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勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている  作者: まる
【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている③ ~ただ一人の反逆者~】

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【第八章】 密約

10/19 誤字修正 間隔→感覚


「明日も空いた時間は会いに来る。おやすみ、コウヘイ」

 少し前にそう言って帰って行ったセミリアさんの言葉から察するに、いつの間にか随分と夜も遅くなってしまったらしい。

 時計も無いし、地下ということもあり窓がないこの閉鎖空間ではいまいち時間の感覚がないということも理由の一つだとは思うけど、それよりもこの数時間セミリアさんがずっと話し相手をしてくれていたことも大きな要因だろう。

 なんでも夕食をクロンヴァールさんと共にし、そこで大事なというか、政治的な話をする予定だったらしいのだがそれは明日に変更になったということだった。

 恐らく、というか確実に例の爆破事件が関係しているはずだ。

 この大きな城であんなテロみたいなことが起きてしまったのだから無理もない。

 相変わらず出された食事は味の無さそうなパンとただの水だけだったし、地下だからなのか普通に寒いしという、劣悪な環境であること山の如しだったけど、それもあと少しの辛抱だという希望的観測がなんとか我慢させているという感じだ。

 パンは食べていないから普通にお腹は減ってるけど……。

 なんてことはさておき、なぜ急に時間について考え出したのかというと、やることもないし寝ようかなんて思った矢先に現れた見知った顔が原因だった。

「やあ、コウヘイ君。元気にしてたかい?」

 そんな嫌味を第一声に登場したAJことアッシュ・ジェイン氏は、相変わらず素の状態でもどこかにこやかな笑みに見える表情で鉄格子の前までやって来た。

 ジャックの言ういけ好かないという程の嫌悪感があるわけではないが、やはり何を考えているかは推し量れない雰囲気がどうしても警戒心に似た感情を呼び起こしてしまう。

 今ばかりは頼る他ないし、別に僕をどうにかしようという意志が見えたわけでもないので勝手なイメージだといってしまえばそれまでだけども。

「元気にもなりますよ。食事付き、ベッドも完備、しかもタダ、こんな贅沢はこの先一生味わうこともないでしょう」

 余裕ぶって見せつつもベッドから腰を上げ、僕も鉄格子の方へと寄っていく。

 彼のことだ、嫌味を言うためにわざわざ訪ねてきたわけではないだろう。

「ふふっ、それは何より。もう少し気が滅入っているものかと思ったけど、思いの外逞しい性格みたいだね。お仲間の勇者さんのおかげかな?」

「それは勿論そうでしょうけど、それよりも何か話があるんじゃないんですか?」

「ん? ボクは寝る前に嫌味を言いに来ただけだよ?」

「おやすみなさい」

「冗談冗談、普通そこで背を向けちゃうかなぁ」

 冗談だとは思ったけど、それに付き合いたくないので背を向けただけだ。

 助けて貰おうとしている立場の僕の態度ではないのかもしれないけど、おかげで話が進みそうなのでよしとしよう。

「良い知らせと悪い知らせ、どっちから聞きたい?」

 身体の向きを戻すと、AJは吹き替え映画の台詞みたいなことを言った。

 やっぱりどこまでが本気なのかは分からないが、こちらの反応を待っているあたり知らせがあることは間違いなさそうだ。

「では、良い方で」

「オーケー。爆破事件を含む陛下の暗殺を目論んだ犯人が捕まったよ」

「え……本当ですか? 随分と早くに解決したんですね」

 まさか今日のうちに真犯人が捕まるとは思いも寄らない。

 しかし、ならば僕はなぜまだここにいるんだろう?

 なんて当然の疑問は問うよりも先にAJの口から説明された。

「明日にも君は解放されるだろう。おめでとう」

「おめでとうと言われるのもおかしな話な気もしますけど、ありがとうございます。ちなみにその真犯人というのは……」

「捕まったのはベルトリー・クロンヴァールという男だ。歳は十七歳」

「クロン……ヴァール?」

「お察しの通り、陛下の実の弟だよ」

「弟って……血の繋がった弟がクロンヴァールさんを殺そうとしたっていうんですか?」

「そういうことだね。ま、心は痛むけどそう珍しい話というわけでもない。王位の継承権を巡って王族同士が争うことは少なからずあることだ」

「その人も……同じ理由だったんですか?」

「残念ながらね。姉が居なくなれば王子である自分が次の王様だ、そんな考えを持っていたがゆえのクーデターだったことは間違いない」

 なるほど、レコーダーで聞いたハンバルとかいう人の話し相手はその王子だったのか。

 一度聞いただけだし爆弾の件以外はほとんどうろ覚えだけど、内部犯という推測だったのがまさかそれを通り越して身内によるものだったとは……何もかも戦国時代のような事情過ぎて恐ろしいばかりだ。

「そして、ここからが悪い話だよコウヘイ君」

 そう言ったAJの顔からはにこやかさは消え、どこか真剣な表情になっていた。

 いまの話からして既に気持ちの良い話でもないのに……これ以上悪い話ってなんなんだろう。

「あまり聞きたくなさそうだね。でも、悪いけど聞いてもらうよ? この後の話に関わることだからね。言い換えれば、君の今後に」

「取り敢えずは聞かせてもらいますよ。僕も当事者じゃないとも言えない身ですし」

 そういってくれて何より。

 なんて告げるAJの口から続いた言葉は、僕にとって聞かない方がいくらか幸せだった話だった。

 クロンヴァールさんの弟であるその人物の処刑が決定した。そんな話だ。

「弟なんですよね? 王子なんですよね? それでも……処刑するんですか」

「ま、大逆罪を犯した者は本来そうなるのが決まりだ、君がそうなりかけたようにね。だけどボクは、いやボク達はそれを阻止したいと思っている。だから君に会いに来たのさ」

「阻止、ですか。でも一国の王が決定したことをそう簡単に阻止出来るものなんですか?」

 確かAJはクロンヴァールさんに進言出来るぐらいの地位にいると自分で言っていたけど、それで事足りるならわざわざ僕に相談に来る理由がない。

「この件ばかりはボク達がいくら口を挟んでも恐らく陛下は決定を変えないだろうね。過去の過ちを繰り返さないために、こういう事に対して陛下は一切の情や隙を排除することに拘っている」

「過去の過ち?」

「ボクの口から話していいことじゃないから察してくれとしか言えないけど、修羅に徹するにも理由ってものがあるのさ。ボクとて詳しく聞いたのはついさっきのことだけど、仲間の女の子は落ち込んだまま部屋に籠もっちゃって大変だよ。だからこそ自分達でどうにかしないといけないってわけ。血の繋がった、唯一残った家族である弟を処刑した、なんて過去は今陛下本人に自覚がなくても間違いなくその傷を深くする。陛下の部下として、そうなって欲しくはないからね」

「でも……どうにかするといってもどうやって」

「それが問題でね。本来いくら死刑囚といえど、刑の執行までは数日の猶予があるものだ。だけど今回はその猶予がない、陛下の決定で明日の昼ということに決まった」

「あ、明日? それじゃほとんど時間が……」

「人物が人物だけに余計な混乱を兵士や城下の人に与えてしまわないようにスパッとこの件を終わらせるべきだと判断したんだろうね」

 スパッといくのは王子の首なんだけど。

 そう付け足してAJは笑った。

 アメリカンジョーク的なつもりなのかもしれないが……全然笑えないんですけど。

「せめて調査が済むまで待ってくれればどうにかなるかもしれないんだけど、それすらも却下されちゃったよ。まあそれはベルトリー王子であるかどうかは関係ないんだろうけどね。死刑囚のまま何年も過ごした人間なんて精々あのブランキーぐらいだって話だし」

「誰ですかブランキーって……というか、調査って?」

「ブランキーというのは最近脱獄した死刑囚でね、理由は知らないけど刑の執行は投獄から三十年後と決められていたと聞いたことがある。実際この数年はずっと独房に入っていたし……って、今はブランキーの話はどうでもいいか。調査というのは勿論、黒幕を捕まえるための調査だ。この意味……分かる?」

「黒幕……」

 真犯人はその王子という話ではなかったのか?

 確かにAJ自身がそう言ったはずだ。だからこそ王子が捕まり、死刑にされようとしている。

 いやまて……それで解決というのはおかしいぞ。

「……ハンバル」

「ご名答♪ 王子はそのハンバル大臣に利用されただけ、というのが事の真相でね。だけどそれを証明することが出来ていないし、陛下にそれを言ったところで確証もない状態では処刑を先延ばしにする理由にはならないと言うだけ。ゆえに大臣は野放し状態ってわけだ。つまり……」

「それを証明出来れば……王子の死刑を撤回させることが出来る?」

「そう。無罪放免とはいかなくとも、首を刎ねられることは阻止出来る。それは陛下も認めていることだ。明日の昼までにそれが出来れば、という条件付きだけどね」

「…………」

 なるほど。現状では王子が実行犯であるところまでは割れている。

 そしてクロンヴァールさんはその結果を受けて弟を処刑しようとしている。

 黒幕が存在する可能性を理解はしていても、見つかるまで待つつもりはない。そういう流れということらしい。

 日本じゃ罪を犯してから刑が確定するまでに何年も掛かるというのに……今日捕まって明日死刑って無茶苦茶過ぎやしないか。

「ではあなたは明日までにハンバルという人が黒幕であることを証明しようとしているってことですよね? その情報収集のためにここに?」

 といっても、あの記録した会話以上の情報は僕には無いんだけど、彼はそれを分かっていないのだろうか。

「少し違うね。王子が共犯の存在を認める気がない以上明日の昼までにどうにかしようとして、それが出来なければ残念でしたでは目も当てられない。必要なのは確実に王子を死なせない手段、そしてそれを実行するのは他でもない……君だ」

「……はい?」

「ボクは約束通り、実行犯を捕らえさせ君の無実を証明した。つまり君はボクに借りがあるってことだと思わない?」

「そうじゃないとは言いませんけど……元々僕は無実だったってこと忘れてません? そりゃ実行犯が捕まったことは朗報ではあるんでしょうけど、その後の事はそちらの問題ですよね?」

 そりゃあの状態で僕を助けると言ってくれたのはありがたかったけど、今の僕はクロンヴァールさんに帰してやると言われている身なわけだし王子がどうとかは僕には直接関係無い気がしてならない。

 確かにハンバルという人物が何のお咎めもなしというのは納得出来ないし、王子が処刑されてもいいとは思わないけど、そう思ってしまったら気になってしまうんだからやっぱり余計なことは聞かない方がよかったと思うわけだ。

 僕には関係ないと割り切り、のちに死んだとでも聞かされようものなら寝覚めの悪いことこの上ない。

 しかし、AJは僕がどう思うかはあまり気にしていないらしく、難色を示したことを受けてか言葉を変えてきた。

「うーん、君って意外と冷たいねぇ。聞いた話じゃもっと格好良い男だったんだけど、まあいっか。じゃあ言い方を変えよう、ボクに協力してよ」

「内容によりけり、としか言えませんけど……それはハンバルという人を捕まえるための協力ですか? それとも……」

「勿論それとも、の方だね。ハンバルさんのことはボクがどうにかする。君はそのための猶予を作る、ということだよ」

「つまり、その王子の処刑を阻止する協力ですか。それも、結構リスキーな方法で」

「やっぱり君は頭がいい。ボクは説明しなくても話が通じる人間が好きだよ」

「ただの消去法ですけどね」

 王子の処刑を阻止するにはどうするか。

 ハンバルという人物を明日の昼までに黒幕である証拠を集めて罪に問うことは難しい。

 ならば他の方法と何にか。

 クロンヴァールさんを説得する?

 近しいAJ達でも無理なものをほとんど初対面と変わらない僕に出来るはずがない。

 セミリアさんに協力を仰ぐか?

 僕よりは説得のしようはあるかもしれないけど、やはりそれでどうにかなるならAJ達でなんとかなるはず。

 ならば、クロンヴァールさんの決定が変わらないままで王子を助けるにはどうするべきか。

 考え得る方法は二つ。

 一つはクロンヴァールさんの意志に沿わずに処刑を中断させるという方法だ。

 これはすなわち暴力の駆使とまではいかなくとも物理的に邪魔をするというもの。

 問題は僕やセミリアさんがそんなことをすれば大問題になるし、他の誰かがすれば飛ぶ首が増えるだけに終わる可能性が高すぎるということだ。

 そうなると残る策は一つ。

 処刑を出来なくする。つまり、処刑対象が居なくなればいい。

 これだってリスクも危険も盛りだくさんであることに違いはないけど、今の僕に体を張ってクロンヴァールさんを止めてくれと言えるはずもないことを踏まえると必然的にそういうことになってしまうというわけだ。

「それで、僕に何をさせようと? 王子を隠すために」

 ひとまず僕は尋ねてみる。

 いつ、どういう方法で、どこに匿うのかを聞かなければ判断のしようもない。

 協力を仰ぐからには僕を一旦ここから出してくれるのかもしれないが、逆に言えば僕に頼むぐらいなのだから他に協力者は居ないと見た方がいいとも思える。

 どちらにしても発覚すれば二人ともただでは済まないことは間違いないだろう。

「僕はサポートをする、実行するのは君。ここまではOKかい?」

 そんな、どう転んでも誰かの人生が変わってしまいそうなことなのにAJは待ち合わせの場所でも提案するかのような何気ない口調だ。

 ある意味ポーカーフェイスということになるのかもしれないけど、こんな時にまで微笑を貫かれると真剣に考えている自分が馬鹿みたいに思えてくる。

 それも、未だ鉄格子の中に居る側の僕がである。

「いやいや、OKなわけないじゃないですか。それこそなんで僕が実行犯に? 悪くともあなたも一緒と思っていたぐらいなのに」

「僅かであってもボクに疑いの目が向くわけにはいかないからだよ。言っておくけど、我が身可愛さで言っているんじゃないよ? 王子を連れ出せば遅くとも明日には確実に発覚することになるだろう。その時、それをやったのがボク達の誰かである可能性があれば成立しない。これは分かるよね?」

「王子が居なくなった理由、或いは連れ出した誰かが不明でなければ意味がないということですか。あなた達が噛んでいると思われたら立場が悪くなる人間が増えるだけに終わると」

「その通り。少しでもその可能性があると思われてしまうと陛下は容赦しない。そうなればボク達も罰を受けることになるだろう、王子の所在が判明しない限りはね。だからこそ王子が独房に居ることが確認されている時間にボクが部屋に入り、王子が消えた時間に外に出ていないことを見張りの兵士に証言させる必要があるというわけだ」

「言っていることは理解は出来ます、あくまで理解は。もう押し付け合いをしている時間も無駄でしょうし、具体的な方法とあなたの言うサポートというのがどういうものかを聞いてもいいですか?」

「まずは君にこれをあげる」

 AJはポケットから取り出した何かを僕に差し出した。

 シャーペンぐらいの細さ長さがある銀色の棒というか筒状の何かだ。

 それが何故か三本、ビーズの様な宝石の様なキラキラした小さな粒がそれぞれに一つずつ埋め込まれているあたり、この世界で言うマジックアイテムなのだろうが僕には何に使うものなのかは一切分からない。

「これは?」

「これは複製魔法筒(リミット・フェイカー)というアイテムでね、この筒を片手に持って宝玉を押すともう片方の手に持っている物と同じ物に変化するんだよ。勿論、半日もしないうちに消えて無くなるし、魔法効果のある武器やアイテムを複製してもその能力までは再現しないけどね」

「複製……ですか。勿論使い道は王子の居るその独房の鍵、ですよね」

「そういうこと。君はエレマージリングも使えなかったって話だし一応三つ渡しておくけど、これでも貴重な物だから無駄遣いしちゃ駄目だよ?」

「そればかりは僕の意志ではどうにも……」

 そもそもまだやるって言ってないし。

「この階とその下の地下二階地下三階はここと同じ牢が並ぶ作りになっていて、地下四階より下は一つの階に一つの独房がある造りになっている。王子が居るのは地下五階で他の独房は現在使われていない。見張りの兵士は囚人が居る階を定期的に見回るんだけど、地下三階にも何人か囚人がいるから下から順に上がってくる形になるんだよ。一度見回ればしばらくは降りてこないから君がここを抜け出すのは僕が部屋に帰ってからだから……そうだね、この後三度目の見廻りが終わった後にしよう。そうすれば君が抜け出したことは余程もたつかない限り気付かれないだろう。それから、ブランキーの件があってから独房には使用されている階一つに対して二、三人の見張り番が居るようになっているんだけど、そこはボクの出番ってやつだ。帰る前に眠らせておくから君は抜け出した後独房の見張りが持っている鍵をコピーして王子を連れ出す。理解は追い付いてる?」

「なんとかですけど……ただ、その独房の見張りを眠らせておくという話ですけど、僕がそこに行くとして、その時までに起きている可能性は?」

「無いね。強めの睡眠効果を持つアイテムを使う。誰かに起こされることがなければ明日の朝まではまず目を覚まさないよ」

「その誰かが起こす可能性は?」

「ここに見廻りに来る兵士は基本的に独房に降りることはない。ただ、そればかりは絶対に無いとは言えないところだね。何もかも確実に、とはいかないってことだ」

「思いっきり他人事ですね……」

「そんなことはないさ。成功すればリスクを負うのは君だけということになるけど、失敗した時にまでボクが無関係だという主張が出来るわけがないんだから」

「それはそうでしょうけど……」

 その場合僕が口封じされやしないだろうな……。

「あと一つ、見張り番が眠っているならわざわざ鍵を複製しなくてもいいのでは?」

「どんな理由があると思う?」

「…………」

 なぜ問い返すのか。なぜにこやかなのか。

 わざわざ僕が使えるかも分からないアイテムを使う必要性があるだろうか。

 あるから言っているんだろうけど……その理由とはなんだろう。

「まあ……使用するにあたって条件または制限があるか、使用することで僕の存在が発覚する恐れがある。の、どちらかでしょうけど先程の説明からして複製することでその条件や制限が無くなった状態になるとも思えないので後者でしょうか」

「大正解。いやー、説明の手間が省けて何よりだよ」

「そう思うならクイズ形式にしないでくださいよ……」

「ボクだって組む相手が馬鹿じゃ困るからね。共倒れの可能性は低いに越したことはないでしょ?」

「共倒れというか、片方が倒れるだけでもそれが僕なのであれば是非遠慮したいんですけど」

「君にも色々言いたいことはあるだろうけど、不満は全部終わってから聞くから今は置いておくとしよう。時間も限られているしね」

「……終わってからじゃ意味無くないですか?」

 しよう。じゃないよ。

 冷静に話をしているように見えて言ってることは随分と勝手な人だ。

 それでも、そんな指摘すらも聞こえていないのか聞く気がないのかAJは言葉を続ける。

「君がここから抜けだし、王子を独房から連れ出したら馬車庫に行ってくれ。場所はここを上に上がって外に出たら壁に沿って外側に進めばすぐだし、馬車が並んでいるのが外からも見えるから分からないということはない。その中に黒い幌の付いた馬車が一つあるからその馬車に王子を乗せて朝まで待つように伝えて欲しい。毛布や食料はすでに積んであるから一晩は過ごすことが出来るだろう。ボクは少し用事があって明日の朝早くに出掛けることになっているからその際にその馬車でその馬車に乗せた王子を一緒に外に連れ出す、というわけだ」

「上に行って、馬車庫に行って、黒い幌、ですか。やるとも言ってませんけど、取り敢えず理解はしました」

 言うとAJは、

「それは何より」

 と、やはりにこりとした。

 問題は僕がそれを引き受けるかどうかだけど、ジャックに意見を求めるわけにもいかず。

 だからといって成功しようが失敗しようが僕にも大きなリスクがある。

 それを犯してまで見ず知らずの王子を助ける理由が僕にあるだろうか。それも今ここで聞いただけの不確実な方法と段取りで。

「ボクに貸しを作っておくと思えば悪いことじゃないと思わない? 君に今後困ったことがあった時ボクが助けてあげることが出来るかもしれないよ? これでもボクは情報通だからね。目に見える形の物がよければお金を用意してもいい」

「だからですね、そういう先々の事よりも明日の我が身を心配してるんですってば。というか、仮に引き受けたとしてもお金なんて受け取りませんし」

「うーん、思っていたより理屈っぽい人間だね君は。言い換えれば利に聡いとも言うのかな? その身を犠牲にしてでもマリアーニ王を救った英雄様だと聞いていたんだけど、見ず知らずの人間の命までは救う気になれない?」

「救えるなら救った方がいいとは思いますけど、事情があまりにも違っているでしょう。命を預けられる程あなたと付き合いが長いわけでもないですし」

 何より利用されていたからといって、その王子とやらが爆弾を仕掛けてクロンヴァールさんを殺害しようとしたことに違いはないはず。

 死刑はやりすぎだ。

 だから助けたい。

 でも自分では出来ないから代わりに頑張って。

 そんな滅茶苦茶な理屈で法を犯さないといけない僕の身になってくれと言いたい。

 そう思ってはいても、AJの言う通りクロンヴァールさんが血の繋がった弟を殺したなんて話を聞きたくもなければ知ったまま黙ってそれをさせてしまうというのはきっと後悔するし罪悪感を抱くだろうことも事実。

 何よりハンバルという男が他人を利用し犠牲にして野放しになっているということも到底納得出来るものではない。

 AJの話ではハンバルが姿を眩ます可能性を考慮して時間が無いと言っているみたいだが、確かに王子が死にハンバルが逃走して全てが終わりでは何の罪も無しに丸一日牢屋に入れられている僕が馬鹿みたいだ。

 とまあ、なんだかんだ言って自分に言い訳をしながら引き受ける理由を探しているあたり普段母さんから『押しに弱い子』と言われたり友達に『口だけシビアなお人好し』だなんて言われている理由を今更にして自覚しそうになってきた感じだけど、AJも他に代わりがいないから僕に話を持ち掛けたのであろうことも考えると……断固拒否ってわけにはいかないんだろうなぁ。

「はぁ……分かりましたよ」

 とんだ貧乏くじだ。そう思うと情けなくなってくる。

 それでも僕が一日をここで過ごしたことに意味があるのなら、それはこういうことなのだと思うことにしよう。

「お、引き受けてくれる気になってくれた?」

「一つだけ条件があります」

「なんなりと」

「万が一見つかってしまった時に、あなたが僕の命を保証すること。これだけ約束してくれればそれでいいです。さすがに死ぬのは嫌ですから」

 元々セミリアさんが来ると知る前には死刑さえならなければひとまずいいか、とか思っちゃってた時期もあったし、死刑と言われた後なんてどうにか逃げるとか考えていたわけだし、それより悪いことにならなければ取り敢えずはよしとしよう。

 AJだって自分のためじゃなく主であるクロンヴァールさんのためを思ってやっていることだし。

 結局セミリアさんに迷惑掛けちゃいそうだけど……ほんと迷惑掛けてばかりだな僕は。

「分かった、約束しよう。失敗しても成功しても、ボクは一度きり君の命を守ることを誓う」

 やっぱりAJはにこりとしながらそんなことを言った。

 その笑顔がどこまで信頼出来るのかを僕は知らないけど、確かに昼に言った通り僕ではない犯人を捕まえるに至らせてくれたのだ。ここは信用しておく他あるまい。

「ほんと、お願いしますよ」

「任せておいてよ。じゃあボクは一度地下に寄って部屋に戻るから、手筈通りにお願いね。この後三度目の見廻りが終わって兵士がここを出て行った時が実行の時だ」

 どこか励ます様な口調で片手を上げ、AJは去っていった。

 随分長々と話をしていた気がするが、やはり時間は分からない地下牢の中に久しく静寂が訪れる。

「はぁ……おかしなことになったもんだよ。ジャックにも話に入ってもらえればどれだけ助かったことか」

 溜息一つ吐いて、僕はベッドに腰を下ろす。

 久しぶりにジャックが言葉を発した。

『俺が間に入ったところで相棒は結局引き受けたと思うがね。お人好しにも程があるぜ? 会ったこともない馬鹿野郎を助けようなんてな』

「やっぱり引き受けるべきじゃなかったと思う?」

『ああ思うね。黙って寝てりゃ明日にも出られたんだ、わざわざ危険を冒すメリットなんざ一つもねえよ。だが、それがお前さんだとも思う。そういう男だから色々頼りにされるんだろうよ。なら相棒はそれでいいんじゃねえかってな』

「結局どっちなのか分からなくなるじゃん、そんなこと言われたら」

『いいんだよ、分からなくて。人から見たって賢いのかお人好しなだけなのか分からねえ、だがその二つを併せ持ったお前さんだからこそ傍に人が寄ってくるんだ。あの小僧は別としてもな。俺ぁそんな相棒が好きだし、口や態度じゃ仕方なくやってる風でもなんだって成し遂げてきたのを見てっからな。お前さんがやるってんなら俺はその意志に沿って口出ししてやるまでさ』

「そう言ってくれるのは嬉しいけど……恥ずかしいから褒めるのはほどほどにお願い出来るかな」

 男が男に。

 否、男がネックレスに好きとか言われた時にどういう反応をすればいいのかを知らない僕は、それでも人から見たら賢そうに見えるのだろうかと、そんなことを思った。


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