緊急招集
ギルド内の会議室。重苦しい空気が漂う中、レイラは腕を組みながら報告を受けていた。
「……そういうわけで、Bランクの冒険者パーティ『ストームハウンド』が、ほぼ壊滅しました」
目の前のギルド職員が、険しい表情で報告を続ける。
「彼らは『東部森林に生息する“雷虎”の討伐』の依頼を受け、5名で現場へ向かいました。しかし、討伐対象とは別の何者かに襲撃され、壊滅寸前となり、1名が命からがら逃げおおせて、現在ギルドで治療を受けています」
「生存者の証言は?」
レイラが鋭い視線を向ける。
「まだ意識が混濁していますが、断片的な言葉として『一瞬で2人が殺された』、『あれは魔族としか思えない』という証言を得ています」
「……」
レイラは顎に手を当てた。
「魔族か……確かに厄介だな」
「はい……現場の状況が不明なので、ギルド側も慎重になっています」
「なるほどな……」
レイラは深く息を吐き、椅子に背を預けた。
「なら、こっちで調査に行くしかねぇな」
「遅れましたー!」
その時、会議室の扉が勢いよく開いた。
「フィオナ、遅ぇぞ」
「いやいや、緊急招集とか聞いてないですよ!? せっかくの休日が台無しです!」
「文句言うな。お前が一番暇そうだったんだからな」
「えぇ!? そんな決め方ですか!?」
「さて、冗談はさておき……」
レイラは椅子から立ち上がり、フィオナに向き直った。
「今から話すことをよく聞け。Bランクの冒険者パーティ『ストームハウンド』が、ほぼ壊滅した」
「……えっ?」
フィオナは一瞬驚いたが――
「へぇ、Bランクでも壊滅することあるんですね」
すぐに興味なさそうに頷いた。
「……お前、少しは心配しろよ」
「いやぁ、別に私がやられたわけじゃないですし?」
「……」
レイラは軽く頭を抱えたが、深く突っ込むのは諦めた様子だった。
「まぁいい、とにかく詳細を話す。彼らは雷虎の討伐依頼を受けていたが、討伐対象とは別に魔族と遭遇し、壊滅状態になった」
「魔族ですかぁ……あれって、たまーに人間の領域に出てきますよね?」
「そうだが、今回はただの遭遇じゃねぇ。ストームハウンドは1人を除いて全員殺されているだろう」
「うわぁ、それは災難ですねぇ……」
「お前、もうちょっと真剣に聞け」
「いやいや、私がやられたわけじゃないですし?」
「……」
レイラは諦めたようにため息をつくと、手を振った。
「とにかく、私とお前、そしてもう一人を加えて三人で現場の調査に向かう」
「もう一人?」
フィオナが首をかしげたその時、背後から声がした。
「やれやれ、どうやら俺の出番みたいだな」
フィオナが振り向くと、黒い軽装鎧に身を包んだ、長身でスラッとした青年が壁にもたれかかるように立っていた。
軽やかに動けるような装備を纏い、その鋭い眼光は周囲の細かい動きまで逃さないような雰囲気を持っている。
「お前が遅いせいで、話がだいぶ進んじまったじゃねぇか、フィオナ」
「えっ、誰!? なんで私の名前知ってるんですか!?」
「……お前、誰とでもすぐ話せるくせに、私の部下の名前も覚えてねぇのか?」
レイラがため息をつく。
「こいつはジーク。討伐隊のシーフで、索敵と隠密行動を得意とする奴だ」
「シーフ!? そんなの討伐隊にいるんですね?」
「いるんだよ、情報収集が必要な場面も多いんだからな」
ジークは肩をすくめると、軽く指を鳴らした。
「俺は戦闘より敵の動きを察知して、先手を取るのが専門だ。お前みたいに、考えなしに突っ込むタイプとは違うな」
「なっ!? 私はちゃんと考えてます!!」
「魔物を見つけた途端に突っ込むのが考えた結果か?」
「それは……!」
フィオナが言い返せずにいると、レイラが手を叩いて話をまとめた。
「さて、漫才はそこまでにしとけ。これから東部森林の調査に向かう。準備ができ次第、すぐに出発するぞ」
「「了解!!」」
こうして、フィオナ、レイラ、ジークの三人は、壊滅したパーティの謎を追うため、東部森林へと向かうのだった。




