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誰かを殺そうとする彼女に恋をした  作者: さつき


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ルイ

 ベヒモスの城の地下には、極秘の部屋がある。そこを訪れるのは、ベヒモスによって選ばれたわずかな人間だけだった。

 まだ10歳であるルイ・ハージェンティも、その選ばれた人間の一人だった。30代後半である父親のルシウス・ハージェンティと彼が率いた4人の衛兵と共に、その地下室にやってきた。

 ルイは、青みがかった黒髪の短髪に、濃い青色の瞳をした痩せた少年で、父親のルシウスもルイと同じ色の髪と瞳をしていた。二人とも黒いローブを羽織っていて、その下に短剣を隠している。

 地下室の奥には、ドアがついた部屋がある。ルイは、その部屋に一人で入るように父親に言われていた。


「そろそろ時間だ。戦況は、いい状態だ。お前の力を十分発揮できる」


 ルシウスは、柔らかい声でルイにそう告げた。


「はい」


 ルイは、緊張のあまり指先が冷たくなっていた。喉もカラカラだ。


「大丈夫だ。お前ならきっとできる」


 そう父親のルシウスから頭を撫でられる。こんな風に父さんから優しくされたのは、久しぶりのことだった。絶対に、この使命をやり遂げないといけない。


「はい」

「それにしても、ベヒモスは、一体何をしているんだ?こんな時も、姿を現さないなんて……」


 イライラしたようにルシウスがそう言うと、ルイは「ベヒモスは、もう死んでいるよ」と淡々と答えた。


「どうしてわかった?」

「死んだベヒモスと視覚の共有をしたから」


 ルイのその言葉に、父親の表情が凍り付いた。そして、彼は唇をギュッと噛んだあとに「……そうか」と小さく呟いた。


「お前、そんなこともできたんだな。すごいな」


 そうルシウスが言ったが、その言葉は薄っぺらで、ルイの心には響かなかった。

「うん。……父さんには言っていなかったっけ」

「聞いてないよ」


 ルイが黒魔術の使い手だと発覚してから、父親との関係は気まずくなってしまった。ルイが賞賛や地位を与えられれば、与えられるほど、父親は、酒に溺れルイに冷たくなるようになっていたのである。

 そのため、ルイは、できる限り自分の能力を隠すようになった。けれども、こんな状況なら仕方がない。自分の力を全て発揮しなければいけない。


「じゃ、じゃあ、そろそろ行くよ。父さん、見張りを頼んだよ」


 ルイは、逃げるようにドアの取っ手に手をかけた。

 父さんが僕を嫌いなことはわかっている。だけど、こんな状況なら、自分の役目を果たすだろう。


「安心しろ、ルイ。ここには、誰もいれない」


 ルシウスは低い声でそう告げて、ルイの肩を叩いた。ルイは、小さくうなずき、1人で中に入っていった。



 ルイは、部屋の中央に座り、深呼吸をして精神を整えた。

 自分は、人類史に残るような殺人鬼になる準備が出来ているのだろうか。


(……いや、何バカなことを考えているのだろう。僕は、もうルイ・ハージェンティとして生きていく覚悟はできているはずだ)


 本音を言うと、ルイはベヒモス・ハージェンティのことを好きではなかった。他の魔術師だって、嫌な奴ばかりだ。けれども、ハージェンティと生まれたからには、ディアボロン帝国のために、自分の力を捧げなくてはならない。何百年もそうしていたのだから。

 ベヒモスも、彼の弟のバハムートも死んでいる。この後、ベヒモスとマリーの息子ファビアンがディアボロン帝国の跡を継ぐだろう。

 ベヒモスが死んでも、ディアボロン帝国は、終わらない。ルートピアは、どんなに強くなっても、この巨大な帝国を滅ぼすことはできない。自分が、この劣況をひっくり返す。


(今、僕の力を帝国のために捧げる。いや、ディアボロン帝国のためだけじゃない。自分の力を全力で試したい)


 そう思うと、まるで生まれて初めて魔術を使う子供のようにワクワクした。


「さあ、始めようか」


 ルイは、ゆっくり目を閉じる。

 神様にでもなった気分だ。あとは、命令するだけだ。


「バラドエル」


 古代語によって、死体に命令する。

 すると、この戦争で生まれた全ての死体がゆっくりと起き上がった。


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