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異世界勇者のエピローグ

掲載日:2026/02/07

 南高校一年二組、総勢三十二名によって魔王は討伐され、世界に平穏が訪れた。


「今日、集まってもらったのは他でもありません」

「どうしたの、そんな改まって」

「お金なら貸さないからね?」

「違うから! 実は二人に大切な報告があるの!」


 王宮の庭園にある屋根付きのベンチ。

 私と七緒なお彩未あやみに呼び出されていた。


「この度わたし、さわ 彩未あやみは結婚します!!」

「ええ!?」


 私は驚きのあまり大きな声が出た。


「おおー、おめでと。例の公爵様?」

「そう! サミュエル様!」

「決め手は何だったん?」

「う〜ん。理由は色々あるんだけど、一番はわたしをリードしてくれる男前なところかな。いやぁ、最初は全く眼中にも無かったんだけど、何度も会ってるうちに、この人良いかもって思っちゃって」

「そっか、お似合いだと思うよ。ね、琴葉ことは

「う、うん……」


 私の煮え切らない返事を聞いて、七緒は首を傾げた。


「琴葉?」

「あ、えっと……」


 私は彩未の顔を見て尋ねた。


「彩未」

「うん?」

「私たちって、一応まだ高校生だよね。学校はどうするの?」

「ああ〜、行かないよ。もう元の世界に帰るつもりもない! というか、行けないじゃん」

「まあそうだけどさ、原田はらたさんが元の世界に帰る方法を探してくれているわけだし……」

「でも、今すぐ帰れるわけじゃないでしょ? それに今更元の世界に帰っても、受験勉強とか就職活動とか、あんまり楽しいことって無いと思うんだよね」

「それはまあ……」

「だったらこの世界を楽しんだもん勝ちじゃん。七緒もそう思わない?」

「うーん。あたしは二人みたいに何か考えがあって生きてるわけじゃないからなー」


 彩未が少し悲し気な口調で聞いてくる。


「琴葉はわたしがこっちの世界で結婚するのは反対だった?」

「そ、そんなことないよ。おめでたいことだし、私もすごく嬉しい……でも……」

「でも?」

「もし元の世界に帰る方法が見つかっても、彩未はこの世界に残るんだよね。それはちょっと寂しいというか……」


 自分で言い出しておいて、恥ずかしさがこみ上げてくる。

 案の定、彩未はにやついた顔で私を見ていた。


「なになに? 琴葉はわたしがいないと寂しいんだ?」

「う、うるさいな……」

「照れんなよ〜」


 彩未が肘で私を小突いてきた。


「大丈夫! 帰る手段が見つかれば、自ずとこっちに来る手段も見つかるって!」

「そうだよー。もし琴葉も残るなら、あたしもここに残るからさ」


 流石は中学からの腐れ縁。

 二人がいるなら異世界も悪くないと思えてしまう。


「ちなみに、原田の研究を手伝ってる琴葉から見て、帰れる目途は立ってんの?」

「それは……何とも言えない。でも、確実に進んではいると思う……あ! ごめん! 今日も手伝い頼まれてて、もう行かないと」

「そっか。人気者は大変だねー」

「そんなのじゃないよ。原田さんは私の魔力量に興味があるだけ。あと、彩未」

「うん?」

「結婚おめでとう。私もお似合いだと思うよ」

「えへへ、ありがとう!」


 それから私は原田さんがいる部屋へ向かった。



 王宮の地下に設けられた原田さんの研究部屋は相変わらず散らかっていた。

 高校時代の清楚で可憐な原田さんのイメージからは想像もつかない空間だ。


三輪みわ、遅い」

「ご、ごめん。彩未と七緒に会ってて……」

「彩未と七緒?」

「あ、さわ二口ふたくちだよ」

「ああ、あの二人……まあ、良いけど。こっちはお金も払ってるわけだし、しっかりと時間分は働いてもらうから」

「うん」

「じゃあ早速だけど、そこにある魔術回路に順番に魔力を流してみて」

「わかった」


 そこには象形文字のような意味不明な文字がびっしりと書かれた紙が並べられていた。

 魔力を通すと左から文字に光が灯っていく。

 しかし途中でバツン! と光が途切れてしまう。

 これは魔術回路が上手く機能しなかった証拠。

 並べられていた紙全てに魔力を流し込んでみたけど、結果は全部同じだった。


「駄目か……」


 原田さんがぼやいた。


「この魔術回路にはどんな意味があるの?」

「何、今更?」

「えっと、ただ気になったというか……」

「はぁ……地球の座標を探してる」

「どういうこと?」

「私の自論……というか導き出した結論だけど、この世界も私たちのいた地球も、全部同じ宇宙に存在する。単に住んでいる惑星が違うってだけ」

「え!?」

「例えばそこにある魔術回路。あれはこの宇宙に存在する生命体がいる惑星まで導き出せてはいるけど、該当する条件が多すぎてエラーが出てるって感じ」

「つまりそれって、この宇宙には私たち以外の生命がいるっていう証明だよね。世紀の大発見じゃん……」

「まあ、地球で見つけ出せていたらノーベル賞ものね。だから極端な話、座標と移動手段さえあれば帰ることができるのよ」

「じゃあ、もう少しで地球に帰れるってこと?」

「そう簡単な話じゃないわよ。そもそも移動手段がまだ見つかってないわけだし。はぁ、私たちを召喚した『賢者』がぽっくり死ななければ、こんなことせずに済んだのに。証拠を残す重要性を学ばされたわ」


 そう言って、原田さんは再び机に向かった。


「ねえ、原田さん」

「まだ何かあるの?」

「うん。原田さんはどうしてそこまでして地球に帰りたいの?」

「は?」


 頭に浮かんだのは、さっきの彩未の言葉だった。


「別にこの世界もそんなに悪くないというか、どうせ地球に戻っても勉強とか仕事ばっかりでしょ? だったらこの世界で英雄としてちやほや去れていた方が良いんじゃないかって……」

「嫌よ。私はやりたいことがあるから」

「やりたいこと?」

「そう。だから帰るの」


 黙り込んだ私を見て、原田さんが言う。


「どうせ三輪みわは『自分はやりたいことがないなー』とか思ってるんでしょうけど」

「……え?」


 図星だった。


「やりたいことが無いからこの世界に残るのは安直だから。現状維持は一番ダメ。もっと貪欲じゃないと人生損するから。三輪みわも人をこき使うくらいしてみたら?」

「そっか……ありがとう」

「べつに」

「あと、一応私をこき使ってる自覚はあったんだね……」

「使われるだけ有能ってことでしょ。喜びなさい」


 その日はいつもの倍近く働かされた。

 でもその分報酬のお金もいつもより多かった。



 王宮内の廊下を歩いていると、正面からバタバタとお姫様が走ってきた。


「あ、勇者様! 丁度良い所に!」

「な、何ですか!?」


 お嬢様は私の服を掴んで、訴えかけてくる。


「お願いします! わたしを逃がしてください!!」

「に、逃がす!?」


 すると今度は王宮の衛兵がぞろぞろと現れた。


「ま、まずい! 早く!!」

「え、ええ……」


 私は仕方がなくお姫様の手を取ってその場から離れた。

 衛兵を撒いてひと段落してから、私はお姫様に尋ねる。


「あの、逃がすって何があったんですか?」

「えっと、実はお父様から逃げていて……」

「お父様って国王陛下だよね……それまたどうして……」

「だって毎日勉強と縁談の連続ですよ!? もう毎日が憂鬱で……魔王を討伐していただいたことには感謝していますが、まさか平和になった途端こんなことになるとは思いませんでしたよ」

「あはは……お姫様も大変なんですね」

「全くです! はぁ……わたしだってやりたいことが沢山あるのに」

「やりたいことですか?」

「はい! 実はわたし、冒険者をやってみたくて! 色々な国を旅したり、美味しいものを食べたり、もう言い出したらきりがないくらい!」

「いいですね」

「でしょう? だからお願いします! わたしが逃げるのを手助けして欲しいんです! あと、もしよかったら少しだけわたしに付き添っていただけたらなあ、なんて……」

「……」


「す、すみません、無茶なこと言って! いきなりこんなこと言われたら困りますよね。あはは――」

「いいですよ」

「え? い、いいんですか!?」

「はい。でも、もし捕まったらしっかり私の無実を証明してくださいね? 流石に犯罪者にはなりたくないので」

「もちろんです!」


 そしてわたしはお姫様拉致の汚名と一緒に国を出た。

 やりたいことを見つけよう。元の世界に帰るかどうかはそれからでも遅くない。

 何せ時間はまだ沢山ありそうだしね。


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