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誰かを殺そうとする彼女に恋をした  作者: さつき


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復讐

「でも、その前に楽しまないとな。さあ、諦めて大人しく俺のものになれ」


 ベヒモスは、エリザベスにキスをした。長い舌が、エリザベスの口内で暴れ回る。

 気持ち悪い。こんな奴とキスするくらいながら、どっかのデブとでもキスした方がまだましだ。最悪だ……。死にたい。消えてしまいたい。

 目に涙が浮かんでくる。

 助けて、フィオリ……。


 あ……。


 ふいに天啓を受けるようにある考えが閃いた。


 それは、一瞬の出来事だった。


 エリザベスは、かんざしを抜き取り、ベヒモスの喉笛にぶっ刺した。


 ベヒモスの喉から、大量の血しぶきが出て、白いベッドを赤く染め上げる。すぐに彼は、エリザベスの上にドサッと倒れてきた。


「しん……でる……?」


 ベヒモスの脈が止まっていることをちゃんと確認する。

 じわじわと全身が、高揚感で包まれる。


「はあ、はあ、はあ……」


 肩で息をしながら、酸素を吸い込む。


(私は……本当に……やり遂げた。両親の復讐をついに、やったんだ‼私があのベヒモス・ライジングを殺せた)


 ベヒモスもナイフを奪った後で油断していたのだろう。最後は、あっけなかった。フィオリに鍛えられていたから、自分の動きも早かったのもよかったのだろう。

 本当は、このかんざしは、自分が自殺するためにフィオリにねだったものだった。ベヒモスを殺したことが発覚すると、どんな残酷な殺され方をするかわからないからだ。だけど、ベヒモスの血と自分の血が混ざるのは、嫌だった。

 こうなったら、最後まで戦ってやる!

 ベヒモスの死体を床に突き落とし、血だらけになった寝間着の紐を結びなおす。髪も整えて、フィオリからもらったかんざしを身に着ける。


(私は、エリザベス・チェルノボグ。それ以外、何者でもない。最後まで、悪あがきをしてやる。もう一度、あなたに会うために……)


   *           *


 フィオリが騎士団の制服に着替えてから、支給された剣を身に着けた。

 ディアボロン帝国の手前にあるカプレーノ平原に到着すると、辺りはルートピアの騎士団の兵士で埋め尽くされていた。

 けれども、兵士の士気はそれほど高くなく、不安や恐怖の声の方が多く聞こえてきた。


「もうダメだ……。爆弾がないのに、どうやってディアボロン帝国を倒す?」


 その誰かの声は、絶望感に染まっていた。


「俺たちは、バカ女のせいでみんな死ぬんだ‼今日が人生最後の日に違いない。俺は、帰って酒でも飲むよ」


 しゃがれた声で誰かが叫ぶと、恐怖は次々と伝染していく。


「負け戦なんてしたくない」

「ベヒモス一人で俺らを倒せるだろう。魔術師にどうやって人間が勝つんだ。こんなの不可能だ」


 恐怖は、次々と伝染していっている。気持ちで負けているのに、勝てるのか?

 リジル家、ヘイムダル家、ボナパルト家の騎士は見えたが、そこには、バラルド家の騎士はいなかった。おそらく当主であるヨゼフ・バラルドが、ヨエルの招集に応じなかったのだろう。バラルド家も、ここで参加しなくても、どうせチェルノボグ家が亡びるから、処罰されないどころが、ディアボロン帝国に忠誠を示せるいい機会とでも思っているのかもしれない。


「俺たちがディアボロン帝国に勝つとか無理だろう。バラルド家は、1人も来てないじゃねーか」

「ちくしょう。羨ましい」

「ヨエルは、正気なのか。エリザベスが結婚して頭がおかしくなったんじゃないか」

「魔術師に、人間が勝ったことなんて聞いたことがない。俺、他国に逃げようかな」

「俺も。ロナンとかって安全だと思う?」

「どうだろう?あそこの皇帝も、魔術師だしな」

「誰かが裏切って爆弾を爆破したらしいぜ。もうこの国に未来はないよ」


 こいつらは、もう気持ちで負けている。こんな奴を大勢引き連れたところで、使い物になるのか。いっそのこと、ヨエルに、ナベリウスをはじめとする一部の強い人間だけを連れていくように進言するべきじゃないのか。そうすれば……負けた時も、被害が最小限で済む。エリザベスとヨエルが起こした戦争に、彼らは巻き込まれないで済む。


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