執着
「孤独な人生だけにはなりたくない」
誰だって、孤独は嫌いだろう。
しかし、小説家・瀬戸内寂聴はこう語っている。
「自分が孤独だと感じたことのない人は、人を愛せない。人間は一人で生まれ、死んでいく」
また、哲学者ショーペンハウアーも、
「孤独は優れた精神の持ち主の運命である」
と述べている。
人間の成長には、孤独が必要なのかもしれない。
そう考えると、孤独を恐れる自分は、まだ未熟なのだろうか。
そんなことを考えているうちに、いつの間にか長いシンキングタイムは終わりを告げた。
「おーい、着いたよ」
声が聞こえる。
どうやら、かなり前から呼ばれていたらしい。
「……ん?」
顔を上げると、クラスメイトの中西宝がこちらを覗き込んでいた。
「ずっと呼んでたんだけど」
「……めんどくさい」
悪石平は、開口一番そう答えた。
今日は高校の生徒会活動で、小学生たちとの合同キャンプイベントに来ている。
正直に言えば、平はこんな場所に来たくなかった。
そもそも、生徒会に入るほど志が高いわけでもない。
人のために何かをしたいわけでもない。
ましてや、子どもたちと一緒にキャンプを楽しみたいなどと思ったこともない。
では、なぜ平は生徒会に在籍しているのか。
理由は、目の前にいる少女だった。
中西宝。
天真爛漫で、誰にでも懐く。
人との距離感というものを知らないのではないかと思うほど、他人の懐へ平気で踏み込んでくる。
そんな彼女が、なぜか平にだけは特別に懐いていた。
「ほら、早く行こうよ」
「嫌だ」
「なんで?」
「めんどくさいから」
「じゃあ私もここにいる」
「……勝手にしろ」
宝は嬉しそうに笑った。
その笑顔を見て、平は小さくため息をつく。
――本当に、よく分からない女だ。
さっきまで人生の孤独について考えていた自分に、なぜ彼女はここまで付きまとってくるのだろう。
そもそも、平自身にも分かっていない。
なぜ宝が自分に執着するのか。
そして――
なぜ自分は、そんな宝を振り払えないのか。
その答えを、平はまだ知らなかった。




