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誰かを殺そうとする彼女に恋をした  作者: さつき


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25/27

逆転

 ルイは、自分の胸に左手を当てた。左手には、父親の血がべっとりとついている。この血が流れ落ちても、自分の罪が流れ落ちることはないだろう。

 ドクリ、ドクリ、ドクリ……。心臓の鼓動が聞こえる。

(まだ僕は、生きている。僕は、父さんを殺したけれど、まだ生きてしまっている)

 愛されて生まれてきたわけじゃなかった。

 自分に求められていたのは、ハージェンティとして、道具として生きることだけだった。しかし、そんな道具としての自分すら否定された。

(僕が、父さんを殺してまで生きる意味はあったのだろうか……)

 こんな力、持たなければよかった。

ハージェンティに生まれて来なければ、よかった。

 誰よりも強い力を持って、褒められるために虐殺を続けて、最後は父親まで殺して……。

 自分の人生は、一体何だったのか……。


「こんな人生……僕だって歩みたくなかった……」


 ボロボロと泣きながら、言い訳するように、そう呟いた。

 自分が生まれなければ、一体どれほどの人々が幸せでいられただろうか。

 もう疲れた。

 何もやりたくない。誰も殺したくない。

 全部、終わりにしたい。


 ルイは、気絶するようにその場に倒れた。


 けれども、その後、すぐに堪えきれない笑いを漏らしながら、ルイの身体は、立ち上がる。

「ククククククククッ」

 その顔には、悪魔のような笑みが浮かんでいた。


    *               *


 フィオリがナベリウスと共に戦い始めてから、どれほど時間がたっただろうか。

 一晩中戦ったくらい疲れているが、まだ夜は明けていない。急に全てのゾンビが動かなくなり、その場にバタッと倒れた。


「はあ、はあ、はあ……」


 ナベリウスと共に剣を構えたまま立ち尽くすが、攻撃はない。もう死体は、動かないようだ。

 しばらくしてから、ナベリウスと顔を見合わせて剣をおろす。


「何が起こったんだ?」


 そう呆然と呟く。


「誰かがルイを殺したのか‼」


 ナベリウスの赤と金の瞳が、ランランと輝いた。


「誰だろう!ラヴェルか。それとも、リュシオンか!あいつら、やりやがった!!!史上最悪の魔術師ルイ・ハージェンティを倒したんだ!」


 ナベリウスは、興奮しているせいか早口でそう言いながら、フィオリにハグをしてきた。


「俺たちは……助かったのか……」


 魂が抜けたように、呆然としながらフィオリが呟いた。


「ああ」

「早く二コラのところに、行かないと」

「あいつは……別に俺たちが殺す必要はない。放っておいたら、他の奴が殺すだろう」


 そう言ってきたのは、ナベリウスの優しさだろう。


「いや、俺が二コラを殺す。それが俺の使命だと思うんだ」


 まるで身内に犯罪者が出た親のような気分だ。

 二コラの罪は、自分が裁く。

 フィオリは、そう決意して進みだした。


 ルイによる黒魔術が止まってから、ルートピアは勢いを増していた。次々に黒い国旗が倒され、青い国旗で満ちていく。

 中には逃げ出すディアボロン帝国の制服を着た人々も多くいた。

 ぐちゃぐちゃに荒らされた死体だらけの広間の中央で、二コラは、取り残された迷子のようにポツンと一人で立っていた。そうして、ぼんやりと窓の外から見える星を見つめていた。その横顔は、夜空に残された半月みたいに寂しそうだった。


「二コラああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 フィオリの怒鳴り声を聞いて、二コラが振り返った。


「……何でまだ生きているんだよ」


 そう言いながら、二コラは、血だらけになっていた剣を抜いた。彼の周囲にルートピアの騎士が3人倒れている。きっと、二コラは、裏切り者と罵られながら戦ったのだろう。

 どんな気持ちで戦ったかは、自分にはわからない。


「ナベリウスは手を出すな。二コラは、俺が殺す」


 ナベリウスには、二コラを殺す苦しい役割なんてさせたくなかった。


「わかった」


 ナベリウスは、そう返事をして腕を組んで近くの壁に寄りかかった。きっとフィオリが勝つことを信じているのだろう。


 数回打ち合うと、二コラは、バランスを崩した。その隙に床に押し倒して、馬乗りになる。右手で二コラの剣を持つ手を押さえつけ、左手に持つ剣先を二コラの喉元に向ける。

 いまだ。

 今なら、ニコラを殺せる。

 緊張のあまり、ゴクリと唾を飲む。

 ニコラは、強い。少しの油断が命取りになる。

 今、殺さなければ、後で自分が殺されるかもしれない。


「はあ、はあ、はあ……」


 剣を握る手に力を込める。二コラと目が合った。

 お互いの考えがわかるようだった。


(二コラ……。俺は、お前といると楽しかった。同じものを食べ、同じことで笑って、同じことで感動をした。この先、ずっとお前と笑いあえると疑ったことはなかった。お前がいたから、俺の人生が充実したんだ)


 最高の時間をありがとう

 そして、さよなら。


 フィオリは、彗星のように勢いよく剣を振り下ろした。

 

 けれども、剣の軌道はずれて床にカツンと刺さった。


「……できない」


 泣きそうな本音が、ポロリと零れ落ちる。


「できない、二コラ……」


 二コラのヘーゼルの目が、大きく開かれた。


「俺は、お前を殺すことなんてできない」

「フィオリ……」


 ヘーゼルの瞳には、情けない顔をしたフィオリが写っている。


「もう一回、ルートピアの騎士団でやり直そう。今回の活躍で、俺はきっと報酬をもらえる。その報酬を辞退する代わりに、お前の命を助けてもらえるように懇願するよ。お前は、まだ子供だった。仕方なかった。きっと、命は助けてもらえるよ」


 そんなに上手くいくかどうかわからない。だけど、一度想像したら、もう一つの未来が溢れて止まらなくなった。

 自分は、間違えてばかりだった。でも、ここは間違えたくない。救いたいと思う人は、救いたい。


「俺のせいで、エリザベスが死んだんだぞ」


 二コラの声が揺れている。


「でも、お前を殺したってエリザベスは生き返らないだろう!!!もう一回、全部、やり直すんだ。俺は、お前が憎い。でも、それ以上にお前を助けられなかった自分も憎いんだ」


 不意に、ドンッと胸を強い力で押されてその場に倒れた。その一瞬の隙で、剣を持った二コラが立ち上がった。


「フィオリ。お前、相変わらず甘いな」


 今度は、二コラがフィオリを見下ろすように立っていた。


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