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勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている  作者: まる
【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている④ ~連合軍vs連合軍~】

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【第十三章 その②】 都市奪還七番勝負 誇りvs復讐

8・5 誤字修正 賭けて→懸けて

   ~another point of view~



 日々引かされ続けている貧乏くじが象徴する様に、どうにもくじ運のねえことだ。

 今まさに敵と対峙したばかりのダニエル・ハイクが最初に抱いたのはそんな感想だった。

 見据える先にはグラッタという町がある。

 事前の情報通り、それぞれの部隊が向かった他六都市と同じく、或いは自国の中規模以上の町や都市と同様に四方八方の全てが城壁に囲われており外から内部の様子は窺うことが出来ない。

 正面に見えている大きな門を開くことさえ出来れば任務の遂行はほとんど完了といってもいい状況であったが、それを阻止せんとするのは一輪のもの言う花。

 戦装束を身に纏ったシルクレア王国の戦士ダニエル・ハイクの腰には六つのブーメラン、背にはその背丈ほどの大きなブーメランが一つ。

 対するは背まで伸びた真っ直ぐな髪を風に靡かせ、四肢と胸部に深紫色の鎧を装着した若き女戦士だ。

 その背には似た様に背丈程もある大きな剣が覗いている。

 ここまでに二人が交わした言葉はただ一つ。互いの名を言い合っただけだった。

 周囲に他の人影はない。

 示し合わせたわけではないが、他の部隊の多くと同じくハイクは兵士を後方待機させることを選んだがゆえのことだった。

 帝国騎士団二番隊隊長ラミアス・レイヴァース。

 さして歳の違わない目の前の女はそう名乗った。

 ハイクの記憶が確かならば、かの戦争麒麟児と並ぶ一番の要注意人物の名だ。

 異名は【紅霖染華(クリムゾン・カローラ)】といったか。

 それらの記憶を思い起こし、ゆえにもの言う花とハイクは表現したのだった。

 他の隊長達がどんな輩とやり合っているのかは定かではないが、なんの躊躇もなく結界内に足を踏み入れた結果女が出てくるとはと嘆く気持ちがハイクがまず始めに感じ取った印象だ。

「ふぅ~……」

 レイヴァースが動く様子も武器を取る様子もないことを受けて、ハイクは懐から取り出した煙草を咥えて火を着けた。

 整った顔立ちとは裏腹に鋭い目がギロリと自分を捉えて離さないでいる。

 こちらが動くのを待っているような、さながら獲物を狙う獣の目のようだとハイクは感じていた。


「随分とでけえ剣を使うもんだな」


 もう一度煙を吐いて、敢えてハイクは自ら静寂を破った。

 そこでようやくレイヴァースが剣を抜く。

 見た目に似付かわしくない、長いだけではなく太く重量感のある黒い剣だ。

「フラムベルグ。貴様に血の華を咲かせる剣だ」

「女を殺す趣味はねえが、そう甘っちょろい相手でもねえんだろう?」

「フン、異国から来た貴様が勝手に首を突っ込んでおいて逃げ腰か? 正義の味方気分でさぞ自尊心も満たされたことだろうな」

「俺ぁ所詮余所者だ。歴史がどうだ正義がどうだと宣うつもりはねえよ」

「ならば……何のために戦う」

 レイヴァースの目が更に鋭さを帯びる。

 そこには剥き出しの敵意が確かに感じられた。

 しかし、対するハイクは対照的に落ち着き払っている。

「なに、他人様にご理解いただけるような立派な理由なんざ持ち合わせちゃいねえさ。ただ、ついていくと決めた人間を間違わなかったことだけが俺の誇りってやつでね。だからこそ……俺ぁその誇りに懸けて大将に取ってこいと言われた首を持って帰るだけだ」

 続いてハイクも武器を手に取った。

 背に負った巨大なブーメランだ。

 この武器はブーメラン本来の用途である投射するための武器ではなく、持ち手に開いた穴に指を通して使う打撃用の武器である。

 同じ鉄製の物ではあるが、腰に装着している六つのそれと違って刃は付いていない。

「…………」

「…………」

 二人の視線がぶつかる。

 僅かな間を挟んだのち、何の合図も無く二人は同時に地面を蹴った。

 急速な接近を経て両者が力一杯で武器を振る。

 共に相手の攻撃を防ごうとする動きなど一切せず、より強い力によってその攻撃ごと相手を叩き潰してやろうという意志がはっきりと現れた応酬が繰り広げられた。

 戦闘技術、腕力ともに同程度。

 それが武器と武器がぶつかり合う金属音が三度、四度と響く中で感じ取ったハイクの見立てだった。

 武器の重量に差があるとはいえ……大した女だ。

 ハイクは率直に抱いたそんな感想と共に、遙か格下の魔物ばかりを相手にしてきたここ二、三年にあって久しく見ない強敵に心が高ぶっていくのを感じる。

 この段階で互角であっても、こっちにはいくらでもやりようも次の手もある。それに対してこの女がどう動いてくるか。

 考えるだけで自然と笑顔が浮かんでくる。

 武器と武器がぶつかり合い、力比べの如く押し負けてたまるかとその状態で武器を押し付け合い、どちらかが次の攻撃へ移る。

 そんな攻防を計九回繰り返した。

 十回目に武器がぶつかり合った時、ついにハイクが仕掛けた。

 口に咥えたままの短くなった煙草を吹き付ける。

 レイヴァースは反射的に顔に向かってきた煙草を空いている左手で払ったが、ハイクはその一瞬の力の緩みを突いて剣を押し返し隙の出来た左腹部に蹴りを放った。

 同じ国の者でも知っている者はそう多くない事実ではあるが、ハイクは素手での戦闘においても秀でた能力を持っている。

 鎧に覆われていない脇腹を的確に狙った鋭い蹴りがその体を捉えようとする瞬間、そのギリギリのタイミングでレイヴァースの左腕がそれをガードした。

 直撃は避けたもののさらなる追撃に対処出来る状態ではないと判断したレイヴァースは後方に飛び退き、距離を取る。


「今のに反応出来るとは、存外経験値も高そうじゃねえか」


 ハイクはもう一度笑みを浮かべる。

 対して、レイヴァースは侮蔑の目を向けるだけだ。

「姑息な猿知恵が通用するとでも思ったか、愚物が」

 気丈に挑発を返してはいたものの、その言葉ほどレイヴァースに余裕はない。

 微かに痺れのある左腕が間一髪だったことを告げていたからだ。

 捨て置くには危うい威力とスピードだった。

 あのまま蹴りを食らっていれば相応のダメージを負っていただろう。

 防御出来たこともほとんど偶然の域だといえる。

 思い返してみると、自身の剣を押しのけた動きを利用し自然にあのブーメランが顔の前に来るように計算されていた。

 幅のあるブーメランのせいで一瞬視界からハイクが消え、そのタイミングで蹴りを放ってきたのだ。

 僅かに見えていた足元へと咄嗟に視線を落とし動きを察知しようとしたが、辛うじて把握出来たのは右足が消えたことのみ。

 反射的に左腕で脇腹をガードしたところに蹴りが飛んできただけでしかなかった。

 言うなれば二者択一。

 顔を守るか腹を守るか。思考の余地すら無い一瞬の選択が我が身を守ったのである。

 それらの考察に加え、外していればただでは済まなかったと思えば思う程レイヴァースはハイクに対する認識を改めざるを得なかった。

 この男は確かにただの雑魚ではない。

 それでも、私が負けることはない。負けることなど許されない、と。

「楽しくなってきたところ悪いが、公私混同は馬鹿のすることだってのが持論でな。そろそろ遊びは終わりにさせてもらうぜ」

 ハイクは左手で腰にあるブーメランを二本取り出した。

 間髪入れずそれらを同時に放つと、二本のブーメランが左右へと別の軌道でレイヴァースへ向かって飛んでいく。

 方や右側から弧を描く様に、方や左側からより大きな弧を描く様に。

 それぞれが相当なスピードと回転速度をもって対象であるレイヴァースに襲い掛かる。

「…………」

 レイヴァースは首を動かさず、視線だけで二本のブーメランを同時に追う。

 すぐにその攻撃の厄介さを理解し、思考を巡らせた。

 これはただの同時攻撃ではない。その軌道である弧の大きさが違うのは恐らく計算済みのこと。

 右方の物が右側から前方を、左方の物が左側から後方を通ることで前後の逃げ場を奪っている。

 僅かな時間差を利用して両方を剣で叩き落とす手もあるが……その瞬間には間違いなく正面から直接攻撃を仕掛けられているだろう。

 そう判断したレイヴァースは地面を蹴る。

 瞬き一つする間にも満たない時間で出した結論は、先手を打ってハイクを叩くというものだった。

 ブーメランによる同時攻撃に対する防衛策を放棄するという選択は戦闘民族の血を引くレイヴァースの生まれ持った感性が可能にさせた英断だといえる。

 しかし、目の前にいるのはその才覚を場数と努力によって上回った男。

 レイヴァースが前方へ飛び出し大剣を構えた時には既にハイクは巨大なブーメランを頭上から振り下ろす瞬間だった。


「なっ!?」


 思わず足が止まる。

 自身の動きを見てから攻撃態勢を取ったならばここまでタイミングに差がついているはずがない、と。

 まるで行動を読んでいたかの様な目の前の男の行動に唖然としながらも、レイヴァースは縦に構えていた剣を瞬時の反応で横向きにし顔の前まで持ち上げることでどうにかその一撃を防いだ。

 しかし、ほとんど真上からの攻撃に力負けするのを防ぐべく両手で剣を握っていたことが仇となった。

 ハイクは巨大ブーメランを右手から左手へと持ち替え、その動きのままに体を回転させて後ろ回し蹴りを放つ。

 その蹴りは防ぐ術を持たないレイヴァースの腹部にまともに直撃した。

 ダメージと衝撃によって踏ん張りきることが出来ず、レイヴァースの両足が地面を滑る。

 勢いそのままに後退する足をどうにか踏ん張って止めるとレイヴァースは憎々しげにハイクを睨み付けた。

「なるほど、そこまでを含めた計算だったというわけか」

 ペッと、口内に溜まった血を吐き出した口の端からは鮮血が滴っている。

 今の攻撃もまた戦術と誘導にまんまと乗ってしまったのだとレイヴァースはすぐに察した。

 その読み通り、ハイクの放った二本のブーメランには次なる行動を誘導するための仕掛けがあった。

 右側のブーメランはほぼ真横から、左側のブーメランはやや後方から背中に掛けての軌道を通すことで意図的に前方に活路を見出す状況を作り上げる。

 それによって直接叩こうと動いたレイヴァースを初撃の速度で上回り、防御された場合に追撃が可能な攻撃を繰り出すことで二手三手先をいったのだ。

 一連の攻防を脳裏に思い浮かべ、その事実に気付いたレイヴァースの頭にはある種の恐れに近い感情が湧き上がる。

 二本のブーメランを片手で、それもまず利き手ではないであろう左手で放ってあの精度、加えてそれらが舞う中そのターゲットを相手に平然と接近戦を行い、いとも簡単に戻ってきた二本を同じく片手で受け取る。

 誰がどう見ても生半可な技術ではないと評する腕前だ。

 しかしそれでも、レイヴァースは微塵も負ける気はしていない。

「それが貴様の力というわけか。単なる児戯ではないことだけは認めてやる」

 その自信からか、レイヴァースは自然と嘲る様な笑みを浮かべる。

 対するハイクもまた己の優位性を疑うことなく、挑発的な笑みを返した。

「こんな小手調べで賛辞をいただく程浅かねえぜ俺ぁよ。六つの翼(セラフィム)、それが俺の二つ名だ。六の刃がお前を刻んだ時、改めて聞かせてもらうとするさ。断末魔の叫びという名の敗北宣言をな」

「勘違いをするなよ英雄気取り(グラディミール)。披露する芸を持っているのが貴様だけだと思うなと言っている。全身を切り刻まれるのは貴様の方だ……綺麗な華を咲かせながら死んでゆけ」

 会話が止まる。

 果たしてどんな手を打ってくるか。

 両者が同じことを考えていたが、それを読むことよりもいかにして相手に自分の攻撃を叩き込むかということに思考の比重が大きく寄っていた。

 そんな中、先に仕掛けたのはハイクだった。

 巨大ブーメランを一度地面に刺し、両手で腰と手にある全てのブーメランを放つ。

 六つのブーメランが左右から三本ずつ、鋭く回転しながらその全てが異なる角度と高さでレイヴァースに襲い掛かった。

 先程と同じく、大きく見れば左右からの攻撃であるはずなのにも関わらず計算された軌道が前後の逃げ場を奪っている。

 ハイクの手には既に巨大ブーメランが握られている。

 ただ躱すことはほぼ不可能。それをするためにはもう一度前方に出て接近戦を挑む以外にない。

 その道を選ぼうとも、他の方法を選ぼうとも、動きに合わせて先制でこいつを叩き込む。

 それがハイクの決断だった。

 直接攻撃を防いだどころで戻ってきたブーメランがその身を切り裂く、先にブーメランを防ごうとすれば直接攻撃で沈める。

 すなわち、無傷で乗り切ることは不可能だ。

 そう確信したハイクは先に前方へと踏み出した。

 全ての行動に合わせられるように神経を集中させてレイヴァースの動きを注視する。

 一瞬遅れて動き始めるその僅かな時間での決断を迫られているレイヴァースが出した答えは()()()()()()()()()()ことだった。

 ハイクが目の前に迫る中、レイヴァースは剣を横向きに大きく振った。

 角度からしてブーメランを弾こうとしていることは明白だ。ならば、一降りで全てのブーメランを防ぐのは不可能。

 ハイクがそう確信し、必ずや生まれる隙を逃さず渾身の一撃を叩き込もうと巨大ブーメランを振り上げた時、その目に入ってきた光景は想定したどのパターンとも違っていた。

 剣が伸びた。

 それがその瞬間のハイクの認識だった。

 しかし、実際にはそうではないことをすぐに理解する。

 振り抜かれたレイヴァースの剣。

 その長い刀身がどういうわけか七つに分かれ、分解してしまった様にバラバラになっている。

 そして各部の中心を鉄製の太い糸が通っており、鞭状の武器へと姿を変えていたのだ。

 しなる様に伸びた剣であったはずのそれが、左右全てのブーメランを弾き返す。

 軌道は違えど全てに共通する通過点がレイヴァースの立ち位置であったこと、元々太さ長さのある剣が鞭になり倍以上の長さになっていることがあるはずのない事態を可能にしていた。

 それどころか、鞭状であることで左から右へと振り抜いただけの一振りが正面から攻めるハイクをも切り裂こうとする。

 辛うじて鞭と化した剣を防ぐと、ハイクは咄嗟に突進する足を止めた。

 ただでさえ重量がある武器に遠心力が加わり防御した巨大ブーメランを持つ手が痺れている。

「連結剣とは……厄介な手を隠してやがる」

 弾かれたブーメラン全てを手元で受け取るハイクの顔には苦々しい笑みが浮かんでいた。

 今の攻防一体の動きを見る限り、明らかにあの武器と自信の戦法との相性は最悪であると言える。

 まさか盾も魔法も使わずに七つのブーメランを無傷でやり過ごす人間がいるとは。それが率直な感想だった。

 それでいて、ではどうするかとすぐさま頭を巡らせる

 そんなハイクを見て、レイヴァースは武器を構えることをやめた。

 鞭状の武器への警戒としてハイクが間を取ったため二人の距離は当初より離れている。既にその手に持たれた剣は元の姿に戻ってはいたが、一振りで変形させられる以上無闇に射程圏に入ることを自然と避けたためだ。

「馬鹿め、既に次の手を思考する意味などない」

「はっ、余裕ぶっこいてくれるじゃねえか。理由をお聞かせ願いてえもんだな」

「【毒棘刃鞭(ベノム・センチピード)】。それがこのフラムベルグの真の姿だ。その特性は鞭状になるだけではなく、触れた物に毒を残す。貴様の持つ七つの武器全てに残ったその毒が、魔法力などろくに持ち合わせていない私が唯一生まれ持った覚醒魔術の発動対象である証となるのだ。分かるか? 貴様には最早先を見据える権利すらないということが」

 毒、そして覚醒魔術……レイヴァースが口にしたそれらの意味を考えようとした時、ハイクの目の前を赤く光る小さな何かがひらりと通過した。

 赤く光る何か。

 それはまるで舞い落ちる花びらの様に、自分の頭上あたりから、どういうわけか自分の周囲にのみ無数に降り注いでいる。

 その何かの存在と異様さに気付いたハイクはすぐに退避しようとしたが時既に遅し。


「さあ、綺麗な華を咲かせて見せろ……薔薇吹雪(ローゼン・フォール)


 レイヴァースは顔の前で握り拳を作り詠唱する。

 同時に、無数の花びらがその数だけハイクの体を切り裂いた。

 全身に切り傷を負ったハイクは至るところから血を吹き出しながら膝から崩れ落ちる。

 地面に血溜まりを作り、倒れたまま動かないハイクに近寄ろうとすることもなくレイヴァースは冷い目でその姿を見下ろした。

「安い誇りを掲げる貴様にはお似合いの末路だな。我らは偽りの正義の下に尊厳を奪われ続けた祖先の無念を背負って戦っているのだ。誇りが復讐心に勝てるものか」

 侮蔑的な口調でそれだけを言い残し、剣を仕舞うと背を向けてその場を去っていく。

 早くもその頭は都市内部に居る部下の様子を見に行くことへと関心が移り変わっていた。

 紅霖染華(クリムゾン・カローラ)と呼ばれる女戦士はただ寡黙に任務を遂行する。

 今は無き祖国とその先人達の無念、そして団長への忠誠心を胸に秘めて。 


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