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誰かを殺そうとする彼女に恋をした  作者: さつき


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7/19

衝撃

 また日曜日に、いつもの場所に行くと、ベスが……いや、エリザベスがいた。

 エリザベスは、いつも通り男の子っぽい恰好をしていたが、その正体を知っているせいで、遠い人のように感じられた。

 フィオリは、彼女に近づくとすぐに跪いた。


「……エリザベス様。数々のご無礼をお許しください」

「やめてよ、フィオリ。あなたは、いつものままでいて」


 エリザベスは、フィオリの肩に手をかけて、フィオリを立ち上がらせようとする。そのことすら、恐れ多かった。


「でも……」

「私、いつものあなたの方が気に入っているの」

「ベスが……いや、エリザベス様がそういうなら……」

「エリザベス様じゃなくて、エリザベスでいいわ」

「エ、エリザベス……」


 そういうと、照れくさそうに彼女は、ほんとりと頬を桜色に染めた。


「ええ」

「君は……王族だったんだね」

「そうよ。エリザベス・チェルノボグ。厄介な家に生まれてきちゃったわ」


 そうエリザベスは、額にこつんと右手を当てながら、落ちかける葉っぱのように寂しそうな声でそう言った。


「こんなところ、あんまり一人で来ない方がいい。危険だ。すぐに城に戻った方がいい」

「心配してもらわなくても、今日で最後になるわ」

「……」


 フィオリは、崖かが突き落とされたような気分になる。


(俺は……ベスにとって逢いたい存在になれなかったのか。剣術を覚えたから、もう用済みなのか。やっぱり俺は、王族の気まぐれに付き合わされただけなのか……)


「私、結婚するの」


 ベスは、フィオリの目をまっすぐ見ながらそう告げた。


 その言葉に、雷に打たれたような衝撃が受ける。

 そうだ。どうして忘れていたのだろう。

 王族は、政略結婚をする宿命にある。おそらく、ヘイムダル家、リジル家、ボナパルト家あたりの上級貴族と結婚するのだろう。バラルド家もありえるかもしれない。

 マクベイン家は、貴族であるが下級貴族だ。王族とは、釣り合わない。

 ラヴェル・ヘイムダルとかだろうか。ラヴェルは、文武両道で顔立ちも整っているいい男だ。エリザベスにふさわしい。


(俺の恋は、最初から実らないって決まっていた……)


「相手は?」


 知りたくないけれど、聞かずにはいられなかった。


「ベヒモス。ベヒモス・ライジングよ。私は、ベヒモスの3番目の妻になるの」


 それを聞いて吐きたくなるほど、絶望感がこみあげてきた。


(最悪だ。よりによって、ベヒモスなんて。ベヒモスは、ディアボロン帝国の皇帝で、エリザベスの両親を殺した人間だ。ルートピアの国民を虐殺しまくったクソみたいな奴だ。あんな最低最悪の奴と結婚するなんて、かわいそうすぎる‼)


 だけど、逃げ出したら、エリザベスがどんな目に合うかわからない。ルートピアも、めちゃくちゃにされるかもしれない。

 できることなら、駆け落ちでもして彼女を守りたかった。だけど、相手は史上最悪の魔術師だ。ルートピアを一夜で滅ぼすことができるほどの力を持っている。守れる自信なんてなかった。


(俺は、彼女になんて言えばいいんだ)


 頭が真っ白になる。

 失恋の痛みも押し寄せてくる。

 永遠のような沈黙の後、ようやく絞り出せたのは一言だけだった。


「……お幸せに」


 それを聞いたエリザベスは、目に涙を滲ませた。


「何でそんなこと言うの?フィオリのバカ‼アホ!」


 彼女は、ヒステリックにそう叫ぶ。


「俺は……」


 必死に言い訳しようとするが、頭が真っ白になって何も思い浮かばない。


「両親を殺した男のもとに嫁ぐのよ。しかも、側室として。冗談じゃない!冗談じゃないわ!」


 彼女は泣きながら、叫んでいる。だけど、どうすればいいんだ。彼女と駆け落ちをしたら、ルートピアが滅んでしまう。自分には……ベヒモスを、いやディアボロン帝国と対抗できるだけの力がない。


「君は……美人だ。きっと愛してもらえるだろう。ベヒモスだって君には、悪いようにしないはずだ」


 自分と逃げても、地獄が待っているだけだ。だから、自分が言うべき言葉はこれでよかった。

これでよかったはずなのに……。


「あなただけには、そんなこと言われたくなかった」


 エリザベスは、泣きながらフィオリの頬を右手で殴った。

パアアンと派手な音が響き渡った。フィオリは、殴られることが分かっていたが、避けようとしなかった。


「ごめん……」


 殴られたのは、フィオリだけど謝った。彼女の泣き顔を見たら、その言葉しか出てこなかった。


「もうここには来られない。さようなら」


 エリザベスは、泣きながら走っていく。

 彼女を呼び止めたい。だけど、呼び止めても、何て言ったらいいかわからない。

 フィオリは、どうしたらいいかわからないまま、その場に銅像みたいに立ち尽くした。



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