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誰かを殺そうとする彼女に恋をした  作者: さつき


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苦戦

 ハルバードと残ったナベリウスは、神経を集中させて相手の動きを見ていた。ハルバードは、そんなナベリウスを見て呆れたようにため息をついた。


「あっちの方じゃなくて、お前が残ったの?バカじゃない?氷が炎に勝てるわけない。早く諦めろ。どっちみちお前は、消し炭になるだけだ」

「さあ、どうかな」


 突然、ナベリウスは、木陰に隠れながら、ハルバードの周りをグルグルと高速で回り始めた。


「ちっ。ちょこまか隠れやがって小賢しいんだよ。すぐにお前の隠れる場所なんて、


 ハルバードは、イライラしながら炎の魔術であたりを焼き尽くしていく。すると、右の方から、ガサリという音がした。


「そっちか」


 そっちに炎の玉をぶつけるが、今度は、左からガサリという音がした。


「そっちだな」


 そっちに炎をぶつけるが、ナベリウスが死ぬ気配はない。


「くそおおおおおおおおおおおおお。早く出て来いよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 ハルバードは、ヤケクソになって炎を放出しつづけるが、ナベリウスは見つからない。

 

 ハルバードは、イライラした気分でいっぱいになり、集中力が途切れた時、ナベリウスが背後から飛び掛かってきた。


「死ね!害虫が!」


 ナベリウスは、背中からハルバードの心臓をグサッと刺した。


 ハルバードは、驚いた表情のままその場に倒れ意識をなくしていく。 


 そして、ナベリウスは、死体となったハルバードをぐしゃっと踏みつけ「人間を舐めるな、クソ野郎が」と吐き捨てた。


  *            *


 赤い煙弾を追ってリュシオンがたどり着いたのは、地獄のような光景だった。

 何百人という騎士団の兵士が、溺れているように、その場でもがき苦しんでいる。もうすでに青紫色の死体となってしまった人も大勢いる。


「苦しい……。うがががががががががががががががが」


 喉を掻きむしりながら、もがきくるしむ兵士、のたうち回る兵士……。


「あが……」

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 断末魔のような悲鳴をあげている兵士。彼とは、過去に手合わせしたことがある。そんなに弱い兵士ではなかったはずだ。


「助けて……誰か助けて……」


 必死で手を伸ばすが、彼らを助けられるものは、誰もいない。

 魔剣師以外の兵士は、魔術師との対戦をできるだけ避けるというのが、今回の作戦だ。だけど、これだけの兵士が逃げる時間もなかったというのか。敵は、よほど強力な魔術師であるに違いない。

 辺りを見わたすと、1人の不気味な男がいた。紫のだらりとした髪に、曇り空を閉じ込めたような灰色の瞳。爬虫類のように伸びている長い舌……。

 あまり見たことがないタイプの人間だ。


「リュシオン……。よく来てくれた」


 近くにいた騎士団長ジョン・ラプラスが、敵から目を離さなないままリュシオンに話しかけてきた。


「彼は、バハムート・ライジング。ベヒモスの弟で毒の魔術師だ」

毒の魔術師。珍しい魔術師だ。近づいたら、死ぬのか?対策を考えなければ、いけない。


「我々3人で彼と戦おう。これ以上は、ここに魔剣遣いを呼んではいけない」


 苦い顔をしたジョン・ラプラスが、右手を頭上に伸ばし、青い煙弾を打ち上げた。


「で、でも、3人でも彼に勝てるかどうかわかりません。青い煙弾を打ち上げるのは、早かったのでは?」


 副騎士団であるバロンは、不安そうにジョンに問いかける。リュシオンが、ここまで慎重で弱気なバロンを見るのは初めてのことだった。自分は、ここにいて大丈夫なのだろうか……。


「この戦いに、魔剣遣い3人も用いている。これ以上は、呼べない。呼んだら、他の戦況が厳しいものになる。我々が、絶対にここで彼を止めなければいけない」


 ジョンは、魔術師から目を離さないまま、そう言った。


「そうだな、ジョン。私もずっとこんな機会が来るのを待ち望んでいた。ずっとあの日を思い出していた。夢の中で何度も繰り返す。ヨダカーン様とシャーリー様、リチャードが焼け死んだあの日を……」


 バロンが、自分の首を罰するように軽く閉めた後に、右手で剣を力強く握りしめた。


「あの時、ヨダカーン様とシャーリー様を救えなかった頃の自分には、もう戻らない。それを今、ここで証明する」

「ああ、そうか。お前ら、あの時、シュレン城にいたんだな。兄貴の暴力に屈した雑魚じゃねーか」


 バハムートは、低く絹のように滑らかな声をしていた。その声には、バカにするような響きがあった。


「お前だって、ベヒモスに勝てないから、あいつの弟っていう座にとどまっていたんだろう」

「ああん?何だと?お前から殺すか」


 そうバロンに狙いを定めたバハムートに向って、ジョンが話しかける。


「バハムート。ベヒモスは、どうなっている?エリザベス様は?」


 バロンの表情が険しくなる。最悪な答えを聞くのを覚悟しているようだ。

 普通に考えたら、エリザベスはベヒモスには勝てない。今頃、殺されて、焼け死んでいるだろう。しかし、ベヒモスがこんな状況でも、戦いに参加している様子がないということは、何か起きたのか……。


「知らねぇ。ただ、こんな戦闘になってもやってこないってことは死んだんじゃねぇか」

「あのベヒモスが……死んだのか……。エリザベス様が、やったのか!?」


 ジョンの紫の目が大きく見開かれる。


「あのクソが生きていたら、敵も味方も関係なく燃えカスにしていくだろう。でも、何も起きていない。つまり……これからは、俺の時代だ。俺がディアボロン帝国の皇帝となって、世界を支配する。この世の全ては、俺のものだ!ヒャッハー」


 両手を広げ、天を仰ぎながら、狂気じみた笑みを浮かべ叫ぶバハムート。


「新時代の幕開けに、まずはお前らカス共を殺してやるぜ」

「そうはさせるか。雷の魔術 落雷!」


 ジョンの剣から、雷の魔術がほとばしる。


「火の魔術 火球‼うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 バロンの魔剣から、大量の火の玉が放出される。


「水の魔術 洪水」


 リュシオンも、剣から洪水のように大量の水を放つ。激しい魔術が、バハムートにぶつけられ火花が散る。

 これだけの魔力だ。さすがに死んだだろう。こんな強力な魔力を同時にぶつけられて、生きているものなどいるわけない。

けれども、煙の向こうから見えたのは、立ち尽くすバハムートのシルエットじゃないか。


「これで死んでいないだと⁉」


 ジョンは、驚きを隠せず石のように固まる。


「おいおい。この程度の魔力で、俺を殺せると思ったのか。お前ら、俺のこと舐めすぎじゃねぇか」


 バハムートは、傷一つついていない。自分たち3人の魔力よりも、バハムートの魔力の方が上回るというのか。なら、どうやって殺せばいいんだ。

 相手は、毒の魔術師だ。近づいたら、毒によって殺されるはずだ。


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