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勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている  作者: まる
【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている⑪ ~Road of Refrain~】

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【第十六章】 上陸



 専用の船によって孤島を出た僕達は三十分もしない内にもう一つの小島へと到着した。

 前回来た時にはアイテムによって直接上陸したので外からこの島を目で見たのは今日が初めてになるのだが、先程立ち寄った島より少し大きいぐらいでほとんど変わりがない自然が少なく海に浮かぶ陸地といった印象にも大きな違いはない。

 唯一の違いは全体が金網と有刺鉄線の混じった網で覆われていることぐらいだろうか。

 今現在はアイテムによる直接の移動が出来なくなっているらしいのでそのせいなのだろうが、重要度が増したことによる変化を象徴するかの様に外には無数の大型船が停泊している。

 聞けば前もって派遣していた千人近い兵士がこの島で敵の襲撃に備えて待機することになっているらしい。

 この場合の敵というのは勿論天界の勢力に他ならないわけだけど、僕はてっきりある程度の人数は同行するものだと思っていたのでそっちの方に驚いた。

 曰く、『右も左も分からん場所に赴くのだ。山ほどの兵糧を持ち運ぶ余裕もなければ野営をするにも数が増えるだけ必要な手間と場所も増す』とのことだ。

 そんなわけで無事に上陸を果たした僕達は出入り口を固める大勢の兵士達の挨拶を耳に陸地に降り立つとそのまま少しばかり殺風景な荒野を歩いていく。

 やがて辿り着いた先にあるのは如何にも摩訶不思議な一つの扉だ。

 何がどう不思議なのかを述べろと言われたなら、荒野の真ん中にポツンと扉が立っているとしか言えない。見たままを述べるならそれ以外に説明しようがないからだ。

 建物があるわけでもなく、奥に何があるわけでもないというのに、何をどうしたらそうなるのか緑の欠片もない荒れ地にやけに凝ったデザインの鉄製の扉だけが立っている。これはそういう物だ。

 初めて目にするわけでもないというのに、やっぱり意味不明過ぎて末恐ろしくなってくるホラーな光景である。

 更に意味不明なことにこの奥には泉が広がっていて、その向こうには天界に繋がる扉があるというのだから何でもありにも限度があるだろうと言いたい。

 そんな扉、通称【異次元の悪戯(ラーク)】の傍には見知らぬ兵士が二十名前後と見知った顔が二つ控えていて、クロンヴァールさんは無数の挨拶の返答代わりにその片割れへと声を掛けた。

 見知った顔とはすなわち、国王の側近でありシルクレア王国の主戦力でもあるアルバートさんとユメールさんである。

「段取りに抜かりはないな?」

「は、万事遺漏なく」

 頭を上げたアルバートさんが短く答えると、クロンヴァールさんは一言『結構』とだけ口にしてすかさず抱き付こうとするユメールさんを受け止める。

 アルバートさん。

 フルネームは知らない、というか随分前に聞こうとしてお茶を濁された感じがしたのでそれ以来触れずにいるままでいる。

 歳は三十代半ばかもう少し上かといったところで兵士長という立場上のことか、他の兵士と同じ格好の人が良さそうな長髪のおじさんという印象が強い常識人で連合軍の時も右も左も分からない僕にあれこれと指導してくれたりもしたとても良い人である。

 アルバートさん、そして既にクロンヴァールさんの腕に抱き付いているユメールさん。

 共に味方だったり敵だったりした関係に変わりはないが顔見知りで挨拶や世間話ぐらいはする関係なので僕からも挨拶をしようとしたのが、二人の目は僕よりも後ろのリズに向けられていた。

 大別するならば驚きと意外に思う気持ちを示す様な表情で。

「なんですザベス、結局来ることにしたですか。お前も所詮はお姉さまの美貌に逆らうことは出来なかったというわけですな、です」

 何故かドヤ顔のユメールさんは度々繰り返される大勢の兵から発せられる大きな声が煩わしいのか鬱陶しそういしているリズに挑発的な物言いで寄っていく。

 この変わった口調の女性こそがクリスティア・ユメールという名の糸使いであり最強集団の一角でもあるクロンヴァールさんの片腕と言われている戦士だ。

 敬愛を通り越して愛慕、崇拝している様を隠そうともしない女王ラブな人で、そのクロンヴァールさんを真似ているらしい服装は上が袖のない白色の、下は膝ぐらいまでの長さのある赤い戦装束を着ており、長い髪を白いヘアバンドで持ち上げて側頭部に左右二本ずつある細く三つ編みにされた部分だけが同じくクロンヴァールさんを真似て赤色をしているという個性的な外見をしているハイクさんと同じく歳は二十歳前後の、口も悪く言動が子供っぽいという見た目もそれ以外も個性の塊みたいな人である。

「久しぶりだなアバズレにロン毛隊長。相変わらずのアバズレっぷりで何よりだぜ」

 二人とも顔見知りではあるらしく、リズは特に喧嘩腰というわけでもないながらも若干馬鹿にした様な口調を返した。

 というか、相変わらず他人への呼称が酷いな……。

「だ~れがアバズレかー! ですっ!」

「年がら年中盛ってる奴を世間ではアバズレっつーんだよばーか」

「ふんっ、これだからガキってのは話にならんです。女ってのは愛を生きる原動力に変える生き物ってもんです。お前には分からんだろうがな、です」

「残念だったなアバズレ、ウチは一足お先に輿入れを済ませたぜ。いやぁ、お前の言う通り愛する男と一緒ってのはこんなに幸せなもんかと身を以て実感してるよ。お前も御姫の乳ばっか追い掛けてねえで男を見つけろ男を、なっはっは」

「………………は? ザベスが結婚? じょ、冗談も休み休み言いやがれです……」

「見苦しい嫉妬が心地良いなぁおい。これがウチの旦那だ、とっくに顔見知りだろうがお前等もよろしくしてくれや」

 高笑いをしながら、リズは僕の肩に腕を回す。

 こちとらまだ再会の挨拶も出来ていないというに、そんな入り方をされても僕はどう反応すればいいのやら。

「「…………はあ?」」

 ユメールさんのみならずアルバートさんも揃って愕然としていた。

 二人は目をパチクリさせながら僕とリズを往復する様に視線を右往左往させ、それでいて理解が追い付かなかったのか『何言ってんだこいつは』みたいな顔に変化したユメールさんが僕を指でちょいちょいと呼びつける。

「……わんこ、ちょっと来いです。ザベスは待ってるです」

 そりゃそうなるよね。とか思いつつも言われるままユメールさんの方に寄っていく。

 というか、まだ僕はその名前で呼ばれるんですね。

「な、何でしょうか」

「いいからこっち来いです」

 と、今度はユメールさんに肩を組まれるなり声の届かない所まで連行される。

 意外にもこういう場違いなやり取りを止める側だと思っていたアルバートさんも普通に付いてきていて、クロンヴァールさんやハイクさんはやれやれと呆れているだけだ。

「やいわんこ、ザベスの言ってるのは本当か? です」

「僕にも是非事情を聞かせて欲しいねコウヘイ君。まあ君のことだから何か事情があるんだろうとは思うけど、ひとまずエリザベスちゃんの言っていることは事実かい?」

 無駄に声を潜める二人であったが、吐くまで逃がさねえぞとその目が語っていた。

 とはいっても僕に言えることなど限られているのだけど。

「事実、ということに……どうやらなっているようです」

「煮え切らねえなぁ、です。何があったのか分かりやすく説明しやがれですっ」

「掻い摘んで説明するとですね、リズが天界に同行する条件として僕との結婚を挙げまして……それをクロンヴァールさんが了承しちゃったものですからこういう結果になったと言いますか」 

「なるほどねぇ……前々から思っていたけど、君も大概色んなことに巻き込まれるね。でも、リズなんて呼ぶぐらいだから関係は良好みたいじゃないか」

「まあ……最初は決闘を持ち掛けられたり魔法で殺されそうになりましたけど、何だかんだあって普通に仲良くというか、それなりに打ち解けはしたかなというぐらいには」

「うーむ……分かったよーな分からんよーな話ですが、ザベスも何だってお前を選ぶですか。聖剣といいデカパイといい世は童顔男の時代とでも言いやがりますか」

「そうじゃないよクリスちゃん。その二人も、きっとエリザベスちゃんも見た目で選んだりはしない。コウヘイ君はそれだけ人の心を動かす事を成し遂げて来たんだ、それはクリスちゃんも知っているだろう?」

「それはまあ……認めてやらんこともないですが、あの傍若無人な荒くれ者がそんな人並みの恋愛観を持っているとは到底思えんぞです」

「う~ん、そればかりは僕も同感せざるを得ないんだけど……そこに至るまでに色々あんたんじゃないかな。ね、コウヘイ君」

「あったようななかったような、それに関しても色々と複雑な感じでして」

「でもまあ、彼女の相手をするのは大変だよ。陛下が君に託したのなら口を挟むつもりはないけどさ」

「ええ。結婚はともかくとして、どうにか輪を乱さない様に導ければとは思っています」

「僕達の言うことなんて聞いてくれるとは思えないけど、こっちも出来る限りはサポートするよ。だからあの子のこと、よろしくね」

「はい」

「やいわんこ、そんなことはさておき一つ言っておくです」

「な、何でしょう」

「好色なのは結構ですが、お姉さまに指一本でも触れたらお前埋めっからな……です」

 そう言ったユメールさんの目は、冗談ではなさそうなマジ具合だった。

 そんな低い声で警告されては僕とてイエスと答えるしかない。

 しかし、それでこの場を誤魔化しても他にとんでもない爆弾を抱えているのだが……一体全体どうしたものか。

 口ぶりからするに城に居なかったこの人は当然ながらチェスの一件など知らないのだろう。バレたら埋められるっぽいんですけど、どうするんだこれ。

 クロンヴァールさんはそもそも周りになんと説明するつもりなのか。いや、むしろどうにか逃げる口実になったと考えれば断固阻止してくれそうなユメールさんの存在は都合が良いのか?

「おい、いつまでやってんだコソコソと。そろそろ行くぞ」

 話が纏まったのか纏まっていないのかはよく分からないままに一人でまた葛藤をしていると、後ろからハイクさんの声が三人だけ離れて小声で密談しているという謎の時間を終わらせた。

 僕とアルバートさんが一言謝罪し、ユメールさんが毒づいたところで揃って元の位置へと戻る。

 この邂逅に二人も驚きや疑問があると踏んでいたからか、黙って見守っていたクロンヴァールさんは何というか大物だなぁという感じだ。

 こういうグダグダした感じは一番嫌いなものだと思っていたけど、やはりユメールさんには甘いのか、はたまたリズが絡むことだからある程度は許容しようと考えているのかは分からないけど、だったらちょっとぐらい助け舟を出してくれてもよかろうに。

「積もる話は終わったか? ならば出発するとしよう」

「ああ」

「失礼しました、姫様」

「お姉様、馬鹿なわんこのせいで話が長引いたです。クリスが説教しておくですっ」

「……あんたが呼びつけたんでしょうが」

「な~んでもいいからサッサと行こうぜ。自称神サマとやらのツラ拝みによぉ」

 その呼び掛けに対し、遠征組全員の返答が並んだところで僕達はぞろぞろと扉の前へと並んだ。

 ここを潜るのはかつて世界中を破滅の危機に追いやった【人柱の呪い(アペルピスィア)】騒動の最後に中へ入った時以来だ。

「では行くとしよう、我らにとっての未知なる領域へ。身勝手に破滅を振りまく思い上がり共に鉄槌を下す。行く手を阻む者は皆殺しにしろ、これは我らの平和と安寧を取り戻す戦いだ!」

 その力強い宣言に、再び周囲の兵を含んだ僕以外の全員から返答が響き渡る。

 それを受けてクロンヴァールさんが【異次元の悪戯(ラーク)】の鍵を開くと、とうとう六人で中に広がる泉へと足を踏み入れるに至った。

 どこ○もドアよろしく何に付着しているわけでもなくポツンと建つ扉を潜ると、本当にどういうわけか開いた扉はただ通り過ぎるだけの枠にはなり得ず、向こう側にはあるはずのない自然が広がっている。

 クロンヴァールさん、ユメールさん、僕、リズ、ハイクさん、アルバートさんの順で縦に並び規模も分からない森を真っ直ぐに奥へと進むと、小さな泉を通り過ぎ、その更に奥にあるやけに派手な装飾の施された別の扉まで歩いた。

 これこそが天門と呼ばれる、世間一般では空想上の代物とまで言われている扉だ。

 過去にこの扉がこちら側(、、、、)の人間によって開かれたことはない。

 いよいよ天界への入り口を潜る時が来た。

 そういった事情に対する緊張感や、まさに今この時から戦いが始まろうという高揚にまた少し時間を取ったりするのだろうかと思っていたのだが、予想に反してクロンヴァールさんは自室の扉を開くが如くあっさりと鍵を差し込みサッサと奥へと進んでいってしまった。

 もうちょっと警戒心とかあった方がよいのでは?

 とかって思わなくもないのだけど、この人達は殺気だの気配だのを感じ取れる超人ばかりなのでド素人の僕が指摘するのも憚られ。

 何だかのっけから調子が狂うなぁなんて考えながら僕も皆に続いて扉の奥へと足を進めるのだった。


          〇


 まず最初に抱いたのは、随分と思っていたのとは違うなぁという感想だった。

 天界という名称や神がいるという情報からてっきり雲の上とかにある天国的な世界観を想像していたのだが、実際には全然そういう感じではなかった。

 周囲に人影や建物の類は何一つないものの普通に土の上に立っているし、見渡せば所々に木々などの自然も見えている。

 見上げる上空に雲がないのが気にはなるけど、それ以外には特に今までいた世界との違いは無いのではと思えてならない。

 だったら一体この天界というのはどこに存在しているんだろうか。いや、もしかしたらまだここは天界ではない可能性もあるのか?

「場所など誰に分かる問題でもない。天の民、地上の民、淵界の魔族、これら三つの世界が太古より生み出され今この時まで存在し続けている、はっきりしているのはその程度さ。淵界ってのは所謂魔界のことだな」

 僕の疑問に対しハイクさんは周囲を見回しながら何気なく解説してくれつつ、一番前に出たところで初めてこちらを振り返った。

 やはり誰もが人っ子一人居ない状況に多少の戸惑いや驚きはあるらしい。

「ひとまず出鼻っから襲撃されるっつー一番面倒臭ぇパターンは避けられたみてぇだな。だからといって全くの無警戒ってわけじゃなさそうだが……」

「どういうことですか?」

「微かだが殺気みたいなもんが伝わってくる。人数までは分からねえが、じきここにやって来るだろうぜ。やる気満々の死に急ぎ野郎がな」

「この地を統べる神々にとって僕達は外敵に他ならないからね。例のふざけた計画が水の泡になった以上は無理もない。それにしては警戒が緩いというか、防衛体制がお粗末というか、それも天界の在り方のせいなんだろうけど……こちらとしてはありがたい限りだね」

「同感だぜ旦那。お出迎えが姿も見えねぇ段階で気付かるレベルのボンクラとは、拍子抜けも良い所だぜ」

「はっ、己で喧嘩を売っておいて敵も何もないと思うがな。アルバート、地図を出せ」

 クロンヴァールさんがどこか気に食わなそうに言うと、アルバートさんは懐から一枚の紙切れを取り出した。

 道中に聞いたところによるとサミットの際にナディアから地図を預かっているとのことだったけど、あれがそうなのか。

 天界の出身であるらしいナディアは特殊な血筋によって唯一あのフローレシアにある天門を外から開くことが出来る人物で、今回の旅に関して色々と助力をしてくれているらしい。

 物珍しく思っているのか、或いは僕みたく情報は何でも頭に叩き込もうと考えているのか、リズ以外の全員がアルバートさんが広げた地図を覗き込む。

 便乗してそこに横から目を落とすと、この天界というのが縦長の大地になっていることが分かる。

 天門と書かれた印を見るに僕達が今いる場所は最南部らしく、いくつもの町……なのか都市なのかが北に向かって並んでいるといった感じか。

 土地名らしきものが九つあって、それぞれに統治者らしき名称が横に記されている。


                【天門】


     【スマウグ(炎の化身)】   【レイス(死神)】


【グリルス(風の語部)】   【ファータ(白氷の霊姫)】   【アプサラス(水の精霊)】


           【フォウルカス(時の番人)】


     【メリア(大地の守護者)】   【ケプリ(不死鳥)】


             【エデン(天帝)】


 簡単に言うとこんな具合で、現在地から北に向かうにつれて横並びの都市がいくつかあって、最後に支配者であるらしい天帝という存在が鎮座する地に辿り着くという風になっているようだ。

 全てを記憶しているわけではないが、いつだったかジェスタシアさんに聞いた神々の名前と一致するものが山ほどあるあたりそれぞれの神が各地を個別に統治しているということなのだろうか。

 遭遇しようものならまず間違いなく争いに発展することを考えれば避けて通りたいところではあるが、それが出来ない理由を今まさにアルバートさんが説明してくれた。

「我々の最終目的地は天帝がいるこの最深部のエデンという場所だ。だけど全ての都市を避けて進むことは出来ない。このエデンに足を踏み入れるためには各地で神が持つオーブを入手しなければならないからだ」

「マリアーニ王が言うには四つ必要だって話だったな」

「そうだ、何でも天界の在り方というのは元来神々による合議制で決まっていたらしい。支配者である天帝ケイオスとやらを除いた神が全部で八人、その半数である四人の承認や同意を得なければエデンに入ることは出来ない、という建前が過半数の四という数字に繋がるわけだ」

 マリアーニ王の話によるとな。

 と、補足と全体への確認を述べつつクロンヴァールさんは再び地図に目を落とした。

 より安全な手段と方法の模索と追及、そしてそのための提案や分析は僕の仕事だ。

 ならばとすかさず口を挟む。

「八つの都市にいる八人の神から四つ……ですか。でも、僕達が必要だからといって簡単に譲ってもらえるわけではないですよね、当然ながら」

「交渉して譲ってもらうもよし、それが叶わなければ力尽くで奪うもよし、というところだろう。ただ選択の幅を探ろうにも一つ問題がある」

「問題とは?」

「このレイス、ケプリ、ファータにいた神は今現在その座を降りるか追放されて不在らしいのだ」

「ということは……五人から四つ。より危険を少なくオーブを入手しようにも相手を選ぶこともほとんど出来ない、と」

「そういうことになる」

 レイス・死神

 ケプリ・不死鳥

 ファータ・白氷の霊姫

 不在と挙げられた神はこの三人。

 というか、そのうちの一人である不死鳥こそが過去に戦い、話し合った経験のあるジェスタシアさんに他ならない。

 それ以外の神達がどういう姿形をしているのかは一切分からないけど、そのジェスタシアさんは魔獣神とまで言われ単体で世界を滅ぼすだけの力を持っていたのだ。

 神の強さの基準があれ(、、)なんだとしたら、力尽くで奪うなんて不可能なんじゃなかろうか。

 不死、という絶対的な能力や性質を持っているのは彼女だけだと信じたいところだけど……。

「使える時間を考えれば経路が選択肢の無いスマウグ、フォウルカス、メリアに限られるのはこの際仕方あるまい。唯一選ぶ余地のあるここはアプサラスを通る、本人の意思を尊重し事情は伏せるが、マリアーニ王曰くそれが一番安全なルートだということだ」

「ならそうするとしようぜ。おいユメ公、ザベ公、聞いてんのかてめぇらは」

「クリスはお姉様の決定に従うだけです。理解する必要が皆無です」

「……皆無じゃねえだろ、馬鹿なのかてめぇは」

「ウチも数字の話は苦手だから興味ね。要するに連中の根城に乗り込んで必要なモンをブン取っていきゃいいってだけの話だろ?」

「……全然ちげぇんだよ、馬鹿二号かてめぇは」

 取り出した煙草を咥え、指先から出した火を着けるハイクさんは大層うんざりした様子で肩を落とした。

 かと思うと、すぐにその視線を僕へと向ける。

 まるで『お前どうにかしろよ』とでも言いたげな顔をされても正直愛想笑いを返すことしか出来ない。

 全員が認識を共有し意思を統一することがどれだけ大切かは分っているつもりだけど今僕が言い聞かせたところであまり真面目に取り合ってはくれないだろうし、重要性を理解していない状態でまた『僕が言ったから取り敢えず了解しておく』ではいざという時に頭に残ってはいないだろう。

 だったらその場その場で出来るだけ傍にいて理屈を説く方がまだ制御しやすいはずだ。

「ダン、今はいいだろう。クリスはともかく、エリザベスにはその都度言って聞かせる。それよりもあれを見ろ」

 どうやら僕と同じ考えだったらしいクロンヴァールさんはふと前方、遠くを指差した。

 そんな話の最中にもアルバートさんやリズ本人は既にそれ(、、)に気付き、身構えている。

 全く気付いていなかった僕は慌てて指し示す先、つまりは本来で言う進行方向に目をやると黒く大きな何かがこちらに向かって飛んできているのが薄っすらと見えていた。

 徐々に近づいて来る正体不明の何かは、旅の開始早々に遭遇するには少々インパクトが強過ぎるとんでもない生物だった。


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