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誰かを殺そうとする彼女に恋をした  作者: さつき


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2/11

予想外のお願い

 放課後、フィオリからラブレターをもらったナベリウスは、顔色を変えることなく「ありがとう」といい、いつものようにすぐにしまった。

 それをフィオリは、銅像のように見守っていたが、心の中では嵐が巻き起こっていた。

(カテリーナだぞ。俺的には、クラス一番の美少女だぞ!何でそんな反応できるんだよ。俺がラブレターをもらったら、断食でもしながら喜びの舞を踊り狂うのに)

 ナベリウスは荷物をまとめ終えると「お前も、これから騎士団に行くか」と聞いてきた。

 学生であっても、優秀な生徒は騎士団の訓練に参加できる。

 ナベリウスは、授業が終わると毎日騎士団で日が沈むまで体を虐めて……いや、鍛えぬいているのである。ちなみに彼は、スクワット千回とかちょっとおかしいメニューを笑いながらこなす化け物なのである。

「ああ、もちろんだ」

 フィオリも、ナベリウスと共に毎日騎士団に通っていた。



 ルートピア騎士団の訓練場に行くと、フィオリと同じく学生でありながら騎士団に所属しているリュシオン・スヴェントも来ていた。リュシオンは、サラサラとした二つ分けにした金髪に、青い瞳をした顔立ちが整った男である。手足も長く、身長は190センチほどで、彼が剣を構えるだけで、絵画のように様になっていた。彼は、フィオリの1学年下であるが、悔しいことにフィオリよりも剣術が上手く小さい頃から天才少年と言われていた。


「遅かったね。待っていたのに」


 リュシオンが、ナベリウスの方を見ながらそう言った。


「悪い。ちょっと授業が長引いたんだ」


 ナベリウスが謝ると、「早く手合わせしてくれ」とリュシオンがせかした。


「ちょっと準備運動するから待ってくれ」

「ああ」


 なぜリュシオンがナベリウスを待っていたかというと、リュシオンの実力と同レベルなのがナベリウスくらいだからだ。それくらい、この二人は騎士団の中でも異次元レベルで強かったのである。

 ナベリウスは、準備運動をさっさと終わらせると、ナベリウスと手合わせしだした。残されたフィオリが一人で、準備運動をしていると「よっ、相棒‼」と背後から背中を叩かれた。顔は見なくても誰だかわかった。


「二コラ。お前も来たのか。お前が来てくれてうれしいよ」


 フィオリが振り返ると、予想通り二コラ・ハイガーデンがいた。二コラは、貴族学校であるクワーツ学校の学生ではないが、フィオリと同い年であり実力も同じくらいであるため仲が良かった。彼は、狼のようなツンツンとした灰色の髪に、茶色と緑色を混ぜたようなヘーゼルの瞳をしている。18歳であるが背は150センチくらいと低く、痩せていて子供みたいな雰囲気をしていた。


「だろっ」


 二コラは、八重歯を見せながらニカッと笑った。


「お前も準備運動は終わった?」


 フィオリが問いかけると、二コラは右手の親指を立ててきた。


「もうばっちりだよ」

「じゃあ、早く戦おうぜ」


 フィオリと二コラは、木刀を持ち、空いているスペースで手合わせを始めた。

 二コラはやんちゃそうな雰囲気の少年だが、剣術では冷静な対応と、繊細な動きが得意であった。

 フィオリは、相手の様子を探るように攻撃を仕掛けるが、二コラは軽やかに交わしてくる。そして、じわじわとフィオリの死角から攻撃しようとしてくるのだ。


(くっ。負けてたまるか)


 やがて、フィオリと二コラは、嵐のように激しく打ち合うようになる。そして、長い戦いの後、フィオリの木刀が二コラの首筋の前でピタリと止まる……と思った時、素早い剣で跳ね返される。


「くっ」


 その一瞬の隙を逃さなかった。

 そのまま二コラの剣がフィオリの脇腹でピタリと止められた。


「やったー。フィオリに勝った。フィオリは、詰めが甘いんだよ」


 勝利した二コラは、ガッツポーズしながらピョンピョン飛び跳ねる。


「くそお。あとちょっとだったのに。つーか最後の攻撃早すぎるだろ」

「その前の攻撃を少し速度落として緩急つけただけだよ」


 それに体力が奪われてきた俺がついていけなかったのか。


「あ。あっちは、またナベリウスの勝ちか。あいつ強すぎるだろう」


 そう二コラに言われて、ナベリウスの方を見るとガッツポーズをしているナベリウスがいた。


「そうだな」


 ナベリウスは、リュシオン相手に勝利したみたいだ。リュシオンは、無言だが悔しがっているのが顔を見ただけで伝わってくる。

 もうナベリウスに勝てる奴は、この騎士団にはいない。あいつは、どんどん強くなっていくだろう。

 その時、騎士団長ジョン・ラプラスが、副団長のバロン・ボナパルトと共に現れた。そして、ジョンが


「では、今日の訓練を始める。集合」というと、辺りで争っていた兵士が整列した。

「まずは、ランニングからだ」


 そして、いつものように過酷なトレーニングが始まった。


 その日もトレーニングが終わる頃、フィオリがぼろ雑巾みたいに、ぐったりとしていた。


「はあ、疲れた。なあ、二コラ。よかったら、食堂でご飯も食べていかないか」


 食堂には、安くてボリューム満点の定食が売られている。フィオリの母親は夜ご飯を作ってくれているが、我慢できずに食堂で食べてしまう時も多かった。


「悪い。今日も、リズとダリのために、買い物行って食事を作らないと」

「そっか」


 ニコラの両親は、5年前の飢饉で餓死した。それから、ニコラは、年の離れた妹と弟の面倒を一人で見ていた。たまに、作り置きしている日は、フィオリ達とご飯を食べることもあったが、家事や掃除などで忙しく、そういう日は少なかった。


「また、今度誘ってよ。次は、あいつらのためにシチューでも作り置きしておくから」

「わかった。二コラは、本当に大変そうだな」

「大丈夫。俺、兄貴だもん」


 二コラは、胸をポンと叩きながらそう言った。


「かっこいいな」

「だろっ。じゃあ、俺、先に帰るね」

「わかった。気をつけて」


 二コラを見送ったフィオリは、同じ家に住んでいるナベリウスの方を見た。ナベリウスとは帰る場所が同じだが、彼は騎士団の他のメンバーに手合わせをしてくれと頼まれ、まだ帰りそうになかった。

(先に一人で帰るか……)

 フィオリは、自分の荷物をまとめると、家まで歩き出した。



 すっかり日は、沈んでいた。空には、大きな光を放つ月とポツンとした小さな星が浮かんでいる。フィオリの脳内で、今日のラブレターをもらったナベリウスとあの月が重なる。きっとナベリウスがあの月みたいな存在だとしたら、自分なんてせいぜい星レベルだ。大した輝きもない。


(あー。何か楽しいことないかな。俺の人生ってこのまま、ナベリウスの隣に置かれているパセリのように終わってしまうのかな。誰か……俺のことを好きになってくれる女の子が存在しないかな)

 そんな風に考えながら歩いていると、薄暗い路地裏で、誰かが3人の男に囲まれているのが見えた。


「はら、早く財布を出せよ」

「財布なんて持っていないわ」

「嘘をつくな。金目のものを置いて行け」


(女の子がカツアゲされている⁉大変だ。助けないと)


 その時、フィオリの頭に天啓が舞い降りた。


 女の子を助ける×かっこいいところを見せる=女の子は俺に惚れる


 こ・れ・だああああああああああああああ。

 フィオリの頭の中に、輝かしい方程式が光り輝いた。

 幸いなことに、今は騎士団の訓練場からの帰り道で、木刀が手元にある。


「その子を離せ」


 その言葉で男たちは振り返り、少女もフィオリを見る。


 フィオリは、彼女のあまりの美しさに息を呑んだ。


 まるで、翼のない天使みたいだ。

 一つにまとめられている金髪の毛は、クルクルとした癖があり、優雅な滝みたいに流れている。パッチリとした赤い目は猫みたいで、星屑みたいに光り輝いている。顔立ちは、人形みたいに整い、白い肌は陶器みたいに滑らかだ。

 彼女は、なぜか茶色の上着に、茶色のズボン、ポニーテールという男の子みたいな恰好をしている。


(こんな子を助けたら、きっとこの子は、俺のことを好きになるだろう。俺の今までの負け犬人生は、この子を助けるために存在していのかもしれない)


「ん?お前誰だよ」


 たらこ唇をしたブサイクな男が振り返る。


「まだガキじゃないか」

「やっちまおうぜ」


 そんな男たち相手に、フィオリは、かっこよくポーズを決めながら「ふん。やれるものなら、やってみろ」と高らかに告げる。


 そして、5秒後……。

 フィオリは、あっという間に襲い掛かった男たちをやっつけていた。


「てめぇ……何しやがった……」


 何をされたかわからない男がわめいている。


「お前の腹部に木刀を打ち込み、そっちの男の右足を折り、彼の左腕折ったんだ」

「ちくしょう。覚えていろ」


 そう捨て台詞を残して、男たちが去っていく。


「あなた剣術が得意なのね」


 まるで泉のように透き通る美しい声が聞こえてきた。残った少女は、赤い目をキラキラさせながらフィオリを見ている。

(ふっ。俺に惚れてしまったか。この溢れるオーラを抑えきることは、できなかったか)


「あなたの名前は何て言うの?」

「俺は、フィオリ。フィオリ・マクベインだ。君の名前は?」

「エ、え、えっと……。ベス。そう、ベスよ」


 少女は、垂れた金色の髪を弄び、遠くの方を見ながらそう答えた。

 ベスか……。いい名前だ。

「ねぇ、フィオリ。あなたにお願いがあるの?」

(こ、これは、もしかして、告白されるのでは?付き合ってくださいって言われるのでは?そうだよな。それしか考えられないよな。俺にもついに、春が来ると言うことか)

 フィオリの心臓が緊張のあまりドキドキと痛いくらい高鳴る。


 しかし、ベスの言葉は、フィオリの予想を外れるものだった。


「私に剣術を教えて欲しいの」


 けんじゅつ?

 頭に?マークが広がる。


「はあああああああああああああああああああああ‼」


 フィオリは、財布を奪われた酔っ払いみたいに間抜けな声を出した。


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