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誰かを殺そうとする彼女に恋をした  作者: さつき


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演説

「あ、ヨエルの登場だ」


 その言葉がして辺りを見渡すと、皆と同じようにルートピアの騎士団の制服を着たヨエル・チェルノボグが、騎士団長と副騎士団長に囲まれながら、丘の上の方を歩いているのを見えた。その近くには、ラヴェル・ヘイムダルも見える。


「何かいつもと雰囲気違う気がする」


 誰かが言った言葉の通り、ヨエルはいつもよりも険しい顔をしていた。

 そして、彼は辺りが見渡せる場所にたどり着いた時、口を開いた。


「私は、ヨエル・チェルノボグだ。皆の者、よく聞け」


 ヨエルが、大声で怒鳴りつけるようにそう言うと、辺りは水をうったように静まり勝った。


「我々は、力で支配されていた。ルートピアが建国されてから、常に脅迫され資源を奪われ続けていた」


 みんなヨエルは言葉に聞き入る。彼の言葉は、みんなが心の中で気がついていた残酷な真実だった。


「5年前、世界的に大規模な飢饉が起きた。ルートピアの領民は、多くが飢え死にした。それは、我々の貴重な食料が、力づくでディアボロン帝国に奪われたからだ。私の両親は、それを阻止しようとベヒモスと話をした。その結果、ベヒモスに生きたまま焼かれて死んだ」


 ある日、フィオリのクラスメートのピーターが来なくなった。後から、食料の尽きた彼が一家心中したと知った。街では死臭が漂っていて、悲惨な話ばかり聞いた。自分は仲が良かったナベリウスにだけ手を差し伸べたが、それ以外のものを見て見ぬふりをした。


「それでも、私は、両親を殺したベヒモスに、こびへつらいながら生きてきた。民を守るためだった。私だけじゃない。我々は、誇りを捨て、命令されれば、何でも差し出す無様な奴隷のように生きていた。その結果、文化も財産も食料も全て奪われた。残ったのは、ただの憎しみだけだった」


 今から900年以上前、ハーデス・レイバーが世界を支配した際、ディアボロン帝国が誕生した。魔術師を多く保有するその帝国は、強力な力を誇り、数多くの国を支配して植民地化していた。

 東に位置する緑豊かな国ルートピアも例外ではなかった。表向きは独立国家となっているが、常にディアボロン帝国から圧力をかけられ多額の税金を納めることが義務付けられていた。そして、魔術師が多くいるディアボロン帝国に歯向かうことは、滅亡を意味していた。


 ああ、そうだ。

 ヨエルのいう通りだ。

 今、自分の心で燃えているのは、憎しみだ。ベヒモスが憎い。ディアボロン帝国が憎い。無力で臆病だった自分が憎くてたまらない。


「そんな日々を今日で終わりにしたい」


 彼は、力強くそう言った。


「私は最愛の妹エリザベスまで奪われた。そして、奴らは持参金として大量のお金を要求してきた。これを受け入れたら、また5年前の悲劇が起きて数多くの国民が死ぬだろう。妹は『どうかベヒモスを殺させて欲しい』と私に言ってきた。『今回の件は、ディアボロン帝国を滅ぼす最大のチャンスだ。最後にプライドのある生き方をしたい』と。私は、プライドなんて、もうとっくの昔に捨てていた。だけど、そんな自分の生き方が嫌だった。捨てた誇りとプライドを取り戻したい。ルートピアの国王として、名誉ある戦いをしたい」


 ヨエルの言葉が、痛いほど胸に響く。辺りでは、悲惨な過去を思い出したのか、すすり泣く音まで聞こえてきた。誰かが死んだ友や、家族の名前を呼んでいる。自分たちは、あまりにも奪われ過ぎたのだ。


「きっと妹は、命がけでベヒモスを殺しているだろう。皇帝を失った帝国は、混乱しているはずだ。何百年にも渡った恨みを晴らす最大のチャンスだ。ここで、我々が勝たなければ、二度とディアボロン帝国を滅ぼすことはできないだろう。ルートピアの民はこの先奴隷として生き、何もかも奪われ苦しみながら死んでいくだけだ」


 ベヒモスを殺して、ディアボロン帝国を滅ぼす……。そんなことできているかわからない。だけど、できていなかったら、自分がその言葉を真実にするしかない。ベヒモスを殺し、エリザベスが彼を殺せたことにするのだ。


「ルートピアの国旗は、青いデルフィニウムだ。初代ドルムント・チェルノボグが国民を幸せにすることを願い『あなたを幸せにします』という青いデルフィニウムを掲げた。彼は、ユートピアを作ろうとしていた。だけど、理想は理想でしかない。戦わなければ奪われるだけだ。どうか私に力を貸して欲しい。未来のルートピアの民に、新世界をあげたい。だから、今夜は死んでも勝て」


「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」


 地響きのように激しい雄たけびが、周囲に響き渡る。

 きっと今夜、世界は変わる。

 自分が見るのは、ルートピアの滅亡か、それとも、ディアボロン帝国の破滅か。

ナベリウス、二コラ、リュシオン、ラヴェル……。

 仲間の顔が思い浮かぶ。自分たちは、最強だ。ルートピアがこれほど強かったことは、今までないだろう。

 ここで勝てなければ、いつディアボロン帝国に勝てる?今、しかない。エリザベスを痛めつけた人間を決して許さない。しかるべき、報いを受けさせる。

 胸の痛みをこらえるように唇を噛み締め、剣の柄を握りしめる。

これから、自分の全てを捧げよう。

 ルートピアの勝利のために……。


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