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勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている  作者: まる
【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている⑦ ~聖魂愛弔歌~】
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【第十四章】 第三の勢力

11/27 誤字修正 依存→異存



 一方向から三方向へ、そして二方向へと立ち位置を変えた四人の視界を白煙が覆っていく。

 それでいて何らかの攻撃を受けている気配はなく、直前までの禍々しい大魔王の姿を見る限りただの煙幕を目的としているはずがないと思ってはいても、では何が起きているのかという疑問は警戒し身構える四人の誰にも把握出来ていなかった。

「アネット様……これは一体」

 大魔王の一挙手一投足に神経を注いでいた中で起きた不可解な現象とも言える展開にセミリアは戸惑いいを隠せない。

「分からねえ……が、大魔王の魔力じゃないことは間違いないだろうぜ」

 口ではそう言っていても、アネットも同じく困惑した表情を浮かべていた。 

 本来、これが他の誰かの手によるものだとしても大抵の場合アネットはそれを察知することが出来る。

 しかし、あまりにも強大な大魔王の魔力がそれ以外の魔力の感知を妨げてしまっていた。

「っ!? あっちだ!」

 見えなくなった敵の姿により警戒心が増していく中、突如としてアネットは体の向きを変える。

 指差した先は向かって右側、すなわち大魔王にとっては正面にあたる方向だった。

 釣られてセミリアが見遣ると、そこからは明らかに何らかの攻撃魔法であろう黒い球体が雨霰と飛んできている。

 拳ほどの大きさを持つ球体は全てが大魔王へと向かっていき、その周囲で次から次へと爆発を起こしていった。

 察知能力でアネットに劣るセミリアは大魔王の能力によるものだと考えていたが、目の前の光景がその可能性を否定する。

 これではまるで大魔王が攻撃を受けているかのようではないか。

 そんな感想から得たのはセラム達が戻ってきたのかもしれないという僅かな希望。だが、やはりそれも覆われた視界が正否を判断させてはくれない。

「とにかく、今の内に合流しちまうぞ」

 幾十を超えてなお止まない爆発の嵐。

 その中心にいる大魔王の気配に集中しつつ、アネットは回り込むかたちでクロンヴァール達の元へと急いだ。

 すぐにセミリアも後に続く。

 集中砲火とも言える爆撃を横目に無事合流を果たすと、開口一番この状況を問おうとした二人だったが見通しの悪い中でようやく姿を捕えると同時にそれを口にしたのはクロンヴァールの方だった。

「聖剣、無事か」

「ええ、どうにか生きています。それよりも……」

「これは一体何事だ」

 クロンヴァールの視線はすぐにセミリアから外される。

 アネットならば自分が把握出来ていない何かに気付いているかもしれない。二人が傍に寄るなりぶつけられた問い掛けはそんな意味を含んでいた。

 しかしその思惑は当てが外れ、アネットは質問を返すだけだ。 

「アタシにもサッパリ分からねえよ。だが、大魔王が何らかの攻撃を受けていることは確かだ。あのおっさんの仕業って線はねえのかい?」

「戯け、そうであれば私がお前に質問するはずがないだろう」

「クロンヴァール陛下……あの爆発を引き起こしているのであろう黒い球体はもしかすると」

 そこで、キアラが割って入る。

 押さえた肘の辺りからは鮮血が滴っており、クロンヴァールも同様に少なからず傷を負っていた。

「私とて真っ先にそれを思い浮かべたが、今この場でそんなことがあり得るかというと何とも言い難い」

「私もまさかとも思いますが……しかし、あれには確かに見覚えがある」

「おいおい、一体何の話だ」

 ようやく爆音が止んだ。

 それでいて未だ辺りは白煙に覆われている状態を維持する中、大魔王の居た位置に視線を固定したままのアネットは訝しげな表情を浮かべる。

 セミリアとアネットは直接その(、、)能力(、、)を目にしたことがないのだ。それは当然の反応だった。

「あの黒い球体……あれはエリオット・クリストフが操る能力に酷似している」

「あれが例の爆発を操る能力だってのか。いや待てよ、そいつを今この場で拝めるなんてことがあり得るのか?」

「そうとは思えぬからこそ面倒なのだろう。だが……状況を頭ごなしに否定することに意味はないだろう。いずれにせよ両方を警戒せねばならんことに違いはない」

「そりゃそうだ。この攻撃が誰かさんの目的だったところで大魔王の野郎は無事でいやがるであろうことも含め、な」

 目に見えずともまるで弱まることのない気配を放つ爆発の嵐の中心へと四人の視線が注がれる。

 謎の攻撃と謎の煙幕に咄嗟の行動を封じられたことで少しの間が生まれる。

 次の瞬間、突如として辺りに充満する煙幕が薙ぎ払われた。

 中心に立つのは攻撃の対象となっていた大魔王だ。

 アネットの推測通り、見るからに無傷のままの大魔王は立ち上がり両腕を大きく広げている。

 その姿は全身から魔力を放出することで煙幕を打ち払ったのだと容易に理解させた。

「フン、やはり無傷か」

「それよりも赤髪の王」

 アネットはちらりと左方へと視線を送る。

 優れた聴力が誰よりも先に微かに聞こえる複数の足音を捕え、霧散した白煙の向こうにある三つの人影を察知していた。

 すぐに他の三人もそれに気付き、同じ方向に目を向ける。大魔王の殺気もまた、同じ方向へと向けられていた。

 例外なく全ての目には馬に跨り勢いよく向かってくる三人の男が映っている。

 一人は黄金の鎧を身に纏い、一人は顔の上半分を鉄仮面で覆い、一人は右手に細い砲筒を装着しているそれぞれが若い男だった。

「エリオット……クリストフ」

 ぼそりと、キアラが呟く。

 この国を滅ぼさんとする組織、その首魁たるクリストフは王国護衛団(レイノ・グアルディア)総隊長として避けては通れない存在だ。

 スラス攻防における甚大な被害は記憶に新しく、大魔王率いる魔王軍以上に共和国にもたらした犠牲は大きい。

 命を失った多くの民や兵士を思えばより強い憤りをぶつける相手であることは間違いなかったが、例えこの場に現れた理由が想像するに容易くとも大魔王に対する攻撃の意図を汲み取るには至らず、それがキアラの困惑を強いものにしていた。

「やはりエリオット・クリストフか」

 キアラほど動揺していないクロンヴァールは苛立ち混じりに同じ名を口にした。

 その言葉によって初めて爆発を操るという能力も、それどころか直接クリストフを見た経験も無いアネットは馬上にいる男の風貌からの推測が正しかったことを知る。

「野郎が連中のボスか。ってことはだ、横にいるのは三番隊の隊長と五番隊の副隊長で間違いねえな?」

 それもまた外見的特徴からの推測でしかないものの、無言の間が否定しないことによる肯定になっていた。

「ですが……報告ではあの副隊長の男は戦線復帰は困難だろうという話では」

「そのはずだが……」

 キアラの疑問にクロンヴァールはどこか怪訝そうな表情を浮かべる。

 ユメールとの戦いで足首を切断したという報告を聞いたばかりなのだ。一日二日で戦場に戻れるとは思えないという至極当然の見解を否定する材料を必死に探していた。

 全てにおいて不可解な光景だらけの状況に疑問と疑心が絶えない三人だったが、ただ一人沈黙していたセミリアの驚愕は更に大きい。


「兄上っ!」


 三頭の馬との距離は見る見るうちに縮まっていく。

 大声を出せば届く位置まで近付いたことで唖然呆然としていた状態から脱したセミリアの大きな声が足音をも掻き消そうとするが如く響き渡った。

 その短い一言が何を意味するのか。一瞬にしてそれを知らない三人にとって他の何よりも大きな疑問へと変わる。

「あ、兄上ぇ?」

「それは一体どういう意味だ……聖剣」

 アネットは面食らい、帝国騎士団の面々が自分達に攻撃を仕掛けてくる可能性に思い至り人知れず先手を打とうと攻撃態勢を取ろうとしていたクロンヴァールも動きを止め驚きの声を上げる。

 セミリアに答える余裕はない。

 ほとんど棒立ちの状態で、距離を詰めてくるその(、、)人物(、、)を目で追い続けていた。

 並走する馬は真っ直ぐに大魔王に向かっていく。

 今まさに帝国騎士団三人と大魔王の攻防が始まろうとしていることを四者共に感じ取った時、ようやくセミリアが口を開いた。

 約束通り再び自分の前に現れた兄が何をしようとしているのか。薄々理解してしまった今、ただそれを見ているだけでよいのかと拳を振わせる程に葛藤しながら。

「あの鉄仮面の男は……私の生き別れた兄なのです。七年前に死んだと思っていた、ヘロルド・ノーマンに殺されたと思っていた……セミリア・クルイードと名を変える前の、アイミス・ヴェルミリオという本来の名で生きていた頃の……私の兄だ。もっとも、それがノーマンの所行であったということも、兄が生きていたことも、それでいて帝国騎士団の一員となっていたことも、全て昨日になって初めて知った話なのですが……」

 セミリアにとっては一人の兄の、他の三人にとっては敵であったはずの男達の登場は帝国騎士団と魔王軍が協力関係にあるということを考えるならば大魔王の援軍と考えるのが妥当な判断であったが、大魔王に迫る騎乗戦士達の明らかな攻撃の意志がようやくそれを否定していた。

 大魔王もセミリア達には目もくれず、すぐに迎え撃つ手を態勢を取ると右腕を翳し魔法攻撃を放つ。

 三人の中心に着弾した魔力の塊は地面を弾き飛ばしたが、それぞれが左右に分かれることで回避すると同時にブラックが煙幕弾を発射した。

 再び辺りは白一色に染まっていく。

 しかし、大魔王とて同じ手を簡単に許しはしなかった。

「小賢しいわっ!」

 またしても四人の視界から消えた大魔王の雄叫びが響くと同時に急激に魔力が充満していく。

 次の瞬間には煙幕を突き破る様に無数の魔法力の塊が放出され、騎士団の三人へと襲い掛かっていた。

 すぐさまクリストフはノコギリ刀を振り抜き、数で上回る大量の爆砲(カロル)を繰り出すことで次々と大魔王の攻撃を相殺していく。

 両者の間で起きた十数度の爆発が止む同時に一人列を離れ突出したのはユリウスだった。


魔光閃貫(ブラック・アウト)!」


 既に煙幕を打ち払っている大魔王は単騎特攻に出たユリウスに立てた指を向けると、暗黒魔術の一つである防御不能の魔法を放った。

 黒く輝く光りの筋が真っ直ぐにユリウスに向かっていく。

 剣による防御に踏み切るべきではないと本能的に理解したユリウスは咄嗟に馬を制動させたが縮まった距離が完全に回避するには至らせず、馬上で立ち上がることでどうにか直撃を避けていた。

 魔光閃貫はそのまま馬の首筋を貫通する。

 絶命した馬が崩れ落ちる中、ユリウスはその背を踏み台に飛び上がると大魔王へと斬り掛かった。

 カオスフィールドという絶対防御能力を持つ大魔王は僅かにも防御態勢を見せず、ニヤリといやらしい笑みを浮かべると宙に浮くユリウスに掌を向ける。

 間髪入れずに放たれた魔力の波動がユリウスを襲ったが、躱す術の無いユリウスは迷うことなく剣を振り抜いた。

 真下から振り上げられた剣は波動を二つに割る。

 その中心から無傷のままで射程距離へと着地したユリウスは動きの流れのままに大魔王へと斬り掛かった。

 ここまでの戦闘においても例外なく発動した黒い霧がやはり大魔王に防御の必要性を放棄させる。

 しかし、至近距離から魔法攻撃を炸裂させようと右腕一杯に込められた魔力は放出されることなく、その一撃は全ての動きを止めていた。

 無条件に全ての攻撃を防ぐはずのカオスフィールドは、どういうわけかその体を守ってはいなかった。

「な……に?」

 大魔王は唖然とし、自らの体に目を落とす。

 そこには確かに斬られたことによる傷と、そこから流れる薄青い血液が映っていた。

 目の前で固まるその姿を好機と見たユリウスは続けて二度、三度と大魔王へと斬り掛かる。

 そこでようやく我に返った大魔王は反射的に躱したものの剣術に長けるユリウスの攻撃を空手で回避することは容易ではなく、素早く振り抜かれた剣は肩口と左腕を斬り付けた。

 よろめき後退する敵を前に退く理由などないと、ユリウスはとどめの一撃へと移行しようとしたが、その瞬間に体が浮く。

 背後を駆け抜けたクリストフによって腕を掴まれ、馬上へと引き上げられていた。

 クリストフの操る馬は大魔王から離れていく。

 必然とその後ろに跨る状態となったユリウスは膝を突く大魔王へと視線を固定したまま大層不満げに舌打ちを漏らしていた。

「ちっ、余計な真似を」

「すぐに距離を開けろと言ったはずだ。初っ端から作戦を無視してくれるな」

「馬がああなっては仕方あるまい。例えそうでなくともあのまま殺してしまった方が手っ取り早いはずだ」

「奴は魔族の長だ、舐めて掛かるな。全てにおいて不意打ちだから上手くいったに過ぎん。魔法一つでどうにでも戦況を覆すだけの力を持っていることを忘れるな」

「魔法云々など知ったことではない。それよりも、妹の方に向かってくれ」

「いいのか? 他の連中にとって俺達が仇敵であることは変わらないぞ」

「邪魔をすれば殺す、そういう前提でここに来たはずだったが?」

「俺に異存はないさ。だが、お前にとってはそうではないだろう。妹の前で妹の仲間を殺せるのか?」

「…………」

「ふっ、まあいい。取り敢えずは言う通りにしてやろう」

 そこで二人の会話は止み、クリストフは馬を迂回させて本来の敵である四人の居る方向へと走らせる。

 近付くにつれてあからさまに警戒心が増していく様が窺えたが、すぐに馬から飛び降りたユリウスとそのユリウスに向けられたセミリアの大きな声が再びクロンヴァールを始めとする全ての者の動きに歯止めを掛けていた。

「兄上っ!」

 そんな周囲の目に気付くことなく、セミリアはユリウスへと駆け寄るとすぐに飛び付いた。

 ユリウスもまた、他の面々など眼中になくセミリアだけを目で追いそれを受け止める。

「兄上っ」

「無事なのかアイミス」

「ああ、命に関わるまでのダメージではない。それよりも、なぜここに」

「お前の敵をブチのめすために決まっているだろう」

「そうか……約束、守ってくれたのだな」

「遅くなってすまなかったな」

 それは紛れもなく兄妹としての会話だった。

 その光景を目に、そして未だ動きを止めたままの大魔王への警戒も維持した状態でクロンヴァールは剣を向ける。

 対象はユリウスではなく、ほとんど同時に傍で足を止めたクリストフだ。

「貴様等、一体どういうつもりだ。何をしにここに来た」

「なに、俺達も連中に用があった。ただそれだけのことだ」

「……そんな言い分が通ると思っているのか?」

「思ってはいないさ。だが、それがどうしたという話だ。何もお前達に協力してやるために来たわけではない。文句があるなら纏めて相手をすればいいだけのことだろう。もっとも、俺達の目的はカルマだったんだが仲間がどうしても行くと聞かぬものでな。銀髪の妹とやらがやられるのを黙って見ていられなくなったらしい」

 そう言ったクリストフの声色はクロンヴァールとは真逆の落ち着き払ったものだった。

 その間に後ろに付いたブラックを一瞥したのち、クロンヴァールは突き付けた剣をユリウスへと向ける。

「なぜ貴様に大魔王が攻撃出来た。あのカオスフィールドは物理的攻撃も通さぬはずだ」

 殺気の混じった恐ろしい目を睨み返しながらもユリウスは何も答えない。

 挑発に乗って妹の仲間を殺してしまうわけにはいかないと、己を抑え込むための手段として無視することを選んでいた。

「質問に答えろ。どういうつもりか知らんが、この国の敵である貴様等を斬り殺すのに誰の許可も必要ではないということを理解しておけ」

 クロンヴァールの声は益々低くなり、語調も怒気を含んだものへと変わっていく。

 ユリウスの腕を離れ、庇う様に間に立つセミリアが余計に話を面倒にしていること。

 それでいてその生い立ちを聞いた今、兄と敵対することを良しとするはずもないセミリアを未熟者だと簡単に切って捨てることが出来ない複雑な状況が必要以上に苛立ちを増長させていた。

「好きにしろ。俺はアイミスの敵を殺しに来ただけだ、その後どうなろうと興味はない」

 そこでようやくユリウスが口を開く。

 それに対してクロンヴァールは舌打ちを一つ残し、同意を求めるつもりのない自らの行動方針を黙考することを選んだ。

 戦闘不能状態にあるわけでもない大魔王がいつ攻撃を仕掛けてくるか分からない状況で進まない問答を繰り返している場合ではないと割って入ったのはアネットだ。

「つーか、何だっててめえらは大魔王に攻撃したんだ? 奴らとは協力関係だったはずだろう」

「そんなものはとうに崩壊している。俺達は魔王カルマを殺しにきた、そしてこの男は妹を守るために来た。お前達が邪魔をしなければ事を構えるつもりはない、それで納得しておくのがお前達にとっても得策だと思うが?」

 アネットとクリストフは真意を探り合う様に視線を交差させる。

 先に目を逸らしたのはアネットの方だった。

 ユリウスに向けられたままのクロンヴァールの腕をそっと押さえ、この場を収めるための言葉を口にする。

「てことだが、どうすんだ大将。そっちの二人は別としても、アタシ個人としてはクルイードの前で兄貴を斬る様な真似は遠慮したいところだがな」

「私情を優先しろと言うつもりか? 今がどうであれ此奴等は魔族と手を組んだのだ。その上でこの国に何をしたか、忘れたとは言わさんぞ」

「確かにそうかもしれねえが、この国がこいつらに何をしたか、それを分かっていないわけでもねえだろう? 違うかい、金髪姉ちゃんよ」

「それは……」

 キアラは言葉に詰まる。

 それを理解していないわけではなかったが、クロンヴァールの言い分も同じく無かったことには出来ない事実なのだ思う気持ちが返す言葉を見失わせていた。

「ま、簡単に割り切れる問題じゃねえわな。だからこそどうするっつー話だ。野郎を倒す間だけでも遺恨を棚上げしておくのか、三つ巴の戦いにするのか」

「それは我々がどうするつもりであるかということが何の意味も持たぬ問題だろう。この者共がどういうつもりであるか、だ」

「言ったはずだ、俺達の目的はただ一つ。俺達を殺すことを何よりも優先したければそうするがいい、その時は相手になってやる。だがそうでないのならば俺達を裁くのは後にしておくことをお勧めしておく。騎士団は最早ここにいる三人を除いて他には居ない。俺達を殺せばお前達の望む平和とやらを手中に出来るのであれば魔王軍をまるまる相手取ることに比べれば大した手間でもないだろう。奴らを片付けた後であれば好きにするがいい。我ら三人、元よりここを最後の戦場とするつもりなのだ。命を惜しむ理由などない。選ぶのはお前達だが、こちらも個人的な考えを述べるならば余計な戦闘は御免被りたいものだな。フレデリックがいる以上お前達に手を出すのはいささか厄介だ、どうにもそこにいる妹とやらが他の何よりも大事らしいのでな」

 クリストフは馬から飛び降りると、すぐにその馬を退避させる。続け様にブラックもそれに倣った。

 後にしておけという綺麗事とも取れるその一言が指すものが【俺達と戦うこと】ではなく【俺達を裁くこと】である意味を理解出来ている者はいない。

 しかしそれでも、クロンヴァールはゆっくりと剣を下ろした。

「いいだろう、魔王軍を殲滅するまでは休戦としておいてやる。だからといって味方になるわけではない、ただ一時的に敵ではなくなっただけであることをよく理解しておけ。その目的のためならば貴様等の命であろうと自らの命であろうと天秤に掛けるつもりは毛頭ないぞ」

 その言葉を最後に全員の視線が一斉に大魔王へと向けられる。

 それぞれが武器を手に決意の籠もった表情を浮かべる前で、静かに大魔王が立ち上がろうとしていた。



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