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勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている  作者: まる
【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている⑧ ~滅亡へのカウントダウン~】
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【第十七章】 希望を求めて

11/27 誤字修正 尋ねて→訪ねて



「ああ~……」

 思わず、情けない声が漏れる。

 場所は変わらず見知らぬ国にある見知らぬ村の小さな宿屋、その一室に備わっている風呂場だ。

 一人用らしき個室に合った、これまた精々一人で使用するのが精一杯という感じの小さな浴槽で僕は湯船に浸かっている。

 檜風呂を連想させる木で出来た浴槽はどこか日本を思い起こさせ、そして今回こっちの世界に来て初めて緊張感から解放された瞬間とくれば脱力してしまうのも無理はない。

 当然ながら今がどういう時かを考えればのんびり入浴している暇など微塵も無いのだが、これには深い事情がある。

 今後の動向に関しての話し合いの結果、マリアーニさんとウェハスールさんの提案により僕は一人で行動することになったのだ。

 行き先は驚くことなかれ、フローレシア王国である。

 行ったこともないその国のことを僕はそこまで知らない。

 しかしそれでも、今までに耳にした情報を総合すれば悪評ばかりが目立つ国だということだけは分かっているつもりだ。

 魔族の神だかという存在である邪神を蘇らせるための施設があっただとか、徹底した鎖国主義のせいでクロンヴァールさん率いるシルクレア王国と一悶着あっただとか、怪しげな研究所があるだとか、そういう話を確かに聞いたことがある。

 ではなぜそんな所に行くのかというと、現状打破のために残された僅かな可能性が今の僕達にとってはもうそこ以外にはない、ということらしい。

 聞けばフローレシア王国というのはほとんど天界の管理下にあるような国らしく、例の【人柱の呪い(アペルピスィア)】という無茶苦茶な企みを阻害させないためにマリアーニさんを国に入れることを禁じられているのだとか。

 それは考えるまでもなくマリアーニさんを匿われることを防ぐためであり、フローレシアにあるという天界に繋がる扉、すなわち天門に近づけさせないためなのだろう。

 それでも唯一の同盟国であるユノ王国ならば、フローレシア国王と一応の顔見知りであるマリアーニさんの頼みならば、もしかすれば入国以外の要望なら聞いてもらえる可能性がゼロではないかもしれない。

 そんな目的を持っての単独行動というわけだ。

 言うなれば僕がマリアーニさんの頼み事を伝えに行く役目を担うと、そういうことになる。

 力を貸してもらえないかと、ユノ王国の人間ではない僕だからこそ残った話し合いの場に持ち込めるという現実的かどうかも分からない可能性に賭けなければ最早どうにもならない段階に来ているということは間違いない。

 件の犬の誓い? とかいう人物に会うために向かっていたはずの港にはほぼ間違いなくシルクレアの追っ手の方が先に到達してしまうはず。

 クロンヴァールさんが本気であるならば、そうなった時に太刀打ちなど出来やしない。かといって逃げの選択をした所で世界の破滅を迎えるだけとなれば、やはりそれをどうにかしない限り僕達に未来はないというわけだ。

 サントゥアリオ共和国にほとんど戦争と変わらない状態で攻め入り、曲がりなりにも顔見知りであり同じ陣営で戦ったこともある僕を躊躇いなく殺そうとした時点で本気かどうかなど疑う余地も無い。

 最初はそう思っていたのだが……果たしてその本気は、どこまでのことを言うのだろうかと、ふと考える。

 確かに僕はお腹を刺された。

 邪魔者は容赦しないという考え方はあの人らしいといえばその通りだ。

 だけど、僕は確かに生きている。

 無論あのままの状態でいれば程なくして僕は死んでいただろう。

 たまたまマリアーニさん達が戻って来てくれて、傷を癒す能力を持ち合わせていたから生き存えたに過ぎないことも間違いない。

 それでもあの人が本気で僕を殺そうとすれば、即死させることも簡単に出来たのではないかと、どうにも引っ掛かりを覚えるのだ。

「…………」

 今はそんな過ぎたことを考えている場合ではない、か。

 どうやらここから港までは一日程度は掛かるということのようだ。

 電車や車が無く馬車や馬という手段で、しかも人が通るための道路も無いので山や川を避けていかなければならないとあれば仕方がないとはいえ、追っ手から逃れるために慎重に足を進めてきたこともあって予想外に時間を要してしまっている。

 だからこそ二手に分かれての同時進行に踏み切るしかなかったというわけだ。

 一人でフローレシア王国に行って、三人が港に辿り着く前に戻ってくる。それが僕に課せられた使命ということになる。

 この国はユノ王国の近隣国で、フローレシア王国もまたユノ王国の近隣国であるため船で行けば日が暮れるまでには到着出来るだろうということなのだが、肝心の手段に船を用いるというのはどういうことかという疑問は当然僕とて抱いたさ。

 どうやら僕が寝ている間にウェハスールさんが村で多少の情報収集をしたらしく、この村は比較的海岸に近い位置にあって、海辺に個人で所有し商売で船を出している人がいることを教えてもらったのだとか。

 腹案としてマリアーニさん本人が船に乗り移動するという方法も考えなかったわけではないとのことだが、顔が割れてしまっていた場合に面倒なことになるのは分かり切っているし、そうなると逃げ場の無い船上に足を踏み入れるのはリスクが高く、それでいて帆船しかないこの世界では結局馬の速度には勝てないためメリットもないということで即座に放棄された。

 ならばいっそ手段を選ばずエルの飛行能力で二人を運ぶのはどうかとマリアーニさん自身から提案もあったが、人間二人を抱えて空を飛ぶ姿はあまりにも目立ってしまう。

 この国にクロンヴァールさんの手が及び情報が漏れつつある中では居場所を教えるようなものであることに加え、やはりその状態では速度的なアドバンテージも取れないということで断念する流れとなった。

 そこで最終的に僕がこれからその船の所有者に会いに行き、お金を払ってフローレシア王国に送って貰えるよう交渉しに行くという段取りとなった。

 それに備えて今現在、少し先までの経路を偵察するためにエルが外に出てくれていて、待っている時間を利用して骨休めを勧められたというわけだ。

 血液こそ綺麗にしてくれてはいるが、汗やら汚れやらを落とす意味と疲れを癒す意味の両方を僕はこの風呂場で消化させてもらっている。

 強がりでも疲労がないとは言えない心身にはただ湯船に浸かっているだけでも効果は抜群で、思わずまた眠ってしまいそうになるぐらいに心地よい静かな空間は大いにありがたいものではあったが、いつまでも浸っているわけにもいかない。

 休息は十分だ。

 言い聞かせる様に心で呟き、僕は十分程の入浴を終えることにした。

 よし、と。今度は声に出し浴室を出るとそそくさと身体を拭き、服を着て部屋に戻る。

 僕の姿を見るなりすぐにマリアーニさんが寄ってきたかと思うと、なぜか目を逸らされ俯き加減な上にか細い声で話し掛けられた。

「あ、あの……王子」

「…………王子?」

 誰と間違っているんだろうか。

 そう問うよりも先に、これまたどういうわけかマリアーニさんは恥ずかしそうな顔で声にならない声を上げながらウェハスールさんに抱き付いていた。

 そしてウェハスールさんは普段以上に優しい顔でそのマリアーニさんの頭を撫でている。

 悲しきかな、その遣り取りの意味は全く分からない。

「大丈夫ですよ~姫様~。わたしもエルも、勿論コウちゃんも姫様の味方ですから~、ファイトです♪」

「ええ……そ、そうよね。わたくしが頑張らないと」

 そこでマリアーニさんはウェハスールさんから身を離し、今度はどこか決意じみた表情を浮かべ改めて僕の正面に立つ。

 そして首に掛かっていたネックレスを取り外し、それを僕に差し出した。

「これを」

 キラリと宝石が光る、いかにもあらゆる価値を持っていそうな細いチェーンと小さなペンダントトップのネックレス。

 これはユノ王国の国章を模したネックレスで、それすなわちユノ国王のみが持つこと許されたユノ国王の証となる物なのだそうだ。

 それプラスマリアーニさん直筆の手紙を預かることで、僕がユノ王の遣いであることの証明とする。そういう目的だ。

「確かに、お預かりしました」

 受け取ったそれらはショルダーバッグに入れようと思ったが、万が一バッグを紛失した時に大変なことになるので肌身離さず持つ意味でポケットにしまうことに。

 じき、エルも戻ってくるだろう。

 これから僕はまた、今までとは別のとても重要でとても危険なことをしに行かなければならない。

 身近な人の、或いは見知らぬ多くの人々の運命を左右するであろう困難な道だ。それは最初からずっと変わらない。

「えっと……」

 別れの言葉ではなく再会を誓う言葉を探す少しの間がまるで見つめ合っているかの様な空間を作っていた。

 若干気恥ずかしくなって声を漏らすもマリアーニさんは潤んだ瞳でジッと僕を見ているだけだ。

 心配なのは分かるけど、深刻さが増しちゃって不安になってくるのでせめて口や態度ぐらいは前向きな振りだけでもして欲しい、というのは無理がある注文か。

「あら?」

 そんなことを考えていると、不意にウェハスールさんの視線が扉の方を向く。

 何事かなと同じ方向を見てみると、見たこととは無関係に耳が情報を捕えた。

「どうやら、エルが帰ってきたみたいですね~」

 ドタドタと廊下を走る足音が聞こえてくる。

 まあ、エルで間違いないな。

 なんて確信と同時に、バターンという騒音と共に扉がもの凄い勢いで開いた。

 入ってきたのは驚く程に予想通り、普通にエルである。

「ただいまっ!」

 元気一杯に片手を挙げるエルの姿は遊びから帰ってきた小さな子供のようだなと、そんな場違いなことを考えてしまう。

 同じ気持ちを抱いたかどうかは定かではないが、ウェハスールさんも呆れた風だ。

「エル~、屋内では静かにしなさいといつも言っているでしょ~。それからいい加減ノックを覚えなさい」

「ごめんっ、今度から気を付ける! それでね、結構向こうの方まで行ってみたんだけど、周りに何も無いから近くで見張られてるってことはなさそうだったよ。あれなら誰かが追い掛けてきてもすぐ分かるし」

 叱責なんて何のその。

 特に気にする様子もなくエルは本題の報告を口にしていた。

 その『今度から気を付ける』というフレーズが幾度となく繰り返されてきたのであろうことはウェハスールさんじゃなくとも分かる。

 だからこそ本人もしつこく言うつもりはないようで、「仕方がない子なんだから」とでも言うような溜息を一つ挟み、ウェハスールさんもその本題から話を逸らすことはしなかった。

「それならすぐに出発出来そうですね~。エル、外で待っていてくれるかしら~? コウちゃんもすぐに行ってもらうから」

「オッケー、じゃあ馬の所に居るから弟も急げよっ」

 にかりと笑って僕に立てた親指を向けると、エルはそのまま部屋を出て行った。

 騒がしい子だな~と思っている横でウェハスールさんが開けっ放しの扉を閉じる。

 敢えて僕を残したのは先程言い出せなかった一時のお別れを述べる時間をくれたのかもしれない。

 ならばと改めて僕は二人に向き直る。

「マリアーニさん、姉さん、必ずやご無事で」

「はい。王子も、絶対に無事に帰って来て下さいね」

 マリアーニさんはそう言って僕の右手を両手で包んだ。

 肩まで伸びたサラサラの明るめの茶色い髪からは良い匂いが漂ってきて、間近にある綺麗さと可愛らしさの混じった外見に思わず目を逸らしそうになってしまう。

 なってしまうのだが……その前に、だから誰と間違っているのかという疑問が上回ってなんだか照れるよりもモヤモヤした。

「コウちゃん~、帰ってきたら大事な大事なお話があるので何があっても戻ってこないと駄目ですからね~」

「話?」

「はい~。今後に関する、みんなが幸せになれるとーっても大事なお話です」

「はあ……」

 なんだろう。

 大事な話……思い当たる節は今のところないはずだけど。

「もう、ケイトっ」

 真剣に考えていると、マリアーニさんがもの凄い勢いで赤面していた。

 抗議じみた顔を向けられたウェハスールさんはにこにこしているだけでよく分からない。

 この人のことだ、そういう言い回しをすることで遠回しに再会の約束をしたからね、ということを伝えているのだろう。

 そうやって無事でいることを、再び出会えることを願ってくれる人がいるのなら……僕は僕に出来ることを死ぬ気でやり抜こう。

 固く心に誓い、僕も宿屋を後にするのだった。


          ○


 それから五分後、僕はエルが操縦する馬の後ろに乗り大地を駆けていた。

 出発前の報告通り、確かに見晴らしが良すぎる程に良い草原が広がっているだけの景色が広がっており視界を遮る物がほとんど無い。

 本来エルの(ゲート)を使ってんで行く予定だったのだが、そこまで距離がないことが分かったので馬での移動に変更した次第である。

 密着する細く小柄な体は年相応にしか感じられなくて、半分金髪というのはさておき背中で存在感を放っている柄の長い薙刀の様な武器や戦装束がなければ王様の側近には到底見えない無邪気さや子供っぽさを持っているのがエルたる所以か。

 しかし、この子はどのぐらい強いんだろう。

 今にして思えば僕はエルやウェハスールさんが戦っている姿を見たことがないんだよね。短い付き合いなので当然と言えば当然だし、エルに関してはあの首無しゾンビ達を一人でやっつけるぐらいだから相当強いんだろうけど。

 とまあ、一人そんなことを考えてはいるんだけど、共に進むのはそのエルだということを忘れてはいけない。

 緊張感とは無縁なこの子と二人では重苦しい雰囲気になどなるはずもなく、ほとんど雑談みたいな話をしながらの旅路になってしまっていた。

 エルの持つ門、【風神遊戯(トリック・ウィンド)】のNO.は99だということを自慢げに語られたり、ウェハスールさんやマリアーニさんとの思い出話だったりと内容は様々だ。


「99ってことは最後の一個ってことだよ? 凄くない?」


 という主張の意味は全く分からないが、まああの二人が可愛く思う気持ちも分かるなぁというぐらいには素直で良い子だということが僕にだって伝わってくる。

「そういえばさ、国の方はどうなってるの?」

「へ? 国?」

「うん、王様がいなくなったわけでしょ? 放ったらかしってわけにはいかないだろうし、誰が代わりに取り仕切ってるのかなって思ってさ」

「ああ、そういうのはシャダムがやってるよ? 基本は姫と姉さんが全部やってたかんね、兵士も大臣もいない国だからってのもあるんだろうけど」

「シャダム……ああ、あの変な人か」

 中二病? だっけ?

「あの人だけで大丈夫なの?」

「あいつ馬鹿だけど言われたことはちゃんとやる奴だから大丈夫だよ多分」

「ふーん……」

 エルに馬鹿と言われるのも心外だろうに。

 まあ船の操縦とか出来る人だったし、性格を除けば優秀な人ということなのだろうか。

 大丈夫じゃなければ王とその側近が揃って国を離れるという決断をそうそう下せるはずもない、と考えればその通りなのだろうけど。

「あ……エル、ストップ」

 そうこうしている内に、少し先に船が見えてきた。

 トントンとエルの脇腹を叩き、馬の足を止めさせる。

 近付き過ぎてエルの外見で勘付かれては不味い。ということもあって、ある程度近付いた時点で降ろして貰うことは事前に話し合って決まっていたことだ。

「ここでいいよ、送ってくれてありがとう」

「弟、死んでもいいから無事に帰って来ること! 約束したからね」

「うん、分かった。エルも二人の事をよろしくね」

「任せとけ!」

 自信満々にサムズアップを返すエルの頭を撫でると、特に嫌な顔をされるでもなくそのまま馬に跨った。

 弟と僕を呼ぶくせにこういう所で子供扱いするなと怒ったりしないのは単に気付いていないだけなのか、それとも普段から二人にそういう風にされているからなのか。

 いずれにしても、やっぱりどう考えても姉ではなく妹みたいな存在だなあとしみじみ思いつつ引き返していく姿を見送り、僕は船の泊まっている方へと歩いていく。

 周囲を見渡してみると多くの人が利用するとは思えぬぐらい何の整備もされておらず、港という印象はほとんどない。

 それでいて小屋の様な建物が三つほど見えるが、村や集落という感じでもなさそうだ。それほどに人が生活する環境とは程遠い、本当に辺境の地という感じ。

 そんな中、岸辺にある小さな船を手入れしている髭面の中年男性が目に入る。

 すぐに近寄っていくと、僕に気付いた向こうから声を掛けてきた。

「おや? こんな所に人が来るたあ珍しい、お客さんかい?」

 特に警戒されている様子もなく、不審がられているというわけでもなさそうだ。

「ええ、ここに来れば船に乗せてくれる方がいると聞いて来た次第です」

「いつでも出せるぜ。乗りな、目的地はどこだい」

「どこにでも連れて行ってもらえるんですか? お金さえ払えば」

「ああ、こんなでもしっかり走る船だ。ご希望の場所までお連れするさ」

「では……フローレシア王国までお願いします」

「は、はあ? おいおい兄ちゃん、冗談キツいぜ。からかうのはよしてくれ」

「冗談じゃありません。急ぎなんです、何があっても行かないといけないんです」

「だからってよ……無茶が過ぎるぜそりゃあ。いくら金を積まれたってよお、近付くだけでどんだけ危険だって話だろうに」

「あなたに危険が及ぶようなことには絶対にさせません。これで、どうにかお願い出来ませんか」

 ポケットから金貨を十枚取り出し、掌に乗せて差し出す。

 この世界の貨幣価値で言えば一家が一、二ヶ月は遊んで暮らせる程の大金だ。

「な、なんじゃこりゃ……兄ちゃん、一体何者だい」

「それは今はどうでもいいことです。どうか、引き受けていただけませんか? 正式な身分と権利、理由を持った上で訪ねて行く身です。先程も行った通り、あなたに危険が及ぶことは決してありません」

 間違っても断定など出来ないが、今はこう言っておくしかない。

 騙すみたいで申し訳ないが、ユノ国王の使者ということを考えれば全くの嘘というわけではないはずだ。

「……約束だな?」

「約束します。万が一のことがあっても、僕にはあなたを守る術がありますので」

 言うと、おじさんは大きく息を吐き頭をガシガシと掻きむしり、

「分かったよ、ここからじゃ急いでも到着は夕暮れぐらいになっちまうが、構わないんだな?」

「はい、構いません」

「了解だ、引き受けたからにはちゃんと向かうだけは向かってみる。その後どうなるかは何とも言えんがね」

 金貨を受け取った男は僕を船へと促す様な素振りを見せ、先に船へと乗り込んでいく。

 これもまた一種の賭けではあったのだが、兎にも角にも第一段階はクリアだ。

 その後のことなんて僕にだってどうなるか分かったもんじゃない。

 それでもやるしかないなら、やるしかない。

 限りない広大な海を前に今一度失わぬと決めた勇気と決意を頭の中で復唱し、僕は未開の国と呼ばれる地を目指して出発した。


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