【第九章】 脱獄大作戦
AJが出て行ってからどのぐらいの時間が経っただろうか。
僕は少しでも巡回の兵士の警戒を薄れさせようと大人しくベッドに横になったままで過ごし、見回りの兵士が前を歩いている時は目を閉じて寝たふりをしてその時が来るのを待っていた。
既に二度目の見回りをやり過ごしたわけだけど、体感的には精々二時間前後といったところか。
そうなると見回りは一時間に一度ぐらいだと仮定出来るが、何の物音もしない空間で横になって過ごしているだけの時間を推測したところでどこまでアテになるのかも分かりゃしない。
せめて秒針の音でも響いてくれれば眠気の一つも襲ってくるのかもしれないけど、本当に何の物音もしない空間というのは逆に落ち着かないものがある。
加えて灯りが通路に並ぶ蝋燭オンリーなのだ。
檻の中から蝋燭の火が横一列に並ぶ光景を眺めるってどんなホラー映画? って感じだ。
「ま、寝ちゃうわけにもいかないからそれはいいんだけど……次から次へと気が滅入ることばかりだよ」
『宰相になるはずが異国で爆弾魔扱いたぁ、天国から地獄ってのはこのことだな』
「いや、別に爆弾魔になってなくても宰相にはならないから」
『それならそれでいいが、そろそろ約束の三度目の見回りが来る頃だぜ? 腹は括れたか?』
「括れてはいないけど、それもいつも通りかなーって。今考えて何かが変わる問題じゃないし、行き当たりばったりでその時必死に考えることぐらいしか出来ないけど、どうにかしないと不味いことになるなら出来る限りどうにかするしかないからさ」
『カッカッカ、随分と腐れ度胸がついてきたじゃねえか。出会った頃とは大違いだな』
「二度の冒険で得た物ってほとんどその度胸だけだからね、言ってて悲しくなるけど。魔王の子に殺されかけたり化け物と一対一で戦って刺されることを考えると人間相手で、しかも戦わなくていいだけ怖さも薄れるってもんかな。毎度のことながら怖いかどうかと無事で済むかどうかは全く別問題なんだけど」
しかし、このフレーズもそろそろ言い飽きたな。
『度胸だけってことはねえだろうに、なんて堂々巡りはいい加減し飽きたが、一つ疑問に思っていたことを聞いてもいいかい?』
「どうしたの?」
何気ない会話の続きのつもりで何気なく聞き返してみた僕だったが、次の瞬間ジャックの口から放たれた言葉は衝撃的であり、己の愚かさを嘆きたくなると同時にあのにやけ顔を恨みたくなるような事実だった。
『地下にあるっつー独房に行く、そこで眠っているはずの牢番が持っている鍵を野郎にもらった道具で複製する、馬鹿王子を連れ出す、馬車庫に行く、黒い幌の付いた馬車にボンクラを放り込む、そういう段取りだったな?』
「まあ、そうだね。王子に対する呼称はさておき」
『その一番最初にするべきことについて、俺にゃあどうしても分からねえことがあるんだが』
「一番最初? 地下に行くってとこ?」
『いや、その前だ。地下に行くためにお前さんは今このベッドの上からどういう順番でどう動く必要がある?』
「どう動くってそりゃここを出て、そこの扉の外に行って、来るときに通った階段を下に向かって降りて……」
『そう、俺が言いてえのはその予定における一番最初の行動のことだ。お前さん、一体どうやってここから出るんだ?』
「……………………あれ?」
ここを出て。
この階を出て。
地下五階にある独房に行って。
見張りの兵士が寝ているはずで。
鍵を複製して。
王子を連れ出して。
地上に上がって。
馬車庫に向かって。
黒いホロ? が付いてる馬車に王子を乗せて。
朝まで身を隠しているように伝えて。
兵士が戻ってくる前に僕はここに戻ってくる。
これを全て達成して初めてミッションコンプリートとなる。
こうして並べてみると僕の仕事がこれだけあるというのに、AJがやったことといえば。
兵士眠らせる。
馬車に毛布を用意する。
僕に変な棒を渡す。
これだけじゃなかろうか。
どうにも仕事量の偏りがハンパない。
しかしそればかりは今言っても仕方あるまい。
適材適所というやつだ。
二人のうちどちらかを選ばないといけないなら僕しかいなかったというだけの話だが……まあそれはいい。
事情はどうあれ僕にはやることがいっぱいあるということ。
何事も予習復習を欠かさない者が成功するのが人生というものだ。もう一度今度は細部を詰めておさらししてみよう。
最初のするべきこと。
ここから出る。
方法……無し!
終~了~。
「AJのやつ……ボクに抜かりはない、みたいな顔しておいて一番肝心なことを忘れてるじゃないか」
『だから言ったろ? ああいう意図的にヘラヘラしてるような野郎は信用ならねえってな』
「確かにあのキャラじゃ何か企みがあってわざとそうしたのかと疑いたくもなるよね……さすがにそういうわけじゃないと思うけど」
これがわざとだったら延々と作戦を説明した意味が全く無い。
敢えてそうすることで僕を何らかの状況や思考に誘導しようとしている可能性はゼロではないのだろうが、元を正せば王子を救いたいと言い出したのは僕ではないのだ。
僕が放棄してしまえば全てが台無しになってしまうことを考えると、意図してそんなことをするリスクはあちらの方が大きいと言えるだろう。
底知れない彼のことだ、裏を掻いてそのリスクを負ったなんてこともあるかもしれないけど、AJがどう考えていようが僕が自力でどうにかする方法があるとも思えないのが一番の問題だといえる。
「どうしよう、ジャック」
『どうにかしたくてどうにかなるならその方法を考える他あるめえよ。野郎の提案じゃ三度目の見廻りが過ぎた後って話だったが、そのタイミングを逃せばどうにかなるもんでもあるまい。朝までにボンクラを連れ出せりゃ四度目でも五度目でもいいんだろ?』
「そりゃそうかもしれないけど、時間が経つに連れて見張りの兵士が起きちゃう可能性は高まりそうなあたり早いに越したことは無いのは間違いないしねぇ」
『ごもっとも、だな。失敗するだけなら王子が死ぬとはいえ相棒に被害はねえが、失敗した挙げ句見つかっちまうってのが一番マヌケな結末だ』
「もしかして、これは最初から自力でどうにかしろってことなのかな。その為にあの変な棒を三つ渡したとか」
でもそれだと檻の中から見回りの兵士が持ってる鍵を手に入れろということになる。
まさかそんな無理難題を押しつけるとも思えないが……。
『ひとまず、設定上のタイムリミットは来ちまったみたいだぜ?』
ジャックの言葉通り、静かな地下室に扉を開く音が響いた。
すぐに入ってきた見回りの兵士が檻の前の通路を歩いていくのを過去二度の見回りと同じく、僕は目を閉じ寝たふりをしてやり過ごすことに。
もしも僕があの人から鍵を奪う方法を取らざるを得ないのであれば、既にこの状況からして数少ないチャンスをみすみす逃していると言っていいだろう。
まだ何も思い付いていない以上は当然のことだけど、そもそも直前になるまで気付かなかった自分の馬鹿さ加減が愚かしくてならない。
だからといってこの一分足らずの間にあの人から鍵を奪い取る方法なんて思い付くはずもなく、結局僕が出来ることは今後どういう行動に出るにせよ少しの警戒感も抱かせないために寝ているふりをすることしかないのだった。
ああ……もう本当に先行き真っ暗だよ、この部屋の如く。
『行ったみてえだな』
「そうだね……今回に限っては簡単に行ってしまわれない方が良かったんだろうけど」
『何もかも後の祭りって感じではあるが、どうするよ相棒』
「とにかく……出る」
『どうやって?』
「…………出る」
『………………』
黙られた。
そりゃそうだ。
どうやってと言われたところでどうしようもない。そしてそれは僕のせいじゃない。
そんな言い訳をしながら立ち上がり、意味もなく鉄格子の傍まで歩き鍵の掛かった開閉部分を軽く揺すってみた。
ガチャガチャと音がするだけで開くはずもない。
『相棒、音を立てるな』
「へ?」
誰か来たのかと慌ててベッドへ戻る。
息を潜めて耳を澄ませてみるが、人の気配は感じられない。
『誰も居ねえ……か』
「気配がしたの?」
『ああ、何かが近付いてくる気配がしたんだが……』
「怖いこと言わないでよ」
誰か、ではなく、何か、であるあたりが特に。
そんなことを考えながら再びベッドを降りる。
次の瞬間だった。
ガチャン
そんな音が目の前の鉄格子から聞こえた。
まるで鍵を開けた様な音が、間違いなく。
「ジャック、これって……」
『だといいがな。確認してみな、一応注意しておけよ』
ゴクリと喉が鳴る。
足音を殺しながら鉄格子に近付き先程と同じ場所を軽く手で押してみると、何の引っ掛かりもなくキィィと音を立てて扉が開いた。
「開いた……」
なぜ誰も居ない状態で勝手に鍵が開くのだろうか。
普通に考るとAJが予め仕掛けをしていたと見るべきなんだろうけど、それを僕に知らせていなかったのは高確率でわざとな気がしてならない。
「ほんと……性格悪い人だな」
僕が悩んでいる様子を思い浮かべてにやにやしていそうだ。
どんなサディスティック具合なんだか。
『とにかく、これで第一段階はクリアみてえだな。あの人を舐め腐ったヘラヘラ小僧には後でヤキ入れてやれ』
「是非そうしたいところだね」
見た目が温厚な少年風でも腕力では足下にも及ばないんだろうけど。
なんて心で付け足し、半日以上ぶりに牢屋の中から出る。
静かに、かつ物音を拾うことに全神経を集中させながら薄暗い通路を歩き階段に出るための扉をそっと開いた。
右に左にと視線を送ってみるが、どうやら人の気配はないようだ。
その辺りは僕の耳よりもジャック頼りな部分が大きいが、その精度は対人レーダー並であるのが心強い限りである。
「ふぅ~」
一つ大きく息を吐く。
やっていることは命懸けのかくれんぼさながらだけど、ここまで来てしまったら部屋に戻るわけにもいかない。
なぜ僕がこんなことをしないといけないんだろう。
そんな疑問だけは捨てずにいようと誓うと同時に覚悟を決め、僕は階段を下へと進むことにした。
直進、踊り場で方向転換、直進という一般的な階段なら先が見える分だけ人の存在を視認出来るのだが、螺旋階段になっているせいでそれが出来ず一段降りる度にヒヤヒヤしなければならないのが心臓に悪い。
しかし、そんな心配も僕の勝手にしていただけのことだったらしく、目的地である二つ下の階に到着するまでに誰かと遭遇することはなかった。
一階につき一つの独房しかないという地下五階に到着すると、扉の前に立つ。
見張りの兵士が複数いるという話だ。
この扉の前に居ないということは中に居るということになる。
外からではAJの言葉の通り本当に眠っているのかが確認できないが、そこで役立つのがネックレス型対人レーダーことジャックだ。
『確かに人の気配はするが、微弱さからして眠らせたってのは間違いないみてえだな』
「じゃあ、開けるよ?」
『ああ』
ジャックの返事を合図にゆっくりと扉を押した。
やはり薄暗い扉の向こうには、すぐ目の前に二人の兵士が地面で突っ伏している。
寝息が聞こえてくるあたり本当に寝ている様だとまず一安心。
そしてその向こうには大きな壁があり、それが独房だと気付いたのは左端にある扉を見てからのことだった。
僕が居た場所のように牢屋が並んでいるなんてことはなく、その天井まで繋がる大きな壁の上の方に通気口代わりなのかいくつもの小さな穴が空いている。
こんなコンクリートの様な無機質な壁に囲まれた中に一人で放り込まれるぐらいならいくらか鉄格子の方がマシだったと思える程に独房というものの意味を理解させられた。
「さて、やることをやらないと」
寝ている兵士の傍に屈む。
確かに腰には鍵がぶら下がっていた。
AJの話ではこの独房の鍵は最後に使った人物が分かる仕様であるとかで、この鍵をそのまま使うことは出来ない。
ポケットから例の謎の棒状の筒を取り出し、言われた通り右手に筒を、左手に兵士の腰にある鍵を掴み筒にある宝石の様な部分をカチっと押してみる。
すぐに筒の方が光を帯び始めたかと思うと、数秒のうちにその形は完全に左手に持つ鍵と同じ形に変わっていた。
毎度の事ながら原理は一切分からないが、どうやらちゃんと使うことが出来たらしい。
それすなわち移動するのに使ったアイテムも僕が別世界の人間だから失敗したわけじゃないということが証明されつつあったが、今は置いておくとしよう。
あとは王子を馬車庫に連れて行くだけだ。
僕は独房の扉の前へ移動し、鍵を差し込んだ。
問題なく解錠出来たことに安堵しつつ、ゆっくりと扉を開くと中には随分と太った誰かが壁にもたれ掛かる様にして座っていた。
あれが件の王子……クロンヴァールさんの弟というからにはもっと凛々しく格好良い感じの人だと思っていたのだが、随分と想像していたのと違うな。
「だ……誰だ、お前は」
王子は目が合うなり半ば怯えながら声を掛けて来た。
「静かに。僕はある人に頼まれてあなたを助けに来た者です」
AJの名前を出すことは禁止されている。
しかしそれがおかしな誤解を生んでしまったらしい。
「そうか。お前、ハンバルの命令で来たのか。クソっ、こんなに待たせやがってあの無能め」
ハンバル。
王子を利用してクロンヴァールさんを暗殺しようとした人だというのに、この人はまだ利用されたことに気付いていないらしい。
自分がこんな目に遭って尚その人が自分を助けてくれると思っているのか、或いはそういう約束をしていたのかもしれない。
王子がハンバルという協力者の存在を認めなかったという話を考えると後者の線が強いのだろうが、結局はそれも自分の身を守るための口上だろう。
だからこそハンバルの代わりにAJが王子を助ける方法の相談に来たのだから。
「それは明日になれば分かります。とにかくここを出るので付いてきてください」
「ここへ出てどこへ行くんだ」
「馬車庫です。ひとまずそこに身を隠せばその人が明日の朝早くに安全な場所へあなたを連れて行く手筈になっています」
「なんでもいい、さっさとオレをそこに案内しろ」
「…………」
何を偉そうに。
と言いたいのをギリギリ飲み込み、先導して独房を出る。
寝ている兵士に蹴りを入れようとした王子をなんとか止めて今度は駆け足で階段を上に登っていった。
王子の足が遅く苛立ったが、なんとか地上に出ると久しぶりに吸う外の空気や月明かりが新鮮にすら感じられる。暗く静かで周囲に人は居ないようだ。
馬車庫は外壁に沿って外側に行けばいいんだっけか。
「王子、行きましょう」
横でぜぇはぁ言っている王子を急かす意味で声を掛けてみる。
体力無っ!
「ちょ、ちょっと休ませろよ」
「見つかってしまったら独房に逆戻りなんですよ? 馬車に食料や水も用意していますのでもう少しだけ頑張ってください」
「クソ……生意気いいやがって。オレがこんな状況じゃなかったら死刑にしてやるところだ」
憎まれ口を叩きつつ、それでも王子は両手を膝から離した。
こんな状況じゃなかったら僕はこの人と会うこともなかっただろうし、今誰よりも死刑にされそうな立場なのはあんただ。と、言えればどれだけすっきりすることか。
だけど王子の身がどうなるかは無関係に見つかると不味いのは僕とて同じ。
僕が足を進めると、王子も荒い息のまま渋々後に続く。
少し歩くと、AJの情報通りすぐに馬車が並ぶ大きめの小屋の様な建物が目に入った。
壁や窓は無く、外からでも何十もの馬車が見えている。
もう何度目かの左右を見渡す行動ののち、僕達は馬車庫に足を踏み入れた。
聞いていた通り、無数に並ぶ馬車の中の一番奥に一つだけ黒い布に覆われている馬車がある。
そこまで歩いてソッとその馬車の扉を開くと、中には毛布や食料が入っていた。どうやら指定の馬車で間違いないみたいだ。
「では王子、この中に入って下さい。さっき言った通り、朝早くにこの馬車を使って外に連れ出します。あとはあなたが死刑にならないで済むようにするまで安全な場所に移すということらしいので」
「お前はどうするんだ?」
「僕は急いで戻らないといけません。見つかったら全てが水の泡になってしまいますから」
「そうか。戻ったらハンバルに伝えろ、お前だけ何の罰も受けずに済むと思うなってな」
「…………分かりました」
お礼の代わりにそんな言葉が出てくるとは、どこまでも愚かな人だ。
どのみちハンバルどころか今後この人と会うこともないだろう。その先のことは僕が関与出来る問題じゃない。
文句を言ったところで帰る時間が遅くなるだけ損だし、この場はこう答えておけばいい。
「では失礼します」
言って馬車の扉を閉めると、僕は早足で来た道を戻る。
再び牢獄のある階段に辿り着き、元居た地下三階まで降りたところでジャックが最悪な報告をしてくれた。
『まずいぞ、中に誰かいやがる』
「それは……AJじゃない誰かなのかな」
『そこまでは分からねえが、そうじゃなかった場合はヤバいんじゃねえか? どうする相棒』
「どうするもこうするも……入るしかないからね」
AJじゃなかった時点で僕が居ないことはバレてしまっていることになる。
中の人が居なくなるまで身を隠したところで僕が脱走したことが広まってしまうだけだ。
そうなるぐらいなら今見つかった方がまだいい。
騒ぎが大きくなると王子のことまで発覚してしまう可能性があるのだ。僕が罰を受けるだけで済むなら今してきたことが台無しになるよりはまだマシだ。
「仕方ない……行くよ」
扉を開く。
中にいたのはやはりAJではなく、何度も見た見廻りの兵士だった。
兵士は僕に気付くとすぐに剣を抜き、駆け寄ってきた。
「貴様っ、そこで何をしている!」
「すいません、ちょっとお手洗いに行ってただけです」
冷静を装って言ってみたものの、次の瞬間腹部に衝撃が走った。
兵士の体勢からお腹を蹴られたのだとすぐに理解したが、余りの強さに僕は尻餅をついてしまう。
痛い……と思ったが、痛みはなくお腹が変にモワっとした感覚に包まれた。
この感覚には覚えがある。ジャックの回復魔法だ。
「舐めた真似をするなよ反逆者風情が。さっさと戻れ! 交代前の奴が鍵を掛け忘れたのか」
兵士は乱暴に僕の胸ぐらを掴むと引き摺るように牢屋の中に放り込んだ。
すぐに鍵を閉め、『今度勝手な真似をしたらその場で首を刎ねるぞ』とかなんとか一つ二つ暴言を吐いて兵士は出て行ってしまった。
「あの人には僕が無罪だってことが伝わっていないのだろうか……」
『そうみてえだな。しかし、これで済んで幸いだと言えるだろう。鍵の件もさして怪しまれてねえようだ』
「そうだね。相変わらず扱いの酷さに辟易とするけど、身体検査でもされたら大変なところだ」
しばらくすると勝手に消えてしまうという複製した鍵は馬車の中に放り込んできたが、複製する前の道具はまだ二つ僕のポケットに入っている。
これを持っていることが知られたら王子の消失が発覚した時にまっさきに僕が疑われてしまうだろう。
「それより、さっきはありがとうジャック」
『なに、気にするな。相棒に手ぇ出す奴は俺が黙ってねえってもんよ』
「やっぱりジャックは僕の相棒だよ」
そんなことを言って、僕はようやくまたベッドの上に倒れ込む。
『さすがにお疲れだな。ま、後はどっちの件も時間が解決してくれるさ。ゆっくり眠るといい』
「そうさせてもらおうかな。おやすみ……ジャック」
『ああ』
目を閉じるとすぐに眠気に襲われる。
もう深夜もいいところだ。
目が覚めたら今度こそ僕は出してもらえるんだ。帰る前にAJに文句の一つでも言ってやろう。
そんなことを考えているうちに僕は眠りに落ちていった。




