『昔ばなしの、その後』 ―笑って、ふるえて、ちょっと泣ける―
~はじめに~
むかしむかし、あるところに――
誰もが知っているその言葉から始まる昔ばなし。
桃太郎、かぐや姫、浦島太郎、金太郎……
幼いころ、絵本やテレビで出会った彼らの物語は、
私たちの心の奥に、今でも静かに息づいています。
けれど、ふと疑問に思ったことはありませんか?
「あのあと、彼らはどうなったのだろう?」と。
鬼を退治した桃太郎に、平和な日常はあったのか。
月へ帰ったかぐや姫は、幸せに暮らしたのか。
玉手箱を開けた浦島太郎の人生は、あれで終わりだったのか――。
本書は、そんな“続きが気になる”昔ばなしの主人公たちに、
もう一章だけ物語をつけた、短編小説集です。
笑いあり、涙あり、ちょっぴり不思議もあり。
現代の価値観や技術を背景にしながら、
彼らが“今を生きていたら”という視点で物語を描きました。
ページをめくるたびに、子どもの頃の記憶がそっとよみがえり、
そして、新しい世界が広がっていきますように。
それでは、物語の“その後”へ――どうぞ、お入りください。
~目次~
第1章
•桃太郎のその後
•かぐや姫のその後
•浦島太郎のその後
•金太郎のその後
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第2章
•一寸法師のその後
•鶴の恩返しのその後
•わらしべ長者のその後
•因幡の白兎のその後
•おむすびころりんのその後
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第3章
•笠地蔵のその後
•天の羽衣のその後
•一休さんのその後
•十二支のはじまりのその後
•鬼の爪のその後
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第4章
•赤鬼からもらった力 のその後
•ねずみのよめいり のその後
•ぶんぶく茶釜 のその後
•河童の雨ごい のその後
•養老の滝 のその後
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第5章
•証城寺の狸囃子 のその後
•じゅげむ のその後
•花咲かじいさん のその後
•ねずみのすもう のその後
•ごんぎつね のその後
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第6章
•だんだらぼっち のその後
•わらと炭とそら豆 のその後
•聞き耳頭巾 のその後
•こぶとりじいさん のその後
•三年寝太郎 のその後
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第7章
•三枚のお札 のその後
•力太郎 のその後
•天狗の隠れ蓑 のその後
•貧乏神と福の神 のその後
•耳なし芳一 のその後
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第8章
•雪女 のその後
•親指太郎 のその後
•うばすてやま のその後
•うりこひめとあまのじゃく のその後
•まんじゅうこわい のその後
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第9章
•へっこきよめさん のその後
•頭山 のその後
•手袋を買いに のその後
•七夕物語 のその後
•アマビエのお話 のその後
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第10章
•きのこ のその後
•そらまめとわらとすみ のその後
•おさけのたき のその後
•赤ちゃんになったおばあさん のその後
•舌切り雀 のその後
短編小説集『昔ばなしの、その後。』
第1章:英雄たちのその後
勇敢で強く、みんなの憧れだった英雄たち。
でも、戦いが終わったあとに残ったのは、静かな日常と、ぽっかり空いた心。
桃太郎も、金太郎も、浦島太郎も、それぞれの“役目”が終わったあとに、何を思ったのだろう。
昔話のヒーローたちが迎えた「本当のその後」に、そっと耳をすませてみてください。
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■ 桃太郎のその後
鬼ヶ島を平定し英雄となった桃太郎は、戦のない日々に戸惑っていた。村人は拍手を送るが、彼はどこか虚ろ。ある夜、彼は再び鬼ヶ島を訪れる。そこには、かつて戦った鬼たちの子どもたちがいた。桃太郎は「おまえたちに仇はない」と言い、耕し方を教え、畑を共に作った。やがて“第二の村”が誕生。犬は番犬に、猿は木登り教師に、キジは郵便係に。かつての敵が、今は仲間。桃太郎の背中には、新たなきび団子袋が揺れていた。
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■ かぐや姫のその後
月に帰ったかぐや姫は、煌びやかな宮殿と無機質な日々に心を閉ざしていた。地球でのあの竹林、老夫婦の笑顔、帝の温かなまなざし…それらは“罪”として封印された記憶。だがある夜、月の図書館で地球の童話を見つける。「竹から生まれた美しい姫」。それは自分の物語だった。彼女は密かに月の技術を使い、一通の手紙を地球に送る。「私は、また地球に行きたい」。それを受け取ったのは、地球でひとり老いた帝。彼は微笑んだ。「今度は迎えに行こう」。
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■ 浦島太郎のその後
玉手箱を開け老いた浦島太郎は、村の誰にも気づかれぬ存在となった。だがある日、漁師の子が海で溺れかける。躊躇なく海に飛び込んだ彼の泳ぎは健在だった。「じいさん、何者だ!」と村人は驚く。浦島は名乗らずに立ち去ったが、海辺にぽつんと落ちていたのは、乙姫からもらった櫛だった。夜、砂浜に亀が現れ、「竜宮が君を待っている」と告げる。太郎は再び、波間に消えていったという。今も時折、海の底から聞こえる笑い声は、彼のものだと語り継がれている。
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■ 金太郎のその後
力持ちとして名を馳せた金太郎は、大人になると武士として仕えたが、山の暮らしを懐かしみ辞職。山へ戻ると、かつての友・熊たちは都会へ移住済みだった。寂しさを紛らわすため「山の子供相撲大会」を企画。人間と動物の混合チームで行う不思議な取り組みに観光客殺到。金太郎は、「力は人を喜ばせるために使うべき」と説き、人気YouTuberに。「まさかりクッキング」「熊と寝てみた」などが話題となり、今では“森の癒し系長老”として親しまれている。
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短編小説集『昔ばなしの、その後。』
第2章:月と星に願いを
月、星、天の川――空にまつわる昔話は、いつも少し切なくて、どこか幻想的。
かぐや姫の迷い、一寸法師の願い、天女の秘密、そして再会を願う七夕。
地上と天のあいだにある“心の距離”を描いた物語を、いま一度。
空を見上げると、彼らの声が、きっと聞こえてきます。________________________________________
■ 一寸法師のその後
打ち出の小槌で大きくなった一寸法師は、都で見事に出世し、姫と夫婦に。だが、ある日「小さい自分が恋しい」とつぶやいた夜、朝起きると元の一寸に戻っていた。姫は驚いたが「あなたはどの姿でも私の夫」と笑った。以来、彼は一寸と等身大を行き来する“変幻自在の使者”として人々に愛される。現代では、"変化を恐れない男"としてビジネス本のモデルにもなっているらしい。
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■ 鶴の恩返しのその後
機織りを終えて姿を消した鶴。だが彼女は夜空を飛びながら思った。「あの人、また困ってないかな…」十年後、人間に化けて町に舞い戻ったが、男は町の長者に。再会すると男は言った。「織物はもう要らぬ。君の無事が何より嬉しい」。鶴は羽根をしまい、人として彼の隣に立った。ただひとつ困ったのは、機織りの仕事を手放したこと。今では民芸店で、“飛べる店長”として働いている。
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■ わらしべ長者のその後
一本のわらから始まった幸運の連鎖。その男は、ついに国一番の大富豪となる。だが彼は思った。「わら一本のありがたみを忘れていないだろうか?」彼はすべてを譲り、名も捨てて旅に出た。途中で出会った少年が、倒れていた老人に自分の飴玉を差し出すのを見て涙した。「真の長者は、与える者なんだな」…今も全国を旅しながら、そっと“わら”を託して歩く老人がいるという。
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■ 因幡の白兎のその後
ワニをだまし傷を負った白兎は、優しい大国主命に救われた。その後、兎は神の使いとして神殿に仕え、言祝ぎを司るように。だがある晩、彼は夢を見た。大地が揺れ、海が黒く染まる。目覚めた兎は「災いが来る」と町に警告した。誰もが笑い飛ばす中、ただ一人、大国主は信じ、備えをした。数日後、本当に津波が襲来。村は救われ、兎は「予言兎」として神格化された。今も神社に、赤い目の兎像が祀られている。
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■ おむすびころりんのその後
おむすびを落とし、ネズミの穴で宝を得た爺さん。その後、爺さんは財産を分け合い、貧しい者に食事を届ける“おむすび配り”を始めた。一方、真似した欲深い隣の爺さんは、再びネズミの穴に挑んだが…穴はもうなかった。実はネズミたちは地上に引っ越していたのだ。今ではネズミたちと“本物の優しさ”を競う料理大会が年に一度開かれ、「おむすび大明神まつり」として町の風物詩となっている。
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短編小説集『昔ばなしの、その後。』
第3章:山と森のひみつ
静かな山奥や、深い森には、昔から不思議がいっぱい。
地蔵、天狗、鬼、動物たち……彼らが住む世界では、善悪も境界も、少しだけ違って見えます。
この章では、人間と“異なるものたち”のその後を描いています。
きっと、あなたのすぐそばの森にも、何かがいるのかもしれませんよ。
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■ 笠地蔵のその後
寒空の中、笠をかぶせてもらった地蔵たちは、老夫婦に恩返しをして去った――はずだった。だがその後、村人の間で奇妙な噂が流れる。「夜中に誰かが、家の戸口に笠を置いていく」「その家は数日後に不運に見舞われる」と。老夫婦は再び地蔵を訪ねた。「あのときの礼に来たのですか?」しかし地蔵たちは何も語らず、ただ一体だけ笠を深くかぶっていた。その笠の下、どこかに似た老人の顔が…老夫婦は黙って手を合わせた。
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■ 天の羽衣のその後
天女は羽衣を取り戻し、天に帰った――が、それで終わらなかった。地上の男との間に生まれた子が、羽衣の端を握っていたのだ。天界ではその子を巡って審議が始まり、「人か、天人か」の議論は百年に及んだ。ある日、羽衣が突然消えた。地上にいたその子が「真実を知りたい」と天界へ足を踏み入れたからだ。以来、天界では「羽衣の端を持つ者、二界を揺るがす」という言い伝えが語られるように。空を見上げるとき、流れる星の尾が少し曲がって見えたなら、それは彼の通った痕かもしれない。
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■ 一休さんのその後
頓知で世を渡った一休さんは、晩年に「この世を去ってもなお人を惑わしたい」と願い、ある“なぞかけ”を遺した。曰く、「この寺に宝あり。見る者見よ、無き者得よ」と。全国の学者が解読を試みたが、誰も宝を見つけられず、寺は今や“迷宮寺”として観光名所に。ある日、一人の子どもが寺の柱に刻まれた「ひらがな」を見つけ、声に出して読んだ。「あ・り・が・と・う」。それは宝ではなく、一休から人々への“最後のことば”だった。
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■ 十二支のはじまりのその後
動物たちの競争で決まった十二支。しかしある日、13番目の動物“カメレオン”が訴えを起こした。「わたしも参加していた。だが姿を隠していたため、誰にも気づかれなかったのだ」。神様は困ったが、証拠として当日の絵巻を確認すると…牛の背中に乗るネズミの隣に、うっすらと“何か”が映っているではないか。審議の結果、カメレオンは“見えざる干支”として暦の裏側に登録された。今も特定の日に限って、見えぬカメレオン年の風が吹くという。
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■ 鬼の爪のその後
村を荒らした鬼が退治されたあと、その爪だけが残った。村人はそれを神社に奉納したが、以来、毎年同じ夜に“ひっかき傷”が家の壁に現れるという。調査にあたった陰陽師は、鬼の魂がまだこの地にとどまっていると告げた。ある年、いたずら好きの子どもが、その爪をこっそり持ち出してしまう。翌朝、村中の家が逆さになっていた。驚く村人に、ひとりの老婆がささやいた。「爪は、鬼の“鍵”だったのさ…開けちゃいけないものを、ね」
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短編小説集『昔ばなしの、その後。』
第4章:町で会えるあの人たち
現代の町に、昔ばなしの登場人物がいたら?
おじいさんがバズっていたり、貧乏神と福の神が同居していたり、
なんだかおかしくて、でもどこかリアルで、心が温まります。
町角の一角に、もしかしたら今も“あの人”がいるかもしれません。
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■ 赤鬼からもらった力 のその後
赤鬼から「やさしさの力」を授かった村の若者。その力で野菜がぐんぐん育ち、動物もなつく。だが、ある日「声をかけるだけで花が咲く」ことに気づき、花咲かじいさんから“分野かぶり”で苦情が届いた。やむなく彼は山奥に移住。今では“笑顔で育てる農園”を経営し、野菜も人もみるみる元気になると評判に。たまに青鬼が手伝いに来るが、どうも肥料を食べてしまうらしい。
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■ ねずみのよめいり のその後
最強の婿を探して雲の上から地中まで旅したねずみ一家。結局、同じねずみに落ち着いたが…あの“婿”は実は俳句が得意だった。ある夜、書き残した一句が町でバズる。「影長き、夕日と嫁と、煮干しの香」。婿ねずみはたちまち文壇の寵児に。今ではねずみ界の“松尾芭蕉”として、講演に引っ張りだこ。なお、義父は「もっと強い句を詠め!」と今も背後で鍛え続けている。
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■ ぶんぶく茶釜 のその後
化け狸が茶釜に変身して一儲けしたあと、本業に戻ろうとしたら、なんと「茶釜芸」が独立して人気に。寄席では「ぶんぶく流!」と大盛況で、狸自身が出るより弟子たちの方が稼ぎ上手に。狸はしぶしぶ裏方に回り、“茶釜プロデューサー”に転身。最近ではバーチャル茶釜(V-TK)としてデビューし、アニメで声も担当中。「あたしの中から湯気じゃなく、夢が出るのよ」がキャッチコピー。
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■ 河童の雨ごい のその後
雨ごいで村を救った河童。その後、空と交渉する“雨契約士”として各地に呼ばれるように。「来週、洗濯物あるので晴れにしてください」など無茶な注文も多いが、河童は真面目に対応。あるとき「全世界同時雨乞いイベント」の依頼が来るが、失敗し大洪水。落ち込む河童のもとに、かつて救った村の子が現れ言った。「失敗しても、誰かのために動いたことが、大事なんだよ」。河童、感涙。今では“お天気お兄さん”としてNHKに出演中。
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■ 養老の滝 のその後
親孝行の若者が見つけたという、酒が湧き出る養老の滝。時が経ち、観光地化され大繁盛。だがある日、「夜に滝に近づくと、笑い声が聞こえる」と話題に。調べに来た記者が滝壺を覗いた瞬間、水面に浮かんだのは、自分の老いた顔。翌朝、記者は白髪になっていたという。老人たちは静かに語る。「あの滝はね、願いの裏側を映す鏡なのさ」。夜の養老の滝。今もそっと酒の香が、風に混じっている。
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短編小説集『昔ばなしの、その後。』
第5章:どうぶつたちの活躍
ネズミも、キツネも、ウサギも、河童だって。
動物たちは、昔から人間のすぐそばで、時に助け、時に惑わせてきました。
この章では、そんな愛すべき動物たちの「その後」を描きます。
ふとした日常の中で、動物たちのまなざしを感じたら…きっと、物語が動き出しま
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■ 証城寺の狸囃子 のその後
ぽんぽこぽんと賑やかに踊っていた狸たち。だが時代は移ろい、村の若者たちはスマホに夢中で太鼓の音など聞きもしない。落ち込んだ長老狸は一計を案じ、狸バンド「SHOJOJI PON-PON」を結成。電気太鼓にラップまで取り入れた狸囃子は、なぜか海外で大ヒット。今では世界中の夏フェスで引っ張りだこ。帰国後も変わらず、月夜にはしっぽを叩きながら、寺の裏でぽんぽこリハーサル中である。
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■ じゅげむ のその後
「じゅげむじゅげむごこうのすりきれ…」と長すぎる名前で有名になったじゅげむ少年。成長後、就職活動で書類に名前が入りきらず落選続き。しかしある日、地元ラジオの“早口言葉対決”に飛び入り参加し、圧倒的勝利。その放送がバズり、アナウンサーにスカウトされる。今や“日本最速の男”として活躍し、CMやバラエティにも引っ張りだこ。ただし、名字が「佐藤」なので、読み上げると最初だけ普通なのが惜しい。
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■ 花咲かじいさん のその後
「枯れ木に花を咲かせましょう」と灰をまいて咲かせた爺さん。今度は“枯れた人間関係”に灰をまいてみた。するとケンカしていた夫婦が急に仲良くなり、村人たちは「心の灰」と呼んで崇めた。花咲かじいさんは、全国を巡る「花咲き講演ツアー」を開始。ところがある町でうっかり灰をまきすぎ、役所の机にも桜が咲く大騒動に。以降、講演は“屋外限定”となったが、今も笑顔の花を咲かせ続けている。
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■ ねずみのすもう のその後
太ったねずみと痩せたねずみが、じいさんの応援で相撲をしたあの日から、ふたりは人気力士に。土俵のないねずみ界では、豆腐の上で勝負する“やわらか相撲”がブームに。ある日、豆腐が崩れ落ち、ふたりとも泥だらけに。「これもまた勝負」と、今度は味噌汁の中で対戦。結果はどちらも“うま味勝ち”。今では「ちゃんこ長者」としてレストランを開き、名物“ねずみ豆腐鍋”は予約半年待ちだとか。
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■ ごんぎつね のその後
兵十に撃たれたごん。その魂は森に還ったはずだった。だが村ではその日以来、不思議なことが起きる。朝、誰も耕していない畑に、きれいに並んだ大根が現れたり、落としたままの弁当が温かくなって戻ってきたり。ある日、村の子がつぶやいた。「きつねのおじちゃんが、笑ってたよ」それを聞いた兵十は、そっと竹林へ向かい、深く頭を下げた。夜、その森には淡い灯りと、ひとつの小さな足跡が続いていたという。
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短編小説集『昔ばなしの、その後。』
第6章:ちいさな、だけどおおきな話
ちいさくて、目立たなくて、でも心は誰よりも強かった。
親指ほどの勇者も、3年も眠っていた怠け者も、
本当に大きなものは、目には見えないことを教えてくれます。
この章は、“ちいさき者”が持つ“おおきな物語”を集めました。
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■ だんだらぼっち のその後
山を一晩で作るほどの巨人、だんだらぼっち。近ごろ姿を見せないと思ったら、どうやら腰を痛めていたらしい。原因は、無理な「富士山ヨガ」ポーズ。以来、療養中の彼は趣味の盆栽に没頭。小さな鉢の山に「ワシの分身じゃ」と名付け、Instagramで人気に。「#ちいさなだんだら山」はフォロワー100万人超え。村の子どもたちは「リアル巨人よりもバズってる!」と驚いている。
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■ わらと炭とそら豆 のその後
旅の途中で火事騒動になった三人。実はあれ、炭のくしゃみに火がついたのが原因だった。炎上騒ぎを機に、三人は漫才トリオ「わらすみまめ」として活動開始。そら豆のすべり芸、わらの軽さを活かしたスラップスティック、炭の黒焦げオチが話題を呼び、紅白出場も果たす。今も仲良く漫才中だが、そら豆は舞台袖で「爆発オチだけはやめてくれ」と毎回本気で震えているらしい。
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■ 聞き耳頭巾 のその後
動物の声が聞こえる不思議な頭巾。あれを拾った青年は、町で「動物語翻訳者」として大人気に。しかしある日、猫がぽつりとつぶやいた。「この町は、前にも滅んだことがあるんだよ」。青年が詳しく問うと、猫は「それ、前の頭巾の持ち主も言ってた」と答えた。記録にない“消された町”の話が浮かび上がり、青年は真相を追い始める。だが数日後、頭巾が忽然と姿を消した。残された猫は、ただ静かにしっぽを揺らしていた。
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■ こぶとりじいさん のその後
踊ってこぶが取れたじいさん、今度は「もう一度踊れば若返るかも」と噂を聞き、夜な夜な山でダンス修行。だがその姿がYouTubeで拡散され「謎の盆踊り仙人」としてブレイク。こぶを取ってもらった鬼たちも再登場し、「B.O.N(盆踊りネイション)」というダンスグループを結成。今や地元の夏祭りで最もチケットが取れないイベントに。「踊れば悩みも吹き飛ぶ」が彼らのモットー。
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■ 三年寝太郎 のその後
三年寝続け、突然起きて村を救った寝太郎。だがその後、彼は再び眠りについた…今度は“百年”。誰もが伝説と信じていたある日、山奥の祠から微かな寝息が聞こえ始めた。村に不穏な風が吹きはじめたのは、それと同じ頃。不作、病、地鳴り…。村人は祠の前に集まり、「また寝太郎が起きれば、何かが起きる」と噂した。だが誰一人、祠の奥を見ようとはしなかった。なぜなら、寝太郎の夢の中にいるのは――“村そのもの”かもしれないから。
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短編小説集『昔ばなしの、その後。』
第7章:なぞを残して
昔ばなしの中には、なぜかぞくっとする話があります。
あの札はどこへいったのか、耳は本当に消えたのか、
語り継がれる話の裏には、まだ誰も知らない“続き”があるのかもしれません。
そっと灯りを落として、不思議な世界を覗いてみてください。
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■ 三枚のお札 のその後
山姥から逃げるため、僧侶に授けられた三枚のお札。少年が使い終えた後、お札は寺に戻され「伝説の品」として保管された――はずだった。ある日、住職が封印箱を開けると、中には四枚目のお札が。誰も知らない“裏の札”。裏にはこう書かれていた。「これを使った者には、“真の願い”が叶う」。住職は黙って箱を閉じた。それからというもの、寺の境内には夜な夜な、見知らぬ者の足音が響くようになったという。
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■ 力太郎 のその後
どろでできた赤ん坊、力太郎。成長して悪を倒した後、“どろまみれの正義”として全国巡業へ。相棒の豆腐小僧とコンビを組み、「かるいが強い」を合言葉にスポーツイベントを開催。だが雨の日は足元が崩れるため、梅雨は活動休止中。現在は「どろから生まれるSDGs」教材キャラに就任。子どもたちからは「つちにかえるヒーロー」として絶大な人気を誇っている。
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■ 天狗の隠れ蓑 のその後
透明になれる天狗の蓑を手に入れた少年。はじめはイタズラに使っていたが、やがて正義のために使い始めた。“見えない探偵”として盗難事件を解決するうち、世間から「令和の透明紳士」と呼ばれるように。だが、ある日突然蓑が消えた。調べると“期限:百回使用”の記述が。ラスト一回を何に使うか…少年は迷った末、大切な人の涙を拭うために使ったという。今は、見える姿でちゃんと感謝されているらしい。
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■ 貧乏神と福の神 のその後
家をたらい回しにされた貧乏神、最後に訪れたのは、小さな子どもの家。「ぼく、おかねないけど、さびしくない?」と笑った子に胸を打たれ、以来、貧乏神は“遊び担当”に。かくれんぼの名手となり、福の神とタッグを組んで“笑いと健康”を届ける毎日。今では町で「神さまふたり暮らし」として有名に。ちなみに福の神は料理担当。おでんが得意で、地域イベントで出すと長蛇の列ができる。
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■ 耳なし芳一 のその後
平家の亡霊の物語を語り、耳を失った芳一。だが彼が語り継いだあと、なぜか“芳一の耳”と称される遺品が各地に現れ始めた。寺に奉納された耳、山奥の祠に置かれた耳型の石像、そしてある劇場の椅子の下に貼られた紙。そこには皆、同じ言葉が。「語り続けよ、忘れるなかれ」。語る者が絶えると、何かが現れる――そう噂され、今も全国のどこかで“無言で鼓を打つ男”が目撃されているという。
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短編小説集『昔ばなしの、その後。』
第8章:新しい家族のかたち
家族って、何だろう。
年老いた母を捨てるか悩んだ青年、赤ちゃんになったおばあさん、
反発しあっていた者たちが、ゆっくりと心を通わせていく姿――。
この章では、「家族」とは何かを、もう一度、優しく問いかけます。
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■ 雪女 のその後
山で出会った雪女に命を助けられた男。約束を破り彼女の正体を語った後、彼女は姿を消した。だがその年から、村には“雪が降らなくなる”異変が。農作物は枯れ、井戸も涸れた。老人たちは震える声でつぶやいた。「あの雪は、女の心だったんだ」。ある夜、雪の降らぬ空に一羽の白鶴が現れ、男の家に落ちた。翌朝、男は白髪になっていた。ふすまには女の字でこう書かれていた。「忘れても、消えない」
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■ 親指太郎 のその後
親指ほどの大きさだった太郎、冒険の果てに普通の人間サイズに。だが“大きさ”を失ったと感じてしまい、心はぽっかり。ある日、旅先の人形劇団からスカウトを受け、舞台で自分の半生を演じ始める。小さな勇気、大きな希望。観客の涙が止まらない。「どんなサイズでも、心は変わらない」。今では“劇団おやゆび”座長として全国を巡演中。ちなみに現在、身長は「その日の気分」で決めている。
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■ うばすてやま のその後
年老いた親を山に捨てる風習――それを打ち破った青年の話は、いつしか村全体の価値観を変えた。だが数十年後、今度はその青年が老人に。村人たちは彼をどうするかで悩む。すると、かつて捨てられるはずだった母が立ち上がった。「命は、巡るものだよ」と。その晩、母と息子は、静かに隣り合って山へ向かった。だが朝になっても、二人は戻らなかった。代わりに、山頂に新しい小屋が建っていたという。“語り部の家”と名付けられ、今も灯がともる。
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■ うりこひめとあまのじゃく のその後
瓜から生まれた美しい姫、悪さをしたあまのじゃくに騙されかけたが…その後、彼と不思議な友情が芽生える。「反対ばかり言うけど、たまに真理をつくよね」。姫は“あまのじゃく翻訳機”を発明し、「いい天気ですね」を「雨ならよかったのに」と変換。SNSで“ツンデレ言語”としてバズる。二人は“正反対なふたり組”としてトーク番組にも出演し、いまや仲良く瓜畑を営んでいる。ちなみにあまのじゃくの好物は、瓜ではなくきゅうり。
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■ まんじゅうこわい のその後
「まんじゅうが怖い」と言った男が、本当にまんじゅうに呑まれた。いや、呑まれたように見えた。町のまんじゅう屋は急成長。だが不思議なことに、店を訪れた者の中に“同じ夢”を見る者が増えた。「暗い部屋、甘い匂い、笑い声…」ある晩、店主が消え、店の奥に“巨大なまんじゅう”だけが残された。その中には誰も入れない。今も入口には小さな木札がある。「まんじゅうこわい。それがほんとう」
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短編小説集『昔ばなしの、その後。』
第9章:人と食べものと
おむすび、まんじゅう、茶釜にきのこ…
食べものが主役の昔ばなしは、どこか人間らしくて、くすりと笑えて、
ときに深い教訓も与えてくれます。
あの一口が、思い出になるように。この章は、味わって読んでください。
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■ へっこきよめさん のその後
おならで家を吹き飛ばすほどの“へっこき力”を持つ嫁。実はその後、全国のおなら相談を受ける「屁道の師範」となった。「我慢せず、笑って出せ!」が信条。ある日、近隣の火山が噴火寸前と知った嫁は、山に登り、渾身のおならを炸裂。火口を逆に押し戻し、大噴火を防ぐことに成功。今では「地球を救った屁」として英雄扱い。銅像もあるが、スイッチを押すと音が鳴る仕様で、子どもに大人気。
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■ 頭山 のその後
人の話を聞かずに桜の種を食べた男の頭に生えた桜。その後も四季折々、頭の上には菜の花、柿、雪だるまと、季節が勝手に訪れるように。やがて“季節を背負う男”としてSNSで話題に。悩みは春先の花粉症だけ。ある日、ハトが頭で巣を作り、卵が孵るともう諦めの境地。「これが共生社会かもな…」とつぶやくその姿に、多くの人が癒されている。
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■ 手袋を買いに のその後
人間の町へ手袋を買いに行った小狐。あれから時は流れ、彼は大きくなった。だがある雪の日、母の言葉を思い出し、あの店を再訪。店はもうない…と思いきや、奥にぽつんと灯るランプの光。そこには変わらぬ姿の老婆が座っていた。「…あのときの手、覚えているよ」小狐は手袋を受け取り、ふと気づく――それはあのときと同じ、片方だけの手袋だった。振り返ると、老婆の姿は雪の中に溶けていた。
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■ 七夕物語 のその後
年に一度しか会えない織姫と彦星。だが、現代に転生した二人は“遠距離恋愛あるある”を配信するカップルYouTuberに。「年一どころか、月一でもキツい」と苦悩を吐露する動画は大人気。やがて宇宙通信を活用した“天の川直通Zoom”も開発され、毎晩のように星空会議。ある日、ファンから「もう会えばいいのに」と言われ、ついに地球で初デート。待ち合わせは“七夕祭り”。現在は天の川に“織姫彦星カフェ”を共同経営中。
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■ アマビエのお話 のその後
疫病退散の伝説を残し、海から姿を消したアマビエ。数百年後、SNSで再ブームになったころ、ある村に奇妙な現象が――疫病が流行ると、必ず“水たまりに映るアマビエの影”が現れるという。調査団が撮影した映像には、誰もいない水辺に揺れる影。だが、そこには一瞬だけ“涙を流すような姿”が映っていた。地元の子どもが言った。「あの人、病気より、忘れられるのがいちばん怖いのかも」
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短編小説集『昔ばなしの、その後。』
第10章:時の旅人たち
十二支の順番に文句を言う動物、永遠に名乗り続けるじゅげむ少年。
昔話の“時間”は、時に不思議で、自由で、ちょっといじわる。
この章では、時間のなかを旅するユニークな者たちの“その後”を描きます。
忘れられた話のつづきが、ここにあります。
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■ きのこ のその後
森できのこを拾った男は、その味に感動し“きのこ農園”を始めた。珍しい品種を育てていた
ある日、ひとつのきのこが突然しゃべった。「ボクを売らないでください!」驚いた男だったが、そのきのこは“笑いキノコ”。食べた者が一日中笑い続けるという珍種だった。やがて「医療きのこ」として話題になり、病院にも提供されるように。今では「キノコ笑薬堂」として大繁盛。隣村では“泣きキノコ”も発見されたとか。
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■ そらまめとわらとすみ のその後
火に飛び込んで弾けたそら豆、燃えたわら、まっ黒になった炭。だが実はその日、彼らは“新しいレシピ”を発明していた。料理人に拾われ、豆ごはん、炭塩、わら包み焼きとして生まれ変わり、グルメ雑誌に掲載されるや大反響。三人は“食材タレント”としてテレビに出演し、今では「そらわらすみカフェ」も大人気。ちなみに、そら豆は自分の顔がメニュー写真に載るのがちょっと恥ずかしいらしい。
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■ おさけのたき のその後
酒が流れるという幻の滝。ある探検家がその場所を探し当て、ひそかにボトルに詰めて持ち帰った。だが、その酒を口にした者は、必ず「忘れたい記憶」を夢で見るという。ある男は泣きながら、「この味は、母の手からこぼれた酒」とつぶやいた。滝は再び霧に包まれ、行方は分からない。今も時折、どこかの温泉宿の“謎の一升瓶”から、ふわりと香る“あの日の涙”があるという。
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■ 赤ちゃんになったおばあさん のその後
薬を飲んで赤ちゃんに戻ったおばあさん。その後、家族は驚きながらも子育てをやり直すことに。だが赤ちゃんおばあさんは超ハイスペック。言葉は流暢、将棋も無敗、おむつ替えのたびに人生訓を語る始末。「転生した賢者だ!」とメディアに取り上げられ、“スーパーばぶばあ”として全国デビュー。現在は絵本作家として活躍し、代表作は『おむつの哲学』。なお、次の誕生日で“2周目”に突入する予定。
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■ 舌切り雀 のその後
欲張りな婆が選んだ“大きなつづら”からは怪異が溢れた。その後、残された“もうひとつの小さなつづら”が、誰にも開けられぬまま寺に奉納されていた。ある夜、ひとりの僧侶がつづらに耳を当てると、中から「まだ…わたしは…ここにいる…」と、微かな声。翌朝、つづらは消えていた。代わりに残されていたのは、一枚の羽。人々は今も語る。「優しさは報われる。でも、開けてはいけないものもある」と。
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~あとがき~
『昔ばなしの、その後』が生まれた理由
むかしむかし、あるところに――
その言葉を聞くだけで、少し背筋が伸びたり、心がほどけたりするのは、きっと誰もが一度は“物語に守られた記憶”を持っているからだと思います。
けれど、あの物語の主人公たちは、果たして本当に“めでたしめでたし”で終わっていたのでしょうか?
桃太郎は鬼を退治したあと、何をして暮らしたのか。
かぐや姫は月で笑っていたのか。
ごんぎつねの気持ちは、兵十に届いたのか――。
そんな「子どもだったころには聞けなかった問い」が、大人になった今、静かに浮かび上がってきました。
本書は、そうした問いに対して、そっと空想の続きを添えた短編集です。
「昔ばなしのその後」を描くという試みに込めたのは、懐かしさだけではありません。
むしろこの作品たちは、“物語の持つ柔らかさ”を借りながら、現代社会でこそ大切にしたいこと――
思いやり、違いを受け入れること、変化をおそれないこと、失敗しても生き直せること――を、ユーモアやミステリーのなかに忍ばせて描いています。
昔ばなしは、いつの時代も「子どもに向けた物語」だと思われがちです。
けれど私は、「大人になった私たちにこそ、もう一度響く話」でもあると思っています。
日々の忙しさの中で忘れてしまった、誰かに優しくされた記憶。
心がぽきっと折れたとき、そっと手を差し伸べてくれる存在。
そんな“語りかける何か”が、この本のどこかに見つかったら、私はとても嬉しいです。
この物語集を、眠る前の5分に読む人がいてもいいし、
子どもと一緒に声に出して笑ってくれる人がいてもいい。
あるいは、物語に少し疲れてしまった人が、「でも、まだ続きがあるのかも」と思ってくれるなら、それがきっと、“物語の力”なんだと思います。
読んでくださったあなたに、心から感謝します。
そして願わくば、この本の続きを描くのは、次はあなたであってくれたら。
物語は、まだ終わりません。
むかしむかしの続きは、今日も、あなたのすぐそばにあります。