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勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている  作者: まる
【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている⑤ ~破滅の三大魔獣神~】

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【第四章】 万夫不当の剛の者

誤字修正 最長→最中

   ~another point of view~



 八十四頭の馬とそれに跨る戦士達が一斉に荒野を駆けていく。

 それぞれが武器を片手に、隊長副隊長の肩書きを持たぬ者はそれに加えて盾を逆の手に持ち、敵である王国護衛団(レイノ・グアルディア)の陣営へと迷いなく突進していった。

 対する王国護衛団は台車に乗った大砲を先頭に配置し、その後ろに身長ほどの大きさを持つ大盾を持った兵士が並び、さらに後ろには弓兵を中心とした騎兵と歩兵が配置されているという布陣で徐々に、それでいて確実にその一団を迎え撃つべく前進している。

 半数は変わらず町を守るべく後方に待機しており、仮に突破されたとしても挟撃が可能になるというまさしく鉄壁の陣であった。

 当然の如くその陣形の意味を理解しているエリオット・クリストフはすぐに指示を出す。

 対象はすぐ隣で馬を走らせているハイアント・ブラックだ。

「ブラック!」

「合点承知!」

 ただそれだけのやり取りで言わんとしていることを把握したブラックは右手を前方へと向けた。

 射程距離が長く威力の高い魔法弾を放てる状態では未だない。

 右手に装着された武器【豪炎破動(バーナード・キャノン)】には独自に魔法力を蓄えることが出来る能力が備わっている。

 十分な魔法力を持っていないブラックにとってそれは最大の強みでもあり、同時に自力ではどうにもならない欠点でもあった。

 しかし、今まさに放たれ砲撃は全く別の能力である。

 その武器の特性は魔法弾だけではなく様々な攻撃の手段を持っているという点にあり、敵に向けられたのではなく、その前方の地面へと放たれた砲弾の正体はそのうちの一つである煙幕だった。

 通常の砲撃よりもやや小さな爆音が響くと、瞬く間に白い煙が広がり両陣営の視界を塞いでいく。

 その狙いは二点。

 今にも一斉砲撃を始めようとしていた大砲の照準を隠してしまうこと。

 そして同時にクリストフの攻撃に対する対処をさせないこと。

 狙い通りに視界が完全に塞がったことで王国護衛団の一斉発射はタイミングを失い、砲手達が戸惑い次なる指示を待つ僅かな時間を逃すことなく、先頭を走るエリオット・クリストフは白煙を突破していく。

 敵側ではなく自軍に近い位置に着弾させたこと、そして馬による移動と台車に乗った大砲を先頭に進む布陣が生む前進速度の差が全ての状況を帝国騎士団にとって都合が良い方向へと変えた。

 視界が晴れ、改めて敵の姿を捉えるなりクリストフが手に持つ刀を横一線に振り抜くのと同時に、空を切るその刀身から握り拳ほどもない、小さく黒い気泡の様な球体が無数に放たれる。

 何十にも及ぶその黒く小さな球体は散開しながら真っ直ぐに王国護衛団へと向かっていき、先頭を切る大砲の列の周辺へと次々に着弾していった。

 クリストフ自身が爆砲(カロル)と名付けたその無数の黒い球体は大砲その物に、或いはその周辺の地面に、触れた瞬間に次々と爆発を起していく。

 小規模の爆発ではあったが、大砲に直撃したものはその砲身を吹き飛ばし、そうでないものは大砲を乗せている台車を破壊していったそれらの爆撃は結果として僅かな間で全ての大砲の動きを封じてみせた。

 自らの闘気や生命エネルギーを爆破力へと変換し、武器を媒体としてそれを具現化する。

 戦争麒麟児という異名を世界に知らしめるエリオット・クリストフの狂気の代名詞である特異な能力。

 それが【帝王爆塵パーフェクト・カンバッション】という名の生まれ(ナチュラル)持った(・ボーン・)覚醒魔術(ソーサリィ)である。


「不用意に突破を狙うな。まずは前方の敵を蹴散らせ」


 目論見通り大砲の機能を失わせたものの、すぐに迎撃態勢を整える王国護衛団の姿を確認するとクリストフはすぐ傍を走る三人への指示を飛ばした。

 ゲルトラウト、ブラック、アリフレートはそれぞれ了解の返答を残してクリストフから離れ、三方向に広がっていく。

 そのまま単独で正面突破を敢行するクリストフと他の団員を引き連れて左右に分かれる三つの集団へと別れた騎士団の足を止めるべく、王国護衛団もすぐにそれぞれを包囲する布陣を取った。

 クリストフ以外の三人はすぐさま百を超える兵士に行く手を塞がれ、そこで一旦動きを止める。

 右方へ進行方向を変えたゲルトラウトはすぐに馬から飛び降り、部下の一人に馬を預けて待避させると後を着いてきたその他二十四名の団員へ指示を下した。


「こっちはわし一人で十分じゃ。ブラックとアリフレートを援護しちゃれ!」


 高ぶる感情を押し殺すことが出来ず、ニヤリと笑うゲルトラウトの目には既に敵の姿しか映っていない。

 ただ大勢に囲まれ、戦場に身を置いていることを自覚しただけで魂が震え、体は疼き、どちらが強いか、どれだけ楽しませてくれるか、その頭に浮かんでいるのはそんな考えばかりであった。

 口調と表情からすぐさまそれを察し、傍に居れば巻き込むことを厭わないぞという真の意図を理解した団員達は指示に従い、ゲルトラウトに一言二言声を掛けて一斉に別働隊の方向へ移動を開始する。

 全ての部下が敵を迂回する形で離れていったのを見届けると、百を超える敵兵の前にその身一つ残されたゲルトラウトは愛用の武器である柄の長いハンマーを背中から抜いた。

「さあ……もう童の相手はこりごりじゃ。精々楽しませてみい!」

 吼える様に投げ掛けた台詞を残すと、ゲルトラウトは両の手で持った武器を振り下ろし地面に叩き付ける。

 その瞬間、正面に居る敵兵付近の地面が大きな音を立ててはじけ飛んだ

 単独となった敵将を包囲しようと円形に動き始めた槍兵が数人、構えていた盾ごと吹き飛ばされる。

 打撃攻撃だけではなく、打ち付ける力の強さに比例した衝撃波を発生させるという特殊な能力を持つゲルトラウトの武器は近距離であれば離れた位置にもその攻撃を見舞うことが出来る。

 それがクラック・ハンマーという名の武器の特性であった。

 ゲルトラウトにとっては挨拶代わりの、王国護衛団にとっては不意の一撃となったその攻撃は確かな効果を残したが護衛団がその間に包囲網を敷く足を止めることはなく、ゲルトラウトはすぐさま四方八方の行く手を全て防がれてしまう。

 それでも、剣や槍を己に向ける百余りの敵兵を前にしてなおゲルトラウトの笑みが絶えることはなかった。

 殺意を向けられること。

 蔓延するピリピリとした空気。

 それらに心地よささえ感じ、あとは何も考えずに喧嘩に興じるだけだ。

 そんな思考の下、臆することなく、躊躇うことなく、怯む理由もなく、ゲルトラウトは続けて武器を振った。

 ハンマーを片手に持ち替え、突進しながら正面に居る兵士の群れに横一線に振り抜かれた一撃はやはり盾ごと数名の兵士を吹き飛ばす。

 すぐさま他方の兵士が一斉にゲルトラウトに襲い掛かるが柄が長いことで攻撃範囲に差が生じ、加えて個の腕力にも武器の重量にも大きな差があることもあり武器を振り回されると護衛団の兵士達は容易に近付くことが出来ず、有効な攻撃を加えることを困難にさせた。

 そんな事情など知る由も考えに加えることもなく、ただ思うがままにハンマーを叩き込み、地面ごと敵を吹き飛ばし続けるゲルトラウトは笑みを絶やさず、それどころか攻撃の手が少ないことを物足りなく思ってさえいたが、余裕ぶってはいてもそこに油断はない。

 常に前後左右に体の向きを変え続けていながらも、その目が後方で弓矢を構える複数の兵士の姿を見逃すことはなかった。

 地面を介した衝撃波の射程外の距離。

 それゆえにゲルトラウトは発射のタイミングを計り、それに合わせて他の兵士からの同時攻撃を防ぐべく体を回転させながら何度目になるかという横一線にハンマーを振り抜く攻撃手段を取る。

 目論見通り、致命傷を避けるべく周囲の兵士が距離を置くのとほとんど同時に放たれた五本の矢がゲルトラウトを襲った。

 包囲するという布陣を取ったがためにその攻撃の機を窺ったまま中々動くことが出来なかった弓兵の一斉射撃は二本が標的から僅かに反れたものの、残る三本が正確にその巨漢に襲い掛かる。

 ゲルトラウトはニヤリと笑って顔面付近に向かってきた一本を横から素手で掴む形で受け止めたものの、防がれたのは三本のうちの一本のみだ。

 残りの二本がそのまま体に直撃する。

 鍛え抜かれた肉体が貫通こそさせなかったものの、それぞれが左上腕と右大腿部へとまともに突き刺さった。

 既に半数近くが戦闘不能状態に陥り、これだけの兵力差をもってして勝機を見出せずにいた一騎当千の豪傑を相手にようやくまともなダメージを負わせることが出来た。

 そんな護衛団兵士の微かな希望と戦況好転のための第一歩は、次の瞬間に認識を覆されることとなる。

 大きく見開いた目で、おぞましく禍々しくもある笑みを浮かべている敵の姿がそうさせたのだ。

 ゲルトラウトは敢えて二本の矢を躱すことも防ぐこともしなかった。

 護衛団にその事実を知る術はない。

 しかしそれでも、眠れる獅子を起こしてしまったのではないかと錯覚させる程の狂気を感じさせる目の前の巨漢の次なる行動がそれを物語っていた。

「この程度じゃまだまだ足りんわい……チャチな攻撃じゃあわしは殺せんぞ。一端の男じゃったら首を刎ねるぐらいのつもりで来んかい」

 ゲルトラウトは体に刺さっている二本の矢を乱暴に抜き、地面に放った。

 その姿、その表情、そしてその唸る様な声色に畳み掛けるべきタイミングであるはずの護衛団はその機を失う。

 なぜこの状況で笑っていられるのか。

 ただただ戦慄し、目の前の異様な光景に次なる行動に移ることが出来ずに固まってしまっていた。


          ○


 所変わって。

 複数の箇所で激突する二つの勢力、その中心から少し左方に位置する地点ではハイアント・ブラックが交戦の最中だった。

 上官であるゲルトラウトの様に単独で百を超える敵兵とやり合うわけにもいかず、必然的にそのゲルトラウトの後に続いた団員が合流した結果四十名になった部下を率いての戦闘となっている。

 辺りには怒号の様な声と武器と武器、或いは武器と盾がぶつかり合う金属音が絶えず響いている。

 行く手を阻もうとする敵兵の一群は歩兵の割合が多くはあったが、ブラックは数的不利と自身が盾を持たないことを理由に弓兵に狙いを定めて敵味方入り乱れる中を馬に跨ったまま駆け回っていた。

 騎兵による自身への攻撃をどうにか退けつつ、ようやくのこと豪炎破動(バーナード・キャノン)による射撃で約二十の弓兵を打ち抜いたブラックは次第に包囲されつつある状況に気付き、苦戦を強いられている部下の支援に向かおうとしたが前後を塞ぐ様に立ちはだかる敵の騎兵達が簡単にそれをさせてはくれなかった。

「ちっ、そうそう上手くはいかないでやんすか」

 つまらなそうに舌打ちを漏らし、やむを得ず足を止めて己に剣を向ける敵と向かい合う。

 辺りには敵のみならず味方までもが何人も亡き者となって地に伏している。

 いくら団長やゲルトラウト隊長が居るとはいえ、やはり長引けば不利な戦いか。

 絶えず視線を動かしながら冷静にそんな分析を重ねるブラックだったが、戦わずして負けを認めるは騎士団の存在意義に反することに他ならない。

 加えて、すぐ近くではゲルトラウトが単身で戦っているのだ。

 一番の部下である自分が、部下もろともやられてしまいましたなどという無様な報告が出来るものか。

 その強い意志が劣勢とまではいかずとも対等の戦いとも言えぬ状況でブラックを奮い立たせた。

「あんまりこういう戦法は好きじゃないでやんすが……選り好みしてる場合でもないってことにしておくよい」

 後ろは任せたぜい。

 と、後に付かせている二人の部下に伝え、ブラックは今にも一斉に襲い掛かろうとする前方の敵に右手の砲筒を向ける。

 魔法弾による攻撃を目にしている護衛団の兵士達はすぐに盾をかざしたが、繰り出された攻撃は全く別のものだった。

 大砲を吹き飛ばした一撃性の高い魔法弾、ある程度の連用が利く弓兵を仕留めた威力の低い魔法弾、そして先の煙幕弾。

 そのいずれでもなく、細身の砲筒から勢いよく飛び出したのは燃え盛る火炎だった。

 豪炎破動(バーナード・キャノン)が持つ第四の能力。

 それは火炎放射であり、瞬く間に豪炎の名にふさわしい真っ赤な灼熱の炎が両者の目の前を埋め尽くした。

 炎そのものは多少ならば盾で防ぐことは出来ても熱を防ぐことは出来ず、加えて跨る馬にそれらを回避する術はなく、火炎を浴びた騎馬達は暴れ、飛び跳ね、一様に制御を失っていく。

 前衛に大砲を配置したことによる機動力の欠落を補うべく、重装騎兵を後方に置き軽騎兵を前進させた護衛団の作戦が仇となった結果だと言えた。

 ブラックはその隙を見逃さず、すぐに攻撃の手段を変えて襲い掛かる。

 火炎放射を止め、次にその砲筒から姿を現したのは一般的な剣の半分程度しか長さのない刃だった。

 他の四つとはまた違ったタイプの近接戦闘用の第五の能力である。

 一人、また一人と馬上で体勢を保とうと躍起になっている敵兵五人を切り捨て、前方の敵全てを片付けるとブラックはそのまま背後で剣をぶつけ合っている部下の方へと向きを変える。

 想定外の火炎攻撃に加えてそれによって命を失った味方の姿に少なからず狼狽え動きが鈍る兵士を魔法弾で二人仕留め、残る三人を部下と動きを合わせて突破するとそのまま他の団員達がぶつかり合う地点へと真っ直ぐに向かっていった。

「隊長がすぐそこにいるでやんす。撤退の合図が出るまで無様に負けも死にもするんじゃねえよい!」

「「御意!」」

 ハイアント・ブラックは再び戦場を駆けていく。

 ただ一人でも多くの敵を仕留め、ゲルトラウトの部下として恥じぬ戦果を上げることだけを考えながら。


          ○


 とうとう正面衝突が始まった帝国騎士団対王国護衛団の軍勢は四箇所に分散して戦闘を繰り広げていた。

 数で劣る戦力を散らすべく右方にデバイン・ゲルトラウトが、中央付近にエリオット・クリストフが、中央からやや左方にずれた位置ではハイアント・ブラックがそれぞれ単独で、或いは部下を率いて武器を振るっている。

 そんな中、帝国騎士団三番隊副隊長ルイーザ・アリフレートはその一部として二十七名の団員を引き連れ、ブラックよりもさらに左方へと未だ馬を走らせている最中だった。

 直前まで全軍が固まって移動していた中央から一番距離のある位置取りであることもあったが、他の三箇所から敵戦力をより引き離そうという狙いと出来るだけ時間を稼ごうという目的の下、敢えて必要以上に距離を置こうとしていることが理由である。

「アリフレート副隊長、右方より同志達がこちらに向かってきているようです!」

 追ってくる敵の動きに注意を注ぐアリフレートにすぐ隣を走る若い団員がそんな報告をした。

 背後に目をやると確かに自分達を追う様に味方の一群が移動してきていることが分かる。

「大方ゲルトラウト隊長と一緒に行った人達っしょ。どうせ『ここはワシ一人でやる』とか言ったんでしょうッスよ」

 また勝手に予定にも無いことを、と嘆息する。

 近頃になって脳筋という人種の思考回路を理解し始めた鋭いアリフレートだった。

「とにかく、あたしは撤退の合図を出さないといけないんスからこっちは無理に正面衝突はしないようにしてくださいッス」

「ですが、それでよいのですか? 牽制が目的とはいえ敵に損害を与えることも作戦の一つなのでは」

「あの二人は退けって言ったところで簡単に止まらないんスからモタついてたら団長の指示もクソもなくなっちゃうんスよ。うちらまで包囲でもされりゃそうなりかねないんスから、うちらがいち早く退いて、あの二人も引き連れて撤退する。それが団長命令ってことを忘れんなッス! 文句言われたら全部あたしのせいにしておきゃいいッスから」

「りょ、了解であります」

「元々あたしは大勢相手に戦う様なタイプでもなけりゃおかしな武器や能力を持ってるわけでもないんスからあんた等の分まで敵さんを血祭りになんて上げられないっつーんスよ。副隊長って立場上先頭は切りまッスけど、しっかりフォローしてくださいッスよ」

 思わず漏れた十五歳の少女のそんな本音に若い団員はやや渋い顔をした。

 この場に居る騎士団員のほとんどが五番隊の所属だ。

 それは言い換えればゲルトラウトの部下ということである。

 副隊長相手とはいえ他所の隊の者に、それも年端もいかない少女の出す血気盛んが信条である五番隊の在り方に反するその指示に忠実であるべきかどうか、どうにも納得も判断もしかねていた。

 それでも比較対象がアリフレート本人ではなく団長である以上は背くわけにもいかず、仕方なく指示に従うことを後に続く戦士達にハンドシグナルで伝える。

 そんな彼等の心情など露知らず、ひたすらに距離を置くべく追っ手から逃げるように馬を走らせるアリフレートだったが背後から続けざまに聞こえた断末魔の叫びが反射的にその足を止めさせた。

 ほとんど同時に総員が一斉に逃げる足を止める。

 アリフレートが慌てて反転すると、落馬し地面に横たわったまま動く様子のない二名の団員の姿が目に入った。

 それぞれ背と首に矢が刺さっており、追っ手に撃たれたのであろうことは疑いようもない光景だった。

 さらに悪いことに前方に目をやると王国護衛団の射手が今にも次なる矢を放とうとしている。

「これ以上は限界らしいッスね……仕方ないッス。皆さん、こうなりゃ迎え撃つッスよ!」

 アリフレートが号令を発すると同時に騎士団の面々は反撃に打って出るべくここまでの道筋とは真逆の方向へと一斉に騎馬を突撃させる。

 その反応の早さたるや例えアリフレートの指示が無くとも同じ行動に出ていたことを意味しているも同じであったが、アリフレートにそれに気付く程の余裕もなければ気にしている暇もない。

 すぐに怒号と共に敵に襲い掛かる団員達に続く形で、一転して最後尾から敵勢へと騎馬を走らせた。

 後から合流した人数を把握していないこともあり味方の正確な数は不明という状態で見るからに百近い数の王国護衛団の騎馬隊へと向かっていく。

 若くともアリフレートはこの国を再び手中に収めるべく立ち上がった帝国騎士団の侵攻が本格化して以来、幾度となく戦場に身を置いてきた一人である。

 ユリウスに代わって部下を率い、二つの都市を襲撃し占拠した。

 魔王軍の何者かが結界を張るまでの間、その都市を奪い返すべく襲撃してきたのは他ならぬ目の前に聳え立つ城塞から派遣された軍勢だった。

 拠点であるグリーナ地方への夜襲も、それらの都市への急襲を退けた帝国騎士団の戦闘にも漏れなく参加してきている。

 それだけではない。

 団長の指示の下、国内で生きる糧を得ることが出来ない立場であることを理由に物資を略奪するべく他国の船を襲った経験だって何度もある。

 しかしそれでも、それらの経験の中にここまで兵数に差がある状況でユリウスが不在のまま戦った経験はなかった。

 例え力尽くであろうともどうにか優勢に持ち込まなければ不味い。

 苦境とも言える中でも屈することなくそんなことを考えるアリフレートだったが、同時にユリウスのことを思い浮かべたせいで少しの寂しさを感じていた。

 誰よりもユリウスを慕い、唯一傍に居ることを許された腹心であるという自負がある。

 しかし、この場に居ないことを考えるとユリウスはそこまで自分を大事に思っていないのだろうか。

 そう思うと一層寂しさは増したが、基本的にポジティブなアリフレートはすぐに考えを改めた。

 元々他人にどう思われようと気にもしない孤高の男だったではないか、と。

 人との接し方や距離感の計り方を身に着ける気など一切なく、感情や意思の表現方法もロクに知らない不器用な男ではないかと。

 そんなユリウスだからこそ傍に居ることに面白味を感じ、次第に惹かれていったのだと思い至ると同時に思い出した。

 帰って報告をしたところで簡単に褒めてはくれないだろうが、不満をぶつければ面倒臭そうにでも相手はしてくれるのが今の二人の関係だ。

 出会って間もない頃の挨拶も報告も存在すらをも含め、全てを無視されていた時分に比べるとなんと恵まれた地位を得ていることだろうか。

 次第に移り変わっていったそんな思考が逆にアリフレートの闘争心を沸き立たせた。

 帰ったら開口一番拗ねた振りでもしてやろう。きっとまた素っ気ない態度のまま黙って頭の上に手を置いてくれるはずだ。

 自己完結的にそう締め括り、一気に戦闘モードに切り替えると敵味方入り乱れ無数の金属音が響くその中心付近まで速度を上げて突き進む。

 同時に、腰に携えた武器を両の手で抜いた。

 愛用の武器である二本の鎌は柄と柄が鎖で繋がれている。

 一般的な物とはやや仕様が異なるが、所謂鎖鎌に分類される武器だ。

 持って生まれた能力の他に魔法を操れず、代々優れた身体能力を受け継ぐ血統にあって特出した腕力を持っているわけでもなく、戦闘に特化した能力を操れるわけでもないアリフレートは動体視力や反射神経という部分で強く血統の恩恵を受けている。

 ゆえに軽く扱いやすい鎌を愛用の武器とし、両刀使いとしてその能力を生かす道を選んだのだった。

「くっ!」

 今まさに敵兵の群れの中に割って入ろうとするアリフレートに護衛団の騎士が左右から同時に斬り掛かった。

 辛うじて二本の鎌でそれを受け止めると、邪魔をするなと言わんばかりの表情で睨み付ける。


「だ・か・ら……あたしは多対一で戦うタイプじゃないって言ってんスよ!」


 こっちはエレナール・キアラの動向にも注意を払っていなきゃならないというのに。

 と、心で愚痴を付け加えながらほとんど意地と根性によって力を振り絞り、二本の剣を強引に押し返す。

 まったく、これではゲルトラウト隊長の言ったままではないか。

 そんなことを自嘲気味に考えつつ、この二人をどう片付けたものかと武器を構えたまま冷静に視線を動かしていると不意に二人の騎士が鈍い声を上げて馬から崩れ落ちる。

 次にその目に映ったのは背後からそれぞれ敵を斬り付けた騎士団員の姿だった。

「ナイスフォローッス! って、んなこと言ってる場合じゃなさそうッスね」

 その味方をさらに後方から矢で狙う敵兵が目に入った。

 アリフレートはすかさず右手の鎌を放り投げる。

 鎖によって軌道を調整されているその鎌は弧を描きながら標的に向かって飛んでいき、通常の鎌とは違って両側に刃が付いている鎌の本来峰に当たる部分にある外側の刃が防ぐ術を持たない弓兵の喉を切り裂いた。

 正確な狙いに加え、右手に持つための鎌はもう一方の四倍の重量がある投擲に適した仕様になっており、それが速度と威力を増長させていることが咄嗟に防いだり躱したりという対処をさせなかった。

 浮かれることも油断することもなく、すぐに移動を再開したアリフレートは近くに居る敵兵を直接斬り付け、或いは投擲によって、時には鎖を武器としながら味方ともどうにか連携を取りつつ次々とその数を削っていく。

 そして、そんな戦闘をしばらく続け一息吐いたところで一度距離を置きエレナール・キアラの位置を探った。

 必死になっていたこともあって時間を置きすぎたらしく、すぐに察知することが出来たその人物の現在地がこの地のすぐ近くまで迫っていることを知る。

 アリフレートはすぐに撤退の合図である赤い煙の狼煙を上げた。

「さあ皆さん、行くッスよ!」

 合図は出した。

 あとは団長の命令通りブラック、ゲルトラウトと共に団員を引き連れて撤退するだけだ。

 二人が素直に退くかは怪しいところではあるが、それでも自身の役目は果たしたといっていい。

 志半ばに倒れた味方も少なからず居る状況ではあったものの、他三人の方も含めて敵にもそれ以上の多大な被害を与えたことは間違いないだろう。

 復讐や復権という難しい話はいまいちピンと来ていない。

 それでも、この戦いに勝利することが自分達の未来を得るための手段であるならばどこまでも突き進むだけだ。

 フレッド先輩が傍に居る限り何も怖いものなどない。

 ひとまず、帰ったら真っ先に会いに行こう。

 そんなことを考えつつ、どこか肩の荷が下りたことを感じながら敵の動きに注意することを忘れることなくアリフレートは再び戦地の中心へと向かって馬を走らせるのだった。

 


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