ピンチ
フィオリは、今まで二コラには、何度も戦っていた。勝ったり負けたりしていた。
「はあっ、はあ……」
フィオリは、守りに入らず、ひたすら攻め続ける。かすり傷くらいどうでもよかった。頭の中にあるのは、どうしても二コルを倒さないといけないということだけだった。
「くっ」
二コラは、苦しそうな顔で後ろに下がっていく。
「殺す!お前なんか殺してやる!」
そう恨みを込めて言いながら、頭の中には、シャボン玉みたいに二人でご飯を食べながら笑いあった記憶がはじけていく。くだらないことで、二人で笑いあった。一緒に食べたアイスは、美味しかった。二人で朝練した時もたくさんあった。二コラの家で、料理をしてナベリウスとリュシオンと食べたこともある。ナベリウスやリュシオンに嫉妬する気持ちだって、二コラは誰よりも理解してくれていた。いつか自分達も彼女を作って幸せになろうぜって約束だってした……。
記憶の中ではあんなに楽しそうになのに、ここで殺しあっている現実が悲しかった。
いつか殺し合いをする時は、魔術師と戦うとばかり思っていた。こんな風に、友人と戦うことになるとは、思っていなかった。
その時、生暖かい風が通り抜けた。
フィオリ達の周囲にいた死体が、命を吹き込まれたように立ち上がった。
「え……」
ディアボロン帝国の兵士も、ルートピアの兵士も、ゆらりと立ち上がり、攻撃対象を全てルートピアの兵士にするように近づいてくる。
「何だ?何が起こった?」
死体が動く?魔術の仕業か?
パニックになりそうなフィオリを、バカにするように二コラが笑った。
「お前、ルイ・ハージェンティのことは聞いていなかったのか」
「ハージェンティ……」
ルイ・ハージェンティのことは知らないけれど、シュガット・ハージェンティのことは、知っている。確か世界一の魔術師で、闇の魔術の使い手だったと。
大量の死体を操れるのか。死体ってことは、死んでいるんだろう?どうやって倒せばいい?体力も永遠ってことか?ゾンビだらけじゃないか。
(落ち着け。今の俺には、土の魔術がある)
「土の魔術、土の手」
そう叫ぶと、土から大量の手が伸びてきてゾンビの足を掴もうとするが、その土の手はあっという間になくなっていく。そして、ゾンビはこけたりしないで進み続ける。
「どうなっている?」
土の魔術が効かない。頭がパニックになりかける。
「お前知らないのか?闇の魔術に対抗できるのは、光の魔術だけだ」
ルートピアで、光の魔剣を持っているものは、誰もいない。死体に魔術は効かない。
(ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい。そんなの全滅ゲームじゃないか。こんな状況、どうすればいいんだ……)
「最初から、お前らに勝ち目はなかったんだ」
その声は、哀れみに満ちていた。
二コラの言っている通りだ。自分たちの負けは、最初から決まっていたんだ。恐怖のあまり体が固まる。気がついたら、周囲をゾンビの群れに囲まれていた。
もうダメだ。こんなの勝てっこない。自分の体力が尽きたら、死ぬだけだ。
「さようなら、フィオリ」
二コラは、淡々とした声でそう言って、フィオリから目を背けて歩き出した。
ごめん、エリザベス。
君を助けることはできない。
こんなの自分じゃあ、どうしようもない。
そう思いかけた時……。
「フィオリイイイイイイイイイイイイイイイイ‼どこにいる?返事をしろ。大丈夫かああああああああああああああああああああああああああああ!」
突然、空を割るような大声が聞こえた。
「ナベリウス!」
ナベリウスが近くにいる。
くそっ。諦めている場合か。剣を握りしめながら身体をくるりと1回転させて、周囲のゾンビの首を跳ね堕とした。一気に8人の首が空を飛んでいく。首を切られたゾンビは、少しだけ動きを止めた。
「俺は、ここだ!ここにいる!!」
そう大声で叫ぶと、すぐにナベリウスが周囲のゾンビを豪快にやっつけながら、近づいてきた。
「これは、ヤバいな」
こんな時でも、ナベリウスは余裕そうに笑顔を浮かべていた。根っからヤバい状況とか、強い奴との戦いが好きなナベリウスは、この状況を楽しんですらいるのかもしれない。
(このド変態が……。キモイんだよ)
しかし、この変態は誰よりも心強い存在だ。
「ナベリウス。俺……どうすればいい?」
「戦うしかないに決まっているだろう」
「でも、相手は、死体だ。このまま戦い続けたら、俺たちが全滅するに決まっている」
「どうかな。俺は、お前といると負ける気がしないけどな」
「それは、こっちのセリフだ、戦闘狂が」
背中をナベリウスに任せられるなら、背後からの攻撃は一切気にしないでいい。
「おりゃああああああああああああああああああああああああああああああ‼」
自分を鼓舞するように叫んで、ゾンビを切り続けた。




