受付嬢の練習
「休日だー!!」
フィオナは寮のベッドにバサッと倒れ込み、思いきり伸びをした。
「はぁ~、やっと休みですよ、休み! ここ最近ずっと討伐の仕事ばっかりでしたからね~」
「ふふっ、フィオナさんは本当によく働いていましたわね」
ベッドの向かい側では、エリスが優雅に紅茶を淹れていた。
「でも、こうして同じ日にお休みになるのは、なんだか嬉しいですわ」
「ですね! たまには、のんびりしたいですよね!」
フィオナは大きく頷いた。
討伐隊の仕事をこなして早数日。魔物退治はもちろん、町の巡回や護衛任務など、毎日バタバタと忙しく働いていた。そしてようやく、今日はエリスと一緒の休日になったのだ。
「というわけで! 今日はゆっくり休みましょう!」
「いえ、フィオナさん。今日は受付嬢の練習をする日ですわよ?」
「えっ、あぁ……そうでしたっけ?」
「忘れていましたの?」
エリスがくすっと微笑む。
「だ、大丈夫ですよ! しっかり練習します!」
「では、始めましょうか」
こうして、寮の部屋で受付嬢の練習が始まった。
「いらっしゃいませー!」
フィオナは椅子に座り、にこやかに笑う。
「冒険者ギルドへようこそ! 本日はどのようなご用件でしょうか?」
エリスが冒険者役を演じながら、フィオナに話しかける。
「えっと、すみません、私、最近ギルドに登録したばかりでして……簡単な依頼を受けたいのですが……」
「おぉ、なるほど!」
フィオナは適当に机の上に置かれた紙を手に取り、適当なフリをする。
「では、こちらの依頼はいかがでしょう? 『森で薬草を摘む』という簡単なお仕事です!」
「まぁ、フィオナさん、とても受付嬢らしい対応ではありませんか!」
「えっ、マジですか!? ちょっと私、向いてるんじゃないですかね?」
「ええ、今のところは……」
「今のところは?」
「次は酔っぱらいの冒険者の役をやりますわね」
エリスは咳払いをした後、急にフラフラとした動きになり、まるで酔っぱらったように机に寄りかかった。
「おい……姉ちゃん……俺に仕事よこせぇ……! でっかい魔物の討伐とか、すっげぇやつな!!」
「うわぁ、めんどくさいやつだ……」
フィオナは引きつった笑顔を作りながら、なんとか対応しようとする。
「あ、あのですね……冒険者ギルドでは適性に応じた依頼を――」
「ちげぇんだよ!! 俺は超強ぇんだから、すげぇ仕事がしたいんだよ!!」
「えぇ……!? えっと、それではギルドの戦闘訓練を受けてからにしませんか?」
「なぁ、嬢ちゃん……ちょっと飲みに行かねぇ?」
「話が変わったぁぁ!!??」
フィオナがツッコミを入れると、エリスは元の姿勢に戻ってくすくす笑った。
「このように、受付嬢には色んな冒険者への対応力が求められますの」
「いや、受付嬢って大変すぎません!?」
「まだまだ練習は続きますわよ?」
「ま、まだあるんですか!?」
練習が続く中、突然ドンッ! と扉が勢いよく叩かれた。
「えっ、何!?」
フィオナが慌てて扉を開けると、そこには討伐隊の隊員が立っていた。
「緊急招集がかかった。すぐにギルドの会議室に来い」
「えぇ!? せっかくの休みなのに!? まだ受付嬢の練習が終わってないのに!」
「そんなこと言ってる場合か!」
「うぅ……」
フィオナは渋々、エリスの方に振り返る。
「すみません、エリスさん。練習、途中で終わっちゃいました……」
「いいえ、仕方ありませんわ」
エリスは微笑みながら、そっと手をフィオナの肩に置いた。
「お仕事を頑張るのも、受付嬢として大切なことですもの」
「うぅ……」
「でも、次の練習のときは、横柄な貴族の冒険者の役をやりますからね?」
「もう今から嫌な予感しかしないです……」
「ふふ、楽しみにしていてくださいね?」
そう言ってエリスが微笑むと、フィオナは苦笑しながら扉の方を向いた。
「はぁ……やれやれ、行きますか」
こうして、フィオナの穏やかな休日は突如として終了したのだった。