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勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている  作者: まる
【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている② ~五大王国合同サミット~】

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【第五章】 五大王国

※11/9 誤字修正

 5/12 台詞部分以外の「」を『』に統一


「勇者様、島が見えました」

 セミリアさんと二人肩を並べて海を眺めつつ話をしながら過ごすこと約一時間。

 僕達の乗った船はあの超巨大イカをセミリアさんが瞬殺してからは特に何事も無く平和な運行を続けていた。

 そんな中、ふと一人の兵士が駆け寄ってきたかと思うとセミリアさんに報告を一つ。どうやら目的地が近付いてきたようだ。

「分かった。私の仲間達に知らせてくれるか、王の所へは私が行こう」

「はっ」

 やはり敬礼をもって返答とする兵士が去っていくのと同時に船の前方に目を向けると、遠くに小さな島が薄っすらと見えた。

 結構な距離から見ていることを差し引いても相当小さな島だと思えるが、あんな小島に今この船に乗っているだけで三百人、プラス他の国の人達が集まるような会場があるというのだろうか。

「コウヘイ、間もなく到着する。皆にも船を降りる準備をするように伝えてくるが、お主はどうする?」

「僕は特に準備も無いのでここで待っていることにします」

「そうか、では私はみんなを連れて来るとしよう。また後ほどな」

「はい」

 セミリアさんは下へ降りていく。

 このタイミングでまた化け物が現れたらどうしよう、なんていうのは心配し過ぎとも言えないのがこの世界である。

 しかしまあ、結局やっつけてしまうのがセミリアさん一人なのだから我ながら情けないものだ。

 そりゃセミリアさんみたいに、とはいかなくとも前回も結構な化け物ばかり相手にしてきているし、多少の危険や恐怖には怯まない気でいたのも事実。

 今回は危険度も少なそうだし、多少は役に立たないと来た意味も無いなぁなんて密かに思っていたんだけど、あんなサイズじゃ精神論なんて関係ないもの……。

「コウヘイ様」

 ちょっぴりの自己嫌悪と反省をしながら引き続き海原を眺めていると、背中から僕を呼ぶ声がする。

 振り返ると、船員の手伝いとして厨房で兵士達の軽食を作っていたミランダさんとステイシーさんがいつの間にか後ろに立っていた。

「ミランダさん、ステイシーさん、お手伝いは終わりですか?」

「はい。今しがた片付けも終わったところです。コウヘイ様、お側に居られず申し訳ありません」

「全然気にしないでください。僕の傍に居るよりキッチンでお手伝いしていた方が何倍も有意義な時間の使い方だと思いますし」

 景色を見ていただけの僕の傍に居てもやることないでしょうに。

「でも、もう到着するみたいですしお二人の休む時間がないですね」

「わたし達は平気ですよ。ね、アルスさん」

 明るく元気で前向きなのが売り(だと勝手に僕が思っている)のミランダさんは胸の前で拳を作り笑顔で答える。

 しかしステイシーさんはどこか浮かない顔で僕をみたかと思うと、

「そんなことよりコウヘイ様、ミランダだなんて随分と親しげに呼ぶようになったのですね。私のことはステイシーさんだなんてお呼びになるのに。やっぱり……コウヘイ様も若い女性の方が好みですわよね」

 目頭を押さえながら泣きそうな顔でそんなことを言った。

「いや……別にそういうわけでは」

 どうして急にそんな話になるのか。

 というかどうしよう、これ僕が泣かせた感じになってない? 

 と、周囲の目を気が気になるわステイシーさんに掛ける言葉が見つからないわで八方塞がりでいると、ミランダさんが人柄や小柄な体格、温厚そうな顔立ちのせいで怒っているのか拗ねているのかはっきりしない剣幕で僕を庇うように前に立った。

「もうっ、アルスさん。コウヘイ様にまでそういうことしないでください」

「え……どういうことですか?」

「アルスさんはこうやって男性をからかうのが好きなんです。コウヘイ様も本気にしないでくださいね」

「ミラったら、人聞きが悪い事を言わないで欲しいわ。バラしてしまったら面白味がないじゃないの」

「面白味って……」

 このステイシーさんは見た目通り言い訳したり誤魔化したりしない人らしい。

 だからといって悪びれないのはどうかと思うけど……。

「コウヘイ様、あまり誤解なさらないでくださいね。ちょっとした趣味みたいなものというだけですわ。人を困らせ……からかうのが」

「……今、困らせるのがって言いかけませんでした?」

「気のせいですわよ。それとも、コウヘイ様は私が嘘を吐いていると仰るのですか? 酷い……」

「いくら僕でも今の話を聞いてその顔に騙されるわけがないじゃないですか」

 呆れながらの指摘に対し、ステイシーさんは目を押さえていた手をスッと離した。

「城の兵士達はこうすれば何でもお願いを聞いてくれるのですが、さすがはコウヘイ様。凡人とは違って一枚上手のようですわね」

「そんなことで褒められても……」

 王様や僕に対して従順な様に見える二人だけど、いかにも滅私奉公という感じのミランダさんと違ってこのステイシーさんはどうもくせ者の気があるらしい。

 あまり持ち上げられすぎるのも扱いや反応に困るのでフランクにしてくれるのは歓迎したいところだが、これはこれで対処が大変そうな気がしてならない。

 結局この後、ステイシーさんのこともアルスさんと呼ぶことになったのは内緒の話だ。


          ○


 それから十分程して船は島に到着した。

 間近で見れば一層小さな孤島という感じが際立ち、国際的な行事が行われる様な場所には到底見えない。

 事実、船の上から見渡してみても会場らしき建物は見えず、ほとんど雑木林と砂浜しかない本当に小さな島だった。

 それを一種のカモフラージュとしているのか、もしかするとこの場所からさらに移動があるのかもしれない。瞬間移動が可能なこの世界ではそれも十分にありえる話だ。

「どうやら、我々が一番乗りではなかったようだな」

 船を降りるなり王様が辺りを見回した。

 僕達の乗ってきた船の横には確かに二艘の船が既に泊まっている。一回り小さな帆船が一艘、さらに一回り小さなほとんどボートみたいな船が一艘だ。

「大きな方の船はユノ王国ですね。ボートの方は国章もなにもありませんが、予備船かなにかでしょうか」

「他国の船は上陸を禁止されている島だ、参加国以外の船であればそんなところだろう」

 そんなセミリアさんと王様の会話を横で聞いていたのだが、ふと違和感が一つ。

 船を降りているのは王様、姫様、セミリアさん、サミュエルさん、僕、高瀬さん、夏目さん、ミランダさん、アルスさんの九人。何故か兵士は一人も船を降りようとしない。

 何か他にやることがあるのだろうかとサミュエルさんに質問してみようとしたが、それよりも先に王様が船に向かって声を掛けた。

「ではレザンよ、船を頼んだぞ。くれぐれも他国とトラブルを起こさぬようにな」

「承知しております。どうかお気を付けて」

 レザンというのは兵士の中で二番目に偉い人の名前だ。

 これは船上で聞いた話だが、このレザンという副将が兵を率いて王の護衛役として同行し、一番偉い大将は城に残り国王不在の城で留守を任されているらしい。

 しかし、この会話を聞く限り兵士の人達はやはり一緒には来ないとみてよさそうだ。

「会場に一般の兵士は同行させちゃいけないことになってんのよ。入れるのは王族なり代理なりの国の代表プラス最大五人の側近だけ」

 大層面倒くさそうにではあるが、やはり質問には答えてくれるサミュエルさんだった。

「でも王様と王女が代表としても七人居るんですけど」

「護衛や大臣が合わせて五人、そこの使用人達は数に含まれてない。向こうでも給仕からなにからする人間は必要でしょ」

「なるほど」

 確かに偉い人ばかり集まっていてもお茶の一つも出てこなそうだ。だからといって数に含まれないというのも不憫な話だが、これもこの世界の理というものか。

 そんなことを考えているうちに王様の話も終わったようで、

「では我々も向かうとしよう」

 王様の一言を機に僕達は船を離れるのだった。


          〇



 聞いたところによると、十分も歩けば会場に到着するということらしい。

 辺り一面ジャングルのような風景の中にあって人工的に作られた道が港から島の中心に向かって真っ直ぐに続いている。

 会場に向かうこのグランフェルト一行。

 先頭をセミリアさんと僕、ミランダさんが歩き、その後ろに王様と姫様が、さらにその後ろに残る四人が続くという配置だ。

 要人を真ん中に配置するといういかにも護衛らしい隊列ではあるが、そもそもこの島にも化け物が出るのだろうか。

 ということをセミリアさんに聞いてみると、

「魔物は存在しないはずだ。この島には強力な結界が張られていて、そもそも魔族は近付くことすら出来ないからな」

 結界というのが物理的にどういう物なのかはさておき、ノスルクさんの住んでいる森の近くにあるエルシーナ町もノスルクさんの結界によって魔物はほとんど現れないと聞いた覚えがある。

 であれば。

「国その物とか、他の町にもその結界を張っておけばそもそも人間が化け物に襲われる心配もないのでは?」

「さすがにそれは無茶な話だ。結界術というのはとても高度な魔術でな、こんな小さな島や町一つならまだしも国どころか大都市を覆うだけの広範囲に結界を張ることだけでも相当な技術と魔法力に厳重な管理体制が必要となる。一国全ての都市、町村にそれを施すなどあのロスキー・セラムを要していても到底不可能だろう」

「そりゃそうですよね」

 出来るなら最初からやっているという話か。

 どのロスキー・セラムなのかは知らないけど。

「でもまあ五人のうち僕や高瀬さん、夏目さんで三人ですからね。何かあった時にあまりアテにならないでしょうし、襲われることもないのなら安心です」

 これじゃほとんど二人で七人を守らないといけない状態になりそうだ。

 高瀬さんはやる気満々で戦おうとするんだろうが、僕や夏目さんもアルスさんやミランダさんも王様達と同じで戦う術など持っていない。

 といっても僕は少なくとも盾を使って守る側に回らないといけないんだろうけど……。

「そう謙遜をするなコウヘイ。お主やカンタダは十分に強さも勇気も持っているさ。といっても、この島に攻め入ろうなどという輩もそうはいないだろうがな。五カ国の屈強な戦士達が一堂に会するのだ、ある意味ここは世界で一番安全な場所とも言えよう。ただ、サミュエルが心配の種ではある」

「サミュエルさんが?」

「どこか覇気がないというか、中々モチベーションも上がらないようでな」

「確かにずっと大人しいままですね。あまりやる気が感じられないというか」

「ああ、元々同行する気もなかったらしくてな。あまりこういう任務に感心がないようなのだ。いざ戦闘になれば力を発揮するのだろうが、フラストレーションが溜まって揉め事など起こさなければよいが」

 セミリアさんと違って忠誠心とかなさそうだもんね、あの人。

 気は短いし口も悪いし、確かにすぐに喧嘩とかしてしまいそうだ。いや、基本的にはいい人だけども。

 高瀬さんもトラブルメーカーという意味では似たようなものだし……。

「しかしまあ、彼奴も場を弁えるぐらいのことはするだろう。私達はサミットの最中は手持ち無沙汰になるであろうし、のんびりしていればよい。今回は魔物共と戦うこともないから安心しろコウヘイ」

「そうであればありがたいですね。といっても、何かしら王様やセミリアさんの役には立たないと付いてきた意味もないんでしょうけど」

「そう気負うな。お主の力が必要な時は私も王も助けを求めるだろう、その時が来る前から気を張っていても仕方あるまい。後ろの二人を見てみろ」

「……思いっきり観光気分ですね」

 振り返ってみると、あれやこれやと言い合いながら右に行ったり左に行ったりしている高瀬さんと夏目さんの姿が随分と遠くにあった。

 いくら平和な旅とはいえよくあそこまで気楽に構えていられるものだと思わされるが、ある意味一周回って正しい過ごし方なのかもしれない。

 やる気なさげなサミュエルさんや、さっきから不満や文句ばかり言って王様を困らせている姫様も含めてどうにも緊張感に欠ける感じだけど、僕が難しく考えすぎなのかな。という感想は前回も多々あった気がしてならないが……。

「必要な時に必要な力を発揮する、そうでない時は楽しむことも必要だということだ。さあ会場が見えたぞ」

 最後にポンと僕の背中を叩いてセミリアさんは前方を指差した。

 そこにあったのはただの小さな小屋だ。

 古くさく、なんの変哲もない、ノスルクさんの住んでいる小屋よりも更に小さいサミットはおろか食事会すら出来そうにないであろう古びた小屋が一つ建っている。

「あれが……サミットの会場?」

 代弁してくれてありがとうミランダさん。

 何から何まで予想と違いすぎてサミットその物が僕の思っているのとは違うのではないかと疑いたくなってきた。

「やっぱりここからもう一段階どこかに移動するってことですか?」

「いや、そうではない。初めて目にするお主等にしてみれば驚くのも無理は無いが、中に入ってみると分かる。きっと、もっと驚くぞ」

 言っている意味が分からず、僕とミランダさんは顔を見合わせて首を傾げる。

 中に何があるのだろうかと、どうにか入る前に答えに行き着こうと必死に考えたが唯一浮かんだ答えが地下に広がる建物なのかという残念なレベルだった。

 そんなことを考えているうちに後ろにいた高瀬さんと夏目さんが追い付いてきた。小屋を目にした感想はやはり似たり寄ったりだ。

「おい、何だよこのボロ小屋は。休憩でもしようってのか?」

「いえ、どうやらこの小屋が会場らしいんですけど……」

「このボロ小屋が!? なんか想像してたのと全然ちげえぞ」

「おいTK、ボロ小屋ボロ小屋言いなや、失礼やで。確かに吹いたら飛びそうなガラクタ小屋やけど思ってても口に出さんのが礼儀やろ」

 いや……そこまで言っちゃったらどっちもどっちだと思う。

「この召使い達の言う通りですわ。お父様、どうして王族であるわたくしがこのような汚らしい場所に入らなければいけないのですか。家畜でももう少しマシな所に住んでいますわよ」

「そうだそうだ! ローラ姫の言う通りだ!」

「ていうか……いつからウチらは召使いになったんや?」

 三者三様に不満を漏らす姿に王様もセミリアさんも呆れ顔だ。

 思ったことをそのまま口にする人間が三人も集まると呆れたくもなるよね、分かります。

「そう興奮するでないローラ。カンタダもアスカもだ。この外見はカムフラージュのためのもの、中に入ればお主等も納得するだろう。耳で聞くより目で見た方が早い、我々も会場入りするとしようではないか」

 王様が目配せをすると、一度頷いてセミリアさんが小屋の扉に手を掛ける。

 二人の言葉の意味を考えながら二人に続いて小屋の中に足を踏み入れてみると、そこには予想出来るはずもない光景が広がっていた。

「うそやん……なんなんこれ? どうなっとんの? おかしいやろ」

「ふっ、こういうことだろうと思ってたぜ」

「ま、このぐらいはしてもらわないと即国に帰るところですわね」

 やはり三者三様に好き勝手言ってる三人だったが、僕の感想は夏目さんと全く同じだ。

 これは綺麗とか汚いとか、そんな問題ではない。そもそも広さからして物理的におかしいことになっている。

 お城に帰ったのかと思うぐらいの大きな玄関口の左右にはいくつも扉が並んでいるし、壁には絵画や高価そうな置物がいくつも飾ってあって、更には天井には大きなシャンデリアもぶら下がっていた。それどころか上に続く階段まで見える。

「どうなっているんですか……これ」

 外から見た小屋に二階なんてものは無かった、それは間違いない。そもそもこの玄関口だけで小屋の大きさを優に超えているではないか。

「これで納得できただろう。大昔からこのサミットの会場は魔族を寄せ付けないための様々な呪法によって守られてきている。これもその一つだ。外からは古びた小屋にしか見えないようになっているが、これが本来のこの建物の姿なのだ。ちなみに上は十二階まであるのだぞ」

「「「十二階!?」」」

 思わず高瀬さん、夏目さんのデコボココンビと声を揃えてしまったのは一生の不覚になりそうではあるが、王様の説明を聞かなければ受け入れられるはずもない事実に心底驚きだ。

 魔法って本当になんでもアリなんだなぁ……なんて感想しか出てこない。

「すっごいなー、なんかとうとうホンマモンの異世界って感じやわ。ワープした以外はそこまで実感も無かったけど、こんなん外国行ったかてあり得へんもんなぁ」

「お前まだ信じてなかったのかよ、頭かてー奴だな」

「そやかて化けモンとか魔法とか一切目にすることもなかったし、しゃーないやんか。でもこれ見たら信じるしかないっちゅうか、もう感動で頭混乱してくるわー」

 夏目さんの目が輝き始めた。

 確かに僕もそれらを見るまでは半信半疑だったし、気持ちもまあ分からなくもない。

 実は化け物出たけどね……二人が船内にいる間に。あのインパクトは知らない方が幸せなんだろうけどさ。

「会合が行われるのは明日の昼だ、それまでは各自自由に過ごしてくれてよい。各国に一つの階層と部屋が二つずつ用意されていて、一つは王族用、一つは従者用になっている。部屋で休むもよし、場内で過ごすもよし。但し、建物の外に出ないこと、他国の者と諍いを起こさぬこと、これは遵守してくれ」

 それから、と。

 僕が即決で部屋で休むことを決めた瞬間、王様が僕の方を見た。

「夕方までには全ての国が出揃うだろう。わしは各方面に挨拶などをせねばならん。勇者クルイード、コウヘイは同行してくれ」

「御意」

「わ……分かりました」

 何故に僕も?

 という疑問は空気的に口に出来なかった。

 僕も一応王様の従者という立場でここにいるのだ。その王様の指示にその都度説明を求める従者の姿はきっと王様にとって良いものではないだろう。とはいえ……本当にどうして僕が。

「ローラは共に参れと言っても聞かぬであろう?」

「よくご存じで、ですわ。汗も掻きましたし、わたくしは当然部屋で休みます」

「まったく、誰に似たんだか。ああ、それからステイシーとアーネットよ。お主等は晩餐の用意などを手伝って貰わなければならんが、よろしく頼むぞ」

「「かしこまりました」」

 二人のハキハキとした返事が響き『では一旦部屋に向かうとしよう』と王様が歩き出したのと同時だった。

「リュドヴィック王」

 横から王様を呼ぶ声がした。女性の声だ。

 全員が揃ってその方向を見ると、こちらに近付いてくる三人の若い女性の姿があった。三人が三人とも僕と大して年は変わらないだろうことが見た目から分かる。

 先頭を歩いているのは恐らく声の主であろう人物で、丈の長い紫色のドレスを身に纏った全身から高貴さが溢れている様な女性だ。

 肩まで伸びたサラサラの明るめの茶色い髪の毛をしており、頭にキラキラした冠を乗せているところを見るにどこかの国の王女とかお姫様なのだろう。

 そしてその後ろには二人の女性が付いていて、こちらは対照的に腕や背中に武器を持っている辺りセミリアさんやサミュエルさんと同じ護衛的な立場の人の様だ。

 一人は警戒心丸出しでこちらを見ている髪の毛が右側半分だけ金髪で左側半分は真っ黒という奇抜な外見をしている若い女性で、いかにも戦士らしい格好をしており背中には薙刀のような形の武器が見えている。

 そしてもう一人は、見るからに寡黙そうな背が高いポニーテールの女性だ。こちらは僕よりもやや歳が上だろうか。

 どうやら刃物の類する物は持っていないみたいだけど、左手の肘から先だけが甲冑で覆われており、手の先まで繋がった赤色の甲冑の手の甲の部分が猛獣の爪の様な形になっていて大きく鋭い刃になっているいわゆるクロー型の武器が物騒に光っている。

「久方ぶりです、リュドヴィック王」

 近くまで来ると、ドレスの女性がにこりと微笑んだ。

 王様が手を差し出すと、二人は自然と握手を交わす。

「お久しぶりですな、マリアー二王。お元気そうで何より」

「リュドヴィック王もお変わりないようで」

「しかし、随分と早い到着だったのですな。今朝にはもうお着きで?」

「いえ、それが昨日陽が落ちる頃には。なにぶんわたくし達の国はこの島から一番距離がありますので。何かあって遅れてしまえばご迷惑になると思い余裕を持って国を出たのですが、少々早く着き過ぎてしまいました」

「それはそれは、お若いのに立派な心掛けですな。うちの娘にも見習わせたいぐらいだ」

「とんでもございませんわ、まだまだ若輩者でございます」

 そこでようやく二人の手が離れる。

 いかにも身分的に偉い人の社交的な会話だが、ローラ姫が明らかに不機嫌になっているので名前を出すのは控えて欲しいものだ。とばっちりが怖い。

「ところで、後ろの女性達は護衛の方達ですかな?」

「ええ、顔を合わせるのは初めてでしたね。失礼を致しました。仰る通りわたくしの護衛兼付き人をしてもらっています。わたくし達の国は軍隊を持たない小さな国ですが、僭越ながらこの二人の強さは諸国の戦士にも引けを取らないと思っておりますわ。右からエルフィン・カエサル、スカットレイラ・キャミイです。エル、レイラ、ご挨拶をなさい」

 マリアー二王と呼ばれた女性がそう促したものの後ろの二人は自ら名乗ることはせず、ただ黙ったままぺこりと僅かに頭を下げるだけだ。

 やや横柄な態度に見えなくもないが相手が一国の王であることを考えると意図していないとしても個々に名前を覚えてもらおうとするかのような挨拶をするのもおかしな話か。

 そんな僕なりの推察の正否は定かではないが、王様も特に言及することもなく同じく僕達の紹介を始めた。

 一人一人名前を呼ばれると、やはり僕達の側もあちらと同じく一礼をするに留まるか、精々一言付け足す程度の挨拶を返すのが精一杯という感じだ。

 ロールフェリア王女とサミュエルさんが完全にシカトしているあたりが若干恐ろしかったりもしたが、そんな正しい振る舞いが分からずどこか居心地の悪い時間も終盤に来た頃、事件は起こる。

「そしてアスカ、同じく勇者一行の一人として同行している」

「よろしゅう頼んます」

「最後に、カンタダ。この者も……」

「なあなあ国王のオッさん」

「ぬ、どうしたのだカンタダ。まだ紹介の途中であろう」

「俺の紹介よりこの超絶美少女の紹介をしてくれよ。この麗しきレディーはもしかしてもしかするとお姫様なのか?」

「うむ、こちらはユノ王国のナディア・マリアー二女王だ。それよりも、あまり失礼な態度を取るものでは……」

「だったら俺様ローラ姫よりこっちのお姫様がいい! 魔王なんざ俺が全部ブッ倒してやるから俺と結婚し……」

 ヤバい。

 そう思った時には遅かった。

 その瞬間僕の目に映ったのはカエサルと紹介された、すなわち半分金髪の方の女性が背中から薙刀っぽい武器を抜き、マリアー二王に駆け寄ろうとした高瀬さんに向けて突きを放つ姿だった。

「エル!」

 マリアー二王が咄嗟に叫んだが、制止の効果はない。

 しかし、躊躇無く放たれた突きは高瀬さんの身体に触れることなく激しい金属音と共に動きを止めた。

 周囲が言葉を失う中で、その攻撃を防いだのはサミュエルさんだ。

 セミリアさんも咄嗟に反応し剣を抜いた状態で高瀬さんを自身の背後にまで引っ張り込んではいたが、それよりも先にサミュエルさんのククリ刀が高瀬さんの目の前でその突きを防いでいる。それも片手で。

 睨み合うサミュエルさんとカエサルという女性の眼光に、僕達はおろか二人の王すらも言葉を失っている。

 数秒の沈黙を挟んで、先に口を開いたのはカエサルさんだった。

「サミィ、久しぶりに会ったっていうのにそんな目で睨むなんて連れないんじゃない?」

「こんなんでもうちの国のモンなの、手出すなら代わりに相手になってあげるけど?」

「姫に近付く奴は排除する、それが今のあたしの役目なんだよね。ま、今日のところは昔のよしみで退いといてあげるけどさ」

 そう言って、ようやくカエサルさんは武器を収めた。

 その声こそあどけなさの残る幼さを含んだものではあったが、表情も目も一切笑ってはいない。

「随分と丸くなったわねぇエル。私にしてみればアンタみたいな裏切り者を殺すことに躊躇う理由はないんだけど」

 再び睨み合う二人。

 この二人が旧知の仲であることは行き交う言葉から分かるが、それが因縁めいた関係であることは火を見るよりも明らかだった。

 裏切り者……そんな言葉が一層空気を重たくさせる。

 しかし、両者が武器を引いたことで周囲も我に返ったのかマリアー二王が今一度その名前を呼んだ。

「エル、いい加減になさい。この場で武器を取ることか何を意味するか分からないあなたじゃないでしょう」

「セリムス、お主もだ。この場で諍いは許さんと言ったばかりだぞ」

 二人の王が改めて一番前まで出ると、二人を引き離すように後ろへ下がらせる。

 黙って睨み合っていた二人は揃ってフンと鼻を鳴らしつつもようやく視線を反らした。

「マリアー二王、とんだ無礼を」

「いえ、こちらも許されざる行為をしたことに変わりはありません。非礼をお詫び致します」

 互いに頭を下げる国の主の姿だったが、バツの悪い表情をしたのはカエサルさん一人だった。

 そんな態度の違いはサミュエルさんの性格によるものか、はたまた彼女との怨恨の深さゆえか。

 どちらにせよここで終わらせておかなければ事態の収拾が付かなくなってしまうだろう。そういう意味では代表となる人間同士が頭を下がるという行為は正しいはずだ。

 すかさず逆ギレしようとした高瀬さんをアルスさんが後頭部へ一撃を叩き込んで阻止しただけに、収めるにはこれ以上ないタイミングだといえる。

 やいやい! 

 とでも言おうとしたのだと思われる高瀬さんを二度目の『や』を発音するのと同時ぐらいにどこから取り出したのか、手に持っていた警棒のような短い鉄の棒による一撃で高瀬さんは白目を剥いて地面に倒れ込んでしまっている。

 グッジョブと高らかに言いたい行動ではあるが、果たして高瀬さんは大丈夫なのだろうか……。

 予想外の一撃に横で見ていた夏目さんも『お、おいTK……大丈夫か?』と普通に引いていた。

「二人には厳重に注意をしておきますゆえ、ご容赦願いたい」

 そんな高瀬さんの撃沈を見守り、リュドヴィック王は改めてマリアー二王に向き直る。

 少しは心配してあげてもいいのに……と思わなくもないが、この騒動の原因はそもそも高瀬さんの行動によるものなので自業自得という認識に落ち着いたのは僕も同じだしこればっかりは仕方あるまい。毎度毎度鉄拳制裁的に黙らされる姿を見ているだけに不憫ではあるけど……。

「こちらも同じく厳しく言って聞かせますのでお許し下さい」

「それでは今回に限り互いに不問ということでよろしいか」

「ええ、そうしていただけると助かりますわ」

「ではその様に。我々は部屋に向かうことにさせてもらいましょう、わざわさ挨拶に出向いてもらって申し訳ありませんな。我が国のフロアは四階でしたかな」

「ええ、今回は三階がわたくし共のフロアになっております。その上の階に貴国が、そして上から順にフローレシア、サントゥアリオ、シルクレアとなり、二階がサミット会場ですわ」

「そうでしたな。なにぶん覚えることが多いもので年寄りにとっては大変だ。しかし、何から何までご丁寧な対応に感謝と敬意を」

「こればかりは開催のたびに入れ替わるということですので参加回数の多いリュドヴィック王ならではの悩みかもしれませんね」

 そんな、どこか取って付けたような会話を笑顔で交わす二人の王の話も終わり、

「それではわたくし達も部屋に戻らせていただきますね。明日もまたよろしくお願いします」

 ぺこりと頭を下げて、マリアー二王と二人の護衛は上の階へ続く階段の方へと歩いていった。

 二十歳やそこらの年齢だろうあの人が一国家の王とは、やはりこの世界は何もかもが規格外だ。

「では我々も一旦部屋に入るとしよう。クルイードよ、カンタダを運んでやってくれ」

「御意。カンタダも少しは懲りてくれればよいのですが、いささか直情径行の気が強いのが悩みどころです。しかし、見事な当て身でしたなステイシー殿」

「おほほ、侍女の嗜みですわ」

 笑って誤魔化すアルスさんだった。

 僕も同じ目に遭わないように気を付けねば……。


          〇



 王様と姫様に付き人としてミランダさんで一つの部屋を、それ以外の人間で一つの部屋を、という割り振りで一旦別れた僕達は休息兼昼食の時間を取った。

 本来はミランダさんもこっちの部屋の予定だったらしいのだが、ローラ姫が用事を言い付ける相手がいないと機嫌が悪くなるので突如抜擢されてしまっていたりする。

 この世界で言うところの五大王国の王達による話し合いが行われるのは明日の昼ということだ。

 それが終わるまで僕達は特にやることもないらしく、この世界では珍しい自由時間が与えられていた。

 といっても僕とセミリアさんは他所の国の人達が到着次第王様と一緒に挨拶に行かないとけないので呼ばれればすぐに向かわなければならない。セミリアさんが言うには僕が頭の良さを、セミリアさんが強さを示すための側近という人選であるらしい。

 随分と買われたものだと気後れしつつあった時間もあるにはあったが、周囲を見渡してみると他の人よりはまだマシだろうという理由でしかないのではなかろうかと思うと複雑な心境だ。

 ちなみに他の面々はというと『喧嘩相手でも探してくるわ』と物騒な言葉を残して部屋を出て行ってしまったサミュエルさんとアルスさんを除いて皆が部屋にいる。

 大勢で一つの部屋を使う賑やかさにも慣れたものだけど、とはいえ学校行事や旅行の様な感覚とはまた少し違う感じだ。

 異世界に限らず例えば海外旅行だったとしても同じ気分になるのだろうが、日本ではないという環境や建物、備品の数々、或いは出会う人達がそうさせているのかもしれない。

 高瀬さんは幸いにも気を失う前後のことを曖昧にしか覚えておらず、適当に誤魔化して納得させてからはホームページのオリジナル小説第二弾を今の内に書き残しておくと一人大人しく持参したノートにペンを走らせ続けている。

 そして夏目さんは僕やセミリアさんと雑談に興じているのだが、王様のお供にお供したいと言って聞かないことからも好奇心は強まる一方のようだ。

 決定権を持っていないがために返事に困るんだけど、もう本人が付いてくる気満々なのでどうしようもなさそうである。

 最後にアルスさんだが、彼女は他国の人達が到着した際に王様への報告を行う役目を与えられ、この馬鹿っ広い建物の一階入り口でお出迎えの準備をしている。いつ来るかも分からないというのに、ミランダさんも含めやはり大変な仕事だ。

 これは後から伝え聞いた話なのだが、フローレシアとかなんとかいう国の王様は僕達よりも先にここに到着していたらしい。

 しかし部屋に籠もったきり何の音沙汰も無く、呼び掛けに対しても反応が無いという話だ。なんでもあの小さなボートがそれだったんだとか。

 そうなると残るは二国。

 シルクレアという最強最大の国とサントゥアリオというセミリアさんの生まれ故郷である国ということ以外は何の情報も持っていないわけだが、一体どんな人達と向かい合わなければいけないのだろうか。

 ユノ? といったか、先ほどのマリアー二という女王のいる国も三人としか会っていないし、フローレシアという国の人は一人として姿を見ていない。

 セミリアさんやサミュエルさん然り、先程の三人然り、若い女性が当たり前の様に武器を持って当たり前の様に戦争がある世界だ。

 当事者が誰になるかはさておき、また揉め事の一つや二つは平気で起きそうな気がしてならないのが不安の種といったところか。まあ僕達の誰かが直接関係していなければ知ったことでもないのだけど。

 そんな、本当は横になって休みたいのに切り出せないまま女性二人の話し相手をし続けている時間が一時間ほど過ぎた頃、不意に部屋の扉がノックされた。

 すぐに開いた扉の向こうから姿を現したのは玄関口で待機していたはずのアルスさんだ。

「失礼します。勇者様、コウヘイ様、国王様がお呼びでございます」

 どうやら出番が来てしまったみたいだ。

 セミリアさんと頷き合い、腰を上げると当たり前の顔をして夏目さんもそれに倣っている。

 アルスさんが何か言い足そうにしたが『ひとまず外で』というジェスチャーをすると僕の言いたいことを理解してくれたのかアルスさんも黙って頷いた。

 呼び掛けても無視されるほどに集中してている珍しく大人しい高瀬さんに気付かれないようにしようと思う気持ちは四者共通だったようだ。

「アスカ様も同行なさるおつもりで?」

 出来る限り静かに扉を閉め、少し離れた廊下で話を再開。

 まるで欧州で暮らす貴族の屋敷みたく真っ赤な絨毯の引かれた廊下に土足で立つという行為にもやっと慣れ始めた今日この頃だ。

「飛鳥様やて……なんか照れるわ。いやそれよりもやな、二人が出て行ったらウチやること無いやん? 別に邪魔せーへんしいいやろ?」

「お二人が構わないのであれば私が反対する理由はございませんが、あくまで国王様のお心次第という点はご理解いただければと」

「当然やん。王様がアカン言うたら大人しくしょんぼり戻るて」

 しょんぼりはするのか……なんだかそれはそれで可哀相な気もする。

 あの王様はあまり厳しく言う人ではないと思うけど、さっきの件があるだけに慎重になる可能性も否めないのも事実。さて、どう転ぶか。

 という感じで王様の待つ部屋まで向かった僕達だったが、意外とすんなり了承された。

 何が悲しくて隣の部屋に行くだけのことに二度も角を曲がらなければならないのかという疑問はさておき、どうやら夏目さん以外にも人が増えていたことが原因のようだ。

 どういうわけかロールフェリア王女とミランダさんを含めた七人がこの場にいる。ちなみにアルスさんは一人になった高瀬さんの監視役として部屋の外で待機しているのでいない。

「なんや、結局お姫様も行くことになったんか」

「うむ、やはり次代を担う王家の者として他国の王と顔合わせぐらいはしておくべきだろうと思ってな。みての通りふて腐れておるのが困りものなのだが……これローラ、いい加減機嫌を直さんか」

「……フン」

 姫様はそっぽを向いてしまった。

 父親とはいえ人前で一国の主に取る態度ではないというか、これはある意味公務のようなものだろうに、それを拗ねて嫌がる王女様というのもどうなんだろう。

 王様ももう少しビシっと言えばいいのに……なんてことを密かに思いつつ、呆れた様に溜息を吐く王様に招集の理由を聞いてみる。

「他所の国の人達が来られたんですか?」

「む? ああ、その通りだ。シルクレアの一団が到着したと連絡を受けたのでな、挨拶に向かうこととする。くれぐれも先程のセリムスやカンタダのような行動は慎んでくれ。わしの立場もそうだが、何よりも今度ばかりは無事で済まぬ可能性も大いにある。あの国の者達は敵と見なせば容赦の無い連中ばかりだ。それも王に忠実な者ばかりであるがゆえのことだがな」

「なんか物騒やなぁ。ウチも気ぃつけよ」

 僕もそうしよう。

 一瞬そう思ったけど、何に気をつけるべきなのかも、どんな人達なのかも分からなかったので取り敢えず臨機応変に立ち回ることを心掛けよう。

 そう決めて、王様の後ろに付いて一回の広場に向かった。


          ○


 シンデレラ城さながらの派手な階段をいくつも降り、一階の玄関広場に着くとなんだか人がたくさん居た。

 僕達を除いて七人。うち二人は少し前に会ったマリアー二王と護衛の人だ。

 キャミイさんと言ったか、唯一左腕だけが鎧に覆われているポニーテールの女性だけが傍に控えており、あのカエサルという人は居ないようだ。

 その二人が到着したばかりだと思われる一団と先に挨拶を交わしている。それすなわち、初めて目にするあの五人が例のシルクレア王国という国の人達ということらしい。

 しかし、また誰も彼も特徴的過ぎるといっていいほどに特徴的な風貌をしているなぁ。服装や持っている物がよりそう思わせるのだろうけど、それでも十分過ぎる程に一般的とは言い難い感じだ。

「うわ~、見て見て康平君。髪の毛真っ赤やで」

「そうですね……それが些細なことに感じてしまうのが不思議で仕方ないですけど」

「あれが似合ってるってのが一番の驚きやで……ていうかセミリアはんに引けを取らんあの顔。やっぱ完璧超人やな、何食べたらあんな美人になれるんやろか」

 夏目さんの感想通り、先頭に立ち今まさにマリアー二王と握手を交わした女性の頭髪は燃えるような赤色をしている。

 セミリアさんの銀髪といい、地毛なのか染めているのかを一度聞いてみたいところではあるが、そんなことはさておき推測するにあの人がなんとかというシルクレア王国の女王様のようだ。

 世界一強くて美しいと言われているという話だったけど、なるほど確かにその外見は客観的に見ても納得せざるを得ないほどに綺麗というか美人というか、そんな見た目をしている。

 それでいて腰に剣を携え、背にはマントらしきものも見えていて、かつ女性らしい煌びやかな格好をしているその姿は凛々しさというか、格好良さみたいなものが溢れんばかりという非の打ち所がない、夏目さんじゃないが本当に完璧超人だった。

 マリアー二王といい、あの人といい二十代半ばかそれ未満ではないかという女性が揃って一国の王であるとは恐れ入る。

 そして、その赤髪の女性の後ろに立つ四人。

 世界一強い女性に護衛が必要なのかはさておき、配下だとか側近だとか、そういう人達なのだろう。

 若い男女が一人ずつと中年の男が二人、こちらはこちらで凄まじい存在感を醸し出しつつ傍に控えていた。

 赤い髪の人の後ろに立つ二十歳前後の若い男女はロールプレイングゲームなどで目にするいかにも戦士らしい格好をしていて、男性の方の背中には背丈と同じぐらい大きなブーメランが見えている。

 その後ろには三十代ぐらいだろうか、物腰の柔らかそうなおじさんが居るが見た目の奇抜さも無く格好も城の兵士と似た様なもので唯一この人だけは周りが目立つせいもあってかやたらと地味に感じられた。

 更にその横にはもう少し歳のいったローブを着たガタイも良く背の高い厳つい男がどっしりと構えている。

 その佇まいや表情にはややおっかない感じが、言い換えればセミリアさん達の持つ強さという点において秀でた能力が備わっていることが見た目からひしひしと伝わってきていて、きっとこの人達はもの凄く強い、素人目にそれが分かるだけの雰囲気があった。

 失礼かもしれないが、僕達の中では一番偉いはずのリュドヴィック王と比べても親子ほど歳の離れた向こうの王様どころかあの後ろに立っている人達の方が遙かに威厳や風格といったものが感じられるというレベルだ。

「では我々も行くとしよう」

 マリアー二王の挨拶が終わったのを見て、そのリュドヴィック王が止めていた足を進める。

 そのまま一団に近付いていくと、赤い髪のなんとか王がこちらに気付いた。

「これはこれはリュドヴィック王、しばらくぶりだな。わざわざご足労いただかずとも挨拶ならこちらから参ったというのに」

「いやいやなんの。クロンヴァール王といいマリアー二王といい、若い王達には年寄り扱いされているがまだ老け込むような歳ではありませんぞ」

「はっはっは、あてつけが言える程の元気があるのも困りものだ。息災で何より」

「そちらも元気そうで安心しましたぞ。その美貌も衰え知らずの様でまったく羨ましい限りだ」

「光栄至極と言いたいところだが、美貌など戦や政の役に立つものでもなかろう。そんなものよりも強さ賢さを磨きたいものだ、という話は今の私がすると少し説得力に欠けるかな」

「どちらの言葉もごもっともだ」

 二人で笑い合いつつ、二人の王は握手を交わす。

 歳は二回りぐらいリュドヴィック王の方が上なのに、なんというか立場は完全に向こうが上な感じだ。

 この人の国から支援を受けているという話だったし、少なからず頭が上がらない部分があるのだろう。なんてことを考えていると、クロンヴァール王の視線がセミリアさんに移った。

「元気そうだな聖剣、しばらく会っていなかったが随分と腕を上げたようじゃないか」

「お久しぶりです、クロンヴァール王」

「久しぶりついでに一つ言わせてもらうとしよう、私はお前が欲しい」

「勿体ないお言葉ですが、私にはまだまだやらなければならないことがありますゆえ」

「ふむ、私の下に居ればそのやらなければならないこととやらもやりやすいとは思うが、お前がそう言うのであれば仕方あるまい。リュドヴィック王の顔を立てて引いておくとしよう。諦めるつもりはないがな」

 なんだか凄いやりとりだった。

 堂々とヘッドハンティングするとは、クロンヴァール王が凄いのやらセミリアさんが凄いのやら……そもそも勇者とか兵士にヘッドハンティングとかあるのだろうか。

 というか僕や夏目さん、ミランダさんはおろかロールフェリア王女までもが全く眼中に無い感じなのが対応に困る。

 一声掛けてくれれば挨拶の一つも出来るのだろうけど、こっちから言葉を発していい時と場合なのかどうかも判断が難しい。

 そんな僕の心情など知る由も無く、クロンヴァール王の視線がリュドヴィック王に戻ったかと思うと、

「ときにリュドヴィック王よ。ちょうどいい機会だ、例の話の返答をいただいても構わないかな? 私は回りくどい言い方は嫌いなのではっきり言うが、先日送った手紙の件だ」

「先日の手紙というと……支援の?」

「その通り。元よりグランフェルトの民のためではあるが、主たる王にその意志がなければどのみち国の繁栄などない。もしも貴殿が我が国の支援に胡座を掻いて為政を怠けているようであれば我々はいつでも手を引く考えである、と確かに伝えているはずだ。そしてそれに対する返答をサミットの場でもらうと約束もした」

「う、うむ……勿論忘れているはずもありませんぞ」

 と、言いつつ。

 王様はそーっと振り返って僕達の顔を見回した。

 どうしよう……という表情を通り越してもはや助けを求めているとしか言い様がない困り果てた顔だ。

 一度全員を見て、最終的にその視線は僕とセミリアさんだけを何度も往復する。

 助け船を出してあげたい気持ちはあるが、持っている情報が少なすぎて墓穴を掘るのではなかろうかと思うと出しゃばってもいいものか。

 そしてあの毅然としたクロンヴァール王を言いくるめることが僕に出来るかどうかも判断を誤ると余計に話がこじれそうだ。

「どうしたリュドヴィック王よ」

「ん、いや、失礼をした。その件ですがクロンヴァール王よ……」

 名を呼ばれて身体の向きを戻したものの、リュドヴィック王の声から察するに名案を思い付いたわけではなさそうだ。

 もしも。

 僕がここに呼ばれた意味を僕が理解しなければならないのであれば、存在意義を発揮するべきは今だということなのだろう。

 セミリアさんも考える素振りをしているだけで口を挟めないみたいだし、こうなったら仕方あるまい。行き当たりばったりに他ならないが、やるだけやってみるとしよう。

 駄目だったら駄目だったで後で怒られれば済む……のかどうかは微妙だけど、王様に任せていても結果は同じだと考えればいくらか気も楽だ。

「その件については僕から説明させていただきましょう」

 半ばやけくそ気味で二人の会話を遮り、王の横に並ぶ。

 すぐに後ろで『コ、コウヘイ!?』『康平君!?』なんて声が聞こえていた。

 ……あなた達が驚いた素振りを見せたら僕の演技の意味が無いでしょうに。

「お前は?」

 クロンヴァール王は訝しげに僕を見る。

「リュドヴィック王の世話になっています、樋口康平といいます」

「ほう、そのヒグチ・コウヘイとやらが何故王を差し置いて話をしようとする」

 今度は僕ではなくリュドヴィック王を見るクロンヴァール王だったが、さすがにリュドヴィック王も僕が出て来た意味が分からない人ではなかったようで、すかさず話を合わせてくれた。

「こ、このコウヘイはわしの傍で仕えている者でしてな。まだ若いがとても頭が良くわしも信頼している。復興に関しては彼の主導で行っておるゆえ代弁させようと思った次第で」

「なるほど、では聞かせてもらおう」

 もう一度クロンヴァール王が僕を見る。

 その態度は期待している返答が得られるとは思っていないという感情を隠すこともない、半ば失笑混じりのものであったが、ある意味それは人を見る目があるのかもしれない。

 何故なら今から僕が口にすることはたまたま横で聞いていただけの話をそれっぽく言い換えたり作り話を加えただけの物なのだから。

「では僭越ながら。先の魔王撃退により我が国の治安は見違えるほど良くなっています。それに伴い城下に集中していた兵士も徐々に各地に行き渡り始め、安全を求めて移り住んできた者達の元居た土地や地域に戻る動きが活発になっており、主に農民や漁民が中心となっているため生産性においては以前と同程度まで回復する見込みが立っています。移り住んで来た全ての人間が、というわけではありませんが、土地や家を失った者達においては国がそれを支援することで新たにやりたがる者も多く出始め、総合的な生産量においてもいずれは以前より上昇するまでに至ると思われます。また、主要都市間を繋ぐ道を整備し、移動に際する不便を取り除き、要所に関所を設けることで最低限の安心と安全を提供することで国内の商人達の動きも活発になり流通が拡大していく見通しも立っています。そして国外を含めた流通に関しても近く新たに港を建設する予定であり、完成すれば御国の船も今までよりも渡航が楽になると同時に、大きな貨物船を製造することで物資を送り届けてもらうだけではなくこちらから受け取りに行くことも可能になります。しかし先ほど述べた計画も短期的な成果を出すことは簡単ではなく、現状情けなくも御国からの物資は必要であり重要な物であることに違いはありません。であるからこそ我々も御国に報いるべきだと考え、我が国の船で、例えば銅製品や穀物などを送らせていただくことで支援という形から貿易という形へシフトしていけるだけの用意も平行して行っていくご提案をする準備を行っている次第です」

 我ながら、なんとまあ思い付きでベラベラと口上を並び立てられたものだと感心する。

 細かい部分に突っ込まれた時点でほぼアウトなだけにどこまで通用したのかは不安だったが、意外にもあっさりとクロンヴァール王は引き下がった。

「ふむ、中々よく考えているようで安心したぞリュドヴィック王。それだけの計画を立てているのなら私もうるさく言うつもりはない。詳しい話はまた場を改めるとしよう。全ては魔族の侵攻が元凶だ、同じ人間同士仲良くやっていこうではないか」

「そ、そうですな。ごもっともだ」

 あからさまにホッとした顔をするリュドヴィック王だった。

 とはいえ、なんとかなったようで何よりだ。

 話が終わったことを確認して僕も後ろに下がることにする。後はもう自分で頑張ってねって感じだ。

「一つ思い出したが、聞いたかリュドヴィック王よ。マリアー二王の話ではフローレシアの王も既にでに来ているということだ。奴とは一度はっきり話をせねばならぬと思っていた私にしてみれば何とも都合が良い」

「ま、まあ極力温厚に済ませてもらいたいところですが……しかし、まだ前日の昼だというのに残るはサントゥアリオのみとは、真面目過ぎるのも考えものですな」

「いやいや、それは少し違うぞリュドヴィック王」

 その言葉と同時に、クロンヴァール王の後ろに立つ四人が同時に後ろを向いた。

「どうやらサントゥアリオの一団もご到着のようだ」

 遅れてクロンヴァール王も振り返る。

 その瞬間、入り口の扉が開いたかと思うと五人の人影が現れた。

 先頭に立つのは若いブロンドの男性。そしてその後ろに立つのは王を含めて五人しか入場を許されないという規定の通り、やはり四人の男女だった。

 背中に槍が見える若い女性、腰に剣を差した首に大きな傷がある大柄で無機質な表情をした中年の男、僕よりも年下であろう若く小柄で気弱そうな少年、そして歳のいった白髪の老人という、なんとも老若男女勢揃いといった一団だ。

 クロンヴァール王の言葉からして、この人達がセミリアさんの故郷であるというサントゥアリオ共和国の人達なのだろう。

「これはこれは皆さんお揃いで。早めに出発したつもりでしたが、まさか我々が最後尾だったとは驚きです」

 そう言ったのは一団の先頭に立つ若い男性だった。

 教えて貰わなくとも分かる。この人が王か、或いは王子だ。

 一言で表すならば、超絶イケメンといったところか。

 こんな美男子が王子でなければなんだというのかと言いたくなるほどの美青年である。ブロンドヘアがまた似合い過ぎている程に似合っている。

 リュドヴィック王、クロンヴァール王、マリアー二王が揃って挨拶と握手を交わしているあたり、やはりあの男性が王であることに間違いはなさそうだ。

 しかし、あの人もどう見ても二十四、五ぐらいだろうに、この世界の王様の平均年齢は低すぎやしないか。

「うっわー、なにあのイケメン具合? あんなイケメン見たことないでウチ」

 隣にいる夏目さんの目が輝いていた。

 無理もない。男の僕から見てもそう思うレベルである。

 しかも今、そんなイケメン王子とクロンヴァール王が握手を交わしている絵が目の前にあるのだ。

 もう不平等を絵に描いたような美男美女の競演だと言えよう。こんなにお似合いのカップルはこの世に存在しないんじゃないだろうか。

 そんな似合わないことをしみじみと考えていると、

「手紙のやりとり以外で会話をするのは久しぶりだね。嫁入りをする時期は決まったかい?」

「何を馬鹿なことを。私には王の務めが残っている、お前が婿入りする日を決める方が早いといつも言っているだろう」

「ふっ、この調子ではもうしばらく手紙でやりとりするだけの日々が続きそうだ」

「そう長い時間というわけでもあるまい。男ならやり遂げてみせろ」

 そんな会話が、いかにもといった雰囲気で繰り広げられていた。

「え、何あのやりとり? あの二人付き合ってるん?」

 勿論これは夏目さんの言葉。

 どこか軽くショックを受けた様な口振りだ。

「お主等が知らぬのも無理はないが、あのジェルタール王とクロンヴァール王は少し前に正式に婚姻を結んだばかりでな、他国にも知れ渡るぐらいにちょっとした話題になったのだぞ」

 教えてくれたのはセミリアさんだ。

 なるほど、それがさっき言っていた『説得力がない』という言葉の意味か。

「あの人はジェルタール王という名前なんですか」

「ああ、私達にとっては有名な面々でもコウヘイ達にとっては初めて見聞きするのだったな。私から言っておくべきだった」

 そう言って、セミリアさんがシルクレア王国と今到着したばかりのサントゥアリオ共和国の人達の名前をを教えてくれた。

「まずはシルクレアだが、あの巨大なブーメランを背負っているのがダニエル・ハイクといってクロンヴァール王直属の護衛兵士の一人だ。戦闘に使うのはあのブーメランだけでなく腰にある六っつのブーメランを使うシルクレアでも上位の戦士でもある。そしてもう一人の直属の護衛兵士がその横にいる女性だ。名前をクリスティア・ユメールという。彼女は糸使いでクロンヴァール王を除けばシルクレアで最も強い女戦士と言われているんだ。年齢は二人とも二十前後だったと記憶している。その後ろにいる兵士の姿をした男はシルクレア兵士団の隊長だ。名前は確かアルバートといったか、残念ながら直接の交流がほとんどないのでその他に説明出来そうな情報がないことを許してくれ。それから、その横にいる体格の良い男は何度か話に出たと思うが、ロスキー・セラム殿といって名実ともに世界一の魔術師である偉大なお方だ。次いでサントゥアリオの面々に移るが、王であるジェルタール王いや、パトリオット・ジェルタール王は二十七歳でありながら王になってすでに八年という異例の王と呼ばれる人物だ。ちなみに婚約者であるクロンヴァール王は二十六歳、あの方も二十代前半で王になっているのだから戦乱の世の中というものがいかに残酷であるかを物語っているかと思うと心が傷む限りだな。その他の者についてだが、実は私も大して情報を持っていない。あの槍を持った女性と背の高い男ぐらいか。女性の方がエレナール・キアラといって、王国護衛団の総隊長であり天武七闘士の一人でもある凄い人だ、歳も二十三と若い。男の方はその護衛団の副隊長をしているヘロルド・ノーマンといったかな。私も名前程度しか知らないが、先代の王の頃から前線で指揮を執ってきた屈強な戦士であるらしい。残る少年と老人だが、彼らに関しては私も初見だ。あまり役に立つ情報がなくてすまないな」

「いえ、十分に聞いた価値はありましたよ」

 名前だけでも知る意味はあっただろうし、他にも多少なりとも情報は得ることが出来た。

 今日か明日か、いずれにしてもそんな人達と肩を並べる時が来るのだとしたら知っておいて損をする情報など一つもない。

 今聞いた情報を整理しようと顔や名前を一致させていると、ちょうど王達の挨拶も終わったらしくリュドヴィック王が戻ってきた。

 部屋に戻るのか、はたまた姫様あたりを連れて挨拶回りでもするのか。

 と、この後の事を考えている最中、不意にクロンヴァール王がまるでこの場に居る全員に問い掛ける様に大きな声で言った。

「さて諸国の王達よ。私から一つ提案がある」

 

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