には話は終わったことになっているのか、視線を進行方向へと戻したきり次なる言葉を発する様子はない。

 問う相手は誰でもよかったとはいえ知りたいことがあるというのは僕も同じだったし、何よりまたユメールさんに絡まれたら面倒なので会話を継続させるためにも僕からも質問してみることにした。

「僕からも一つ質問してもいいですか?」

「断る理由はない」

「霧蝙蝠って、なんですか?」

 先程のセミリアさんとクロンヴァールさんの会話で聞いた単語である。

 素っ気なく答えるセラムさんだったが、ちらりと僕を見たその訝しげな表情から『なぜそんなことも知らないのか』と思っていることが分かった。

「王様に仕えるまでは田舎の村で育ったこともあってまだまだ情報には疎いもので」

 自分の質問がこの世界では常識である内容だったことに今初めて気付いた僕は咄嗟にそんなフォローを入れていた。

 納得してもらえたのかどうかは定かではないが、セラムさんは特に言及することなく問いに対する答えだけを口にする。

「霧蝙蝠というのは世に数ある盗賊団の中でも最も名の知られている一味の名だ。世界中で金品や貴重品を奪い回っている。尻尾を掴ませないという意味では小賢しいことに違いはないのだろうが、だからといって隠密性に長けているだけではない。堂々と押し入ることもあれば暴力によって目的を遂行することも多々ある。どの国にとってもターゲットとなれば頭の痛い問題となっていると言えるだろう。特にメロ・リリロアという名の女頭領の戦闘力は高く、名うての賞金稼ぎ達を簡単に返り討ちにする程だ。無論逃げ隠れにも長けており、数年前に複数の国が結託して討伐隊を結成したものの潜伏にしている国すら掴めずに終わったという話だ」

「なるほど、丁寧な説明をありがとうございます」

 ペコリと頭を下げると、セラムさんはやはり『お互い様だ』と素っ気なく返すだけだ。

 そういえば最初にこの世界に来た時にもこの国で盗賊の話を聞いたっけか。

 サミュエルさんがやっつけたという話だったけど、他ならぬジャックも一緒に盗まれていたし、そういった犯罪や組織がこの世界で蔓延しているならあまり笑い事でも他人事でもなさそうだ。

 密かに抱いたそんな感想と共に、いつの間にか側を離れ前の方でクロンヴァールさんと腕を組んで歩いているユメールさんに若干引きながらその後は特に会話をすることなく目前のノスルクさんの小屋へと足を進めていくのだった。


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