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勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている  作者: まる
【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている⑧ ~滅亡へのカウントダウン~】
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【第十四章】 灰色の空、虚ろいの展望

5/12 誤字修正 もらい受けた→貰い受けた



 にわかに雨が落ち始めたサントゥアリオ共和国の大地にひんやりとした空気を広がっていく。

 国家の象徴たる本城では淀んだ空が生み出す空気と似たどんよりとした雰囲気が同じく広がっていた。

 人払いを済ませた本棟二階の玉座の間には国王ジェルタールを始め、キアラ総隊長やコルト・ワンダー、異国の勇者セミリア・クルイードが集いしばし話を続けている。

 シルクレア軍の三点襲撃を一応の形で退け、敵兵の多くを捕えた戦果を報告し合うと同時に今後の方針を決定するためだ。

 玉座にはジェルタール王が座っている。

 その前に並ぶ三人は各地で繰り広げられた戦いの様子のその顛末を語り終えると、その最後をキアラが締めくくった。

「死傷者もそう多くはなく、こちらにも捕えられた者がいるとはいえ敵兵の大半を抑えています。ガローンが陥落し副隊長二名が捕えられた以上最良とはいかずとも十分な成果かと」

「ああ、クロンヴァール王も互いに捕虜がいる状況では暴挙には及ぶまい。問題はこれからどうするか……いや、あちらが今後どう動くか、か」

 終始晴れない表情のジェルタール王はちらりとセミリアに視線を移す。

 以前、少しの悶着があったためどうにも自分に対する心証がよろしくないのではないかと遠慮混じりの態度となりがちであった。

 そんな態度を薄々感じつつも過去に囚われることを無意味だと考えるセミリアが特に言及することはない。

「まず間違いなくクロンヴァール王の逆鱗に触れたことでしょう。そうなると更に大きな兵力を持ってこの王都へやってくることは容易に予想出来ることです。かといってすぐに行動に出られる状態とも思えませぬが」

「ええ、それについては疑いようもないわね。それでも戦いに敗れるよりはずっと意味がある結果であることも間違いないわ。いずれにせよ、今すぐでなくともこうなっては正面からぶつかり合う可能性が高い。再びスコルタとベルジオンを攻めようとするか、それとも王都に直接やって来るか……いずれの場合にも迅速に対応出来るようにその三地点に出来る限りの兵力を集めましょう」

 キアラが割って入ると、セミリアのみならずワンダーも無言のまま頷いた。

 そしてジェルタール王から了承の返答が返ると、キアラはワンダーの肩に手を置く。

「私が持ち場を離れたばかりに苦労を掛けてしまったけれど、本当によくやってくれたわねコルト」

「い、いえ、僕はお師匠様の助言を実行に移しただけなのでそのような言葉をいただく程のことは……」

「それでも、よ。私の読みが甘かったことは事実、それによってシビルやオットーに、ガローンの兵達に割を食わせてしまった。それでも三つに分かれた部隊の全てを封じたことは間違いなく貴方やコウヘイ君のおかげよ。私が想定出来ていなかったクロンヴァール王のガローン襲撃、そして山を越えての王都襲来、異国にいながらにしてその両方を看破してしまうとは。彼も彼でどこまでも私の想像の上を行く人間ね」

「はい。お師匠様や正義の象徴であられる勇者様がいらっしゃるのです。必ずやお国を守ることが出来ると僕も信じています」

 康平を称える言葉が自分のことよりも嬉しかったのか、ワンダーは表情を輝かせている。

 その様子を横目に、セミリアだけが少し神妙な顔付きを浮かべていた。

 自分が知る誰よりも頭が良く、それでいて殺し合いを避け敵を捕えるための方法を選ぶ。

 それをやってのけてしまうのが己が信じた康平であり、そんな男だからこそ共に歩んだ過去を誇らしくも思う。

 しかし、だからこそワンダーを始めこの国の人間にも少しでもそうあって欲しいと思ってしまった。

「ワンダー少年……いや、ワンダー殿。正義という言葉をあまり過信するものではない」

「……へ?」

 迷った末、セミリアは思ったままを口にする。

 幼少を過ごしたこの国の、壮絶な戦争を体験することとなったこの国の在り方を知っているからこそ黙っていられなかった。

 きょとんとするのはワンダーだけではなくジェルタール王やキアラも似たようなものだったが、セミリアは気付いていない。

「勇者という肩書き、或いはその称号を貰い受けた時、私はこの大剣を同時に授かった。これらは確かに正義の象徴とまで呼ばれることがままある、我が国では特にな」

「は、はい……」

 ワンダーは責められているのではないかと声を震わせる。

「怒っているわけではないのだ、そのような顔をしないでくれ」

「あ、いえ……ごめんなさい」

「誤解させてしまったなら済まないと思う。だがそれでもお主には特に聞いて欲しいのだ」

「…………」

「その象徴の一つであるこの大剣は、一体何のためにある物だろうか。悪を討つため、誰かを守るため、そのように言い換えることは容易い。だが、元を正せばこれは剣、すなわち武器でしかない。人を傷付けるための道具に過ぎぬのだ。正義という言葉も然り、その概念は決して普遍的なものではなく、立場や置かれた環境によって意味を変える。方法が正しいかどうかは別としても、クロンヴァール王とて悪意を以てこの国を脅かしているわけではないだろう。あちらにはあちらの正義がある、表現を変えるならば正しいと信じ貫くべき信念がある。立場が変われば、求める正義も善悪すらも、簡単に覆ってしまうものだ」

「でも、それでは……」

 悪意を伴う力の行使すらも肯定することになるのではと、言い掛けたワンダーの声は途切れる。

 言い終わるよりも前にセミリアの開いた手が向けられていた。

「これも誤解のないように言っておくが、何も私は正義を否定しているわけではない。正義を過信してはならぬ、正義に依存してはならぬ、正義を戦う理由に、争い傷付け合う口実にしてはならぬ、そう言いたいのだ。己の信じた道を行くこと、己の意志を貫く強さを持つこと、己の矜持を守るための勇気を培うこと、その在り方こそが正義を志すということだ。正義という言葉に惑わされれば自己を見失う、正義という言葉に依存すれば大義を見失う、正義という言葉を口実にすれば善悪を見失う。正義とは誰かのために口にする物ではない、己が貫くと決めた意志を支えるものであり己が進むと決めた道を行くために背中を押してくれる勇気となる。そういった心の支えとして心に秘めておく物だと私は思う……というよりは、そう思うようになったというべきだが……正義という言葉は口にしてしまうと、一転してそこに他者の意志が介入してしまう。それは時に暴力に変わり、時には数の力によって形を変えられてしまうのだ。だからこそ私は私の信じる正義のために戦う、私が貫くと決めた生き方を全うする、私が正しいと思える道を進む。若いお主だからこそ大義や正義という言葉を、或いは己自身を疑いながら戦場に立つようなことになって欲しくはない、そう願っての要らぬ世話だ。賢しらな物言いで恐縮ではあるが、心の片隅にでも留めておいてくれると嬉しい」

「はい……未熟な僕にでも仰っていることの意味は分かります。お師匠様や勇者様を見ていればそれを貫こうとすることがどういうことなのかも。お師匠様も仰っていました『僕は偉い人間でもなければ誰かを守るために戦う力もない平凡な人間で、平和を守る格好良い人間でも正義の味方を気取れるような立派な人間でもない。だけど自分が間違っていると思うことを間違っていると言えずに諦めて見て見ぬふりをしてしまったら自分がこの世界にいる意味がないんだ』って」

「コウヘイらしい口振りだな。あの男はどうにも自分の価値を知らぬ」

 異国にいる思い人の顔を思い浮かべるセミリアだったが、すぐに自らの置かれた状況に気付き咳払いをした。

「話を逸らしてしまい申し訳ない。本題はこの後どうするか、でしたな」

「いえ、あながち逸れた話というわけでもないわクルイードさん。私達も、その意味を理解すべき人間の一人だもの。貴方の言う通り、正義や正しさという概念は常に移り変わるもの……この戦いとていつ人心がクロンヴァール陛下に寄ってしまうか」

「市井の感情を維持させるにも限度がある、ということですね」

「ええ。戦いに勝ち、国を守ったところでその先には更なる困難が待っている。それを解決しないことには民どころか私達に従う兵の心すらいつ反対に転ぶか分かったものじゃない。窮地を脱したとはいえ、得た時間は一日に足るかどうか。お世辞にも好転したとは言えないもの」

「うむ……情けないことだが、それに関しては私もコウヘイに丸投げしてしまっていました。コウヘイが別の解決策を探すと、そう言っていましたゆえ……城塞での指揮も含め自分のことで精一杯だったということもありますが、どうにもあの男がどうにかすると口にしたからには本当にどうにかしてくれるのではと無意識に期待していたのかもしれませぬ」

「情けないなんてことはないわ、それはきっと世界中の誰にも成し得ない可能性がある程の難題だもの」

 これは人柱の命を絶とうとする者とそれを阻止しようとする者の戦いだ。

 シルクレア軍を追い払うことが出来たところで世界の滅びが迫っている事実に変化はない。そんなことはこの場の誰もが理解している。

 そこで余計に重くなりかけた空気を察してか、キアラが論点を逸らした。

「コルト、コウヘイ君はその後何か知らせを寄越してくれてはいないの?」

「それが……山に着いてからも何度か連絡を取ろうとしているのですが一向に繋がらなくて」

「確かワンダー殿の能力には距離や範囲の制限は無い、という話だったが」

「はい、僕の能力が通じない理由は三つありまして、一つは本人の意識がない場合、一つは僕の魔法力が届かない特殊な環境に身を置いている場合、そして一つは……」

 その先を口にする者はいない。

 或いは、対象が既に絶命している場合だと、言ってしまえば要らぬ不安を招くだけだと、平常心を失ってしまうだけだと分からないはずがなかった。

 だが、それは言葉にせずとも大きな違いはない。

「……クルイードさん」

 明らかに表情に陰りをみせたセミリアを慮ったキアラの声が漏れる。

 それでもセミリアは小さく首を振り、すぐに気を引き締めたと見える様に繕った。

「コウヘイは一人で行ってしまった。心配でないと言えば嘘になりますが、ここで私が役目を放棄すれば怒られてしまうというものです」

 彼ならば私が必要な時はそう言ってくれるはずだ、そう言い掛けたセミリアは自らそれを否定した。

 康平は他者を危険に巻き込むことを厭う。

 自分を守るため、自分を助けるために戦ってくれとは口が裂けても言わぬだろうと、セミリアは誰よりもよく知っていた。

「今私達が考えるべきはこの国のこと、それが第一です。コウヘイと連絡が取れぬとなると、尚のことどうするか。それを考えねば」

「それについてですが、私に考えがある」

 そう言ったのはジェルタール王だ。

 ここにきて初めてようやく意見らしい意見を述べた王に全ての視線が集まる。

「キアラの言う通り、明日にはクロンヴァール王も再び動き出すでしょう。本日中にコウヘイ殿と連絡が取れぬようであれば私の指示に従って動いてもらいましょう。言えた筋合いではないかもしれませんが、クルイード殿もです」

「それは構いませぬが、その考えというのは」

「然るべきタイミングでお話します。三人とも動き通しなのだ、捕虜の移送も終わった今をおいて休息の機は無いかもしれません。各基地と王都に配置する兵への通達を済ませたのちは有事の際までしばし休息の時間に充ててください。キアラ」

 提案程度の申し出では気を遣って遠慮するかもしれないと、ジェルタール王はキアラに目配せをした。

 その意図を察したキアラはにこりと、セミリアに笑みを向ける。

「そうですね、常時気を張っていざという時に万全ではないとあれば本末転倒です。クルイードさん、昼食もまだでしょう。用意させているから一緒にどうかしら」

「うむ……全くにその通りですな。ではお言葉に甘え馳走に与るとしましょう」

「コルト、先にクルイードさんを案内して。私は陛下をお部屋まで送ってから向かうわ。それから各士官への連絡が完了次第貴方も休んでおきなさい。何かあったらすぐに知らせて」

「は、はいっ、了解です」

「では陛下、参りましょう」

 ああ。と、短く答えジェルタール王も立ち上がると四人は揃って玉座の間を後にする。

 迫る決戦の時を前に、王の決断を知ることのないまま。


          ○


 フェノーラ王国には二つの港がある。

 南西部に位置する他国の船が出入りし他国を行き来する船が使う主要な港、そして国内を行き来する商船や個人が私有する船が主に停泊している北西部の港の二つだ。

 そのうちの前者、南西にある港にこの日二度目の帰還を果たしたばかりのダニエル・ハイクは自国の国章が掲げられた巨大帆船を前に大きく溜息を吐いた。

 知らせを受け取るなり馬を飛ばして戻ったのは再上陸する主を出迎えるためだ。

 半刻ほどの待機時間を経て、今まさに船内にある魔法陣を通じて到着した国王が船から下りてくる姿がようやく目に入る。

 舷梯を降りてくるは国王ラブロック・クロンヴァールのみではなく側近のクリスティア・ユメール、兵士長のアルバートが後ろに続いていた。

 本来ならば出来うる限りの兵力を以てマリアーニ王の打倒を目指すべき局面であるが、サントゥアリオでの不覚続きが兵数を裂く余裕を奪っている。

 大凡の事情を知らされているハイクは別れてから半日足らずでの再開に対する挨拶を主君にするでもなく、自分になど目もくれず女王と腕を組みだらしのない表情を浮かべるユメールに文句を言うでもなく、敢えて最初に声を掛ける相手として選んだのはアルバートだった。

「よお、アルバートの旦那。挨拶代わりに一つ聞きたいんだが、俺ぁ一体何度ここを往復して姉御をお迎えにあがりゃいいんだ?」

「そう言ってくれるなよダン。こっちもこっちで大変だったんだ」

 嫌味に聞こえる問いも、そこに悪意がないとあってアルバートはただ肩を竦める。

 ハイクは懐から取り出した煙草に火を点けつつ、他の二人をそれぞれ一瞥した。

「そりゃお察しするがね、旦那なら姉御を連れ回さねえで休ませてやってくれると期待していたんだが」

 ユメールが全くあてにならないだけに、とは口にしない。

 無駄に憎まれ口を乱打される結果しか生まないことを嫌というほど理解しているからだ。

「見損なわないで欲しいね、僕だって何度もそうお願いしたさ。当然だろう」

「アルバートを責めてくれるなダン。これは元より私の我が儘だ、最初から最後まで全てな」

「別に責めちゃいねぇが……というよりも、俺が誰かを責めているなら対象は姉御だっつー話だろうに」

「やいダンっ、お前如きがお姉様に説教とは百五十万年早いですっ! お前は黙ってお姉様とクリスの言うことを聞いておけばにゃあっっっっっ!! って、何しやがりますか!」

 したり顔で鼻を鳴らしたユメールの顔面に火の点いた煙草が飛ぶ。

 それを咄嗟に躱すと瞬時に憤怒の表情でハイクに詰め寄った。

「まあ落ち着けよユメ公、今はわーきゃーと世間話をしている時と場合じゃねえ」

「お・ま・え・の・せいだろうがー! ですっ」

 指を突き付けつつ額をぶつけんばかりの勢いの至近距離で睨み付けるユメールだったがハイクは特に相手をするでもなく、続け様に発せられようとした罵りの言葉はクロンヴァールの手によって飲み込まされた。

 そっと頭の上に置かれた掌を拗ねた表情で見上げるユメールは唇を尖らせるだけでそのまま引き下がる。

「お前には重ね重ね世話を掛けるが、今日ばかりはまあ許せ。少々読み違いがあってな、サントゥアリオの方は少し時間がいる。読みだけではなく、私自身の甘さも大きな要因だろうが」

「国一つ落とすってのはそう簡単なもんじゃねえだろう。らしくねえ自虐じゃ笑うに笑えねえぜ?」

「ふっ、確かに諧謔にしても不出来なことよ。鬼に身を落とした半死人が、無意識に人であろうとしていたとあってはな。情も義も捨てたつもりでいたが、どうにも温いことをしていたようだ」

「お姉様……」

「そんな顔をするなクリス、自虐でも自棄でもない。ただ気を引き締めねばという自戒のようなものだ。それに、この国に来たこと自体は無意味ではなかったしな」

「というと?」

 ぼそりと付け加えられた最後の言葉にアルバートが反応する。

「なに、この国に来てルドルフの件の謎が解けたような気がしたというだけのことだ」

「ああ? どういう意味だそりゃ?」

「それに関しては後でいい、まずはお前の報告を聞こう。奴輩(しゃつばら)の行方は掴めたのか?」

「いいや、潜伏場所までは特定出来てねえ。が、色々と分かったことがある」

 そう言うと、ハイクは捜索に時間を費やした成果を順に口にする。

 マリアーニ王及びその一味を捕えることがこの国に送られたハイクの役目だ。無論のこと、生死問わずで。

「どうやら、連中は偶然この国に逃げ込んだってわけじゃないようだ」

「ふむ、その根拠は」

「先回りさせた隊とは一旦離れて奴らが立ち寄った可能性がある町や村を洗って回ったんだが、聞き込みの結果誰かを捜しているらしいことが分かった。それが誰かってことまでは判明してねえ、なにぶん尋ねられたって奴を何人か見つけたんだが、そいつら自身心当たりが無い名前だったんで覚えてねえとさ。犬がどうとか言っていた、とぬかした奴もいるが、要領を得ないだけに人違いかどうかもさっぱりだな」

「ほう、人捜し……か。だが、今この状況で奴らに手を貸そうとする者がいるとも中々思えんが、一体どういった目的があるのやら」

「そうですね。助けを求めるにしても対抗する術を求めてのことなのか逃げる手段を求めてのことなのかで変わってきそうな話ではありますが」

「誰を捜しているのか、どういう理由で捜しているのか、そこまでは調べようがなかったが、目的地についても突き止めた。連中は反対側の港を目指しているようだ。部隊の大半は直行させたが今日中に到着することはねえだろうし、今から追い掛ける俺達とてそれは同じだ。どうするよ姉御」

 到達に一日必要とするならば、サントゥアリオ侵攻の再開をその分だけ遅らせることになる。

 それが可能な状況なのかどうか、それが許される状態なのかどうか、ハイクは視線で問うていた。

「港に到達させなければ勝ち、ならば考えるまでもない。行くぞ」

 ラブロック・クロンヴァールには僅かな躊躇もない。

 二人の王を葬り、フローレシアの化け物を消すことにより世界を呪いから解き放つ。

 そのために全てを賭すと決めた心からは人類に残された時間、己に残された命の灯火が一片すらも迷いや後悔という概念を捨てさせていた。

 即答とも言える決断を予想していたハイクはもう一方の不安要素の如何を確認するべくアルバートに視線を向ける。

 無論、それはクロンヴァール王の身体の問題であったがアルバートは『言及する意味はない』とばかりに小さく首を振るだけだ。

 言っても無駄であることを重々承知しているハイクは今一度溜息を吐き、渋々その言葉を飲み込んだ。

「途中まではエレマージリングで飛べる。そこからは馬車での移動だ、デカめのを用意してっからせめてその間ぐれえは姉御にゃ休んでもらうぜ。俺が操縦、ユメ公は姉御の世話、旦那はファルコンを頼む」

 異論、反論は一つたりとも返らない。

 世界のためではなく、ただ王のために付き従う三人の側近を尊ぶような気持ちを胸に、クロンヴァールはハイクに手を差し出した。

 この国で、そしてサントゥアリオ共和国での戦いはこれより佳境に向かう。

 いずれも四人の想像が及ばぬ行く末が待っていることを知る者が誰一人としていないままに


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