受付嬢の素質
ローベルクに戻った二人は、まっすぐギルドの食堂へ向かった。
「いやぁ~、やっぱり身体を動かした後のご飯は最高ですね!」
フィオナは意気揚々と食堂の扉を開けた。ギルドの食堂は広々としており、昼時ということもあって多くの冒険者たちが集まっている。
「おう、席取ってくるから、お前は飯を頼んでこい」
「了解です! レイラさんの分もいいですか?」
「当たり前だろ、私が奢るんだからな」
「やったー!」
フィオナは嬉々としてカウンターへ向かった。
「おい、お前、ちょっと待てよ」
食堂の一角で、フィオナは突然声をかけられた。
振り返ると、そこにはガラの悪そうな冒険者が数人、腕を組んで立っていた。
「あん? なんですか?」
フィオナは首をかしげる。
「討伐隊の新入りってお前か?“ゴブリンの群れを一人で全滅させた”だの、“背骨を折る戦闘狂”だの聞いたが、こんなお嬢ちゃんには無理な話だよな」
「……え、それ誉めてます?」
「ふざけんな。新入りのくせに調子乗ってると痛い目見るぞ?」
「はぁ……そういう絡みですか……」
フィオナはめんどくさそうにため息をつく。
しかし――
「ん? どうしました?」
冒険者たちが視線を横に向けた途端、顔色が変わった。
「……な、なんだよ、お前……」
「お、おい、もう行こうぜ……」
フィオナが隣を見ると、レイラが腕を組んで立っていた。
「ん? 何か問題でもあったか?」
「い、いえっ!! 何もないです!!」
冒険者たちは一瞬で空気を読み、そそくさと去っていった。
「なんだったんですかね、今の?」
「気にすんな。私がいると分かれば、誰も無駄な喧嘩は売らねぇよ」
レイラはニヤリと笑いながら言った。
「……レイラさんって、やっぱりギルドで怖がられてるんですね」
「なんだ、お前も怖いのか?」
「いえいえ、そんなことないです!」
「ならいい。さっさと飯食うぞ」
二人は食事をしながら、のんびりと談笑していた。
「それにしても、お前、どこ出身なんだ?」
「え、私ですか?」
「おう、見たところ貴族でもなさそうだしな」
「ですよねー。私はローベルクから東の田舎村出身ですよ! ただの平民です!」
「ふーん、まぁ、そんなところだろうな」
「なんですか、その納得した感じは」
「いや、お前の戦い方が、貴族のそれじゃねぇからな」
「まあ、貴族だったらあんな戦い方しませんよね!」
フィオナは笑いながら肉をかじる。
「でも、普通の平民がなんでそんな戦闘能力を持ってるんだ?」
「え? 田舎って暇じゃないですか」
「は?」
「だから、暇つぶしに身体鍛えたり、動物追いかけたりしてたら、いつの間にかこんな感じになってたんですよね!」
「……お前の育った村、平和なのかそうじゃないのかわかんねぇな……」
レイラは呆れながらも、フィオナの育ちをなんとなく納得した。
「ま、なるほどな。鍛えた結果が今のお前ってわけか」
「そういうことです!」
「……ったく、なんでそんな奴が受付嬢になりたかったんだか……」
食事が終わる頃、フィオナは受付カウンターに目を向けた。
「あっ、エリスさんがいる!」
「ん? ああ、受付嬢か」
フィオナが指さした先には、エリスが丁寧に書類を整理しながら、冒険者たちに依頼の説明をしている姿があった。
「……おぉ~……やっぱりエリスさんは上品ですねぇ……」
「そりゃそうだろ。“受付嬢”ってのは、ああいうのを言うんだよ」
レイラが腕を組みながら頷く。
「お前がなりたかったのは、ああいうのだろ?」
「そうですよ! 私だって、ああいう風に働くつもりだったんです!」
「……」
レイラはじっとフィオナを見つめる。
「……」
「……」
「無理だな」
「なんでですかぁ!!!」
「お前があんなに丁寧に仕事できるわけねぇだろ。それに、お前が受付に座ってたら、冒険者の方が怖がるわ」
「うぅっ……そ、そんなことないはず……」
「お前が受付にいたら、“依頼達成できなかったら殴られるんじゃねぇか”って私ならビビるぞ」
「そんな……!!」
「現実を受け入れろ、お前は討伐隊が一番向いてる」
「うぅ……」
フィオナは項垂れながら、エリスの優雅な動きを眺める。
(……やっぱり、私には受付嬢は無理なんでしょうか……)
こうして、ギルドでの昼食は、フィオナの夢を砕かれる形で終わったのだった。




