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勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている  作者: まる
【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている】
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【プロローグ】 勇者の敗北

※10/6 誤字修正や改行処理等、第一話分まとめて実行


「ん……んん」

 薄暗い木造作りの小屋の中、少女は目覚めた。

 重い体を持ち上げどうにかベッドの上で起き上がると横から声がする。

「ようやくお目覚めかの。今回ばかりはさすがに心配したぞい」

 脇で椅子に座っていたのは長い白髭を蓄えた小柄な老人だ。

 少女は差し出されたコップに注がれた水を黙って受け取ると俯き、悲壮な表情を浮かべる。

「そうか。私はまた……負けたのだな」

「あれほど無茶じゃと言うたのに、聞く耳を持たんからこうなる」

「返す言葉も無い……」

「リホークの羽根飾りがあるからいいようなものの、このままでは身も持たんじゃろう」

「確かにあなたにこれを貰ったおかげで私は死なずにいられる。だが……私が生き永らえたところで苦しんでいる人々が救われることは……」

「お主が死んで本望と打ち倒れてもそれは同じことじゃろう。勇者として最後まで立派に戦った……そんな栄誉で誰が救われる」

「…………」

 老人の言葉に少女は悔しげに、そして自己を戒めるように表情を歪める。

 返す言葉は見つからず、ただ小さく波打つ水面をぼんやりと見つめることしか出来ない。

「成し遂げたいことがあるなら足掻いてみることじゃな」

「足掻くだと!? 私にどうしろと言うのだ! 魔王を上回る力を得られるまで山にでも籠もれと!? そんな時間は無いことはあなたも分かっているはずだ!」

 少女は感情のまま声を荒げた。

 手に持たれていたグラスが無意識に込められた握力によって音を立てて砕け散る。

 それでも落ち着き払った様子を変えることなく、老人は続けた。

「魔王の力を百とするならば……お主の力は精々五十か六十か。無論、お主の力が百を超えるまでの猶予はこの国には無いじゃろう。ならばどうするか、簡単な話じゃ。合計が百を上回ればよい」

「……パーティーを組めと? 今さらこの国に魔王に立ち向かおうという人間がまだ残っているとでも思っているのか」

「おらんじゃろうな。現魔王がこの国に降り立って約二年……諸国の軍や打倒魔王を志した者たちがどれほど犠牲になったことか。今この国に暮らす者は被害が及ばないことを祈ることしかせぬ。魔王に立ち向かう様な勇気ある命知らずなどお主とサミュエルぐらいじゃろうて」

「分かっているとは思うが、サミュエルは私……いや、私に限らず他人と力を合わせるようなことは絶対にない」

「ほっほっほ。あの頑固者ならそうじゃろうな」

 少女の真剣な表情を尻目に老人は声を上げて笑った。

 いつものこととはいえ少女は苛立ちを隠せない。

「笑っている場合か、結局何も状況は変わらないというのに!」

「そうでもないと思うがの。この世界に味方がおらぬのなら別の世界で探せばよい、とわしは言うておるのじゃ」

「別の世界? 何を言い出すかと思えば……今はあなたの絵空事を聞いている暇など……」

「人の話は最後まで聞けといつも言うておるじゃろう。エレマージリングは知っておるな?」

「エレマージリング? 空間移動の効力を持つマジックアイテムを指して言っているのなら、知らぬはずがないでしょう」

「そう、そのエレマージリングじゃ。それにお主が首から掛けておるリホークの羽根飾りと同様、わしが少し特殊な魔力を込めて作ったアイテムがある」

 そう言って老人は脇にあった引き出しから腕輪サイズのリングを二つ取り出し、少女に差し出した。

 受け取った少女は未だ発言の意図が分からず黙ってそれを見つめている。

「これは? エレマージリングとは少し違うようですが」

「先にも言うた通り、わしの魔力によって普通のエレマージリングとは仕様が変わっておる。空間移動ではなく次元移動をする為のアイテムじゃ。赤い宝玉の方が移動用、青い宝玉の方が帰還用となっておる。それぞれ腕に装備して詠唱するだけでよい」

「つまり……これで別の世界に行き、仲間を募るというわけだな!」

 希望を見つけた少女は興奮した様に食いついた。

 その表情は打って変わって光明を見つけた者のそれへと変化する。

「いかにも。じゃがどこの世界に飛び、そこにどんな人間が居るかはわしにも分からん。そんな地で仲間を集めることの責任を負う覚悟がなければならんぞ。魔王のことなど知らん人間も居るじゃろう、そういった人間を引き込み命を預かることの責任をな。そして……」

「承知した! ではすぐにでも行ってくる! 恩に着るぞ、ノスルク!」

 老人の言葉を遮ると少女はバシュッ! という音だけを残して姿を消した。

「やれやれ……人の話は最後まで聞けと言うのに」

 残された小屋の中、老人は一人呟いた。


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