黒魔術
ルイ・ハージェンティは、たった1人で死体を操り続けていた。
彼は、初めて感じる万能感に夢中になっていた。死体を自由自在に操ると、次々にルートピアの兵士が死んでいく。死体には、黒魔術が込められているから、魔剣による魔術で倒れることはない。
(すごい……。こんな風に戦えるなんて、楽しい)
「助けてくれ‼」
「ハージェンティの悪魔が」
「嫌だ!死にたくない」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「ああ、神様……」
悲鳴、怒号、祈る声……。辺りは、混乱している。
(全部、僕のせいだ。僕が悪いんだ)
ルイは、精神を乱すことなく死体を操り殺し続ける。
そういえば、誰かと能力の共有は、できるのだろうか。
魔術師の死体は、ないだろうか。死体の視覚を探ると、メッサー家の魔術師であるエンブサ・メッサーを見つけた。エンブサは、女の魔術師でクルクルとしたパーマのある長い髪が特徴である。
(彼女も死んでいたのか……。僕にも優しくしてくれたのに……)
でも、仕方がない。彼女を利用しよう。それが、メッサー家に生まれた彼女の本望だろう。
エンブサに目の焦点を合わせると、数人のルートピアの兵士が見えた。ルイが、エンブサがそいつらを攻撃することをイメージすると、エンブサはその通り俊敏に動いた。
(よし、できる……。僕は、きっとここにある死体を全て自由自在に操れるんだ)
エンブサは、力の魔術師である。炎や、石の魔術ほど派手な魔術ではないけれども重たい攻撃をすることができる。
ルイが、エンブサが力の魔術を使用することをイメージすると、彼女は大勢の兵士を吹っ飛ばした。
(死んでも、生前の魔術を操れるのか!)
神経を集中させて、エンブサが黒魔術を使うことを想像してみた。すると、エンブサの指先から黒い霧のようなモヤモヤしたものが流れ出て、あっという間にそれに飲み込まれた兵士が死んでいく。
(魔術の共有もできる。きっと、僕は無敵に違いない)
いい気分になっていると、エンブサを通して、リチャード・リジルの姿が見えた。彼のことは、ベヒモスと共にルートピアに行った時に知った。あの髭面は、間違いなくリチャードだ。彼は、どうやら石の魔剣を使用しているらしい。
エンブサの指先に黒魔術を込める。すると、霧のように広がっていく。リチャードは、石の魔術で壁を作るが、黒魔術には敵わない。
黒い霧は、彼の壁をあっという間に侵食して壊し、彼の元まで到達した。彼に到達すると、生気が奪っていく。
後に残るのは、ルイの操り人形だけ。剣の達人と言われていたが、あっけない死だった。
(さあ、他の魔剣師も探していかないと……)
今までは、力をセーブしていたけれども、魔術を自由に使えるってすごく楽しい。
楽器を奏でるように、魔術で遊ぶことに夢中になっていく。ルイの前には、屍が大量に積みあがる。でも、その屍さえも、ルイが新しく遊べるおもちゃに見えた。
もっと、できる。
もっと、広範囲に……。もっと、精密に……。
世界中操れるくらい。
神様になれるくらい……。
その時、首が絞められていく感触がした。
「うぐっ」
咄嗟に全ての魔術を断ち切り、目の前にいる誰かを突き飛ばす。
そして、目を開けた途端、絶望した。
「はあ、はあ、はあ、はあ……」
目の前にいたのは、ルイの実の父親であるルシウス・ハージェンティだった。




