エピローグ 彼女からの手紙
その日から、俺は、1週間学校を休んだ。
生きていく気力がわかなかった。真っ暗な部屋で、ぼんやりと簪を見つめながら、エリザベスのことばかり考えていた。
ナベリウスが名誉騎士に選ばれたみたいだけれど、もうどうでもよかった。このまま引きこもって、永遠に彼女のことだけを考えていたかった。
ようやく、学校に行こうと思ったのは、このままじゃ、エリザベスに怒られると思ったからだ。早く強くなって、彼女が愛したルートピアを支える人間にならないと……。もうそれしか、生きている意味が見つからない。
学校へ行くと、みんなから「大丈夫だったか」と聞かれたが、「大丈夫」と口だけで答えた。
ぼんやりと空を見ながら、授業が始まるのを待っていると、カテリーナから、渡したいものがあると声をかけられた。またナベリウスへのラブレターだろうか。
「ごめん。俺は、今、そんな気分じゃないんだ」
そう断るが、カテリーナは、意外なことを言った。
「違うの。これは、あなた宛ての手紙なの」
「は?」
「エリザベス様からよ」
「ふ、ふざけるな!彼女は……もう……」
「ふざけてなんかないわ。革命が終わったら渡して欲しいと、預かっていたの」
バッと彼女から、奪い取るように手紙を受け取った。
そこには、フィオリ・マクベイン様と美しい筆跡で書かれていた。そして、反対側には、エリザベス・チェルノボグと書かれている。そして、その手紙には、青いデルフィニウム
の刻印がされていた。これは、王家のものだ。
気がついたら、フィオリは彼女にお礼を言うことも忘れて、駆け出していた。どこでもいい。1人になりたい。1人になって、彼女の手紙を早く読みたい。
気がついたら、中庭にいた。無意識に、中庭には、人通りが少ない場所としてフィオリの脳内に刻まれていたせいかもしれない。
「はあ、はあ、はあ……」
息を切らしながら、刻印をゆっくりとはがしていく。
そして、上質そうな紙に綺麗な字でびっしりと文字が書いてあるものが見えた。
「フィオリ・マクベイン様
この手紙が届くころには、私は死んでいるでしょう。
私は、ちゃんとベヒモスを殺せたでしょうか。あなたは、まだ生きていますか。兄はまだ生きていますか。
いろんなことが不安でいっぱいです。
この手紙を書こうと思ったのは、あなたにどうしても伝えたいことがあったからです。
フィオリ。よく聞きなさい。これから、私は、あなたに告白します。
私は、あなたのことが好きです。あなたと過ごす時間が好きでした。優しいところも、かっこ悪いところも、天気みたいにコロコロ変わる顔も、温かい声も、不器用なところも、全部……好きでした。あなたといると、私は私らしくいられました。
復讐なんて捨ててあなたと逃げられたら、どんな人生が待っているかと想像したこともあります。世界を敵にまわしても、あなたと一緒だったら怖いものなんて何もない気がしました。
だけど、あの時の痛みが、私が生きていた理由だったから、私は復讐のために死ぬしかありませんでした。
できれば、兄のことを頼みます。兄は、優しい性格をしていますが、優しさゆえに暴走してしまうこともあります。そんな兄が心配です。そんな兄を、騎士として支えてあげてください。
どうか私のことを忘れないでください。あなたを死ぬほど好きだった少女がいたころをたまに思い出してください。あなたさえ私のことを思い出してくれれば、あなたの心で私が生きられる気がします。
エリザベス・チェルノボグ」
ポタリ、ポタリと大粒の涙が手紙の上に落ちていく。
どうして……俺は、彼女を守れなかったんだろう。
「俺も……君が好きだったんだ。大好きだったんだ」
伝えられなかった気持ちが、ポロリと涙と一緒に零れ落ちた。
誰よりも強くなって彼女を守る騎士になりたかったのに、彼女に守られて生きてしまった。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
絶望に満ちた声が、青い空の下に響き渡った。
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