彼と彼女ー3ー
小さな頃から人見知りだった
ほかの子と目を合わせることができなかった
書道部にいても筆をとると、いつも小さなおどおどした文字になった
中学も書道部にいた
あいかわらず大きな文字は書けなかった
高校も変わらずに書道部だった
何度も何度も蹴られて、なにもすることはできなかった
ある日、奴は2人仲間を連れてきた
それからの一年、私はやつらの奴隷になった
東京まで来たにもかかわらず
まるで貝のように心を閉じたままだった
ただ書展だけは許してくれた
あんなに大きく立派な文字を書くひとは、いったいどんなひとだろうか
縮こまった文字しか書けない私を救いに来てほしい
私は決まって校舎の屋上にいる
その屋上から落ちてしまおうかと、思ったりするけれどそんなことをする勇気はなかった
なぜ君は、いつもここで何かを探すように遠くを見ている?
誰もいないところ
どうして?
ひと嫌いなの
私は汚れているから
高校のときは奴隷だったから
意味がわかる?
あなたはなんで、こんな私に話かけるの?
寂しいひとをみると放っておけない
なぜ?
僕も寂しい
彼は翌日もまた私のところに現れた
恋人が亡くなったと
何て言えば救われるの?
わからない
山がいい
山頂からの夕日を見てみたい
だんだん日が沈むであろう、最終地点へと太陽は落ちてゆく
そして地平線に橙色の領地を広げながら、姿を消した
彼の顔は少しだけ橙色に染まっていた
亡くなった恋人は、どうして亡くなったの?
屋上のいつもの辺りから飛び降りた
そう・・・・・
気分の上げ下げが大きな子だった
だから自分が僕の負担になることが怖かったんだと思う
頼ってくれることに安心しきっていた僕に・・・・・責任がある
悲しそうに彼は確かにそう言った
彼を抱きしめて、背中をさすってあげた
わかりましたよ
さ、一緒に歩いて行きましょう
これからは下りです上がりより楽です
今更なんだけど、あなたの名前は?
私は冴子。雪氷冴子
僕は広。鴨池広
季節は夏から秋になった。
広は水差しで硯に水を入れ、墨を硯に置いた。
「・・・・・」
何も言わず、書けと言っていた。
懐かしい墨の匂い。気を集中させてゆく。墨は新鮮な墨汁になる役目を果たして、私は無心になった。
私は文字を書いた。
その文字は、大きくて力強かった。
完




