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勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている  作者: まる
【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている⑫ ~Road of Refrain~】
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【第十二章】 天の国へ


 一通りの挨拶や顔合わせを済ませた僕達は九人という大所帯と化して城を出た。

 ぞろぞろと歩いて向かう先は天界に向かうためのツールである天門の設置されている場所だ。

 このフローレシア王国、城の正面には家屋や田畑の群れが点在しているが裏手には建物一つ無い。

 遠くには以前サミュエルさんやラルフと再会した研究所跡であったり何かしらの神殿らしき施設も見えているが、その付近には人が居住している形跡も無く、見る限りでは城の周辺に人口が集中している感じである。

 それでいて裏門からは高い塀に挟まれた通路が二、三百メートル続いており、その先にある階段を上った先に天門が存在しているとのことだ。


「ところで、皆様が一斉に不在となって国の守りは大丈夫なのですか?」


 目の前を歩くナディアは自ら話を振って守護星の面々と打ち解けようとしている。

 さすがは一国の代表というか、人の前に、上に立つ立場というか。

 生憎と僕は全然そんな気になれないので助かるとしか言えない。

 以前の旅が酷い扱いだったというのも勿論あるけど、それよりも前提として別に僕は社交性に富んだ性格じゃないので致し方あるまい。

 日本でも友達が多い方ではないだろうし、進級したからといって新たな人間関係を自ら作ろうと行動する質でもない、そういう人間なのだ。

「ああ、大丈夫大丈夫。あのラブロック・クロンヴァールがここにいる以上こんな国に攻めて来る奴なんていないさ。唯一可能性があるとしたらアルヴィーラ神国だけど、おっさんもそれに備える意味で入国を許可したらしいし」

 相変わらず無礼とフレンドリーの境目が曖昧なキースさんは敬意の欠片も無いが、ナディアに限らず特に気を悪くする者はいなさそうだ。

 こういう性格だから大目に、というのはどこででも通用する理屈ではないのだろうけど、だからといって僕自身が周りの兵隊さんや民間人に畏まられるのが嫌いなので誰も彼もが口調や態度、仕草一つに気を遣っている環境よりは余程マシに思える不思議。

 そんなことを思っていると、ふと右手を誰かが握った。

 ナディアは目の前を歩いている。

 ではそんなことをするのは誰かと視線を落とすと、眼帯の女の子ことシロがそこにいた。

「……コーヘ」

 見上げる顔は、残念ながら上半分がほとんど隠れているためそれだけで心情を推し量ることは出来ないものの声音や雰囲気からは柔らかさや穏やかさが伝わって来る。

 どうやら、彼女はまだ僕のことを友達だと思ってくれているままであるらしい。

 そういった認定をされたのは先述の理由からで、それゆえに守護星の四人の中では一番……というか唯一僕の味方までしてくれて、とても救われた気持ちになった記憶もどこか懐かしい。

 のだが、この国という特殊な生い立ちやノワールさんのおかしな教育? のせいもあって友達というカテゴリーが少々変わっているのが中々に悩みの種でもある。

 まあ、そんな思い出は今は置いておくとしよう。

 こんな所でそんな話をしようものなら皆に何を言われることやら。

「久しぶりだねシロ、元気だった?」

「ん、そこそこ元気。コーヘも、元気そう。よかった」

 そんな再会のやり取り。

 消極的だと言った傍からどの口が言うのかという話ではあるけど、また一から人間関係を構築するのは大変なのでこちらとしてもありがたい限りである。

 うん。それはいいんだけど、ほぼ全員にものっ凄い見られているのが気まずいね。

 エルはジト目で、どちらかというとシロに対する対抗心みたいな感じだし、ナディアと何故かノワールさんに至ってはショックを隠せないといった具合の ∑(゜□゜;)(こんな顔)でこちらを見ていた。

 この場においては別に友達と再会の挨拶をしただけで何も驚かれる様なことは無いはずなんだけど、ノワールさんは前回一緒だった時もシロを取られた、みたいなリアクションが多々あっただけに今回もそういう意味なのだろう。

 別に取る気はないし、だからといってここで突き放す方がおかしな話だと思うんだけど……そういう理屈は通じなさそうだ。

 ナディアはまあ、うん。そこは自分のポジションなのに、みたいなことなのだろう。

 どうあれ言い訳をするのも逆効果な気しかしないし、そんな理由でシロに離れてくれというのもどうかと思うのでここは気付いていないふりしかないな。

 正直……そうしたい一番の理由はエーデルバッハさんなんだけどね。

 ギロリという擬音が聞こえてきそうなぐらいに睨んでいるもの。

 シロに何をした、みたいな意思がはっきりと表情に浮かんでいるんだもの。

 そりゃお国柄と同じく自分達四人(レイラを含めると五人か)かそれ以外か、という分類で生きてきたのだろうからその人間性を非難するのはお門違いと思ってはいるけど、それにしたってもう少し柔軟性は持っていただきたいです。

 そうこうしている間に件の階段まで辿り着いた。

 こちらは数メートルの長さしかなく、いかにも頑丈そうな太い鉄格子で囲まれていて厳重に人避けが施されている。

 その一端が開閉する仕様になっており、先頭で中に入っていくエーデルバッハさんに続くとそこには二つの人影と半ば予想通りの珍妙な光景が広がっていた。

 いつ見ても意味不明という以外に感想もない、いつか見た【異次元の悪戯(ラーク)】と同じで扉だけがそこに立っているという摩訶不思議な有様だ。

 事実としてこの天門も、そのラークの奥にある扉も、天界へと通じている。

 ゆえに僕達はここにやってきたわけだ。

 そして扉の脇に立つのは二人の見覚えある人物。

 一人は言わずもがなクロンヴァールさんことラブロック・クロンヴァール女王だ。

 肩に届かないぐらいの真っ赤な髪の毛と肩から胸に二本のチェーンがぶら下がっている高貴さ溢れる煌びやかな白い服、赤く短いスカート、そして服の肩の部分に縫われている赤いマントに腰にはキラキラの鞘に収められた宝剣。

 凛々しさが表情のみならず全身から溢れんばかりの天姿国色と言う他ないアイミスさんと同じレベルの美形の究極態みたいな恐ろしく綺麗な外見といつでも己の意志に対する絶対的な自信を感じさせる凜とした表情、佇まいまでが代名詞と化している完璧超人こと世界の王その人である。

 そしてもう一人はアルバートさん。

 フルネームは知らない、というか随分前に聞こうとしてお茶を濁された感じがしたのでそれ以来触れずにいるままでいる。

 歳は三十代半ばかもう少し上かといったところで兵士長という立場上のことか、部下の兵士と同じ格好の人が良さそうな長髪のおじさんという印象が強い常識人で連合軍の時も右も左も分からない僕にあれこれと指導してくれたりもしたとても良い人である。

 当然の挨拶としてぺこりと頭を下げるも、やっぱり同じ様にしたのはナディアとウェハスールさんだけだった。

 ナディアは代表として、王と王の間柄として、マクネア王の時と同じく丁寧な挨拶を述べ、従者であるウェハスールさんは勿論許可無く口を開いたりはしない。

 こういう場面に立ち会う度にどちら側の態度でいるべきなのだろうかと迷う僕であった。

「久しいなコウヘイ」

 と、こういう具合で大抵の場合は相手側から声を掛けてくれるので助かる反面、逆にそんな疑問の答えが見つからないまま時が過ぎていくわけだ。

 クロンヴァールさんはナディアとの会話が途切れるなり僕の方へ寄って来る。

「ご無沙汰しております。お元気そうで」

「そう嫌味を申すでないわ」

「いえ、そういうつもりは全く……」

 確かに最後に会った時には床に臥せっていたけども。

 僕がそんな意趣返しをするはずがないじゃない?

「真に受けるでない馬鹿者。わざわざお前に会うために参ったというに」

「そうなんですか?」

「マリアーニ王の強い推薦があったので話は早かったがな。なければ私からお前を同行させるよう勧めるつもりだったのだ」

「な、なるほど……」

 つまりは天界への遠征に行くのがジャックやアイミスさんであれクロンヴァールさん達であれナディア一行であれ僕はほとんど参加決定みたいな扱いだったのか。

 信頼を勝ち得えつつあることを喜ぶべきか、どんどん知らない所で勝手に話が決まっていく頻度が増えていくことを嘆くべきか。

 しかしまあ、天鳳の時はナチュラル戦力外だったことを考えると出世したもんだよ。

「して、聖剣は結局来なかったのか」

「最後まで迷っていましたけどね。国家間の取り決めを私情で破るわけにはいかないと、諦めることにしたみたいです」

「なるほど、生真面目な彼奴らしい。それでも強行しこの場に現れたならば大目に見てやるつもりでいたのだがな」

「え? それはまた意外な」

「どこまで冷血漢だ私は。戦力にならぬ者ならまだしも、夫婦の絆まで捨て置けと断じる程人心を捨てたつもりはないわ。もっとも、二人の妻に挟まれていてはお前がやり辛かろうがな」

 クロンヴァールさんは『はっはっは』とわざとらしく愉快そうに笑っている。

 なんとまあ仕返しの早いことか。

 そんなつもりは本当に無かったというに、先程の嫌味のお返しだなこれは。

 とはいえそこを突かれると僕には返す嫌味や皮肉も思い付かない。

 そのせいか、隣に立つナディアが僕の腕をぎゅっと抱いた。

 クロンヴァールさんを見上げる表情は穏やかでこそあったが、あの頑なに引き下がりませんと言わんばかりの時と似ていて、さながら所有権を主張しているかの様だった。

「さて色男。戦力としては申し分ないが、どうにもまとめるのが難儀そうな面子だ。それでも我々はマリアーニ王とお前に全てを託すと決めた。この期に及んで間に合わせの激励など送らん、くれてやる言葉は一つだ。成し遂げて見せろ、お前にならば可能だと私も疑ってはいない」

「ご期待に背かず、皆が無事で帰って来るために自分の出来る全てを注ぎます」

「よし、ならば話は終わりだ。行ってこい、人類の未来を左右する戦いへ。そして勝利をその手に掴め、何があろうとも」

 クロンヴァールさんに誘導される様に、僕も視線をナディアに向ける。

 目が合ったナディアはこくりと頷き、天門の前に移動すると静かに両手を翳した。

 すると天門は突如として光を帯び始め、数秒と経たずに鍵も何も見当たらないドアノブの部分からガチャリという音が聞こえてくる。

 ラークのあれは鍵で開くのに対し、まるでこっちの扉はこの方法でしか開かないと言わんばかりだ。

 それゆえにナディアは天界勢力にとっても特別な存在で、そのためのファントム・ブラッドなのか。

「さあ皆様、進むとしましょう。天の世界へ」

 振り返るナディアの言葉に異論を唱える者はいない。

 それでいて自ら扉に手を伸ばそうとする主君を制し、レイラが率先して戦闘を切って開かれた扉の奥へと進んでいく。

 ぞろぞろと守護星、エルがそれに続き、やはり僕とナディアとウェハスールさんだけが最後にもう一度クロンヴァールさん達に一礼し、最後尾で扉を潜った。

 開きっぱなしという状態にならない仕様なのか、背後でガチャリとドアの閉まる音が聞こえる。

 だがそれよりも天界に足を踏み入れたという警戒心や非現実感が周囲へ注意や関心を向けているためそれを気にする余裕は無かった。

 ただの鉄の枠が何故そうなっているのか、瞬間移動さながらに鉄の檻に囲まれていた風景は既にここにはない。

 ただ周囲全てが見通せる建物一つ見えない土の地面が広がっているだけだ。

 天界という名称や神がいるという情報からくるイメージでは雲の上とかにある天国的な世界観を想像出来るのだろうが、実際には全然そういう感じではなく所々に木々などの自然も見えている長閑で静かな何も無い土地があるだけだった。

 目が塞がっているシロがどうなのかは分からないが、皆も一様に周囲を見渡し物珍しそうな感想を漏らしている。

 瞬間移動用のアイテムがある以上は一変した景色に対する驚きではないだろう。

 どちらかといえば『ここが天界か~』とか『思ったより普通だな』みたいなニュアンスが多い。

 確かにそう思うのも無理からぬことだろうけど、それよりも不思議なことが一つ。

「……王子? どうなさったのです?」

 そんな心の内が表情に出ていたのか、やや呆け気味に一帯を見渡す僕の顔をナディアが覗き込んだ。

 どこかきょとんとした顔が見上げている。

「ああいや、今通ったフローレシアの天門も、ラークの中にある扉も同じ場所に繋がっているんだなぁと面食らっていただけだよ」

 果たしてそれもどういう理屈なのやら。

 というか、それはまだいいとしても帰りはどうなるんだ?

 よもや出口として使った場合にはどちらに帰還することになるかは分からないなんて仕様ではなかろうな……。

「お、王子……」

「どうしたの?」

「あの……どうしてそれをご存知なので?」

「ご主人様はラークの中の天門を通ったことがおありなのですか?」

 ナディアに続いてレイラもどこか驚きの表情を向けている。

 その言葉を聞いて初めて、自分がおかしなことを言っているという違和感が脳裏を駆け巡った。

 途端に視界が揺れ、体から力が抜けていく。

 無意識に膝が折れ、よろめき倒れそうになるの反射的にぎりぎりのところで堪えていた。

「王子っ!?」

「ご主人様!」

 慌てて二人に支えられ、そこでようやく踏ん張った足が間隔を取り戻していく。

 なんだ今のは……まるで体が思考するのを拒絶したみたいな、奇妙な感覚だ。

「う……だ、大丈夫です。少し立ち眩みがしただけですから。それよりも……どうして僕はその事実を知っているんでしょうか? どうして、僕はこの光景に覚えがある?」

 何かが……おかしい。

 どう考えても、勘違いでも記憶違いもない。

 いや、ここ数日何度か抱いたそんな結論すらも……本当にそうなのかが疑わしくなってくる。

「弟、大丈夫っ?」

「コウちゃん……体調が悪かったんですか?」

「おいおいどうしたよ」

「軟弱物め」

「……コーヘ」

 皆が心配そうに集まって来る。

 いや、一人だいぶ違うニュアンスが混じっていた気がするけど。

 馬鹿か僕は……出鼻からこんなでどうする。

 戦闘になれば大抵がお荷物になってしまうというのに、それ以外の場面で情けない姿を晒してどうする。

「ご心配なく、少しばかり眩暈がしただけなので体調に問題はありません。それよりも……敵襲に備えてください」

「敵襲だぁ?」

「ここに敵がやってくるとでも?」

 キースさんとエーデルバッハさんが怪訝そうにしている。

 僕だって自分でそう思っているさ。

 なぜ見たことのないはずの景色に見覚えがある?

 なぜ初めて来たはずのこの地で思い出の様な光景が脳裏に浮かぶ?

「男が……男が一人、偵察に来る……はずです。そう、牛に……空飛ぶ牛に乗った男が……」

 そしてなぜ、僕はそんなことを知っている?


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