戦闘開始
フィオリ達が、ディアボロン帝国の首都アレスにたどり着くと、武装した多くの兵士の姿が見えた。
やはり今夜、ルートピアが反逆をすることは、ディアボロン帝国にばれていたようだった。爆弾を爆破した裏切者がいたのだろう。
白馬に乗った騎士団長ジョン・ラプラスが、辺りを見渡し、剣を抜く。
「いいか、よく聞け。これが最後の命令だ」
怒号のような大声が響き渡る。
「作戦を忠実に守れ!自分勝手な行動はするな。そして、ハージェンティと当たったらできる限り逃げろ。自分の力を過信するな」
「「「はい」」」
大勢の兵士と共にフィオリも駆け出した。その横には、つい先ほど合流できた親友ナベリウスとリュシオンがいる。二コラの姿は、まだ見かけていない。前線付近にでもいるのだろうか……。まあ、あいつのことだ。簡単には死なないだろう。
(早く……早く行かないと。エリザベスを助けてあげないと……)
全力で走っていると「おい!フィオリ。あんまり一人で突っ走るな」と、落ち着かせるようにナベリウスから肩を叩かれる。
「ああ、わかっている」
口では、そう返事をするが、気持ちは落ち着かない。
(エリザベスは、どこにいる?あの城に行けば、会えるだろうか)
「作戦は守れよ」
冷静そうなリュシオンからも、そう声を掛けられる。
「ああ」
今回の戦いの作戦は、簡単なものである。
ディアボロン帝国は、数人の魔術師がいるが、ルートピアは、魔術師が一人もいない。魔術師と並大抵の人間が戦って勝つのは、不可能である。
魔術師と当たってしまった騎士団員は、無理に戦おうとせず赤い煙弾で助けを呼ぶ。すると、魔剣を持った優秀な騎士団員が駆けつけて、駆けつけた合図に青い煙弾をあげる。そして、魔術師と魔剣遣いがマッチングする状況をできる限り作る。
もしも、魔剣遣いが魔術師相手にピンチになった場合は、紫の煙弾を打ち上げる。そして、強い魔術師相手に2対1や、3対1で戦える状況を作り出す。ただ紫の縁煙が打ち上げられた時は、よほど危険な状況があるということなので、気をつけた方がいい。
そして、最恐の魔術師ハージェンティを見つけた場合は、黄色の煙弾をあげる。黄色が見えたら、すぐに逃げろと言う合図だ。
ナベリウスも、フィオリも、魔剣遣いに選ばれている。煙弾が上がれば、自分の使命を果たしに行く。夜だし煙弾は、非常に見えにくいが、辺りは松明を持っている人も多く全く見えないわけではない。見える範囲で戦わなくてはいけない。
その時、ヒューと音がして赤い煙弾が見えた。
「おっしゃああ。赤い煙弾だ。早く行かないと」
ナベリウスが、ガッツポーズをして歓喜が零れるような笑みを浮かべる。きっと魔術師と戦うのが待ちきれなかったのだろう。
「いや、待て。そっちには、騎士団長が向かった。対応は、彼に任せよう」
リュシオンが冷静な判断をする。
「なるほど。じゃあ、いっか」
そうフィオリ達が別の方向に進みかけた時、紫の煙弾が上がった。紫の煙弾は、魔剣師が一人では対応できない強敵がいることを意味する。
「青じゃなくて紫かよ。おいおい、いきなりヤバい奴の登場かよ」
そう叫ぶフィオリの背筋に冷たい汗が流れる。あっちに行って、自分は生き残れるのか。
「騎士団長でも、対応できないのか。俺たちも行くぞ」
しかし、強敵を見つけたナベリウスは嬉しそうだった。こいつ、本当に狂っているな。
「いや、副騎士団長もそっちに向かっている。そんなに人数は避けない。念のため、俺も向かうが、お前たちは別の方角へ行った方がいい」
そう言ったのは、リュシオンだ。最年少のくせに、いい判断をする。
次の瞬間、赤い煙弾が他の方角から見えた。
「わかった。俺とナベリウスは、そっちに向かう。リュシオン……。また後で。絶対に死ぬなよ」
「それは、こっちのセリフだ」
リュシオンは、俺とナベリウスと握りしめた手を軽く合わせてから、移動し始めた。
フィオリがナベリウスと共に、赤い煙弾がした方へ向かうと、肉が焼ける嫌な臭いが漂っていた。
(人間が焼かれているのか。くそっ)
パチパチと音を立てながら燃えている死体が、山積みにされている。
煙の向こうでは、鼻歌を歌っている髭面の大男が見えた。大男は、身体をほぐすように大きな伸びをした後、フィオリたちを見て「また弱そうな奴らが来たな」と呟いた。
「まあ、いい。さっさと丸焦げになれ。炎の魔術 ウルフファイヤー」
いきなり狼の顔面みたいな赤い炎が「グルルルルルルるるる」と唸り声をあげながら、フィオリたちを襲ってきた。パッとナベリウスと別の方向に避けるが、すごい威力だ。
「俺は、ディアボロン帝国の騎士団長ハルバード・パルだぞ。お前らみたいな雑魚には勝ち目がないから、さっさと逃げるのを辞めて丸焦げになれよ」
「それは、どうかな。氷の魔術 アイスナイフ」
ナベリウスが剣を振り上げた瞬間、大量の氷のナイフがハルバード目掛けて飛んだが、全てハルバードが生み出した炎の壁により一瞬で溶けてしまった。
「はっ。氷の魔術とかしょぼすぎ」
ハルバードは、ナベリウスを鼻で笑った。
「ちっ」
ナベリウスの舌打ちが響き渡る。ナベリウスは、強いけれど炎の魔術師相手じゃ、相性が悪すぎる。ここは、自分が戦うべきか。でも、いきなりディアボロン帝国の騎士団長かよ。自分は、勝てるのか……。
いや、弱気になっている場合じゃない。ここで勝たないと、次に進めない。
「何だ、ありゃ。今度は、青かよ」
ハルバードが背後の方を見つめる。リュシオンが向かった方角からは、青い煙弾が見えた。ようやくパワーバランスが均衡になったのか、リュシオンの強がりか……。
(とにかく俺たちは、こっちの敵に集中しなければいけない)
「まあ、いい。炎の魔術 ファイアーレイン」
今度は、大量の炎の塊が押し寄せてくる。
「くっ」
反射的に俺の魔剣が持つ土の魔術で壁を作り、ナベリウスと自分を守ったが、すぐに土の壁は壊れてしまった。フィオリとナベリウスは、慌てて背後に下げる。フィオリたちの顔面は、すっかり煤だらけで黒くなっていた。
ハルバードは、めんどうくさそうにため息をついた。
「まだ死ななかったの?人間のくせに魔術師に対して調子に乗らないで欲しいな」
ナベリウスの血管がブチっと切れる音がした。
「ちっ。この害虫が」
バチバチと火花が飛びそうなくらい睨みあう二人。
「フィオリ。決めた。こいつは、俺の獲物だ」
ナベリウスは、青い煙弾を頭上に打ち上げた。
(おいおい、それじゃあ、助けがこないだろうが……)
その時、近くで、また赤い煙弾があがった。
「あ……」
(ちっ。また魔術師かよ。どんだけいるんだよ)
「お前、あっちに行って来い」
ナベリウスは、すぐそう判断した。
「でも……」
フィオリが行ったら、ナベリウスは、ハルバードと一人で戦うことになる。相手は、炎の魔術師だ。氷の魔剣を使用するナベリウスが、戦うには不利だ。ナベリウスの魔術の氷なんて、すぐに溶かされてしまう。
「俺は、大丈夫だ。こんな奴、すぐやっつけてお前のところに行くから」
ニカっと白い歯を見せながら、ナベリウスは笑いかける。
「わかった。こんなところで死んだら、一生罵ってやるからな」
「はいはい。お前こそ死ぬなよ」
「当然だ。ここは、この天才に任せろ」
ナベリウスは、自分の胸をドンと叩いて、ウィンクした。
「自分で天才とか言うなよ」
ハイタッチをしながら、ナベリウスの横を通り過ぎる。
大丈夫。ナベリウスが負けるわけない。自分さえ勝てば、また会える。
そう言い聞かせて、赤い煙弾が見えた方向に走り続けた。




