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勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている  作者: まる
【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている② ~五大王国合同サミット~】

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【第十四章】 鬼哭啾々

7/15 誤字修正

9/10 台詞部分以外の「」を『』に統一

 ~another point of view~



 二カ国ずつ二つのグループに分かれて向かった水晶の試練。

 人知れず死闘を繰り広げていたユノ、グランフェルト両王国一行とは対照的にシルクレア王国、サントゥアリオ共和国の面々で構成された一団は滞りなく試練と呼ばれる関門を乗り越え、既にサミットの会場である孤島へと帰還している最中であった。

 中でもサントゥアリオ共和国から派遣されている五名は早々に出国し、波に揺られながら帰路を辿っている。

 その船内の一室では船の操縦を任されている兵士を除く四人が一つの机を囲んでいた。

「皆さん、ご苦労様でした。大事なくこの時を迎えることが出来て何よりです、陛下もお喜びになってくれるでしょう」

 全員が席に着いたのを確認したところで最初に口を開いたのはこの派遣隊を率いる若き女戦士だ。

 その名はエレナール・キアラ。

 通称【雷鳴一閃(ボルテガ)】と呼ばれる齢二十三にしてサントゥアリオという大国を守る王国護衛団の総隊長を務める若き旗頭である。

 耳が隠れる程度の短めの金髪に、背に負った金色に光る大きな槍が特徴的な風貌はその名と共に国外にも広く知られている。

 そんなキアラの言葉に最初に反応したのは正面に座る大柄な男だった。

「ワンダーがヘマをしなければより良い報告が出来たのでしょうがね」

 男は人間味の無い冷たい目と表情で、ギロリと正面に座る少年を睨み付けた。

 首筋に斬り付けられた様な傷跡が覗くかなりの長身にがっちりとした体格を持つこの男はヘロルド・ノーマンという先代国王の時代から護衛団に属していた護衛団副隊長の肩書きを持つベテラン兵士だ。

 数年前までは総隊長をしていたこともあり国内でその名を知らない者はほとんどいない。

 その冷血漢ぶりと絶えず口を衝く皮肉や嫌味、冷嘲を怖がっている兵士は多く、まさに今そんな言葉を投げ掛けられた少年もその一人だった。

「ご……ごめんなさい」

 泣きそうな表情で縮こまっている少年は俯いたまま小さな声でそう返すのが精一杯だった。

 若干十五歳でありながら魔法部隊の隊長を任せられているコルト・ワンダーは気の強い方ではない。

 加えて元来部隊長になるだけの器や力を持っているわけでもないのだからその肩書きらしく振る舞えと言うのは無理があることだった。

 種族柄魔法使いの少ない国にあってそれなり(、、、、)の魔法を扱えたというだけの理由で抜擢されただけであることは本人も理解しているのだ。

「ノーマン副隊長、その件は既に終わったことです。いつまでも部下を責めるのは止めなさい。それからコルトも、ミスがあったかどうかは別として、もう少しビシっとしなさいといつも言っているでしょう。オドオドしているばかりでは人はついてこないわ」

 すかさずキアラ隊長が割って入ることで見るに堪えない悪意の眼差しの矛先を変えた。

 叱責も混じってはいたが、それでもワンダーはホッとする。

 持って生まれた能力から連絡係を任せられることが多いワンダーはこの滞在期間中にシルクレア王国勢への連絡でミスをしていた。

 取り立てて大きな問題が生じるようなものではなかったし、国王の代理として隊を率いるキアラ隊長が頭を下げることですぐに解決したものの自分に非があることに違いはない。

 それでも敬愛するキアラ隊長はいつも自分を庇ってくれる。この場に隊長が居なければ間違いなくもっと酷い言葉を吐き捨てられていただろう。

 そんな背景もあってワンダーにとってキアラは近くに居るだけで安心出来る存在であった。

 一方でノーマンは『フン』と嘲笑するように鼻を鳴らしはしたが、それ以上は言わなかった。

 いつだって思いやりの欠片も無い副隊長の言動はキアラ隊長にとって受け入れられるものではなかったが、言って聞き入れる相手ではないことは分かり切っている。

 ゆえに批難したいのを堪え、一睨みするだけに留まり言葉を続けることを選ぶ他なかった。

「ではコルトは陛下へ帰還の連絡を」

「承知しました」

 ワンダーが敬礼を返すと、キアラ隊長は反対側に座る老人へと身体の向きを変える。

「それから御大は報告書の作成をお願いします」

「任されましょう」

 キアラ隊長の言葉に、唯一兵士以外でこの船に乗る老人は人当たりの良い表情で即答した。

 マット・エレッド。

 城に仕える大臣であり、上級大臣という複数いる大臣の中で一番高い地位にいる人物だ。

 齢は六十を超え十年前に一度引退している身であったが、前任の上級大臣が突如辞任したために急遽呼び戻された経緯があり、その経験の長さから他の大臣や兵士からは御大と呼ばれている。

 そのエレッド上級大臣を含めたこの場に居る四人こそが今尚魔王軍や反王国派との争いの続くサントゥアリオ共和国を支え、ジェルタール王を支える国家の中心人物であった。

 一体感が薄い感こそ否めないが、それでも任務を遂行し船は順調に波を越えていく。

 そんな彼等が戦渦の渦に巻き込まれるのは少し先の話である。


          〇


 時を同じくして。

 共に異国で試練を乗り越えたシルクレア王国の一行もまた帰途を辿るべく自国の船の元へ向かっていた。

 真っ直ぐに船へ戻り、そのまま出国したサントゥアリオ勢と時間差があるのは遅い昼食を済ませてからの出航を決めことが理由である。

 昼食を取ることになったのはこの国の王に招かれたというだけの理由でしかなかったものの、一部に相容れない関係性の者達がいることもあり皆で仲良く昼食を、という選択をしなかったサントゥアリオの一行とは違いシルクレア王国上層部の人間関係は大層強固なものがあった。

 全ては若き王国の主、ラブロック・クロンヴァールに対する忠誠心の高さに他ならない。

 女王クロンヴァールが『全ては祖国と世界の安寧ために』という意志を貫いている様に従者達は王に従い、王のために戦い、王の傍にいることを何よりも誇りに思っているからだ。

 そんな世界最強かつ最大のシルクレア王国の面々は他国と同じく国王に選抜された四名を加えての遠征であったが、その五人のトータル戦力値は他国には到底真似の出来ない圧倒的なものがあった。

 強さ、美くしさ共に世界一と名高い【姫騎士】ことラブロック・クロンヴァール女王を除いても戦闘力の序列は変わらない程だ。

 二人の壮年男性と若い男女が一人ずつという、ある意味ではサントゥアリオ勢と似た老若男女入り交じった面子でこそあるが、諸国に知れ渡る強さや武勇伝は比べものにならない。

 世界最強の魔術師であり王室相談役でもある歴戦の勇士【千術導師(ミル・マージ)】ことロスキー・セラム。

 一万にも及ぶ軍のトップに立つアルバート兵士長。

 そんな二人の年長者に加え、その二人に勝るとも劣らない実力を持つ若手が二人。

 女王直属の護衛戦士であり【女王の右腕】の称号を与えられた若き戦士ダニエル・ハイクは背に負った巨大なブーメランに加え、腰に装着した六つのブーメランを武器に戦うことから【六つの翼(セラフィム)】と通称される切り込み隊長だ。

 そして、同じく直属の護衛兵士で【女王の左腕】の称号を持ち【天元美麗蜘蛛(アルケニー)】と呼ばれる糸使いの女戦士クリスティア・ユメールもまた、国内の女戦士では右に出る者は居ない突出した戦闘力を持っている。

 そこに女王を加え、一人の自称地味な存在を含めた個性的な面々は街から馬車で移動し船を泊めている海岸へ向かってその手前にある林の中を歩いていた。

 とりわけ大きな林ではないため馬車を降りて少しした頃には視界の先に船の姿が見え始めていたが、不意に全員の足が止まる。

「やれやれ、予期せぬお出迎えのようだね」

 周囲の気配を探りながら、それでいて特に慌てる様子もなくアルバートが肩を竦めた。

 ただ立ち止まるだけのことでも女王の前後左右に位置取りを変える連携に言葉や取り決めは必要ない。熟練度と信頼が可能にさせる自然な動きだ。

「しかもただの雑魚ってわけじゃねえらしい。つーか数が多くねえか、これ」

 ダニエル・ハイクも同じく冷静に視線を右往左往させつつ面倒臭そうに言ったものの、すぐに大した問題ではないと認識を改めていた。

 基本的に年長者に冷静な人間が多いこともありハイクは敵かそうでないかを自己判断し本能の赴くままに武器を振るうことが自分の役目だと思っている。

 とはいえ性別で分けるならば女性陣に奔放な言動が目立ちがちなため普段は貧乏くじを引かされることが多いため、いざ戦闘となっても衝動より冷静であることを優先させるしっかり者だと頼りにされる人物だ。

「ま、関係ねえ。纏めてブチ殺すだけだ」

「関係無くはないよ、ダン。船のすぐ傍ってことを忘れちゃいけない。僕達が無事でも船に何かあればいささか面倒だ」

 既に気持ちは喧嘩上等モードになっているハイクであったが、すかさずアルバートがそれを諫めた。

 同時に反対側からも罵声が飛ぶ。

「アルバトロスの言う通りです。お前は相変わらず脳みそスカスカ野郎です」

 その様子を見て反射的に便乗したのはクリスティア・ユメールだ。

 同じ女王直属の戦士でこそあるが、二人の仲は良好とは言い難い。

 クロンヴァール王を恋愛感情込みで独占したいユメールにとってハイクは邪魔で仕方がないのだ。

 ゆえに隙あらば食って掛かり、不毛な争いが繰り広げられるのはもはや日常茶飯事と化している程である。

【女王の右腕】【女王の左腕】という二つの称号も本来は逆であったのだが、クロンヴァール王が左利きであることを理由にユメールが無理矢理入れ替えた過去があったりもした。

「クリスちゃん、賛同してくれるのは嬉しいけど僕の名前はアルバートだからね? そろそろ長い付き合いなんだからいい加減覚えてくれないかな」

 呆れ顔のアルバートを二人は当たり前の様に無視し、ハイクはむしろ応戦し始める。

「アルバートの旦那は船を守る。ユメ公は敵をぶっ潰す。俺はユメ公をぶっ飛ばす。完璧な役割分担だ」

「ドヤ顔をするなです。何を急に三つ巴の戦いを繰り広げようとしてやがりますか。そんなに死にたいなら一人で勝手に死んでろです」

「お前が死んでろ」

「お前が死んでろです」

「死ね」

「死ね」

 当初の配置をあっさりと放棄し、ハイクとユメールは顔を突き付け合って睨み合う。

 また始まったよ……と、呆れるだけのアルバートの代わりに割って入ったのはロスキー・セラムだった。

「いい加減にせんか二人とも、敵に囲まれておる状況だというのに。姫様も笑っとる場合か」

「はっはっは、そう言うなロス。私には仲の良い(、、、、)兄弟が居ないのでな、二人のこういった姿は微笑ましくて好きだぞ」

 クロンヴァール王はそれでも愉快そう笑う。

 ほとんどこの場に居る者にしか分からない様な皮肉こそ含まれてはいたが、王でありながら二人のことを本当の弟妹のように思っていることは事実だった。

 そんな王の姿を見てセラムも呆れるしかなかったが、それでも。

「だがまあ、いつまでも足止めを食っているのも癪だな」

 表情を正して真っ先に武器を抜いたのは他の誰でもないクロンヴァール王だった。

 二人を止めようとしたセラムも含め誰一人として危機感を抱いていないのは例え上級モンスターがどれだけの数で襲ってこようとも髪の毛一つすら失う心配をしていないからに他ならない。

 だからといって王が自ら武器を取るというのは本来あるべきことではないが、このラブロック・クロンヴァールは一国の王でありながらロスキー・セラムと並んで世界で何番目に強いかというレベルの戦士だ。

 その女王が自ら剣を振るおうとするのであれば従者達はその意志にすら従う。それがシルクレア王国の中心たる者達の信念だった。

「出て来い下賤な賊ども!」

 腰から剣を抜き取るとクロンヴァール王は全開の殺気を放った。

 するとまるで誘い出される様に潜んでいた魔物達が地中から姿を現し、五人を包囲していく。

 剣を持ち、鎧を身に着けた大量のゾンビの兵隊が瞬く間に五人を四方八方の全てから囲んでいた。

 その数は五十。戦闘力の高い、紛れもない上級モンスターだ。

「なんだってこんな所にゾンビソルジャーがいやがるんだか。つーか思ってたより多いなオイ、一人で大丈夫か姉御?」

 自分の出番が無さそうだと察したハイクは少々面倒臭そうに辺りを見回した。

 その心配は王女の身に対するものではなくただ単に骨が折れそうだというだけの意味でしかなかったが、それを分かった上でクロンヴァールは不敵な笑みを浮かべる。

「少々手荒にいかせてもらうさ。お前達、じっとしていろ」

 自身と自負に満ち溢れたクロンヴァール王は一言告げ、左手の剣を逆手に持ち替えるなり足下へと振り下ろした。

 通称魔法剣。

 使い手は世界にただ一人の魔法陣と剣術の合わせ技が発動する瞬間だ。

 剣の刺さった位置を中心点にして地面には大小二つの白く光る円形の魔法陣が浮き上がる。

 その一つ、内側の円はちょうど五人だけを囲むような小さな物だ。

 この魔法陣は結界であり、内側に居る者に危害が及ばないようにする効果がある。

 そして外側の円は五十体のゾンビソルジャー全てを囲むように計算されており、その魔法陣の直径は内円の数倍にも及んでいた。

 全てのゾンビソルジャーは小さな円の外側であり大きな円の内側にいる。

 その二つの魔法陣に挟まれた位置にいる者が攻撃対象となるその術を、クロンヴァール王は発動させた。

螺旋縫雷(ベガルタ)

 その瞬間、術者であるクロンヴァール王を中心にして二つの魔法陣の間に凄まじい竜巻が巻き起こる。

 林の中でなければ家屋ごと吹き飛ばしてしまうレベルの威力の巨大な爆風が渦を巻くように天高くまで登っていった。

 その技の名の通り螺旋を描き、その竜巻を縫うようにバチバチと音を立てる稲妻が様々な位置で光を放っている。

 轟音を響かせる巨大な竜巻は上空まで立ち上ると次第に縮小していき、やがて完全に消えてなくなった。

 残った光景に敵の姿は一体すらもない。

 それどころか五十体のゾンビソルジャーに留まらず周辺の木々すらも消し去ってしまっている。

 内側の魔法陣、すなわち結界の中に居たおかげで竜巻の中心に居ながらも術の影響を受けなかった四人も、初めて目にするわけではないのにも関わらずその威力に度肝を抜かれていた。

 これだけのレベルの術を複数扱える人間が他にいるだろうか、と。

 我らが主は間違いなく世界最強であると、そう再認識させるだけの光景だった。

「ご苦労様です、姫様」

 剣を収めたクロンヴァール王にアルバートが寄っていく。

 それに対し女王は肩を竦め、何事もなく鼻で笑った

「一体ずつ片付けるのも面倒だ。とはいえ、少々やり過ぎたな」

「そうだぜ姉御、林の一部が平地になっちまってんじゃねえか。これじゃ後から文句言われるぞ」

「心配するなダン。魔族の襲撃を受けたのだ、不測の事態ということで納得させるさ。後で伝書を飛ばしておけばそれで済む」

「そうだそうだ、です。ダンはつまらない事を気にし過ぎです。さっすがお姉様♪ ってことで全部納得しやがれです」

 敵襲を難なく乗り越えたにも関わらず、ハイクとユメールは再び睨み合う。

 女王は見ているばかりで、難聴者であれどアルバートの注意を聞く二人ではない。

 必然的に仲裁する役目に落ち着いているセラムが割って入ろうとしたその時、この場にあるはずの無い音が辺りに響いた。

 パン……パン……パン……と、何かを叩く様な音が不自然な間隔で何度も、繰り返し。

 発生源が背後であることに最初の音で気付いた五人は反射的に振り返る。

 その視線の先には、一つの人影があった。

 クロンヴァール王の魔法によって木々の消し飛んだ林の奥からゆっくりと自分達の方向へ歩いてくる何者かは、頭部や手足を含めた身体の全てを真っ黒な甲冑で覆っている。

 外からは肉体が一切見えず、人間であるかどうかも判断出来ないその人影はやけに長い間隔の拍手をしながら、それでいて一言も言葉を発せずに少しずつ近付いてきており、全貌を把握すると同時に音の正体が手を叩く音であることを誰もが理解した。

 全員が武器を構え、その真っ黒な人型の何かへと向けている。

 剣先を向けたクロンヴァール王は制止と警告を投げ掛けようとしたが、先に口を開いたのは黒い騎士だ。

「お見事お見事、さすがは姫騎士といったところだなぁオイ。まさか瞬殺とは恐れ入る」

「貴様、何者だ」

 謎の男はそこでようやく足を止めるも、五人の警戒は微塵も緩みはしない。

 しかし、クロンヴァール王の問い掛けに答える男の声色にも全くと言っていい程に危機感はなかった。

「オレか? オレ様はエスクロってンだ、以後見知りおいてほしいねぇ」

「……エスクロ? どこかで聞いた名だな」

 クロンヴァール王はここか引っ掛かりを覚え、考える素振りを見せる。

 その答えを先に口にしたのはロスキー・セラムだった。

「姫様よ、先日のAJの報告にあった魔王軍四天王とやらの情報にその名前があったろう。【呪い師バジュラ】【溶岩獣マグマ】【蟲姫シオン】そして【漆黒の魔剣士エスクロ】それが奴等の名前だという話だ」

「そうだったか、小物などに興味が無いせいですっかり忘れていたわ。だが、その魔王軍四天王とやらが一体何の用だ」

 クロンヴァール王は一度剣を下ろした。

 相手は丸腰、一見すれば戦闘のつもりは無いともとれる。

 魔王軍の一員を名乗る以上は生かして帰すつもりなど到底なかったが、何か企みがあってのことかもしれない。男の軽薄な態度はそう思わせた。

「なぁに、チョイと部下との待ち合わせまでに時間が出来そうだったンでな。お前がここに居ると聞いて、その部下に兵隊借りてチョッカイ出しにきたのさ」

「ここに居ると聞いた? 我々が今日この国に居ることを知っている者は外部には存在しないはずだが?」

「その知るはずのない情報を知ることが出来る奴も居るってだけの話だろう。情報源はアリフレートって小娘だが、ありゃ中々に便利な能力だぜ?」

「そうか、だがその女が何者であるかに興味はない。お前はその女のせいでここで死ぬのだからな」

「オイオイ、何ヤる気になってンだよ。オレはお前等とヤり合う気はねぇンだ、音便に済ませようじゃねえか」

 エスクロと名乗る男は戦闘の意志はないとアピールする様に両手を広げる。

 しかし、向かい合う五人の誰一人として殺気を収めることはなかった。

「お前達は手を出さなくていい。ちょうど物足りないと思っていたところだ、私が相手をしてやろう。四天王とやらの強さがどの程度のものか、見せてみろ」

 再びクロンヴァール王は左手の剣を真っすぐに男に向けた。

 その姿にエスクロはやれやれと首を振る。

「今お前とガチでヤり合うのはボスに禁止されているんだが、そうもいかねぇらしい。仕方がねぇ、少しだけだ」

 ほんの少しばかり、遊んでやるよ。

 そう言うと、エスクロは右手を前にかざした。

 次の瞬間、何も持っていないはずの手に武器が出現する。背丈と同じぐらいの長さがある、三つ叉の穂をした黒く派手な銀色の装飾が施されている槍だった。

 エスクロのそんな姿を見て、クロンヴァールは小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。

「はっ、魔剣士などとふざけた二つ名を持っておきながら槍を扱おうとは笑わせる」

「細けえ事を気にする奴だなオイ。どっちも刃が付いてンだ、剣でも槍でも大した違いはねえだろう。そもそもオレは剣士と名乗った覚えはねえンだよ。コイツを使う程の相手に恵まれなかったンでナマクラ使って戦ってたら勝手にそう呼ばれていただけの話だ」

「ほう、つまりそれが貴様の本来の武器だと?」

「そういうこった。【黒炎聖槍セイクリッド・オブ・ヘルフレイム】オレ様の真の武器にして最強の(ゲート)だ」

「……(ゲート)? 何を言っている」

「知らねえならそれで終わる話だ。ほんの少しの戯れだ、精々楽しませてもらおうか」

「心配はいらん。時間制限などしなくとも、一撃で終わらせてやる」

 ニヤリと。嗜虐的な笑みを浮かべるとクロンヴァール王はエスクロに向けている剣の先で大きな円を描いた。

 その円は光る輪となって空中に浮かび上がり、やがて魔法陣へと姿を変える。

穿戟覇王陣(ガロ・インペリア)

 魔法陣が形成されると同時に、クロンヴァール王はその魔法陣に向けて鋭い突きを放った。

 一撃で終わらせる。

 その言葉を実現するべく繰り出した、単体攻撃において最強最大の威力を持つ技だった。

 突きが魔法陣に触れると同時に爆音が鳴り響くと、魔法陣の効果によって本来の百倍の威力へと変換された斬撃が巨大な槍状の衝撃波へと形を変え、一瞬にしてエスクロはおろか周囲の木々と地面を飲み込んでいく。

 地面は削れ、木々は消し飛び、その攻撃の通り道だけが何も無かった空間であるかのように林を割った。

 長く大きな衝撃波が姿を消すと、辺りからはパラパラと砂埃や舞い散った枝、石の欠片が地面に落ちていく音だけが聞こえてくる。

 しかし、触れた物全てを跡形もなく消し去ったその攻撃の通り道にあって、唯一その人影だけは攻撃の前と変わらずに立っていた。

「流石に効くねぇ。こんなに痛てぇ思いをするのは久しぶりだぜぇ?」

「馬鹿な……」

 立っていたどころか、平然と言葉を投げ掛けてくるエスクロの姿にクロンヴァール王は言葉を失う。 

 それは後ろに控える四人の従者達も同じだった。

 あの攻撃をまともに受けて五体満足である者など居るはずがない。

 避けたり防いだりした様子もなかったはずだ。

 ならば何故立っていられる。

 ただただそんな心境だった。

 実際にはエスクロの持つ武器の性質上この類の攻撃に対するダメージを大幅に減らす事が出来るがゆえのことであり、平気そうに振る舞っていてもそれなりにダメージを負っていはいたが、それを知る由もない五人はここにきて初めて危機感というものを抱きさえした。

「今度はこっちからいかせてもらうぜぇ? 狩りの時間だ!」

 五人が目の前で起きた事に対して頭を巡らせる中、すかさずエスクロは地面を蹴った。

 その動きに反応したクロンヴァール王も同じく地面を蹴り、両者が激突する。

 合計七度、剣と槍をぶつけ合い互角の攻防を繰り広げると一つの陽動を挟んでクロンヴァール王は左頭部に向けて突きを放った。

 敵は顔面も甲冑で覆われている、ならば左右の視界は通常よりも悪いはずだ。

 そんな読みを踏まえた上での攻撃だったが、その攻撃はあっさりと三つ叉の穂で受け止められる。

 またしても武器同士がぶつかり金属音が響いたその瞬間、エスクロの槍から実体のない真っ黒な煙のような何かが現れたかと思うと放った突きによって伸びきったクロンヴァールの腕へと伸びた。

 その異様さに気付いたクロンヴァール王はすぐに距離を置くべく後方に飛び退いたが、完全な回避には至らない。

 あれに触れるのはヤバい。

 直感でそう判断しての行動であったものの、クロンヴァール王は着地と同時に苦痛の表情を浮かべて腕を押さえていた。

「ぐっ……」

 利き腕に走る激痛に思わず剣を放しそうになりこそしたが、それをしてしまう程に未熟な剣士ではない。

 どうにか腕に力を込め、次の行動に備える姿勢を取る。

 だがエスクロに追撃を掛けてくる様子はなく、それどころか構えまで解いてただ笑い声を上げるだけだ。

「クックック、良い勘をしているじゃねえか。コイツは地獄の業火だ、まともに触れりゃタダじゃ済まなかったぜ?」

「地獄の……業火」

 クロンヴァール王は反復する。

 あの黒いものは炎だったというのか。

 掠っただけでこの激痛だ、確かにまともに触れればただでは済まなかっただろう。

 ではどう戦うべきか。

 そんな事をひたすらに考えていると知ってか知らずか、未だ向かい合った態勢のままエスクロは手に持った武器を消し去った。

「せっかく楽しくなってきたンだが、残念ながらここまでだ。これ以上はこっちも我慢が効かなくなる、この辺にしておくとしようじゃねぇか。楽しかったぜぇ、ラブロック・クロンヴァール。また会えた時は是非続きをヤりたいもンだ」

 どこまでも愉快そうな声音で一方的に言い残すと今度はエスクロ自体がその場から姿を消した。

「お姉様っ!」

 刺客が居なくなり五人だけが残されると見守っていた従者達はすぐに主の元へ駆け寄った。

 我先にと傍に寄ったユメールはクロンヴァール王の腕を持ち上げダメージの状態を確認する。

「お姉様、腕をっ」

「そう取り乱すなクリス。大した怪我ではない」

 そう答えてはみたものの、当然ながら軽くはない痛みが残っていた。

 ユメールもそれで引き下がることはなく回復魔法を腕に当て続けている。

 そんな姿を横目に一つ息を吐き、クロンヴァール王はロスキー・セラムに問い掛けた。

「ロス……お前なら、奴に勝てたか?」

「あれだけの時間で、ということならまず無理だろうな。全てを犠牲にする覚悟で挑んで五分といったところか」

「地獄の業火、か。厄介な能力だ」

「あれが魔王軍四天王とやらの実力となると、笑い話にもならんぞ。あのレベルの敵が他に三体いて、その上に大魔王がいる。それは我らの認識を大きく揺るがせる事実だ」

「どうやら、平和な世界というものはそう簡単に手に入れられるものではないらしい。だが、それを手に入れるのが私達の使命だ」

 ほとんど独白の様に呟いてクロンヴァール王は治療をしていたユメールの手を握り、腕から遠ざけた。

 そして剣を鞘に収めると傍に控えている二人に向き直る

「アルバート、ダン、すぐに出航の準備を済ませろ。島に戻った後も、国に帰った後も、忙しくなりそうだ」

「「御意」」

 名を呼ばれた二人の従者はすぐにその場を離れていく。

 こうしてシルクレア王国の一行もサミット会場のある島へ戻るべく再び帰路を辿ることとなった。

 そこに確かな、敗戦に似た後味を残して。

 


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