周辺を軍事系指導者に囲まれた超詰み立地国家の王子が媚を売るために芸術保護政策を打ち出した結果、弾圧に立ち向かう希望の星として祭り上げられた件 ~文化爆弾!? 芸術が領土を広げるだなんて聞いてない!~
『王子様って何?』
『どうして、ぼくはそう呼ばれているの?』
これはおそらく、王子という身分に生まれた人間が共通で行うだろう質問であり、スパーテイ王国の第一王子であるこの俺も、当然ながら同じ質問をしたことがあった。
幼き俺に対する回答はといえば、このようなもの。
『最も貴きお方に対する呼び方です』
『あなた様は、一番偉い人間になるのです』
そう言われた俺は、こんな風に思ったものだ。
『へぇー! ぼくって一番偉いんだ!』
……と。
しかし、悲しいかな。
この一番偉いという言葉には、当然ながら但し書きがつく。
すなわち、『このスパーテイ王国においては』というものだ。
そのことを強く自覚したのが、成長し、周辺国について学ぶようになってから。
まずは、北! テスマー王国!
国主はその名も、モンテ!
豊かな密林地帯を有しているが、逆にそれが農耕技術の発達を阻害したか?
主な食糧生産手段は狩猟や採集であり、腰ミノや仮面、かろうじて存在する鉄器技術で作った槍が男たちの正装!
となると、まるで後進国のようだが、凶悪な獣がウヨウヨしている密林で鍛えられた戦士たちの実力は、伊達じゃない!
ムカつくやつはすぐさまぶっ殺す! つーか、ぶっ殺しまくって密林地帯を統一した結果が、このテスマー王国!
え? じゃあ、もう殺す相手が居なくなった今はどうするの?
あら、南にスパーテイとかいう国がありますわね……。
北ときたら、お次は南! ドイン法皇国!
その名から分かる通りの宗教国家であり、俺が生まれるくらいまでは内紛に明け暮れていたが、それをまとめた現指導者がジーガン法皇!
眼鏡をかけたつるっぱげのお爺ちゃんで、見た目は知的でおだやかな御仁である。
そう、見た目は。
……ジジイが知的でおだやかだなどと、誰が決めた!?
いや、実際、聞いた話では身内に対してはすっごく知的でおだやかな人物らしい。
そういった内部情報を得た上で、外から彼の内面を観察してみると、自分の信仰に都合が良い人物にはとことん甘く、逆に、少しでも信仰に解釈違いを起こしていたり、そもそも、同じブーダ教を信仰していない者に対しては、どこまでも苛烈な二面性を持つ人物。
せっかく民草が自ら……きっと! 自ら! 寄進してくれている税をふんだんに使い整備しているのが、虎の子のテンプルナイツであることからも、モノの考え方がうかがえる。
うちの国? うふふ……特に国教はありませんわ!
なお、ジーガン様的には『国教がない=異教徒』でしてよ! そんなー!
気分を変えて西を見よう!
日の沈む先にある国家こそ、バルドポア半島統一連合!
海に向かって突き出した角のような立地をしており、海に面している国家にありがちな弱点として、農業にはあまり強くない。
反面、海運や商業には強いことから、近年まで都市国家が乱立し、時に仲良く、時にケンカをしながら同じ半島にひしめきあっていたのだが、これを統一したのがポナレオン将軍。
商人が力を持っていたため、中流層が育った結果だろう。
人民の選挙による統治という前代未聞を成し遂げ、栄えある初代半島代表に輝いたポナレオン将軍のスローガンこそが、東出!
我々を半島に封じ込めている邪魔なスパーテイ王国を粉砕せよ! だそうだ。そんなー!
ラスト! 東!
日いづる先にある国こそ、パグンジ王国。
指導者は、その名も……ガブノナ!
例によって弱小権力者が乱立し、覇を競っていたかの地方で、天下布武の号令を掲げて統一した英傑である。
サムライと呼ばれる規律の行き届いた強兵たちこそがパグンジ王国の名物であり、彼らを自在に操るのがガブノナ王!
そんな彼にも、当然存在する侵略欲!
天下とは天下のことであって、大陸の一地方に過ぎないパグンジ王国のことじゃねえ! というのが彼の持論。
手始めに、こっちから見て西にあるスパーテイ王国をレッツ布武じゃあ!
……だそうです。
はい、ここまで説明したらもうお分かりですね?
詰んでる……!
うちの国、詰んでる……!
そんな詰み国家で一番偉い人になっても、全然嬉しくない……!
ちなみに、うちの軍事的スペックは、周辺四国家の軍事力を一つ当たり10とするなら、せいぜい4と5の間程度。どれか一国を相手にしただけでも、滅びの道まっしぐらだ。
というわけで、俺は13歳を迎える頃には、自国の状況を悟ったのである。
不幸中の幸いなのは、周辺四国家の連中がナンボ好戦的な性格をしているといっても、国家を飲み込むレベルの侵攻を仕掛けるには、数年がかりでの準備が必要なこと。
そして、うちの平和ボケした脳天気な父王と母が、とっても自然な落盤事故によってお亡くなりになられたことだ。
いやはや、自然な事故、自然な事故。
間違っても、周辺四国家のうちいずれかが、将来への布石としてうちの弱体化を図り、暗殺したなんてことはあるまい。
結果、超若くして玉座を引き継いだ俺は、周辺四国家が攻め込んでくるだろう二、三年の間に、対策を打つ裁量と自由を得た。
と言っても、この状況で可能な対策などほぼ一つしかない。
ご機嫌取りだ。
とにかく、徹底的に媚を売って売って売りまくり、滅ぼされないようにするのである。
では、その方針を叶えるため、具体的に何をするのか?
……芸術保護、だ。
古来より、贈り物として美物を捧げるのは国家指導者に対するご機嫌取りの基本。
要するに、素晴らしい美術品を贈ったり、この世のものと思えぬ歌劇などを御前で披露することにより、「こんな素晴らしいものを(見せて)くれる者を滅ぼすのは惜しい」と思わせるのだ。
一人の人物が強力に権力を握っているからこそ、可能な荒業。
トップさえ抑えてしまえば、下がどれだけ献策しようとも道理は曲がるものなのであった。
また、これには、俺の個人的な嗜好も大きく関係している。
要するに俺は、芸術が好きなのであった。
ある絵画を見た時は、時間も空間も全く異なるどこかへ連れ去られたかのような、恐るべき体験をしたもの。
また、ある壺を見た時……泥の中に飲み込まれるような、それでいて恐るべき火力で我が身を焼き尽くされるような、土と火の底力をこの身で味わった。
音楽は、この世界になくてはならないもの。たとえ、厳しき師の指導を受けて満身創痍の状態であろうとも、美しき調べと歌声があれば、俺の体は何度でも奮い立つ。
劇……これなるは、真に世界を創造せし神の御業。
大いなる存在に生み出され、この地上で繁栄した俺たちは、すでにその偉大なる何かに匹敵するだけの創造性を得ていたのだ。
こういった芸術を、作り手たちを、可能な限り保護する。
そうして、自らの欲望を満たしつつ、生み出された成果を周辺四国家へ差し出すことで、愛すべき祖国を守り抜くのだ。
と、いうわけで……。
俺は即位すると同時、この芸術保護政策を強力に実行したのであった。
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テスマー王国。
勇猛にして精強なる戦士にして狩人――ジャガーたちの国として知られる国家であるが、同時に、歌と踊りを深く愛する精霊たちの国であることをも知る者は、もはやほとんどいない。
何故ならば、絶え間なき戦の結果、現国主モンテの命で、担い手である巫女たちが弾圧されたからだ。
もはや、精霊と対話できる生き残りはごく少数であり、その娘らも、密林の隠れ里へ引き籠っている状態。
されど、塩などを手に入れるため、多少は外部との繋がりも残してあるもの。
そのおかげで、彼女らは知ったのだ。
「南のスパーテイ王国で、歌い手や踊り手たちを広く集めているとか。
しかも、衣食住を保証し、練習だって好きに出来るっていうなら、これは行くしかないでしょう。
もし何かの詐欺だとしても、このままではいずれ、モンテの弾圧で殺されてしまうのです」
かくして、彼女らは隠れ里を引き払い、人知れず南下。
国境越えを果たしたのである。
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「嘆かわしい。
多少の批判すら受け入れぬほどに、我が国の宗教は頑ななものとなっていたか」
ある画家が神殿を出るや否や、足元の小石を蹴り飛ばしたのは、ドイン法皇国。
彼がジーガン法皇から直々に依頼されたのが、国教の開祖となった人物生誕を描いた油絵。
誕生したばかりの赤子が立ち上がり、天に向けて指を突き立て、居並んだ人々がひれ伏す様が描かれているのは、教義の通り。
だが、画家はそこに、天空から舞い降りた竜が、赤子に向けて唾を吐きかける姿を付け加えたのだ。
いかに開祖の言葉といえど、疑うことなく受け入れるばかりではいけない。
また、生まれてすぐさま人々をひれ伏させた様に、徳を感じてばかりでよいのか?
そのような批判を形にしたわけであるが、結果、神殿上層部の怒りを買ったのである。
そのまま彼が酒場に向かい、安酒で気を紛らわせたのは言うまでもなく……。
そこで、北方に位置するスパーテイ王国が、芸術家を集め保護しているらしいという噂を聞いたのは、必然であった。
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「演劇というものは、かくも墜ちたか。
一人の人間をひたすらに持ち上げるつまらぬものに……!」
さる劇作家が、自らも役者であるかのように大仰な仕草を交えながら自宅で叫んだのは、バルドポア半島統一連合。
「劇の公演内容として指定されるのは、いずれもポナレオン将軍の英雄譚……!
それも、荒唐無稽さすら感じられる圧倒的勝利の光景……!
あのようなものは、もはや演劇ではない!
何も知らぬ大衆を騙すための大道具だ!
私は英雄将軍に命じられ、詐欺の片棒をかつがされているのだ!
あらゆる幻想を現実の舞台で表してきた、劇作家たるこの私が!」
お茶を飲みながら冷たい目を向ける妻に対し、魂そのものを絞り尽くすような思いで訴える劇作家。
そんな彼に、妻は興味なさげにこう提案したのだ。
「だったら、東のスパーテイ王国へ行くー?
なんか、芸術を保護していて、役者や劇作家もその対象らしいよー?」
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「嘆かわしい。
土と水と火が生み出す極限の美が、理解できぬとは」
さる陶芸家が腕を組んだのは、パグンジ王国の山中に存在する庵でのことだ。
彼の前にあるのは、二つの茶器。
いずれも茶碗に分類されるもので、両方ともに彼の作である。
だが、出来栄えは対照的。
片方は漆黒の器に、溶かした金で精緻な龍の文様を描いた茶碗であり、相応の技術力がなければ完成しない作品とはいえ、それ以上に下品な華美さが感じられた。
大してもう一つは、一見してなんの変哲もないような……歪んでいるようにすら見える土の色そのものをした茶碗。
だが、これこそ究極の美。
田んぼの下に眠っていた泥が持つ大地の力を形にし、超高熱の火でもって一気に固定化した代物なのだ。
だが……。
「わしの最高傑作……この美しさが、ガブノナには理解できない。
ばかりか、このように上っ面だけの茶碗をこそ好むとは、所詮、地方出身の田舎侍よ」
天井を……天を仰ぎながら、考える。
元より、陶芸を極めんとして、この庵に移り住んだ。
その孤独には、耐えられる。
だが、そうして生み出した自身の分身と呼ぶべき器が、誰にも解してもらえない孤独には、耐えられそうもない。
「お祖父様。
町で聞いた情報によれば、西方はスパーテイ王国にて、あらゆる芸術を保護しているとか……」
背後から告げられた孫娘の言葉に、勢いよく振り向いた。
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即位から二年後……。
15歳の若き王であるこの俺は、立派なバカ殿ぶりを発揮し、本来なら軍事などへ回さねばならない予算も芸術保護に大量投入。
大規模な国家劇場と美術館を王都へ建設し、一連の芸術保護政策の成果を無償で民たちに開陳していた。
せっかくの美物であり、素晴らしき歌や舞踏、演劇なのだ。
俺や周辺四国家の指導者たちで独占するなどと、もったいないことはしない。
そもそも、作り手というものは、「これは良いものである」という承認を得るために生きているところがある。
だから、もし……遠い未来、誰でも簡単かつ気軽に小説を読める時代が訪れ、自分の感性に合う作品に巡り会ったなら、迷うことなく高めの評価を与えるべきなんだぜ?
で、本日ただ今も、美術館でははるばる王都にまでやって来た旅人たちが真の美というものに心打たれており、劇場では俺の呼びかけに応じ集まってくれた巫女さん? や、役者たちが様々な演目を披露していた。
それにしても、いるところにはいるもんなんだな。素晴らしい才能を秘めた作り手たち。
これまで俺の目に留まらなかったのが不思議なくらいだが、むしろ、そういった者たちを集めるためにこそ、素性も何も問わず、実力にのみ保護の基準を置いてるわけであるし。
微妙に民族の異なる人間もチラホラ見えるが、海に囲まれた島国ならばまだしも、陸続きの大陸国家であるならば、民族同士が混ざり合っているなんていうのはザラであるから、気にする必要はないであろう。
「さて……めぼしい成果も上がってきたし、そろそろ、周辺四国家のご機嫌うかがいを始めようかな」
自室に飾った壺……。
素人が一見したならば、特に装飾も何もなく、みすぼらしくすら感じるだろうそれを磨き上げながら、つぶやいた。
だが、これこそは大地の恵みが人間の技によって姿を変えた真の美。
手放すのは惜しいが、陶器文化があるパグンジのガブノナ王ならば、さぞかし高く評価するであろう。
「国王陛下、お知らせしたき義がございます」
と、ノックもなく部屋に入り、俺の背中に声をかけてきたのが、幼馴染であり、秘書であり、腹心であり、軍師であり、何でも屋である女――シュウメ。
銀髪は短めに整えられており、怜悧かつ整った顔立ちは中性的な印象。
あまり肉付きのよくない体をダボッとしたローブに包んでいるせいで、横から見た場合、ますます男の子っぽい印象を受ける。
だが、正面から見れば大丈夫。バッチリ女の子に見える。
なぜなら、プリーツタイプのスカートをはいているため、真っ白な脚が大胆に露わとなっているからだ。
せっかく綺麗な脚をしているんだから、スカートでもはけばいいと言ったら、この格好をするようになったのであった……もう少し、丈は長くてもよかったと思うけど。
「どうした、シュウメ?
何かいいことでもあったか?」
ともあれ、そんなミニスカガールへと問いかけた。
するとこいつは、いつも通りの猛烈な無表情で、こう言い放ったのだ。
「テスマー、ドイン、バルドボア、パグンジ……。
周辺四国家において、我が国との国境付近に存在する都市が、それぞれ恭順を申し出てきました」
「そーか、そーか。
せいぜい手厚く……は?」
ノリで答えながら壺を見直しそうになって、シュウメの顔を見返す。
「え? 恭順? え?
うちの領土になりたいって言ってんの?」
「他の意味などありません」
「なんで? いや、マジで」
本当に意味が分からない。夢でも見てんのか?
しかし、困惑する俺に対し、シュウメは端的に切り出したのである。
「言うなれば、文化の爆弾でしょうか」
「文化の……爆弾?
爆弾って、あの火薬とかいうのを詰めて爆発させる超高価な?」
「その爆弾です。
我が国は、今のところ周辺四国家と友好的な通行条約を結んでおり、また、それがため、貿易の中継地点として潤っています。
それは同時に、多数の異国人が我が国を……この王都を訪れ、陛下が保護した芸術に触れることを意味しています。
結果、軍事ばかりに傾倒する指導者では与えられない感動を、彼らはこの地で得て、自国へ広めていったのです。
つまり、保護した文化の影響が、爆弾のように周辺へ広がったということ……」
「うん、そこまでは分かるな。
それでなんで、国境付近の都市が恭順を申し出てきたの?」
「彼らいわく、自分たちもその素晴らしい芸術品や演劇、音楽などに触れて過ごしたいのだとか。
重税や兵役ばかり課され、潤いというものに飢えている立場だからこそ、文化というものがスゥーッと染み入ったのでしょう」
「いやいやいや、染み入るなよ。
大体さ、そんなことしようとしたら、各都市に常駐してるだろう兵士たちが鎮圧にかかるもんじゃないのか?」
要するに反乱だからね。
常駐兵たちの力で、サクッと鎮圧――。
「――はい、いずれの都市においても、常駐していた兵たちは不意の蜂起に対応しきれず、壊滅したそうです」
……鎮圧できてねえ! 揃いも揃って何やってんだYO!
「そして、恭順を申し出たどの都市も、文化弾圧に立ち向かう希望の星である陛下のため戦い抜くと、元の指導者へ儀式魔術で告げたのだとか」
早い早い早い早い早い!
なんで俺に忠誠を誓った士みたいなノリで母国にケンカ売ってんだ!
……視界が真っ暗闇に染まったような錯覚へ陥りながら、最後の質問をする。
「それで、周辺四国家は我が国に対し、どのような対応をしそうだ?」
「すでに四国とも、儀式魔術によりメッセージを送ってきています」
「わあ、仕事が早い。
それで、なんて?」
「メッセージは、四人の指導者共通でした。
いわく……『貴公の首は柱に吊るされるのがお似合いだ!』」
――パパパパー! パパー!
……俺の脳裏で、開戦を告げる管楽器の音が、高らかに鳴り響いたのであった。
そう、つまりこれは、周辺を軍事系指導者に囲まれた超詰み立地国家の王子が媚を売るために芸術保護政策を打ち出した結果、弾圧に立ち向かう希望の星として祭り上げられた物語なのだ。
文化の爆弾、か。
……芸術が領土を広げるだなんて聞いてない!
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