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誰かを殺そうとする彼女に恋をした  作者: さつき


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裏切者

 フィオリが敵を切り続けながら進んで、気がついたら中庭にたどり着いていた。

 中庭にいるディアボロン帝国の黒い制服を着た男の顔は、見知ったものだった。男の胸下には、ディアボロン帝国の象徴である蛇の刺繍も入っている。


「二コラ……」


 そう。フィオリの友人であったはずの二コラ・ハイデンは、なぜかディアボロン帝国の制服を着ていた。

 二コラが俺らを裏切るはずがない。そんなこと絶対、あってはならない。

 フィオリの頭の中に、都合のいい解釈が浮かびあげる。


「お前、潜入捜査していたのかよ。はは。ディアボロン帝国の制服も似合っているな」

「フィオリ……」


 そう呟く二コラは、困惑しているようだ。


「ナベリウスを見なかったか?あいつ、すっげぇ強い奴と戦っているんだ」

「……」


 ナベリウスの行方を尋ねるが、二コラからは返事がない。


「お前、見つけたのが俺だからいいけれど、そんな格好をしていたら、ルートピアの騎士団に誤解されて切られちゃうぞ。早くルートピアの青い服に着替えた方がいいって」


 けれども、二コラの瞳は、まるで全ての感情を失ったように冷たいものであった。


「フィオリ。お前、まだわからないのか」


 その温度を感じない声に、背筋がゾクリをした。


「俺は、ルートピアを裏切ってディアボロン帝国についたんだよ。爆弾を爆破させたのも俺だ」


 その言葉で、頭を瓶で殴られたような衝撃が訪れた。


「噓だ」


 そう叫ぶが、二コラは「この制服を見て分かれよ!バカじゃないのか」とイライラした様子になった。


「二コラ!どうして裏切ったんだ?祖国を裏切るなんて頭おかしいだろう」

「……俺は、正常だ。お前こそ、ディアボロン帝国を敵に回して、どうやって勝つんだよ。無理に決まっているだろう。魔術師もろくにいないルートピアが勝つのは、100%不可能だ」

「だから、勝つ方についたってわけか」


 そう聞くと、二コラは首を小さく振って「それだけじゃない」と呟いた。


「フィオリは、俺の両親が、遺産を置いて死んだという話を本当に信じていたのか」


 今度は、逆に聞き返された。


「え?でも、お前が、親の遺産で弟たちの面倒を見ているって」

「バカだな。遺産があるほど余裕がある人間が、餓死するわけない。俺の金は、スパイ活動をして得たものだった。俺は、ルートピアに忠誠を誓う前に、ディアボロン帝国のスパイになっていたんだよ」


 まるで世界がひっくり返るような衝撃を受けた。

 5年前の飢饉では、二コラは、13歳だったはずだ。当時、街では誰もが生きていくことに精一杯だった。スパイになるしか、彼が生き残る道はなかったのかもしれない。


「あ……で、でも……。お前の両親は、ディアボロン帝国のせいで飢え死にしたんだろう。帝国が憎くなかったのか」

「当然、憎かったさ。だけど、家族を養うため仕方なかったんだ」


 二コラは、肩をすくめながら、もう一度「仕方がなかったんだ」と小さく言葉を重ねた。


「でも……」

「お前にはわからないだろう。俺が……どんな思いでリズとダリを養っていたと思う?両親が飢え死にしてから、あいつの飯も、衣服も、ディアボロン帝国からスパイ活動をした報酬から得たものだ。俺は、汚いことして金を得ないと、家族で飢え死にするしかなかったんだ」

「……俺に相談してくれれば、支援したのに」


 二コラと出会ったのは、騎士団に入ってからだ。それでも、助けを求められていれば、違う道もあったはずだ。それに、貴族であるフィオリには、それだけの余裕もあった。

 もしも……二コラが、二重スパイにでもなってくれていれば、この戦争はもっと違う終焉を迎えられたのではないか。


「うっせんだよ!お前に俺の何がわかる?痛みも、悔しさも何も理解できないくせに上から目線で語るな。偉そうなんだよ!」


 その突き放すような激しい声に、二コラの気持ちが少しだけわかった気がした。対等な立場でいたいからこそ、相談できなかったのかもしれない。そうだ。二コラは身分が低くても、いつだってフィオリと対等であろうとしていた。


「……そうだな、ニコラ。俺は、お前を全然、わかっていなかった」

「もういい。俺たちは、敵だ。俺は、こっちにつくと決めたんだ。殺しあおうぜ」


 もう二コラは、敵だ。戦わないといけない。

 震える手で剣を構える。二コラもくつろいで様子に見えるが、彼の右手はちゃんと剣の柄を握っていた。


「その前に聞きたいことがある。エリザベスは、どこにいる?」

「さあ。もう死んでいるんじゃないか。エリザベスが反乱を起こすことを密告したのは俺だし、ベヒモスに殺されているだろう」


 フィオリの血管がブチっと切れる音がした。全身が沸騰したように怒りで熱くなる。


「ニコラああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼」


 ベヒモスは、最初から知っていたのだ。エリザベスが生きているわけない。


「ぶっ殺してやる」


 フィオリは、血走った眼をしながらニコラに飛びかかった。


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