【第七章】 白十字軍
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空はオレンジ色に染まっている。
およそ三時間程の移動を終えてサントゥアリオのお城に到着した頃にはすっかり夕方になっていた。
千人を超える大移動だ。
港で積み荷を降ろし出発の準備をするだけでも結構な時間が掛かったというのも当然あるのだけど、移動そのものに掛かる時間も距離に比べて浪費が大きかった感は否めない。
先頭を先導役として二百人が馬に乗って進み、その後に馬車に乗った僕を初めとする幹部に位置される八人が、そしてその後ろに徒歩移動の兵士に挟まれる形で食料や武器などの物資を運搬する兵士が続くという隊列だった。
おかげで座っていただけの僕に肉体的な疲労はなかったが、それはそれで申し訳なくなってきたりもした。
到着した町も王様が暮らすというお城もシルクレア王国には少し及ばないものの、とても大きなものだ。
大都市である以上はシルクレアでもグランフェルトでも同じなのだが、このお城がある町お町全体が城壁に囲まれているという所謂城郭都市という造りである。
言うまでもなくこの世界に来るまで僕はこんなのドラマや資料でしか見たことがなかったし、シルクレアがどうかは分からないがグランフェルトでは王都以外にこういった仕様になっている場所は軍事的に重要な砦を含め数える程しかないらしいのだけど、聞いたところによるとこのサントゥアリオ共和国では主要な都市は全て城郭都市となっているということだった。
そんな配置のまま長い列を組んで町の中心を通ってお城に入った僕達は、すぐにこの国の王様の元へと呼ばれ謁見の間へと案内される。
シルクレアのお城もそうだがグランフェルトのお城とは敷地の広さからして次元が違っていて、城門を潜ってからお城に入るだけにもそこそこ歩かなければならない。
物資の運び入れの監督や点呼をレザンさんにお願いし、大きな銅像や噴水を横目に案内の兵士の後に続く形で広く長い中庭を歩いていた、その半ばのことだった。
「コウヘイ……大丈夫か?」
セミリアさんの心配そうな顔が僕を覗き込む。
つい二日前にも同じ様なことがあったっけ。
「はい、ご心配なく」
僕は短く答える。
正直に言って全然大丈夫じゃない。
生まれて初めて人の死を間近で目の当たりにした。
それも十人。
病気や老衰などではなく傷を負い殺された遺体を見てしまったのだ。
油断すると胃が逆流しそうだし、隠しているだけで気を張っていないと今にも手足が震えてきそうですらある。
だけど僕は決めたのだ。
何かあるたびに動揺し、取り乱し、心配を掛けている様ではここに来た意味がなくなる。
セミリアさんの傍に居る資格なんてなくなってしまう。
だから無理をしてでも、平静を装ってでも、己のやるべきことを探すために進むのだと、僕は決めた。
まだまだ。まだまだ僕は甘かった。
言われるがまま後ろに乗って、戦っているのを黙って見ているだけでは駄目なんだ。
戦う事が出来ないのならば、それ以外の部分で必死にならなければならない。
最早そうなってから考える、では遅い。
それでは助けられるものも助けられない。
ただでさえ兵士達の命を預かる身なのだから、これ以上死ななくてもいい人間を目の前で死なせてしまわないように死力を尽くす。それが僕に唯一出来ることだ。
まだ何も始まってはいないのだから。
「中で王がお待ちしております」
城内に入って二階に上がると、案内の兵士達が豪華な扉の前で立ち止まった。
僕とセミリアさん、サミュエルさんに加えクロンヴァールさん、ハイクさん、アルバートさん、ユメールさんの七人で部屋に入ると中には見覚えのある五人の姿が並んでいる。
広く豪華な部屋の奥で玉座に腰掛けているのはこの国の王様であり、記憶が確かならクロンヴァールさんの婚約者でもあるらしい三十にも満たないブロンドヘアの男性だ。
名前はジェルタール王と聞いたか、とにかく理不尽な程にイケメンで、この人以上にプリンスという呼び名が似合う人は存在してはいけないんじゃないかというぐらいの綺麗な顔立ちをした男前で優しそうな人だった。
頭には王冠、真っ赤なマントという似た様な格好でもリュドヴィック王とは大違いである。
そしてその前に並ぶのは四人の老若男女。
彼等に関しては名前まで覚えていなかったが、サミットの時にジェルタール王のお供で来ていた四人で間違いない。
キリっとした表情をしていて大きな槍を背負った金髪の若い女性。
背が高く首に切られた様な大きな傷跡がある無機質な表情の中年の男性。
僕よりも年下であろう気弱そうな少年。
そして若干頭髪が薄い白髪のおじいさんの四人だ。
「到着早々に呼び出すような形になってしまって申し訳ありません異国の王、並びに戦士達よ。まずは我が国に力を貸していただけるという決断に感謝します」
僕達七人が玉座の前に並び、足を止めたタイミングでジェルタール王は玉座から立ち上がると丁寧に一礼する。
逼迫している様子でこそないが、その真剣な表情からは以前見た懐の深い印象は全く感じられない。
戦争をしているのだから当然なのかもしれないけど、これが下劣な為政者であれば平気な顔をして家臣に犠牲を厭わぬ戦を命じていることもあり得る。
少なくとも何か、或いは誰かを想う気持ちがある人なのだという可能性があるだけでもこちらも救われるというものだ。
「ここに集まってもらったのは国や兵を率いる立場にある者ばかり。何度も会ったことがある者もいればそうでない者もいるようなので状況を説明する前に自己紹介から始めるとしましょう」
ジェルタール王はそう言って、目の前に並ぶ四人を順に紹介していった。
「まずはエレナール・キアラ。我が国の王国護衛団を指揮する総隊長です」
槍を背負った金髪の女性がぺこりと頭を下げた。
「そして同じく副隊長のヘロルド・ノーマン」
背の高い男は頭を下げるわけでもなく、表情一つ変えずに冷たい目でこちらを見ている。
「魔法部隊隊長のコルト・ワンダー。若いですが、魔法使いの少ない我が国においては貴重な人材です」
続いて気弱そうな少年が申し訳なさそうに深く頭を下げた。
「最後に、マット・エレッド。上級大臣という我が国の大臣の中でトップの役職を務めている者です」
老人も同じく頭を下げる。
それからは僕達の方も順番に自己紹介をしていった。
会った経験が少ない人間というのはほぼ僕に対する言葉だろうし、ありがたいことではあるがコルト・ワンダーという少年がいることで僕の若さで元帥を名乗ることに誰も疑問を抱かないのが悲しいところである。
ちなみにこっちの自己紹介は僕とアルバートさん以外はかなりいい加減だった。
サミュエルさんなんて、
「サミュエル・セリムス。勇者」
としか言わなかったし、ハイクさんも、
「ダニエル・ハイクだ」
と、もう名前しか言わない始末。
まあ僕達グランフェルト勢以外はほとんど顔見知りといえる関係らしいので誰も文句を言わないならそれでいいのだけど、もう少し一社会人としての常識を考えてはもらえまいかと思う僕だった。
という具合のほとんど形式だけの自己紹介が終わると、ジェルタール王が話を再開させる。
中身は勿論今のこの国の状況について、だった。
「三国の同盟を確かなものとし、連合を組んで我が国を陥落させんとする反乱軍に立ち向かうために話しておかなければならないことがいくつかあるのでしばしご静聴を。まずアルバート殿が身に着けている兵士用の鎧についてです」
自然とアルバートさんに視線が映る。
この場においてアルバートさんだけが予め用意されていた兵士用の三国で統一されたデザインの鎧を身に纏っていた。
黒がベースの胴と両肩に白い十字架が描かれているものだ。
「敵である帝国騎士団を名乗る者達は襲撃や戦闘の際に真っ黒な十字架が描かれた旗を掲げています。それに対抗する意味も込め、我らは白い十字架を連合軍の同志である証とし、この三国連合を白十字軍と命名しました。他の皆さんにはこういった物を用意しています」
そこでジェルタール王が老人に目配せをすると、マット・エレッドという名のその老人はすぐに僕達七人に持っていた小箱から取り出した腕章を配って回った。
一人につき二つずつ手渡されたその黒い腕章には白い十字架のマークが描かれている。鎧を装着しない僕達にも同じ意味を持たせる為の物だということが分かった。
「白十字軍か。まさに聖戦の再来というわけだな」
ただ一人、クロンヴァールさんだけが感想を漏らしている。
僕としては名称などどうでもよかったけど、確かに味方が一目で分かるだけでも効果はあるだろう。
しかし、それゆえにあの鎧だけで判断しようとして足元をすくわれる危険性があることも間違いない。
僕も一緒に来た兵士達の顔と名前が一致しないなどと言っている場合ではないので今日のうちに顔と名前を覚えることを最初の仕事にしようと決心した。
「続いて連合軍の指揮に関することですが、情けないことにこの国の長となって以来戦場から離れている今の私には前戦で指揮を執る力はない。そこでクロンヴァール王に全軍の指揮をお願いしたいと考えています」
僕が頭のメモ帳に要実行事項を書き留めている間にもジェルタール王の話は続く。
今度はクロンヴァールさんを真っ直ぐに見たかと思うと、いよいよ本格的な話へと移行するための提案を口にした。
人選的にはあのキアラさんという女性かクロンヴァールさんというのが最良であることは間違いない。
この国の兵士のトップに立つキアラさんとはいえ、クロンヴァールさんに指示や命令を下せるかというと難しい部分もあるだろう。そういう意味ではやはりクロンヴァールさんが適任なのかもしれない。
それだけで全権を握るのは不安要素があるとも思えるが……。
「ふむ、この国の王からのご指名とあらば断る理由は無いが……コウヘイとやら、お前はどう思う」
なぜか、クロンヴァールさんは僕に意見を求めてきた。
頼んだ側、頼まれた側のどちらでもない第三者としての考えを聞かせろということなのだと判断し、僕はその不安要素を口にしてみることに。
「ジェルタール王の判断であることを前提にするならば、強さや人の上に立つ立場に身を置いている経験値も踏まえると最善の選択だとは思います。ただ、そうであるにしてもそちらのキアラさんを補佐なり副官なりという役割で配置しておくべきではないかと」
どれだけ強くても、どれだけ人の上に立つに足る人物であっても、クロンヴァールさんにとってあくまでここは他所の国なのだ。
風習や習慣、根本的な思想や常識で自分の国、自分の考えとは違う部分があるかもしれないし、地理であったり気候であったりという戦術に直結しかねない情報における知識でこの国で指揮を執っているキアラさんを上回っているとも思えない。
ゆえにそれらを補う人物を置き、相談したり意見できる人物がいることが望ましいと僕は思う。こんなはずではなかったと取り返しの付かない代償を払うことにならないためにも。
「ふっ、やはりお前は面白い奴だな。瞬時にそれだけの判断が出来るならば使い勝手もよさそうだ。しかし、やはり八十点だがな」
僕のそれらの見解に対し、クロンヴァールさんはそんな事を言った。
褒められているのかそうでないのかは判断しがたいが、少なくとも百点ではないらしい。
「また八十点ですか……なんだか、いかにも優等生にはなれない凡才という感じですね」
「そんなことはない。これでも褒めているつもりだぞ? 私もほとんど同じ事を考えていたぐらいだ、素直に喜んでおけばいい」
「その僅かな違いが百点をいただけないツメの甘さということみたいですね、その口振りでは」
八十点で満足出来る性格ではない僕は思わず自嘲混じりの感想を漏らしていた。
クロンヴァールさんは『そういうことだ』とニヤリと笑いキアラさんへと視線の向きを変える。
「さて雷鳴一閃、いや今は同じ陣営にいるのでキアラ総隊長と呼んでおこう。この男が今言ったことの意味は分かるな?」
「勿論です」
「そこでお前を副将に任命したいと思うがどうだ? 三国の勢力が集まっているのだ、私一人が全権を握っている状況が必ずしも望ましいというわけではない。無論、この城で待機している間であればジェルタール王にも判断も仰ぐつもりがあるが、戦場ではそういうわけにもいかんからな。お前の意見や考えも必要であることや一番多いのはお前の部下の兵であることも踏まえて私にとっても、私達にとってもそれは必要なことだ。引き受けてくれるな?」
「承知しました。王国護衛団総隊長として、出来る全てを我が国の未来のために」
キアラさんはキリッとした表情を崩さずにそう答えた。
しかし、今さらながらこの国でも若くて綺麗な女性が高い地位にいて強さという意味で一番上に位置するんだなぁと思うとこの世界はどの国もそうなのだろうかという感じである。
というか、僕が言ったままキアラさんを副将に命じるのならなぜ八十点なんだろうか。
なんてことを考えていたのがバレてしまったのか、クロンヴァールさんは再び僕の方を見た。
「コウヘイ、同じくお前にも副将になってもらう」
「…………はい?」
なぜ僕が?
というかどうして僕だけ打診ではなく通達なのか。
「お前はグランフェルトの代表としてここに居るのだろう。三国それぞれに私やジェルタール王に意見出来る人間を置くのがもっとも望ましいことはお前も理解しているはずだ。他所様の兵士の命を預かるのだ、何もかも私の言いなりでは人知れず不満や綻びが生まれることもあり得ない話ではない」
「…………」
それなら僕よりもセミリアさんの方が、と言おうとしてギリギリ飲み込んだ。
ここで二人のうち一人の名前を出してしまうとサミュエルさんの立場がない。
あの人はそんな役職になんの興味もないだろうけど……。
「戦う能力が無いと言うならば頭で貢献しろ。それがお前の役割だろう」
なるほど確かに、僕にはそのぐらいしか出来ないことは間違いない。
それでいて即答出来ないことで優柔不断だと思われるのはマイナス要素でもある。
だけど少なくとも二人の意見は聞いておきたいと思った僕は隣に立つセミリアさんとサミュエルさんに視線を送ってみることにした。
「コウヘイ、何を躊躇うことがある。私はお主の指示に従うことに異議などない。今この場にあって誰か一人の命令だけを聞けと言われたならば、私にとって最も優先されるのはコウヘイであるということが揺らぐことはないのだぞ」
セミリアさんは僕の肩に手を置いて、そんなことを言う。
いつだって僕を信頼してくれるのは嬉しい。
しかし、さっきのクロンヴァールさんの褒め言葉も含めほぼ初対面のサントゥアリオの方達や顔見知り程度のシルクレアの人達は驚いたような顔だったり値踏みするような顔だったりで僕を見ていて『こんなどこにでも居そうなガキがなにゆえ世界に名を馳せるあの二人にそこまで言わせるのだろうか』と思っていることを声に出していなくても薄々察した。
そしてサミュエルさんはというと、
「アンタに出来るのはそのぐらいなんだし、やりゃいいじゃない。戦闘ではまるっきり役に立たないし、元々アンタの立ち位置ってそういうところでしょ」
若干厳しいお言葉にも聞こえるが、厳しくないお言葉を持ち合わせていないサミュエルさんだ。これはこれで賛成してくれているとうことなのだろう。
責任が増すがその分、僕にとっても出来ることが増えるとも言える。
不信感を買ってメンバーを外されてしまうわけにはいかないので今この場で戦争反対なんて宣言をするわけにもいかないが、僕に出来ることが増えればどこかでそれを生かせる時が来るはず。
二人がそう言ってくれるなら、僕もその意志に従うことに躊躇う理由はない。
「では僕もグランフェルトの代表として謹んで引き受けさせていただきます」
その決断に対し、クロンヴァールさんは迷った僕に対して『まだまだ青いな』とでも言う様に鼻で笑い、身体の向きを玉座の方へと戻した。
「決まりだな。ではジェルタール王よ、戦況の説明に戻ってくれ」
「分かりました。しかし、正直に申しまして戦況は良くない。兵士や民にも多くの犠牲が出ていることに加え、ご存じかもしれませんが我が国にはこの町の他に七つの大きな都市があります。この国ではそれらを主要都市と呼んでおり、フルト、グラッタ、セコ、レンバー、メルヘイル、フローバー、ダンジュというのがそれぞれの名に当たるのですが、それら七都市全てが敵の手に落ち占拠されているという最悪の状況なのです」
「ジェルタール王よ、事前に聞いた話ではその帝国騎士団とやらは総勢で三百程度という話だったが、その情報に間違いはないのか? いくら奇襲好きの賊相手とはいえ、サントゥアリオの精鋭達がそこまで一方的にやられるとも思えないのだがな」
「そう思われるのも無理はないでしょう。しかし、帝国騎士団のおおよその数についてはまず確かな情報だといえます」
「なるほど。つまりは、あの戦争麒麟児が余程の強者だということか。狂人と呼ばれ天武七闘士に名を連ねるのは伊達ではないということらしい」
「勿論のこと戦争麒麟児ことエリオット・クリストフは屈強で凶悪な戦士です。奴が帝国騎士団を率いているからこそ団結し、猛威を振るうのでしょう。ですが注意しなければならないのはクリストフ一人ではないのです」
「ほう。他にも猛者、豪傑がいるってのか。そりゃ興味深い話だな」
横から感想を漏らしたのはハイクさんだ。
船を降りた時にはいつもの様にほとんど身長と同じぐらい大きなブーメランを背中に背負っている。
彼は前に会ったときも冷静に状況判断をしようとする印象の人だっただけに、やはり情報収集に余念がない人らしい。
なぜタメ口なのかはさておくとして、僕の隣で『面白くなってきたじゃない』とか言ってるサミュエルさんとは話を聞く姿勢が正反対だと言える。
そんなことを思っている間にジェルタール王の説明は続き、
「帝国騎士団は団長であるエリオット・クリストフを一番隊隊長として五つの部隊に別れていることが分かっています。四番隊は現在空席となっているようなのですが、それを除いても二番隊、三番隊、五番隊を率いる隊長達の強さは尋常ではない。このキアラやクロンヴァール王、クルイード殿と同等と言っても過言ではないでしょう」
「ジェルタール王、既に報告がいっているかとは思いますが私達も来る途中で副隊長と名乗る二人組と遭遇しています。しかし戦闘の意志を全く見せずに逃げていきましたし、あくまでその者達に限ればクロンヴァール王やキアラ殿と同等と言われる程とまでは見受けられなかったのですが……その隊長とは一体どんな者達なのですか?」
僕を除けばこの場で唯一と言っていい。
ジェルタール王の言葉に危機感を抱いた様子のセミリアさんが真剣な顔で疑問を口にした。
他は精々アルバートさんが真面目な顔をしているぐらいで、クロンヴァールさんとサミュエルさんは『そうこなくては』と顔が言っていたし、ハイクさんにしても納得した風な顔こそしているが、だからといって焦る程の事ではないという顔をしている。
ユメールさんに至っては話を聞くことに飽きたのか見るからに集中しておらず、既に帰りたそうにしていた。
「二番隊は戦闘の後には決まって血の雨を降らせ屍の山を築くと言われていることから【紅霖染華】と呼ばれる女戦士レイヴァースなる人物が隊長を務めています。そして三番隊を率いるのは鉄仮面で顔を覆い、その風貌通り三百人の兵に囲まれようともまるで感情など持ち合わせていないかのように黙々と敵を切り続けた悪鬼、【鉄面鬼】ことユリウス隊長。最後に、戦好きで知られる豪傑ゲルトラウト五番隊隊長、通称は【我道戦景】。レイヴァースとユリウスは剣士でゲルトラウトはハンマー使いだということです。我々の持つ情報はこの程度でしかありませんが、この三人には特に気を付けていただきたい」
沈痛な面持ちで語るジェルタール王だったが、白十字軍と名付けられたこの連合軍の大将となったクロンヴァールさんはいつもの怖い者知らずな笑みを浮かべる。
「わざわざ連合を組もうというのだ、数に物を言わせてあっさり片付く様な相手だなどとは初めから思っていない。だが、それでも我らを待つ未来は勝利のみ。そっちの二人の強さは知らんが、私や聖剣だけではなく我が国の三人もグランフェルトの双剣乱舞もやすやすと敵に敗れるほどヤワな戦士ではない」
クロンヴァールさんの言うそっちの二人というのはヘロルド・ノーマンという怖い顔をした人とコルト・ワンダーという僕より年下の男の子のことだろう。
それを挑発的な意味だと受け取ったのか、キアラさんがすかさず割って入った。
「クロンヴァール陛下、ノーマンもワンダーもこの国を守る戦士です。そう簡単に遅れを取るようなことはありません」
「キアラの言う通り、我々には命を懸けて民を守る使命がある。必ずや皆さんと力を合わせるに足る働きをしてくれるでしょう。しかし、不安要素はそれだけではないのです。まさか……まさか……いや、不確かなことを口にしてしまうべきではない、今はやめておきましょう」
ジェルタール王は玉座に腰を下ろすと頭を抱えて俯いた。
信じられない、信じたくない、そんな何かを思い浮かべていることだけは聞かなくとも分かる。
そんな態度を間怠っこく思ったのか、サミュエルさんとハイクさんが容赦なくそれを問い詰めた。
「何よそれ、言いたいことがあるならハッキリ言いなさいよ」
「そうだぜジェルタール王。こっちは与えられた情報以外に頼るモンもねえんだ、何かあるなら言ってくれねえと困る」
相変わらず王様に対する言葉遣いではなかったが、確かに言いかけて止められてはそう思うのも無理はない。
それはセミリアさんやアルバートさんも同じ様で、何がジェルタール王をそうさせているのかと心配そうな顔をしている。
僕の推測通りであれば、まず間違いなく僕達にとって向かい風であろうその話の続きに唯一気付いているのはクロンヴァールさんだった。やはりこの人は頭も良い。
「そう言ってやるなダン、簡単に受け入れられないのも無理はない」
「なんだよ、姉御にゃ何の話か分かってるってのか?」
「直接聞いたわけではないが、おおよそ察しは付く。事実であれば我々にとっては笑い事ではないということだ。そうだろう、コウヘイ」
いちいち僕を試さないと気が済まないのか、このクロンヴァールさんは。
と、そろそろ言いたい僕だったけど、全員の視線が一斉に僕へと向いたので指摘することも憚られる。
唯一サミュエルさんだけが若干不機嫌そうな顔であるあたり『アンタも分かってたの? 分かってて私に黙ってたの?』と言いたいのだということがすぐに分かった。
「まあ……この世界の歴史というものに疎い僕にはそれがどれだけおかしなことかは分かりませんけど」
精一杯の自己弁護である。
「コウヘイ、お主もジェルタール王の言い掛けた話の中身が分かっているのか?」
「コウ、いつも言ってるわよね?」
驚いた様子のセミリアさんと違い、サミュエルさんは僕の頭に手を置いた。
例によって頭に手を置いたのか頭を鷲掴みにされているのかが微妙な力加減が恐ろしいが、過去に何度も言われてきた『説明は分かりやすく簡潔にしろ』というメッセージだということだけは即決で理解する。
というわけで後から説教されるのも嫌なので僕はその答えを口にすることにした。間違ってたら恥ずかしいなぁと密かに思いつつ。
「恐らくですけど、『まさか、魔族と手を組むなんて』と言おうとしたんじゃないかと」
まるで時が止まったかの様な沈黙で空気が凍った。
ユメールさんをも含めたクロンヴァールさん以外のシルクレア、グランフェルトの六人は唖然とし、一様に言葉を失っている。
そんな馬鹿なことがあるわけが……そんな顔で僕を一瞥したのち、ほとんど同時に否定の言葉を求めるようにジェルタール王へと視線を移した。
しかしジェルタール王は目を見開き、表情を強張らせているだけで何も言わない。そんな姿がすでに正否を物語っていた。
「どうやら……コウヘイの推測は当たっているようだな。しかし何故コウヘイとクロンヴァール王には分かったのだ。それを予測出来る何かがあったとは思えないのだが……」
「そんなことはありませんよセミリアさん。僕達はずっと一緒に居たわけですからセミリアさんも目の当たりにしているはずなんです」
「う、うむ。お主がそう言うからにはその通りなのだろうとは思うのだが、私にはさっぱり思い当たる節がなくてな……」
「僕達は林に入って真っ直ぐにあの二人組を追っていました。ですが、僕達だけが魔物に襲われた。僕達が立ち止まるまでの間にも、立ち止まった場所の周囲にも先に通ったはずの二人が争った形跡も矢で狙われた形跡もなかったんです。僕達を足止めして二人を逃がすためのタイミングと状況だと言わんばかりに」
勿論それだけで断定する要素にはならない。
その可能性があるのではないかという話にジェルタール王やクロンヴァールさんの態度を加味して二人の言いたいことはこの話なのではないかと予測したまでだ。
セミリアさんは僕の言っている林での出来事を思い返しているのか、難しい顔をして顎に手を当てている。
「なるほど……そう言われてみると確かに不自然な状況ではあった。しかし、それだけでは人間と魔族が手を組むなどという悪逆無道が現実のことだと決めつけるのは早計ではないだろうか」
「それだけではないぞ聖剣。その可能性が高いという状況を確信に変えるだけの要素を私は他に持っている」
「と、言いますと?」
「逃げ果せた副隊長を名乗る二人組の女の方だが、アリフレートと名乗っていただろう。少し前にやり合った魔王軍の幹部であるらしい男がその名前を口にしていたのだ。いかにも協力者、情報提供者であるような口振りでな」
「そんなことがあったのですか……」
「ああ。ゆえに私はあの名前を聞いた時にすでにその可能性に気付いていた。どうだジェルタール王、私とコウヘイの話を踏まえて、それでもまだ口を閉ざしておくべきだと判断するか?」
「いえ……さすがにそういうわけにもいかないでしょう。騎士団との交戦中に度々魔王軍が割って入ってきただとか、この国にあるはずのない転送魔法陣を使って移動しているといった情報は入ってはいたのです。不確かな情報でそれを口にして要らぬ動揺を与えてしまうのもどうかと思ったのですが……お二方には恐れ入る」
ジェルタール王は観念したように顔を上げる。
王として、この世界の人間として、色々と思うところがあって閉口しようとしたのだろう。それを責めることは出来ない。
「心中は察してやるが、そう悲観するばかりでもないぞジェルタール王よ。この国の平和を乱す蛮族と世界を脅かす魔王軍が手を組んでくれたのだ。魔王軍がどのレベルで干渉してくるかは現時点では何とも言えないが、この戦争に我らが勝利すれば世の不穏分子をまとめて片付けることが出来るということだ」
「そういうことだな。敵さんが誰であれ負けりゃ国なり世界が乗っ取られるんだ、纏めてブッ潰す他あるまい」
クロンヴァールさんの言葉にハイクさんが呼応する。
理屈は分からないでもないが、都市を占拠され化け物軍団と手を組んだとなると既に内乱や反乱の規模が当初の話と大きく変わってきていることは間違いない。
向こうも連合を組んだとなればより多くの犠牲が出る可能性が大幅に増すことになるだろう。
魔王軍とやらが加わったことで和解や調停の実現がより困難になったであろうことを考えると僕達にとっては最悪の事態だと言える。
それでいて罪のないこの国の人達が犠牲になる可能性も同様に増し、戦わないわけにはいかないという悪循環である。
初めから分かっていたこととはいえ、今ここでそんなことを考えているのは僕一人か精々セミリアさんを加えた二人ぐらいのもので、他の面々は魔王軍が反乱軍側に付いたことでより一層敵対心が増していることがはっきりと分かった。
その証拠にハイクさんの物騒な台詞に異議を唱える者は居らず、挙って神妙な顔で頷いたり負けてなるものかと気を引き締めているような表情を浮かべている。
「今ハイクが言った通り、この国、この世界の未来を賭けた戦いになる。覚悟が無い者は戦場には要らん。逃げ出す者を責めることはしない、命が惜しいと思う奴は今すぐここを去れ」
クロンヴァールさんはギロリと全員の顔を見渡した。
ワンダーという少年が見ていて可哀相なぐらいに目が泳いでいたが、流石に部屋を出て行く人間などいない。
彼は人種で言えばどちらかというと僕に近い人なのかもしれないと思うと若干親近感が湧いた。全くもってそんなことを考えている場合ではないのだけど……。
「去る者は居らず、か。では指揮官として私が連合軍の方針を決定する。この国の現状を考えても優先すべきは占拠された都市の奪還、次点で帝国騎士団を名乗る者共を叩くことだ。魔王軍の横槍は今の段階では予測出来ない、連携と情報伝達を徹底させることで後手に回らないように各国は兵士に再指導をしておけ、今日中にだ。それからジェルタール王、占拠されている主要都市は今どういう状況だ」
「密使からの報告によると都市内部に十数名の騎士団が居り、住人達が逃げ出さないように出入り口を封鎖しているとのことです。駐屯兵は恐らく全滅、そしてたった十数名の敵兵相手に襲撃を仕掛けられない理由が先程説明した騎士団の幹部達にあります」
「件の隊長やら副隊長やらが各都市に居座っているということか」
「いえ、常に目を光らせているということはないようなのですが……どういうわけか何者かが都市に近付くとどこからともなく現れ番人の如く進入を阻む、ということらしく中々手出しが出来ない状況でして」
「それも先程聞いた転送魔法の類だろう。テリトリーへの侵入を察知出来るという結界魔法がある。それを転送魔法の発動条件にしているといったところか。そんな無茶苦茶な魔術を人間が扱えるはずはないがな」
「ではやはり……疑いようもない事実ということになると。しかし魔王軍に何のメリットがあって帝国騎士団に手を貸そうというのか」
「どんな企てだろうと丸ごと潰すまでだ、愚か者共の考えることなど知ったことではない。勝手に世界を山分けでもする算段でもさせておけばよいさ」
どこまでも勇ましいクロンヴァールさんと内憂に頭を抱えるジェルタール王の会話はそこで一旦途切れ、クロンヴァールさんは何か考えを巡らせるように視線を明後日の方向に向けた。
口ではあんなことを言いつつも僕と同じく魔王軍の狙いというものを考えようとしているのかと思ったのだが、やがて出て来た言葉は既に次の段階を見据えたものだった。
「よし、では八の部隊を作ることにする。一つは本隊として敵の拠点を叩き、残り七隊が分隊として占拠されている七つの都市へと向かう。勿論目的は都市の奪還だ。各隊に部隊長を一人置き兵を率いさせ本隊には兵士五百、分隊には兵士三百を三国の兵士から振り分ける。残りの兵力でこの城と城下の守りを固めるという配置だ」
少しばかりの沈黙を挟み、クロンヴァールさんはテキパキと矢継ぎ早に方針と段取りを述べていく。
「これだけの戦力を揃えておきながら部隊を分けるのですか?」
恐らくはこの場にいる大多数が抱いたであろう疑問を口にしたのはこの国の兵士のトップに立つ女性、キアラさんだ。
そう言いたい気持ちも分からないでもないが、確かに争いの規模を小さく済ませ都市開放の達成を考えるならば最も有効な手段だと僕も思う。
全面戦争を避ける意味も含め、クロンヴァールさんが同じことを考えていたことは意外だったというのが正直なところだ。今この段階で相手の拠点までをも襲撃する案は僕の中には無かったけども……。
「わざわざ敵は戦力を分散させてくれているのだ。下手に各個撃破に出て敗走兵が合流していっては最後に総力戦になるだろう。同じ勝つにしてもそうなるとこちらの犠牲も必然と増える。相手にとっても一ヶ所に集中されるより全ての箇所を同時に攻められる方が守りは難しくなる。援軍を送ることに関しても、我らが攻め入ったという情報が伝わる時間を与えない意味でもな」
「なるほど、そこまでの考えがあってのことだったのですね。ちなみにですが、その部隊長を務める者はクロンヴァール陛下の中では決まっているのですか?」
「私は本隊を率いて敵本陣へ向かう。その他七つの隊の部隊長については他国の兵を指揮する統率力が必要であることを考えてもこの中から選出したいとは思っているが、敢えてこちらから指名はしない。確実に騎士団の隊長副隊長と一戦交えることになるであろうことを承知で兵を率い都市奪還に向かおうと言う者は名乗り出ろ」
クロンヴァールさんは再び全体を見渡した。
ほとんど即答で手を上げたのは意外にもサミュエルさんだ。
「私はそっちに行くわ。騎士団の隊長とやらがどんなものか興味あるし、タイマンの方が性に合ってるから」
「では私もそうさせていただく。勇者として、都市を占領するなどという暴挙を見過ごしてはおけませぬ」
セミリアさんもすぐに同調する。
サミュエルさんを含めこの場に居るグランフェルト勢は他の二国の人達と違って元々国に仕える兵士ではない。
それでいて真っ先に名乗りを上げる二人の意志は恐らく真逆だと分かってる者が僕の他に果たしているのだろうか。
純粋に助けを求めている人を放っておけないセミリアさんに対し、協調性がほとんどゼロに近いサミュエルさんは誰かの命令に従って動くことを嫌ってのことであるのは明らかだ。
出来ればそんな理由で立候補してほしくはないし、本能や欲求に従うばかりのサミュエルさんには目の届く所にいて欲しいのが正直なところ。
とはいえ理由はどうあれ強い人が求められている状況で、しかもこの人数から七人を選ばなければならない中で個人的な主張でサミュエルさんが適任ではないと発言することはどう考えても余計な心証を与えるだけだ。
ならば僕が出来る最善は僕自身がサミュエルさんの部隊に所属することなのだが、僕はどの隊に同行するかはすでに決めている。
となるとレザンさんに権限を与えてサミュエルさんに同行してもらい、出来るだけ無茶をさせないようにしてもらう他に手段はない。鼻の下を伸ばすばかりのあの人では効果も期待薄かもしれないが、何もしないよりはマシだ。
「では二人は決定としよう。残り五名だが、お前達はどうする」
異議を飲み込んでいるうちに決定が下され、クロンヴァールさんは自国の面々に目をやった。
間髪入れず、毎度のことながら少し目を離した隙にいつの間にか煙草を咥えているハイクさんが煙を吐きながらそれに答える。
「俺も都市の方に回るとするか。出来るだけ戦力は分散した方がいいってのもあるが、連合組んでおいて他所様にばかり良い格好させるわけにもいくまい」
「僕もそうさせていただきますよ姫様。仮にも兵士長ですからね、兵を率いる者が必要とされているならそうあるべきだ」
「よし、ではダンとアルバートもそれぞれ部隊長に任命する。必ずや助けを待つ民達の思いに答えろ」
「任された。つーか、てめえは行かねえのかユメ公」
「お前はいつまで経っても三流煙突野郎です。クリスはお姉様と一緒に行くに決まってるです」
「ああそうかい。ぶっ殺されてえらしいな」
舌打ちをし合って睨み合うハイクさんとユメールさんをアルバートさんが宥めるという空気を読まない謎のお家騒動が発生していた。
そんな三人をやれやれといった顔で見ていたクロンヴァールさんだったが、特に口を挟むわけでもなく今度はサントゥアリオの面々へと身体の向きを変える。
「これで四人決まったわけだが、お前達はどうする。この場に居ない士官を任命することも出来る、無理に頭数を揃えようとする必要はないとだけ言っておくが」
「いえ、そういうわけにはいきません。元より我々が力添えをお願いしている立場なのです、肩を並べて戦えずして何を得ることが出来ましょう。私、エレナール・キアラ、副隊長ヘロルド・ノーマン、魔法部隊隊長コルト・ワンダーが残り三隊を率いて都市へと向かいます」
キアラさんが力強く宣言すると、ジェルタール王の承認もあってクロンヴァールさんはすんなりとそれを受け入れた。
こうして本隊、分隊それぞれの責任者八人が決まり、その後少しばかり出発までの段取りを話し合って白十字軍と名付けられた連合軍の初顔合わせは一旦解散となる。
出発は明日の朝食後ということに決まり、今日の夕食までに各国ごとに兵士の指導や部隊に参加する者と城に残る者の人選を済ませるという流れだ。
ちなみに僕はというとクロンヴァールさん率いる本隊に参加することにした。
セミリアさんは心配そうにしていたけど、こればかりはこの話が出たときから決めていたことだった。
分隊の七つは占領された都市を奪還するという、前提が人助けとなる部隊であることに対し本隊は明らかに反乱軍を攻撃する目的のために存在する。
クロンヴァールさんが非情な行動に出ようとした時、少しでもそれを防ぐためには行動を共にするしかないと思ったからだ。
サントゥアリオから選抜された部隊長達の人となりは知らないが、自国の問題である以上民衆の無事を最優先に行動するだろう。
セミリアさんは心配いらないし、サミュエルさんはレザンさんを使って最低限の保険は掛ける。
ハイクさんやアルバートさんに関しては悪い人じゃないと僕が思っているだけの信用するしかないという不確かな要素に任せる形になるけれど、少なくとも一番目の届かないところに居て不安なのはクロンヴァールさんであることに間違いはない。この人は同じ人間でも敵対する者を殺すことに躊躇が無いからだ。
任命された時、ワンダー少年が自分には無理だと言わんばかりに涙目になって『ぼ、僕もですか!?』と取り乱していた。
「貴方も隊長という役職をいただいている身でしょう。国の一大事にまで弱気な態度でいてどうするの」
と、キアラさんに叱責されてしょんぼりしながら引き下がっていたが、僕にとってはその光景が全てだ。
これも戦乱の世の宿命なのだと思うと不憫でならないけど、どうしたって僕は口を挟む立場にない。
彼の様に戦う事を怖がったり、戦わなくて済むならそうあって欲しいと思いながら戦場に身を置く人間だって双方にいるはず。
だからこそ僕一人になっても少しでも平和的解決に持ち込む望みがあるならば諦めるわけにはいかない。
戦いたくない人が戦わされ、傷付く必要の無い人間が傷付き、争う以外に解決する方法を知らずに死んでいく人がいるだなんて異世界かどうかは無関係に僕にはどうしたって受け入れることは出来ないのだ。
セミリアさんがその為に戦うのならば、僕はセミリアさんの目的を叶えるために二人分でも三人分でも小賢しい頭を活用してやるさ。
目の前で人が死んでいる光景なんて二度と御免だ。




