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誰かを殺そうとする彼女に恋をした  作者: さつき


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1/7

モブキャラのフィオリ

 ルートピアの首都ルジアには、学校が二つある。一つは、貴族が通うクワーツ学校、もう一つは庶民が集まるリトリック学校だ。

 貴族であるフィオリ・マクベインは、小さい頃からクワーツ学校に通っていた。そして、高等部も進学し、そこで平凡な日常を送っていた。

 春が終わりかけたころ、フィオリは、カテリーナ・ソラシアという上級貴族の少女に、中庭に呼び出されていた。カテリーナは、金髪のロングヘアに赤紫色の瞳をしていて、フィオリと同じ十八歳で、歴史学の授業が同じであったため、仲良くなったのである。


「あの、実は……」


 カテリーナの頬が夕日色に染まっている。

 ドクリ、ドクリ、ドクリ、ドクリ……。

 フィオリの心臓が早鐘のように鳴り響く。


(誰もいない中庭に、呼び出された。ということは、もしかして、俺への告白かもしれない。カテリーナのことは、今まで友達の一人として見ていたけれども、彼女はかわいいし、スタイルもいい。告白されたら付き合ってもいいかもしれない。収穫祭では、デートをして一緒に花火を見るなんて最高じゃないか。でも、彼女の両親は、ソラシア家だ。王家と交流があるような立派な家系だ。下級貴族のフィオリよりも、格上なのである。婚約の申し込みをするときは、緊張してうまくしゃべれなかったら、どうしよう)


 そんな風に告白されてもいないのに浮かれて宇宙へと生きかけているフィオリに向って、彼女は、恥ずかしそうに言葉を紡ぎ出す。


「ナベリウス様のことが好きなの」


(な、な、な、な、ナベリウスだとおおおおおおおおおおおおおおお)


 その言葉を聞いたフィオリは、石のように固まってから、パリンと粉々に砕け散る思いがした。


(あ、ああ、あ……。そっか、そうだよな。うん、うん。やっぱり、そうだな。……はいはい、奴への告白への協力ね。わかっていた。わかっていたとも。別に、俺は勘違いなんてしていなかった。そう。さっきの妄想は、ただの冗談だ。傷ついてなんかないんだからねっ)


 だけど、本音を言うと今すぐ泣きながら、「バカ野郎」と夕日の代わりに太陽に向かって怒鳴りつけて地団太を踏みたかった。


「そ、そうなんだ」

「ええ。そうなの。ナベリウス様に、体調の悪い時に助けていただいてから、ずっと気になっていたの。そして、実技科目で、グラハム先生相手に勝ってしまう姿を見て、恋に落ちたの」


 カテリーナは、右手を頬に当てて、うっとりしながらそう語る。

 その頬は、桜色にポッと染まっている。

 ナベリウス・ハワード。彼は、フィオリが小さい頃からの幼なじみである。ナベリウスは、幼い頃に両親を亡くしていて、フィオリの家で一緒に暮らしている。フィオリにとっては、家族のように距離が近い存在であった。

 彼は、赤と金のオッドアイに、黒色の短髪をした爽やかな雰囲気のイケメンで、剣術の天才である。彼は、数々の武勇伝を作りまくり、死ぬほどモテている。

 フィオリの周りにいる女の子は、爽やかな青年であるナベリウスか、天使みたいに顔立ちが整っているリュシオン・スヴェントのどちらかを必ず好きになるのである。ちなみに、この二人は、ルートピアの二大美男と言われている。


「えっと……このラブレターをナベリウス様に渡してくれないかしら」


 カテリーナは、小物入れに入っていたラブレターを両手で差し出してくる。


「……もちろんいいよ。でも、あいつ、誰とも付き合わないと思うよ。筋肉バカだし」


 そうだ。ナベリウスが、興味があることは、剣術が上手くなることだけで、日々自分の身体を限界まで鍛えている新種の変態なのである。前に『どうして彼女を作らないのか』と尋ねると『時間の無駄だから』とサラリと答えた。くそっ。余裕がある男が、羨ましい。


「そこがいいの。付き合えるとか思っていないから。ただ、思いを知って欲しくて。ずっと応援しているとお伝えしたくて」


(う、羨ましいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい。もしも、ここにカテリーナがいなかったら、ハンカチを口で、キイイイイイとかみちぎれんばかりの勢いで引っ張っていただろう。生まれ変わったら、ナベリウスになりたいくらい羨ましい)


 ラブレターとか、一度でいいからもらってみたい。きっと、ナベリウスは、このラブレターを数々のラブレターの上に重ねて箱にでも入れて保管するだろう。そして、一度読んだら開かれることはない。


(俺なら、そんなことしない。俺がラブレターをもらったら、額縁に入れて、毎日眺めてニヤニヤする……じゃなくて、崇め奉るのに)


 でも、自分のことを好きになる女の子なんて、永遠に現れない気がする。ナベリウスが極上のステーキだとしたら、自分なんてただのジャガイモにすぎない。ナベリウスの隣にいる限り、自分は、その光で隠れてしまう。


「わかった。これは、ちゃんとナベリウスに渡すよ」

「ありがとう、フィオリ」


 フィオリは、人の良さそうな笑みを浮かべた。他人から見たら、自分なんてただのモブキャラだ。きっと、フィオリ・マクベインは、ナベリウスが主役の物語の脇役だろう。


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