たまには、のんびりした時間を
可愛いあの子は誰のもの?の後日談になります。
レオンから保護したあの子。
一緒に過ごせる幸せと、ゆったりした時間。
太陽が少しずつ高くなり、窓から射し込む光が温もりを帯びてきた頃、ふとアイリスは自分の太もも横辺りにモゾモゾと動く気配を感じて、読んでいた本からそちらへと視線を動かした。
「あらあら、もう遊びには飽きてしまったの?」
先程まで、ネズミの形を模したヌイグルミを咥えて走り回っていた小さな子猫が、ピッタリと自分に寄り添うように丸くなって眠っていた。
仕方ないとばかりに柔らかく微笑み、起こさないようにそっとその背中を撫でてやる。
フワフワの真っ白い毛が、呼吸をする度に小さく上下する姿が愛らしくて、ついつい何度も撫でていると抗議するかのように頭をこちらに押し付けてくる。
「マリアについ夢中になってしまうのも分かる気がするわ。…とは言え、片時も離れたくないが故に執務室にまで連れ込んで、仕事にまで支障を出すのはいささか問題ですけれど」
生徒会の仕事が溜まりそうになる度に、婚約者であり副会長でもあるアイリスが、レオンを引っ張ってきたり、代理決済を使い終わらせてきた。
元々学園で保護されたマリアは、最初に見つけたレオン曰く運命の出会いだったらしい。
しかも、自分を保護してくれた存在に1番懐くとなれば、可愛さもひとしおだ。
初めは自分の仕事の合間に世話をしていたレオンも、自分を必要としてくれるか弱い存在に段々とのめり込み、結果仕事が滞るようになってしまった。
そこで、他の生徒会役員と相談し、アイリスが保護した…というのが今回の顛末である。
「あれから、レオから我が家への訪問依頼が続いているけれど、私ではなく貴女に会いたいが為だと思うと…婚約者としては複雑な気分ですわね」
未だ眠り続ける恋敵に小さく溜息を零すと、撫でていた手を離し、起こさないようにそっとソファに座り直す。
アイリス自身も気に入っているこのソファは、座面がフカフカしていた触り心地も良い。
それなのに、座っても沈みこまない適度な硬さがあり、公爵家の自室で過ごす時のお決まりの場所になっている。
近くに置かれたテーブルには、季節に合わせた紅茶や、読書の邪魔にならないようにと一口で摘めるお菓子をメイドが用意してくれる。その為、読書に夢中になるあまり夕食の時間になっても部屋から出ず、家族に心配されたことも度々あった。
そんなお気に入りのソファを、この小さなライバルも気に入ったのだと思うと、レオへの好意といい存外好きな物が似ているのかもしれない。
眠ってしまったマリアを膝の上から移動させようと、こちらへ来るメイドを視線で制し、そのまま窓の外へと移せば、少し前まで明るかった空は既にオレンジ色へと様変わりしていた。
大して読み進められなかった本をそっと閉じて横に置き、ソファの背もたれに自身の背中を沈めてそっと目を瞑る。
明日もきっとまた、マリアを巡って婚約者と静かな討論が繰り返されるのだと思うとやや気が重くなるが、今のアイリスにとっては、それもコミュニケーションの一つだと思っている。
だから、レオンを可哀想だと思いながらもなかなかマリアを返せない。
「感情が重いのは、きっと私もね…」
誰に聞かせるでもない呟きは、いつの間にかアイリスを見上げるマリアだけが聞いていた。
短編第2弾です。
このまま、マリアはレオンの元に返される日は来るのか(笑)




