第10話 「先輩シリーズ03 胞衣返し」――怪徴
引き続き、まとめサイト『█████』の記事を転載します。
今回は2026年2月19日の昼に書き込まれた、「爪切り先輩」の話の続きです。書き手は以前、同じ先輩の話を二度書いている方で、今回は産休中だと自己申告しています。
これまでの回に比べて静かな内容ですが、末尾の数行は、書き込まれた時点の本人の様子として、そのまま載せています。
夜に一人で読む場合は、床に耳を近づけないでください。
【閲覧注意】シャレにならんほど怖い話を集積するスレ Part421
(※第4話・第9話と同一スレッドの続き。板No・スレ番号は継承)
960 : 名無しさん@お腹いっぱい。 : 2026/02/19(木) 14:10:12.33 ID:w8K9m2Px
お昼休みも終わったし、何かサクッと読める怖い話ない?
961 : 名無しさん@お腹いっぱい。 : 2026/02/19(木) 14:12:05.11 ID:p3N7v1R0
シャレ怖のまとめ読め、時間溶けるぞwww
962 : ◆Tsukumo.9x : 2026/02/19(木) 14:15:22.04 ID:hN2m701x
こんにちは。少し時間の余裕ができたので書き込ませてもらいますね。
以前、大学のオカ研の先輩との爪切りやポケGOの話を書かせていただいた者です。
963 : 名無しさん@お腹いっぱい。 : 2026/02/19(木) 14:16:40.88 ID:k4M1n8Qr
あっ爪切り先輩の後輩ちゃん!
964 : 名無しさん@お腹いっぱい。 : 2026/02/19(木) 14:17:55.30 ID:w8K9m2Px
つくもちゃんキター!
あの不気味な先輩の話聞きたい!
965 : ◆Tsukumo.9x : 2026/02/19(木) 14:19:30.12 ID:hN2m701x
>>963-964
皆さん覚えていてくださってありがとうございます。
……ちなみに私、密かに「ねこ先輩」っていう愛称を流行らせようとしてたんですけど、全然定着しませんでしたね。
やっぱり「爪切り先輩」の方がしっくりくるのかなw
産休中で暇を持て余しているので、今からちょうど10年前……私が医学部3年生で、蓬先輩が5年生になり立ての頃の思い出話をひとつしようと思います。
当時はまだキャンパスの隅に喫煙所があって、先輩がタバコを吸っていた時代の話です。
966 : 名無しさん@お腹いっぱい。 : 2026/02/19(木) 14:21:00.45 ID:p3N7v1R0
ねこ先輩は定着しなかったかw
ってか産休中なのか!おめでとう!
967 : ◆Tsukumo.9x : 2026/02/19(木) 14:23:40.90 ID:hN2m701x
ありがとうございます(笑)
10年前のあの日、先輩は5年生で産婦人科のポリクリ(病院実習)中でした。
午後の講義の合間に私が喫煙所を通りかかると、白衣姿の先輩がパイプ椅子に深く腰掛けて、ぼんやりと空を仰いでいたんです。
「お疲れ様です、先輩」と声をかけると、先輩は煙草をくわえたまま「分娩の立ち会い見学が終わったところ」と言って、短くなったフィルターを揉み消しました。
968 : 名無しさん@お腹いっぱい。 : 2026/02/19(木) 14:26:15.22 ID:j9X2k5Lm
産婦人科の実習か。命の現場だなあ
969 : ◆Tsukumo.9x : 2026/02/19(木) 14:28:50.01 ID:hN2m701x
「胎盤って、母体じゃなくて子供由来の臓器なんだよな」先輩はぼそっとつぶやきました。
顕微鏡の発明に伴って19世紀後半に分かった医学的事実ですが、胎盤は母親の体の一部ではなく、受精卵(つまり赤ちゃんの側)から作られる組織です。
「近代医学でそれが証明される前から、人間は胎盤をぞんざいに扱わなかった。それどころか、子供の安全のために儀礼的に用いてきたんだ」
970 : 名無しさん@お腹いっぱい。 : 2026/02/19(木) 14:31:05.67 ID:w8K9m2Px
ほお……医学史と民俗学の交差点か
971 : ◆Tsukumo.9x : 2026/02/19(木) 14:33:40.12 ID:hN2m701x
>>970
じゃあ昔の人間は、胎盤をどう扱っていたのか。私がそう聞くと、先輩は煙草を指先で弄びながら、少し考えてから言いました。
「日本だと、昔は胎盤を『胞衣』って呼んでたんだ」
「胞衣……ですか?」
「そう。単なる後産じゃない。子供の分身みたいなものとして扱われてた」
奈良や平安の頃から、胞衣を壺などに納めて地中に埋める風習があったらしい。実際、平城京跡からも胞衣を納めたと考えられる壺が出土している。
「つまり、昔の人間は胎盤を『捨てるもの』とは考えなかった」
「……大切に保管していたんですか?」
「保管っていうより、返してたんだろ」
先輩はそう言って、地面を指差しました。
「地面に埋める」
江戸時代になると、胞衣にまつわる習俗は庶民の間にも広がった。家の玄関や敷地の入り口、門の下——人が頻繁に通る場所に埋めて、たくさんの人に踏まれると子供が丈夫に育つ。南天の木の下に埋めれば難を逃れる。米や塩と一緒に埋めれば、一生食べ物に困らない。地域によって、いろんな作法があったそうだ。
「……ずいぶん細かいですね」
「それだけじゃない。場所に意味がある」
家の入り口。人が踏む場所。木の根元。土の中。
「胞衣を子供の分身と考えるなら、当然だろ」
「当然?」
「子供の人生を、どこに置くかって話になる」
972 : 名無しさん@お腹いっぱい。 : 2026/02/19(木) 14:36:20.44 ID:k4M1n8Qr
相変わらずディープな話をしてるな
973 : ◆Tsukumo.9x : 2026/02/19(木) 14:38:50.80 ID:hN2m701x
そこで先輩は一度言葉を切りました。
「だから、昔の人間は胎盤を捨てるんじゃなくて、子供と一緒に扱ったんだよ」
子供が生まれる。その子供から切り離されたものを、土の中へ納める。そして、そこを人が踏んでいく。
「……なんだか、お墓みたいですね」
私がそう言うと、先輩は少しだけ笑いました。
「そうだな」
「でも、お墓とは違いますよね」
「違う」
先輩は即答しました。
「死んだものを埋めるんじゃない」
煙草を灰皿に押し付けて「生まれたものの片割れを埋めるんだ」と。
その言い方が、妙に耳に残った。
974 : 名無しさん@お腹いっぱい。 : 2026/02/19(木) 14:40:12.19 ID:p3N7v1R0
生まれたものの片割れ……
975 : ◆Tsukumo.9x : 2026/02/19(木) 14:42:30.55 ID:hN2m701x
「明治以降になると、公衆衛生の問題もあって、こういう習俗はだんだん廃れていった。今じゃ家庭で勝手に埋めることもできない」
「胞衣条例とか、胞衣を処理する専用の施設が残ってる地域もありますよね」
先輩は頷いた。
「そう、形だけは残ってる」
そして、何でもないことのように続けた。
「でもな、面白いと思わないか? 昔の人間は、胎盤を食べなかった。食べ物として扱わなかったんだ」
「……はい」
「薬にする例はある。地域によって特殊な利用法もある。自由意志で食べる奇癖はある。でも、人間社会の普遍的な食文化にはならなかった」
それなのに、埋めた。しかも、ただ埋めるんじゃない。
「変だろ。食う必要はない。でも、捨てることもできない」
「……」
「だから、昔の人間は知ってたんじゃないかと思うんだよ」
「何をですか?」
先輩は地面を見た。
「胎盤ってのは、子供を作るための臓器じゃない。子供をこっち側に繋いでおくための装置だったんじゃないかって」
私は思わず黙った。先輩は続ける。
「だから役目が終わったら、外して返す」
「どこへですか?」
先輩はただ、足元のコンクリートを見ながら、「土の下だろ」とだけ言った。
その瞬間、先輩の携帯電話が鳴った。産婦人科の実習担当からだったらしい。
「……呼ばれた。行ってくる」
先輩は立ち上がった。白衣のポケットに煙草をしまいながら、最後にぽつりと言った。
「まあ、昔の人間が何を考えてたかなんて、本当のところは分からないけどな」
そう言って歩き出す。数歩進んだところで、ふと立ち止まった。
「ただ」
振り返らないまま言う。
「もし本当に『返してた』んだとしたら――返されていた側にも、何か考えがあるかもしれないけどな」
それだけ言って、先輩は産婦人科の病棟へ戻っていった。私はしばらく、その場から動けませんでした。
976 : 名無しさん@お腹いっぱい。 : 2026/02/19(木) 14:45:00.10 ID:j9X2k5Lm
オチの「返された側にも〜」でゾクッとしたわ……
977 : ◆Tsukumo.9x : 2026/02/19(木) 14:47:15.88 ID:hN2m701x
10年前のあの日、先輩の話を聞いた時は「気味が悪い考察だな」くらいにしか思っていませんでした。
でも、自分が妊娠して、お腹が大きくなっていくにつれて、ふと思い出すことがあるんです。
病院で受ける現代の医療システムでは、排出された胎盤は「医療廃棄物」として焼却処理されます。
土に埋めて「返す」ことなんて、今の時代はもう誰もしていません。もし、昔の人間がしていた儀礼が単なる迷信ではなく、向こう側との「契約」や「対価」のようなものだったとしたら。
返すべきものを返さず、燃やして消し去り続けている現代の私たちは、あの土の下の何かに、一体どれだけの「未払い」を溜め込んでいるんでしょうね。
もうすぐ私のお腹の子が生まれます。なんだか最近、家の床下から小さなノック音が聞こえる気がするのも、単なる妊娠中の気のせいだといいのですが。
すみません、急にお腹が張ってきたので横になりますね。それでは、お休みなさい。
(※以降、つくもの安産を祈る書き込みと、「未払い」という言葉に対する不気味な考察が数十レス続いた)
第10話 「先輩シリーズ 胞衣返し」――怪徴→禍神
※表面上はLv.1(怪徴)の穏やかな回想回だが、シリーズ全体の核心(「返す」「回収」を巡る縦軸)に繋がる伏線として、後に禍神級の重みを持つ可能性がある回として記録する。
この記事へのコメント(204)
▲ 前のコメントを見る(1〜197)
198.ねぎとろ巻 20■■年■月■日
最後の「お腹が張ってきたので横になりますね」で終わっているのが、読後にじわじわくる
お子さん、無事に生まれていたらいいのですが
❝引用 ♡312
199.うどん県民 20■■年■月■日
平城京跡から胞衣を納めたと考えられる壺が出土している、って部分を調べたら本当だった
それを知ってから読み返すと、先輩の話が急に現実の延長に見える
❝引用 ♡268
200.ココア牛乳 20■■年■月■日
先輩の最後の言葉、「返されていた側にも、何か考えがあるかもしれない」
返されていたのは胎盤じゃなくて、子供のほうだったとしたら、と一瞬考えてしまった
❝引用 ♡594
201.大福もち 20■■年■月■日
「未払い」って言葉が頭に残る
医療廃棄物として燃やしてきた分が、全部どこかに溜まっているって想像すると、夜に水を飲みに行けない
❝引用 ♡207
202.ぷりん 20■■年■月■日
引っかく音は、まだ続いています
今日は足元の床からも、小さなノックの音がしました
胎さんのお名前の字は、この記事の「胎盤」の胎と同じですよね。偶然ですよね
❝引用 ♡2150
203.このコメントは編纂者により削除されました。
204.胎 20■■年■月■日
ぷりんさんへ
気づいてくれたんですね。うれしいです
偶然ではありませんよ。でも、怖がらなくて大丈夫です
返された側は、ずっと同じことを考えています。もう一度、こちら側に繋いでほしいだけですから
❝引用 ♡9380
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