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勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている  作者: まる
【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている⑧ ~滅亡へのカウントダウン~】
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【エピローグ】 最後の役目



「それで? その手紙には何が書いてあったんだい?」


「……グランフェルトのもう一人の勇者、そしてコウヘイという少年の手によって間違いなくバズールは討たれた、という報告でした。他には特に何も」


「へえ、思っていたよりも随分と早くカタが付いたもんだね。だけど、コウヘイ君は天子様と一緒にいるはずじゃなかったっけ? どうしてフローレシアにいるんだろうね」


「確かに私の無理強いを聞き入れて下さいましたし、短い時間ではありますが実際に話をしてみた印象としてはそれを反故にする様な人間ではないように思います。恐らくは、やむにやまれぬ事情があるのでしょう」


「まあ、そういうことなんだろうねえ。彼はそういう子だ、事情や背景も、種族や人種も無関係に誰にだって手を差し伸べようとする。ドライでクールな様に見えて甘い考えが根底にある世間知らずの若者という感じの子だったよ」


「……いずれにしても、これで残る人柱はジェルタール王一人ということになりますね」


「まさかボクが動く前にこうなってしまうとは思っていなかったというのが本音だけど、そうなるね。リュドヴィック王は病死し、ローレンス神父は自ら命を絶った。何もかも予定と違ってばかりだよ」


「手間が省けるならば文句を言う筋合いでもないでしょう。ですが、なぜローレンスという男はそんな真似を?」


「クロンヴァール陛下にとって最大の後悔だろうね。陛下はきっと世界中を敵に回してでも神父を守る道を選ぶつもりだったはずだ。だけど、近し過ぎる関係であるがゆえに間違った方向に言葉を選んでしまった。きっとローレンス神父は自分以外にも人柱がいることを知らないまま逝ったはずだよ。自らの存在が世界に破滅をもたらし、争いの種になる、神に仕える彼にとってそれを防ぐために考え得る手立ては一つだった、というわけさ」


「なるほど……」


「迷惑な話だよね、発動するかも定かじゃない分からない魔術一つでこうも次から次へと死人が出ちゃうなんてさ」


「それでも、無意味ということはないでしょう。例え効力を発揮する前に魔法陣が消えてしまったとしても、神々の目論見通りこの世に破滅の種をもたらした。五分で……いえ、三分程度であってもそれで世界が消滅するとなれば当然なのでしょうが」


「少し考えれば分かりそうなものだけどねぇ、アルヴィーラ神国が無関心でいる時点でさ。それどころか世界統一協定? だったっけ? 無関心どころかあれに利用しているぐらいじゃないか」


「……そのような不確かな未来の話をしている場合でもないと思いますが?」


「それもそうだね。そういえば、その手紙の差し出し人は君がおかれた立場を知っているのかい?」


「貴方以外に知っている者がいるはずがないでしょう。ただ、あの男は何事にも無頓着に見えて勘が良い。何かに気付いている可能性は否定出来ないといったところでしょうか……だからどうなるということでもありませんが」


「それもごもっとも、だね」


「言うまでもないことですが、後は貴方が最後の仕事をするだけです。今はそれのみに心血を注いでください」


「分かっているよ。サントゥアリオの争いもそろそろ佳境だ、これ以上無駄な血が流れるのも後に響くからね。そこはちゃんとやり遂げるさ、その後のことに関してはコウヘイ君の働きに期待するしかないんだけど」


「貴方が推薦したのでしょう。ここにきてアテが外れた、では通りませんよ」


「今の君にそれ以外の選択肢があったのかい?」


「…………」


「黙らないでよ、いつもの軽口じゃないか。だけど彼なら、きっと何とかしてくれると思うよ。最初に言った通り、彼と彼の仲間にしかその役目を担える立場にある者はいない」


「しかし、聖剣や例の二代目を同行させず単独で国を離れたというのが不安要素であることも事実でしょう」


「流石にそこまではコントロール出来ないよ。今この時点で天子様が無事でいることが全てさ」


「そうですね……かつて天子様を救い、先の抗争で予想外の働きをしたあの方を信じる以外に私に出来ることはない」


「あの方、か」


「何かおかしいでしょうか」


「いや、随分と信用してるんだなって思ってさ」


「天子様を救ってくださるのであれば、私にとってはこれ以上ない恩人です。それさえ成し遂げてくれるのならば……全てを差し出しても良い」


「女神様に恩義を感じているのはボクだって同じさ。だけど、だからこそ本当にこれでいいのかなと思うのもボクにしてみれば当然だろう? この扉の向こうに進めば後戻りは出来ないということになるよ?」


「……それはタイミングの問題であって、元より他の手段など存在しないでしょう」


「それはそうかもしれないし、そもそもこの計画自体君が言い出したことだ。ボク達の目的は一つだった、だからこそ君の計画に乗った。だけど、だからこそこれで最後になるんだよってことを言いたかったんだけどね」


「貴方には感謝していますよAJ。私一人では天の意志に逆らって秘密裏にここまで事を運ぶことは出来なかったでしょう」


「そういうことが言いたいわけじゃないんだけどねぇ」


「……最後に一つ、頼まれ事をしてくれませんか?」


「何だい?」


「これを……あの方に渡していただきたいのです」


「君の(ゲート)をコウヘイ君に?」


「はい」


「残酷なことを言うなぁ。これを渡されたコウヘイ君が何に気付き、どう感じるか考えてはみたのかい?」


「全てを託した……そう言えば聞こえはいいですが、結局は無理矢理に押し付けただけ。先程も言いましたが、この望みが叶うならば私は全てを差し出すことが出来る……ですが、今の私には他に残せる物がありません」


「君がそうしてくれと言うならその通りにするけど……流石に天子様の前では出来ないよ? そもそも天子様はボクのことなんて知らないだろうしさ」


「そうしてくれると助かります」


「……考えは変わらないんだね」


「何が言いたいのでしょうか」


「【最後(セレスティ)(アル)楽園(・エデン)】計画を阻止するという目的を果たすために君は死ぬことになる、それが君の選んだ道だ。本当にいいんだね……キャミィ」


「構いません……天子様が無事で終えられるのならば、私にとってはそれが全てです」


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