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勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている  作者: まる
【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている④ ~連合軍vs連合軍~】

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【プロローグ】 帝国騎士団

9/17 誤字修正

   ~another point of view~



 サントゥアリオ共和国は大国である。

 三十二万人に達しようという人口と広大な土地をを持っており、それらでこの国を上回るのは世界一の大国であるシルクレア王国をおいて他にはない。

 長き歴史において侵略によってサントゥアリオ王国からサントゥアリオ帝国へと名前を変え、戦争を経て再びサントゥアリオ王国へと名を戻したこの国が現体制のサントゥアリオ共和国という名前に落ち着いたのは僅か二十年ほど前のことだった。

 兵力という意味でも世界で二番目と言われていることに加えて産業も盛んであり他国から見ても豊かな国だと認識されている。

 そんなサントゥアリオ共和国の最北部にはグリーナという地域がある。

 このグリーナは本来この国に生きる民族とは別の民族が居住するために与えられた地域であり、唯一この場所だけが治外法権とされていた場所でもあった。

 そこに暮らすのは滅亡した国【バルカザール帝国】からの移住者達の子孫のみであり、かつて共存していたその移住者達はある日突如として武装蜂起し、王国を乗っ取るべく戦争を起こした過去によって全ての移住者達とその血を引く者達はこの一つの地域から出ることを許されず、閉鎖的な生活を強いられることになったのだ。

 一度は戦争に勝利したバルカザール帝国の血を引く生き残り達は長く覇権を握ることなく二度目の戦争に敗れ迫害の歴史を歩むことになる。

 その二度目の戦争が起きたのが約七十年前のことだった。

 そしてこの国では残党と表現される彼等は、その七十年の時を経て再び武器を取り立ち上がる。

 内乱に近い争いを繰り返し、それによってグリーナで生きる権利をも剥奪されてしまった彼等は今現在不法に土地を占拠している状態であり、国内では反体制組織として認識されるまでに至っていた。

 消滅する前のバルカザール帝国で、或いは一度目の戦争に勝利したのちのサントゥアリオ帝国で使用していた名称を受け継ぎ、彼等は帝国騎士団を名乗り奇襲急襲を繰り返し覇権奪還を目論んでいる。

 ピオネロ民族という元来戦闘民族であったバルカザール帝国の戦士達は生来戦闘能力が高く、広い上に山や森、大河が多い国土が幸いして三百と少しという軍勢でサントゥアリオという大国を苦戦させているというのが現在の戦況であった。

 帝国騎士団は今尚グリーナに拠点を構えているが、やはり大きな河を越えた森の中にあることが防衛に適している環境となりサントゥアリオ共和国の兵士団である【王国護衛団(レイノ・グアルディア)】が攻め込むことを困難にさせている。

 そんな帝国騎士団の拠点は森の最深部にあった。

 石造りの砦でありながら殺風景な外観であり、森の中であることで陽の光が入りづらく建物全体が薄暗くひんやりとした雰囲気に包まれている。

 そんな建物にあって、同じく昼間であるにも関わらず薄暗いままの廻廊を歩く一人の男が居た。

 カツカツカツと、無人の廊下に足音を響かせて真っ直ぐにある場所へ向かっている。黒い鎧の下に黒い衣服を着た背の高い細身の若い男だ。

 腰には剣を指し、顔の上半分に鉄仮面を装着していて、いかにも警戒色であるかのような常人とは違う殺気を纏っている。

 男の名はフレデリック・ユリウス。

 団長を一番隊として五つの部隊で構成されている帝国騎士団にあって、わけあって不在の四番隊を除いた三人の隊長の一人である。

 三番隊隊長ユリウスという名はサントゥアリオ共和国の兵士達にも畏怖すべき対象として知れ渡っているほどの実力者だ。実力者、或いは殺戮者とも。

 ユリウスは広間に向かっている。

 団長の急な招集があったことが理由であったが、どうにも軍隊の真似事が好きな連中だと心で毒突きたくなる気持ちを抑えることが出来ない。

 戦う理由は等しく復讐。

 しかし、ユリウスに限っては他の団員達とは違い亡き国や先祖など微塵も興味がない。

 敵と決めた相手を滅ぼすこと。ただそれだけがユリウスにとっての自己存在証明なのだ。

 様々な感情から僅かに嘲笑を浮かべ廻廊から砦の奥へと繋がる扉に手を掛けようとした時、背後から足音が聞こえる。

 慌ただしく、振り向かずとも誰かが走ってきていることが分かる音だった。


「フレッド先輩~~!!!!!!」


 大きな声が辺りに響く。

 女性特有の甲高い声が余計にそう感じさせた。

 誰が自分の名前を呼んでいるのかなど問うまでもなかったが、ユリウスは手を止めて渋々振り返る。

 視線の先には手を振りながら走ってくる部下の少女の姿があった。

「フレッド先輩、置いていくなんて酷いじゃないッスかー」

 少女はユリウスの前で立ち止まると唇を尖らせて見上げる。

 ルイーザ・アリフレート。

 小柄で活発さ溢れる見た目の印象に似合わず、若干十五歳にして帝国騎士団三番隊副隊長を務める女戦士である。

「晩餐室に行くだけのことだろう。連れ添う必要も無い」

 ユリウスが淡々とした口調で言うと、それが突っぱねるような台詞であったにも関わらずアリフレートは二カッと嬉しそうな笑みを浮かべた。

 自分に対する言葉である場合に限っては拒絶の意味がそこまで含まれていないことを知っているからだ。

「あたしはちゃんと部屋まで迎えに行ったんスよ~? でも居なかったから慌てて追い掛けて来たんスから。ルイーザちゃん健気だと思いません?」

「そうだな」

 やはり淡々と、興味が無さそうに答えてユリウスは扉を開き奥へと足を進める。アリフレートはとてとてとその横に並んで隣を歩いた。

 修羅の道を進むユリウスにとってそれは本来不要なものなのかもしれない。

 それでも、いつの間にか調和や馴れ合いを厭うユリウスに懐き先輩先輩と無邪気に傍に居着かれることにも慣れてしまっていた。

 幼さゆえか、その性格ゆえか、己が持つ他者とは違うドス黒い感情や血に気付いていないのだろうとユリウスは思う。

 しかし、このアリフレートに対してそれらを隠そうとしているわけではない。

 他の隊員達は一度戦場を共にしただけで鬼でも見たかの様に必要以上に近付かなくなる。

 それでもアリフレートの態度だけは変わらないのだから理解して尚こうして寄ってくるのかとも思う。

 恐らくこの少女が部下でなければ自分は今よりも冷たく人間味の無い存在になっていただろう。

 それが悪いことであるとも思っていないが、不本意ながら徒党を組んでいるのだ。器用とは言えない自分の代わりに動くことの出来る者が一人ぐらい居てもいい。

 答えを聞こうとも思わない疑問に対し、ユリウスはそう思うことにしたのだった。

「先輩先輩、なんだって急に幹部会をすることになったんスか?」

 集合場所である晩餐室へ向かう道を歩く。

 ふとアリフレートが思い出した様に疑問を口にした。

 基本的にアリフレートが言葉を発しない限り会話の無い二人だった。

「さあな。主要都市の占拠も大詰めだ、そのあたりの話だろう」

「七つの都市を占領するんスよね? あといくつ残ってるんスか?」

「二番隊と五番隊の担当がそれぞれ一都市ずつ残っていると数日前に聞いたが、この国の連中も馬鹿ではない。こちらの動きに気付いて守りを固めていることは容易に想像出来る」

「じゃあどっちかが苦戦してるってことなんスかね~。うちらはちゃちゃっと終わらしちゃったんで全然楽でしたけど、二番隊の援軍に行けって話だったら面白いくないッスか? あのババアの顔が目に浮かぶッスよ」

「あの女が援軍を受け入れるとも思えんがな。大方本城でも攻めて敵勢を分散させるというぐらいのことだろう。どちらにしてもお前のせいで俺は退屈も長い、前線に赴くことが出来るならそれはそれで構わない」

「へっへ~、あれしきで先輩の手を煩わせてなるものかとルイーザちゃん頑張ったッスからねぇ。是非褒めてくださいッス」

 まるで飼い慣らされた小動物が芸をした後に撫でてもらえるのを待っている様な顔で、アリフレートはユリウスを見上げている。

 どうにも褒めて欲しがることの多いアリフレートだったが、それに答えてやる程に社交性に富んでいないユリウスはただ頭に手を置くだけだ。

 ユリウスの手には黒い革手袋が填められている。

 その感触は決して気持ちの良いものではなかったが、それでもアリフレートは相好を崩した。

 これがいつものやり取りであり、かつては返事すらしてくれなかったユリウスなりの譲歩であり変化の過程なのだと思っているからに他ならない。

 てへへ、と照れたようにはにかんでアリフレートが次の言葉を口にしようとした時、脇にある扉が開いた。

 現れたのは二人と同じ黒い鎧に身を包んだガタイの良い男だ。

「おお、ユリウスにアリフレート。奇遇じゃのう、二人揃うて」

 男は片手を上げて二人に近付いてくる。

 身体が大きく、髭面に短い頭髪という見た目から豪快さ男臭さの感じられる男だ。

「ちわっす、ゲルトラウト隊長。相変わらず男らしいのか老けてるのか分からない顔ッスねぇ。ほんとに三十歳ッスか?」

「がっはっは、お前も相変わらず失礼なガキじゃ。ワシゃ間違いなく三十じゃと思うちょるが、もしかしたら一つ二つずれとるかもしれんの。どっちゃでもええわい」

 特に気を悪くするでもなくゲルトラウトと呼ばれた男はもう一度豪快に笑った。

 デバイン・ゲルトラウトは帝国騎士団五番隊隊長を務める男だ。

 戦好きで知られ、おおざっぱな性格でありながら仲間思いな一面もあって部下のみならず他の隊の団員からも慕われているが、慕われている理由はゲルトラウト自身の人柄だけではなく他二人の隊長が慕われていなさすぎることも大きな要因である。

 自身の部下以外には目もくれない二番隊隊長に自身の部下にすら目もくれないユリウスだ。団員にとってそうなることは無理もない。

「ところでユリウス、わりゃあなんの集まりか聞いちょるんか?」

 アリフレートと冗談を言い合う会話が途切れると、ゲルトラウトはユリウスに視線の向きを変えた。

 こちらもやはり相手方からの発信でもなければ会話が始まることのない関係である。

「さあなゲルトラウト。お前の隊の仕事が遅いという話じゃなければいいとは思うがね」

「ワシの仕事はちょど今朝終わったところじゃ。二番隊も昨夜には終わったと言うとったぞ?」

「ならばその話だろう。これで七つの主要都市は全て押さえたことになる。奴等(、、)がどこまで信用出来るのかは知らないがな」

「団長も信用しちょるわけじゃあなかろう、あくまで取引じゃと言うとった。じゃがまあ、ようやっと準備も整うたちゅうことじゃ。あとは暴れるだけでええんじゃけぇ楽しみでしゃあないわい」

「それは結構なことだな」

 ユリウスはそれきり黙ってしまう。

 ゲルトラウトの戦自慢に興味が無かったことに加え、目的地である晩餐室の扉の前に到着したことがそうさせた。

 一歩前を歩いていたゲルトラウトが扉を開けると、本来は食事用である長いテーブルに既に他の幹部達が揃っている。

【戦争麒麟児】という異名で世界に名が知れ渡っており、サントゥアリオ国内においても【皇帝の血を引く男】として一番の危険人物であると認識されている青年、帝国騎士団団長エリオット・クリストフ。

 二番隊隊長にして女戦士のみで構成されるアマゾネス部隊を束ねる騎士団最強の女戦士ラミアス・レイヴァース。

 そしてゲルトラウトの部下であり五番隊副隊長を務めるハイアント・ブラックの三人が今まさに部屋に入ろうとするユリウス、アリフレート、ゲルトラウトに視線を集めている。

 欠番の四番隊、捕虜として王国護衛団に捕らえられた二番隊副隊長を除く現騎士団の幹部がここに揃った。

「すまんのぉ団長。ちいと遅うなったか」

 ゲルトラウトは自分の席に向かうと特に悪びれるでもなく豪快に腰を下ろした。

 ユリウス、アリフレートも無言のまま自身の椅子へと向かう。

「気にするな、急な招集だ。席に座ってくれ」

 上座に腰掛ける青年、エリオット・クリストフも特に気を悪くした様子はない。

 密かに決起の準備を進め、八年も前にわずか十六歳にしてサントゥアリオ共和国先代国王の暗殺を成し遂げると同時に帝国騎士団の復活を宣言した男である。

 そのクリストフの前には晩餐用の長いテーブルがあり、クリストフからみて右の列にゲルトラウト、ブラック、ユリウス、アリフレートが座り、左の列にはレイヴァース一人が座るといういつもの配置で幹部達が続く言葉を待った。

 明らかに偏った配置であったが、二番隊副隊長が捕らえられてからはしばらくこの状態が続いている。

 理由はただ一つ、レイヴァースが直近の部下以外の者を隣に座らせたがらないことが原因だった。

 二十一歳でありながら血染めの女丈夫として幾多の戦場で剣を振るってきたラミアス・レイヴァースは団長クリストフを崇拝しており、ゆえに他の隊長と自分は違うのだということを誇示したがる嫌いがある。

 絶えず口を突く皮肉や暴言に対し、ユリウスやゲルトラウトこそ受け流すことが多く気を悪くすることもないが過去にそんな態度が原因で四番隊隊長と揉め、決闘に発展した挙げ句に四番隊隊長が騎士団を去ったのはそう昔の話ではない。

 副隊長という立場であるアリフレートやもう一人の幹部、五番隊副隊長ハイアント・ブラックにおいてはそれぞれの隊長に対する暴言は聞き流せるものではないが、本人達が特に何も言わないこともあって食って掛かりたいのを押さえている状態であった。

「時は満ちた」

 遅れて入ってきた三人が椅子に座り、全員にワインの入ったグラスが行き渡ったことを確認するとクリストフが高らかに言った。

 自信と期待に満ちた恐れるものなど何も無いと言ってるかの様な表情だ。

「まずは我らが一族の復讐を果たすべく戦う時が来たことを祝うとようじゃないか諸君」

 ワイングラスを掲げる。

 他の幹部達もそれに倣った。

「奴等との取引もじき完了する。奴等がこちらの要求を満たした時、我々は祖国の復讐を果たすのだ。そしてパトリオット・ジェルタールが各国に援軍の要請をしたという情報も得ている。今こそ世界に我らの存在を知らしめる時。占拠した主要都市を奴等の手から守り、まずは亡き祖国の弔いを果たす。そしてその後この国を我らのものにする。まさに先祖が我等にその機を与えたかの様な絶好のタイミングだ。それら全てを成し遂げた時こそ……我らが新たな歴史を刻むのだ!」

 クリストフは飲み干したグラスを壁に叩き付け、胸の前で拳を作る。

 レイヴァース、ゲルトラウト、アリフレート、ブラックの四人は口々に歓喜や己を鼓舞する言葉を口にした。

 そんな中、唯一ユリウスだけが口元で嘲るような笑みを浮かべて黙っている。

 それを見過ごさなかったレイヴァースがすかさず噛み付いた。

「ユリウス、貴様団長が言ったことを理解しているのか」

 殺気の混じった鋭い目が真っ直ぐにユリウスを捉える。

 対するユリウスには何の変化も無い。

「しているとも。何か気に障ったかねレイヴァース隊長」

「何が気に障るかと問うのであれば、貴様の存在そのものだと答えてやろう。我らは団長の下、先祖の屈辱を晴らすべく戦っているのだぞ。どうにも貴様はそれを理解しているようには見えぬ」

「お前がそう思うのならばその通りなのだろう」

「ユリウス……貴様」

「何を一人で興奮しているレイヴァース隊長。団長殿が気を悪くされたわけでもあるまい」

「ふざけるな! 団長の意志に反するつもりならば私が黙ってはおらんぞ」

「フン、お前に口を挟まれる筋合いのないことだな。指示に背いているわけでもあるまい。俺は敵だと言われた奴等を殺すだけだ、初めから先祖だの国だのに興味はない。それは団長殿も承知のことだ。そうでしたな、団長殿」

 ユリウスはあっけらかんとした口調でクリストフの顔色を伺う素振りを見せる。

 この場に居るだれもが顔を合わせる度にこんな調子のレイヴァースとユリウスの口論には慣れているため慌てて仲裁に入る者など今更居ない。

 唯一アリフレートだけがレイヴァースに対する敵意に充ち満ちているが、自分が十人に増えても勝てない相手なので心で毒を吐く以外のことが出来なかった。

「フレデリックの言う通りだ。ラミアス、引いておけ。我々は復讐を果たし栄光を手に入れるという目的のために再び集まった同志。同じ復讐にも形は様々だということだ。俺に従順な者、ただ戦えればそれでいい者、立ちはだかる全てを殺したいと思う者、結構なことじゃないか。騎士団の意志に反しているわけでもない以上、戦う理由はそれぞれでいい。敵を、この国を滅ぼすという意志が同じであれば、それが我ら騎士団だ」

 クリストフに諫められ、レイヴァースは一度ユリウスを睨み付けて思わず立ち上がっていた身体を再び椅子に下ろした。

 団長命令には全て従う。それがレイヴァースの在り方だ。

 そうでなければユリウスがここに居ること自体認めることはなかっただろう。

 そんなレイヴァースを見て、今度はゲルトラウトが愉快そうに笑う。

「がっはっは、さすがは団長じゃのう。よう分かっちょる。わしだって難しいことなんざ分からん。強い奴を倒す、それが出来りゃそれでええ。レイヴァースもカリカリしてばかりいてもしゃーなかろうぞ。綺麗な顔が台無しじゃ、笑ろうとけ笑ろうとけ。それだけで男衆のやる気も五割り増しになりよるぞ?」

「フン、貴様等に向ける笑顔など生まれ付き持ち合わせておらんわ」

 吐き捨てるように言うとレイヴァースは身体の向きをクリストフの方へと変え、

「団長、私は隊に出陣準備をさせて参ります。都市防衛の任は是非私もご指名くださいますよう。あのような下賤な輩の手など借りずとも私の手で」

「頼りにしているぞラミアス。だが、都市は七つもあるのだ。奴等にも働いてもらわねば割に合わないさ。フレデリック、デバイン、お前達も出陣の準備だけさせておいてくれ。占拠した都市に敵が近付いた時には出動してもらうことになる」

「了解じゃ」

「仰せの通りに」

「ではこれで解散するとしよう。ご苦労だったな」

 クリストフの言葉を最後に各隊長、副隊長は席を立つ。

 レイヴァースはクリストフ一人に向けて一礼し、きびきびと部屋を出て行った。

 やや遅れてゲルトラウト、ブラックのコンビも戦いに向けた気の高ぶりを口にしながら揃って部屋を出る。

 三人が居なくなるのを待ってユリウスが歩き出そうとした時、クリストフがその背中に声を掛けた。

「フレデリック、長らく待たせたな」

 先程までとは少し違い、立場の差など無い相手に語りかけるような口調。

 隣で待つアリフレートだけがその違いを感じ、キョトンとしていた。

 二人は騎士団結成後間もない頃からの付き合いだと聞いたことがあるが、仲良くしている姿が記憶に無いアリフレートにとってどこか不思議な光景だった。

「なに、この数年部屋に閉じこもっていたわけでもない。敵は多ければ多いほど待った甲斐もあるというものだ」

 ユリウスはいつもの通り、大した興味も無いような口調で答えると二人は顔を見合わせ、言葉無くただニヤリと笑って別々の扉から部屋を後にするのだった。

 そうしてユリウスは部屋へ戻るべく、再び廻廊へと向かう。勿論隣にはアリフレートが歩いている。

 予期せず呼び止められたのは廻廊に出る扉の手前まで来た時だった。

「待て」

 ユリウスは辟易としながら声のする方に目をやった。

 不機嫌そうに腕を組んで自分を見ているレイヴァースの姿がある。

「これはこれはレイヴァース隊長、まだ文句が言い足りませんでしたかな?」

 その茶化すような口調が一層レイヴァースを苛立たせる。

 返ってくる言葉に嫌悪感を隠そうとする気は一切感じられない。

「黙れ、私に無礼な口を効くことは許さんぞ。団長はああ言っておられるが、勝手な真似ばかりしているとその首が飛ぶことになることを肝に銘じておけ、出来損ないめが」

「フッ。出て行った四番隊の隊長の時もそうだったな。お前が気に入らんというだけの理由で一方的に噛み付き、一騎打ちを仕掛けて無様にも負けた挙げ句愛想を尽かされ出て行った。騎士団にとっては貴重な戦力だっただろうに、それを勝手に削っておいてまだ懲りぬとは恐れ入る」

 刹那。

 レイヴァースの目が怒りで見開いた。

 同時に素早い動きで背中から抜いた長く太い重量感のある剣をユリウスに突き付ける。

「この場で斬り殺されたいか? 輪を乱す者など帝国騎士団には不要だ。分かるなユリウス、我等の戦いに貴様など要らん。団長が気に掛けていなければ貴様の居場所などどこにも無いということを自覚しろ」

「ならばまた団長殿に進言してみればいいだろう。愛しの団長様ならお前のお願いも聞いてくれるかもしれないではないか」

「口を慎めと言っているのが分からんか……安い挑発であれ貴様の首を落とす理由には十分なのだぞ」

 瞳孔の開いた目がユリウスの鉄仮面の奥にある素顔までをも射抜かんばかりに鋭くなる。

 レイヴァースの声は低く、ユリウスに対する怒りと団長に禁止されている同士討ちをしようとしている己を抑えようとする二つの感情の間で揺れているといった雰囲気だった。

 対してユリウスは指一つ動かすことはない。

 顔の上半分を覆う鉄仮面と同じく、感情的になるほどの事態ではないとでも言うように微塵の危機感も抱いていなかった。

 アリフレートだけがいつでも武器を取ってレイヴァースを攻撃出来るように腰に指した二本の鎌を握っていたが、ユリウスの態度がそれを抜くタイミングの判断を難しくさせている。

 しばし無言のままに睨み合う二人の視線がぶつかり合いを止めたのはレイヴァースが剣を収め背を向けてからのことだった。

「貴様が戦場で役に立たないと判断した時、迷わず私がその役目を終わらせてやる。精々背中に気を付けることだ」

 恨みがましい口調で言うと、レイヴァースはそのまま立ち去った。

 その姿が見えなくなるとアリフレートがその背中があった方向を見たまま憎々しげに悪態を吐く。

「なんスか、あのババア。相変わらず団長団長ッスね」

「放っておけ、勝手に吼えさせておけばいい。視野狭窄な馬鹿に構っている程暇ではない」

「でも、あいつはやっぱり強いっすよ。団長を除いたら一番強いのは先輩かあいつかってぐらいですもん。伊達に二番隊隊長を務めてないッスよ。ていうか、その二番隊隊長を軽くあしらった前四番隊隊長って何者なんすか?」

「さあな、俺は言葉を交わしたこともない。何より居なくなった奴のことなどどうでもいい。しばらくはこの国の愚か者共を討ち滅ぼすことに集中するさ。同じ気に入らん奴を殺すにも順序がある」

「ちなみにッスけどフレッド先輩、戦いが終わった後はどうするんスか?」

「その時は新しい敵を見つけるだけだ。魔族でも帝国騎士団でも他の国相手でも誰でもいい。俺はただ血の雨を降らせるだけだ、殺す相手が居なくなるまでな」

「どこまでもお供するッス先輩っ」

「ああ、精々役に立ってくれることを期待している。まずは団長殿の指示通り、隊員達にいつでも出陣出来る準備をさせろ。人選も編成も全て俺の権限でお前に任せる、俺はそんなつまらん事はしたくないからな」

「了解ッス。でも、主要都市とやらを守ってるだけで大丈夫なんスか?」

「今日の報告を聞いていなかったのか。ジェルタールが各国に援軍を要請したと言っていただろう。これで敵も連合を組んだことになる、戦争をするからにはまとめて相手をするつもりなのだ。この騎士団も、奴等もな」

「なーるほど。でも、あんな奴等信用していいんスか? あたしは極力関わりたくないッスけどねぇ」

「誰一人として互いを信用してなどいまい。ただの取引でしかない以上、相手を利用するだけの腹づもり。用が無くなればまとめて消し去る気でいるだろう。あちらもこちらもな」

「ってことは、戦争に勝った後もお楽しみが待ってるってことッスね?」

「そういうことだ。長らく待ったが、一度始まってしまえば止まる必要は無い。どこまでも進むだけだ、修羅の道をな」

 揃って嗜虐的な笑みを浮かべている。

 そして二人の戦士はこれから待ち受ける戦いに血が滾ることを感じながら、ようやくその場を後にした。


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