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勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている  作者: まる
【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている⑧ ~滅亡へのカウントダウン~】
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【第四章】 ユノ王国の歴史



 ユノ王国が誕生したのは五百年と少し前の話であると言われている。

 建国の経緯や中心となった人物等の詳細は不明とされているがその実、根底には大きな意味と明確な作為や意図が見て取れる歴史が存在することを知る者はまず現代にはいないだろう。

 第三者という分類で考えるならば現代はおろか二百年、三百年と遡ったところでそうは変わらないと断言してもいい。

 それ程にユノ王国、そして数年先に歴史を刻み始めたフローレシア王国の情報は外部に対しては慎重に扱われるものなのだ。

 当時の文献はほとんど残っておらず、また残っていたとしても両国の詳細を記す物は更に稀である。

 数少ない起源と歴史に関する言い伝えにおいて、ユノ王家は天門を守る一族だとされており、そしてフローレシア王国はそのユノ王家を守るべく出来た国だとされている。

 今や両国に生きる民にすら真偽の不確なそれらの情報を深く追求する者は物好きだと揶揄されて然るべき希有で奇特な存在だ。

 だが事実として、正答の見つからない伝承が歪曲して残されてきた誤った知識であることは疑いようのないことだといえる。

 それは語るまでもなく国が出来た順番が既に証明しているが、では真実は如何なるものなのか。

 少々公にするには特殊さが際立つ、古く長い付き合いのある知人が話してくれた私が知る一部の事実をここに記そう。

 現代では五大王国と呼ばれる大国の持つ称号を持つユノ、フローレシアの関係。

 それは言い伝えの正反対の形と言えば分かりやすいだろうか。

 フローレシアは人間界に作られた天門を守るべく作られた国であり、その天門、及びフローレシア王国その物を監視するために作られたのがユノ王国なのだ。

 天門、すなわち創世まで遡らんばかりの遥か昔にこの人間界に作られた天界へと繋がる扉。

 その門を守るために地上の民の中から選ばれた王がフローレシアを統べることとなった。それが歴史の始まりなのである。

 無論、その座を懸けて何らかの争いが起きたといったこともなく、ましてや民衆の意志を反映した人選をすることもなく、天界と密接な関係を持った者達が任命という形でだ。

 そしてもう一つの事実として、ユノ王家というものはそもそも存在しない。

 フローレシアとは違いユノを統べるのは天界から派遣された特別な力、或いはその血筋を引く天界人以だけだ。

 若く年端も行かない女王が壮年を迎えると親戚筋であるという公表の下また違った女王へと代替わりを繰り返し国を統べる長となる。それがユノ国王の歴史なのだ。

 その資格となるのは神の血を引く高潔な存在の中でも一部の女児にだけ受け継がれる幻の血、通称ファントム・ブラッドをその身に宿している者であることただ一点とされている。

 ファントム・ブラッドとは唯一、天門を開くことが出来るある種の体質、又は能力と表現する他にない特殊な力であり血を指す言葉だ。

 ゆえに歴史上ユノ王は常に女王であり続けている。

 フローレシア王国は人間の王によりあらゆる情報を漏らさず黙秘し、どの国とも関わり合いになることを拒んで天門の存在を隠し続ける。

 ユノ王国は天界人によって統治されいつでも他国の争いに関与せず、中立を貫いてきた。

 かつて天地分断の乱と言われたアルヴィーラという天界からの離脱民が設立を宣言した国とそれを認めまいとする天界との争いにすら両国は関与していないことからも全てに優先される徹底された仕組みだと言えよう。

 中立の意思表明として長らく兵力を放棄しているユノ、黙秘の意思表明としてユノ以外の国とは決して関わりを持たないフローレシア、両国の方針にこの数百年変化があったことはない。

 遠い昔に二度、ユノ王国が他国の侵攻を受けたことがあり、いずれもフローレシアの軍勢が争いの全てを肩代わりし敵国を追い払ったことは一部の文献にも記されている事実だ。

 深く事情を知らない者にとってそれは同盟国という単語が整合性と正当性に直結し、あるべき疑問を掻き消してしまってきたのだろう。

『唯一の同盟国』という現実が隠匿しているが、それこそが隣接する両国の秘められし関係なのだ。

 そしてもう一つの事実として、それらの真実がそのまま天界と人間界が協定を結ぶ理由となり、アルヴィーラ神国や魔界を含めた群雄割拠の時代を作り上げたともいえる。

 両国の王が揃って初めて天門を開くことが出来るようにしたのは天界を聖域とする神々の方針の賜であり、いかなる侵攻をも防止するためであることは明白だ。

 天門を通ることが地上から天界に入る唯一の方法であるとされているが、私はかつてそれ以外の方法で天界に行ったことがある。

 それは【夢見の泉】と呼ばれる断絶空間の奥にある扉を通るという想像だにしないルートだった。

 その存在を教えてくれただけではなく、実際に同行してくれた天界の友人によって私は確かに天界へと足を踏み入れたのだ。

 天界の民にすら知らされていないもう一つのルートなのだとも、その時に聞いた。

 とある孤島にある一見どこにも繋がっていない開閉部だけの扉の存在は現代においても知る者は多く存在し、文献にも残っているため調べれば誰でも知ることが出来よう。

 不思議な力に守られた扉はどれだけ強力な力を持ってしても傷一つ付かず、またどんな方法を以てしても開くこともない。

 いつからそうなったのか、【異次元の悪戯(ラーク)】と呼ばれる謎だらけの存在がそれに当たる。

 過去から現代まで多くの者が研究、解明しようとするも謎が謎のままであることに進歩はなく、やがてそういった動きや考えも風化してしまったが謎のままの扉の奥にある空間にもう一つの天門があるのだ。

 友人曰く、その門は本来の天門より後に作られたのだろうということだった。

 特殊な血を必要とせず、単純に鍵を与えられた者のみがその扉を開くことが出来ることからも間違いないのではないかという見解を述べるのだから彼にとっても謎多き存在であることが伺える。それ程に両の扉は古くから存在したということだ。

 異次元の悪戯(ラーク)の向こうにはとても神秘的で綺麗な泉が広がっている。

 その空間は外界からは完全に隔絶されており、扉と同様にいかなる力を持ってしても侵すことの出来ない不可侵の領域である。

 その泉の奥にある門こそが天界に繋がる門なのだ。

 今も過去も、それを知る地上の民は私ぐらいのものだろう。

 仮に知ったところで鍵を入手する方法は無い。鍵を与えられた神の使者と呼ばれる存在から奪う以外には。

 それもまた、ファントム・ブラッドの存在と同じく明かされることのない秘密なのだ。

 神の意志、時には神々の意志に従い秘密と天門を守ることがユノ、フローレシアを統べる王達に課せられた役割であることを知ることが出来ただけでも私は運の良い方だと我ながら思う。

 件の友人の様な奇特な者が現れない限り、謎多き両国と異次元の悪戯の実体が明かされることはこの先も恐らく無いだろう。


【ノスルクの書 第二集より ユノ王国の歴史について】



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